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花言葉
アジサイ おまけ
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「たろう、『もうここにこない』って言ってたのって、本当か?」
はじめさんは低い、感情の伺えない声でそう僕に問うた。
僕は冷や汗がぶわっと出るのを感じた。
この間、はじめさんと関わるのをやめると言い出したら『何をするか分からない』というような内容のことを言っていたような気がする。
どうしよう。どうしよう。殴られる?暴力の標的が、僕に変わる?
はじめさんが僕の顎を掴んで、ぐい、と上を向かせた。
目が、合う。はじめさんは無表情ながらに、その目に怒りの色を湛えているのが分かって、僕は恐怖に震えた。
「答えられないのか」
黙り込んでいる僕に、はじめさんの追及は厳しい。
「ちが、ちがう、あの、えっと」
眉間に皺が寄ったのを見て、慌てて何か言おうとするが、なにもいい言い訳が思いつかずに、僕の口からは意味のない言葉ばかりが出る。
「た、叩かないで、ぇ…」
結局僕が絞り出したのは、情けない懇願だった。
つまるところ僕は、ただただ暴力に怯えているのだ。はじめさんが、簡単に暴力をふるうことができることを知っているから。
「そんなことは聞いていない」
しかし、はじめさんは無情にも僕の言葉をばっさりと切り捨てた。
どうすればいいのだ。
僕は、無意識のうちにじり、とベッドの上を少しだけ後ずさった。
逃げたらいいのか?本当に逃げ切れるのか?僕のことを軽々と持ち上げられるような人から、逃げられると思っているのか?力でも、体力でも、敵わないに決まっているのに。
「たろう、お前は、『もうここにこない』と言ったのか」
再び同じことを質問される。もう、下手なことを言っていられない。
嘘もつけない。ばれたときに、どんな報復がくるのか。考えただけで死ぬ。
「い、い、言った」
本当のことを白状したら、部屋の温度が一気に下がった感覚がした。
はじめさんは、さっき僕が下がった分の距離を詰める様に、じり、と僕に近づいた。
僕もはじめさんの気迫に気おされ、少しずつ後方に下がる。
じりじりと二人で移動するうちに、背中にトン、と壁が当たった。
「たろう、どうして逃げようとする」
はじめさんの、低く怒りを孕んだ声が僕を追い詰める。
「だ、だって、だって、はじめさんが怒るから」
ダンッと、壁から鈍い音がした。僕の顔の真横にははじめさんの腕があって、僕が逃げられないように囲われたのだということが分かった。
「じゃあ、どうして俺が怒っているのか、わかるか」
はじめさんが怒気を隠そうともしないで言うので、僕はもう泣いてしまいそうだった。
普段は僕にだけはこの雰囲気を和らげて優しく話しかけてくれるので、耐性のついていない僕の精神はがりがりに削られている。
「こないって、ゆった、から、から…です、か」
目を合わせないと余計に怒るので、僕は恐怖に負けそうになりながらはじめさんの目を見て言った。
「それだけか」
まるで、最後に言い残すことはそれだけか、みたいなテンションではじめさんが言うので、僕は本気で殺されるのかもしれないと思った。
「さ、さぃ、最初、ちゃんと答えなかっ、たから」
ガクガクブルブル。本格的に震え出した身体は言うことを聞かずに震えている。
口も上手く回らない。
はじめさんはそんな僕を見下ろして、はあ、と溜息をついた。
「たろう、自分が悪いことをしたのは分かるか」
悪いこと、悪いこと、そうか、僕は悪いことをしたのか。
この緊張に張り詰めた空間から解放されたくて、コクコクと頷く。
「悪いことをしたら、どうすればいいんだ?」
悪いこと、したから、ごめんなさいしなきゃ。
僕は、はじめさんの首に腕を回してぎゅうと抱き着くと、「ごめんなさい、もうしません」と謝った。
でも、いつもならはじめさんは僕が抱き着いたら抱きしめ返して、頭を撫でてくれるのに、今日は何の反応もない。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。
どうしよう、今度こそ、僕は暴力に曝されてしまうのだろうか。
さあっと走馬灯のような思い出が僕の頭を駆け巡った。
理由も分からないままここに連れてこられた日のこと。ただただはじめさんの隣に座って虐げられる人を眺めるだけの日々。抱き着いてお願いすれば優しくしてくれることを知った日。(今は効いていないが)
そして――『はじめさんが怒ったときはちゅーすれば機嫌なおるよぉ』という、いつも僕を迎えに来るにこにこへらへらしている男の言葉。多分、こいつが今回のこともはじめさんにチクったのだ。許すまじ。
しかし、この男の助言は毎回正しかったりする。
僕は、「はじめさん、」と声を掛けると、意を決して、抱き着いていたのを少し離れて。
ちゅ、とほっぺたに唇をくっつけた。
それから、すぐに離れて、はじめさんの顔を伺い見た。
目を丸くして、僕を見ている。怒りの色は感じられない。
やはり、アドバイスの通りだった!僕は少し浮かれながら、ちゅ、ちゅと頬にキスをした。
「ご、ごめんなさい、もう、怒らないで」
しばらくキスをし続けてそろそろいいか、という頃に機嫌を伺いながらそう言うと、トン、と肩を押された。
え、と言っている間にぽすりとベッドに倒れていて、僕は目をぱちくりさせた。
はじめさんの目は、なんだかぎらぎらと光っている。
怒ってはいなさそう、いなさそう…なんだけど。なんだか、怖い。
恐怖でぎゅ、と目を瞑ると、唇にふにっと柔らかい感触がした。
驚いて目を開けるとはじめさんの整った顔が目の前にあって、僕は驚いてまた目を閉じた。
口を開ける様に促されて、恐る恐る少し開くと舌が入って来た。
奥に縮こまっている僕の舌を引っ張り出して絡めさせて、唾液を僕に送り込んで飲ませた。
「んんん、はじめ、さ…っ」
息継ぎの合間にはじめさんの名前を呼ぶが、すぐにまた唇を塞がれる。
はじめさんの胸を押していた腕に力が入らなくなって、ベッドの上にぽすんと落ちた。
じんじんとした痺れが身体全体に広がって、力が抜ける。
頭にもやがかかったように何も考えられない。
こういうとき、どうすればいいんだ。僕はぼんやりとした頭で必死に思い出していた。
『はじめさんが言うこと聞かなくなったら、好きだから言うこときいて、ってお願いしなねぇ』
ああ、原因はお前にあるけど今だけは藁にも縋る思いで助言を聞きます。
僕はなけなしの力ではじめさんのほっぺをぺちぺちして離れてもらった。
「は、はじめ、はじめしゃ、すき、だからっ、言うこと、聞いて…?」
必死に呼吸をしながら息も絶え絶えで言った。
すると突然、抱き起されてがばりと抱きしめられた。
「たろう、好き、好き?好き、と言ったのか」
「ん、うん、はい、すきです。だからもう、怒らないで、くださ、い」
そう言うと、はじめさんは余計にぎゅうぎゅうに僕を抱きしめた。
「ああ、がっついて悪かった。たろうも反省してるみたいだから、もう怒ってない」
怖かったか、すまないと謝られて、僕はニコニコ顔の助言が効果覿面すぎて凄いなあという感想を抱いていた。
今度から、尊敬と親しみの意味を込めてにこちゃんと呼ぼう。
その後、にこちゃんにこちゃんと祥太郎が懐くのではじめさんがブチ切れるのはまた別の話。
はじめさんは低い、感情の伺えない声でそう僕に問うた。
僕は冷や汗がぶわっと出るのを感じた。
この間、はじめさんと関わるのをやめると言い出したら『何をするか分からない』というような内容のことを言っていたような気がする。
どうしよう。どうしよう。殴られる?暴力の標的が、僕に変わる?
はじめさんが僕の顎を掴んで、ぐい、と上を向かせた。
目が、合う。はじめさんは無表情ながらに、その目に怒りの色を湛えているのが分かって、僕は恐怖に震えた。
「答えられないのか」
黙り込んでいる僕に、はじめさんの追及は厳しい。
「ちが、ちがう、あの、えっと」
眉間に皺が寄ったのを見て、慌てて何か言おうとするが、なにもいい言い訳が思いつかずに、僕の口からは意味のない言葉ばかりが出る。
「た、叩かないで、ぇ…」
結局僕が絞り出したのは、情けない懇願だった。
つまるところ僕は、ただただ暴力に怯えているのだ。はじめさんが、簡単に暴力をふるうことができることを知っているから。
「そんなことは聞いていない」
しかし、はじめさんは無情にも僕の言葉をばっさりと切り捨てた。
どうすればいいのだ。
僕は、無意識のうちにじり、とベッドの上を少しだけ後ずさった。
逃げたらいいのか?本当に逃げ切れるのか?僕のことを軽々と持ち上げられるような人から、逃げられると思っているのか?力でも、体力でも、敵わないに決まっているのに。
「たろう、お前は、『もうここにこない』と言ったのか」
再び同じことを質問される。もう、下手なことを言っていられない。
嘘もつけない。ばれたときに、どんな報復がくるのか。考えただけで死ぬ。
「い、い、言った」
本当のことを白状したら、部屋の温度が一気に下がった感覚がした。
はじめさんは、さっき僕が下がった分の距離を詰める様に、じり、と僕に近づいた。
僕もはじめさんの気迫に気おされ、少しずつ後方に下がる。
じりじりと二人で移動するうちに、背中にトン、と壁が当たった。
「たろう、どうして逃げようとする」
はじめさんの、低く怒りを孕んだ声が僕を追い詰める。
「だ、だって、だって、はじめさんが怒るから」
ダンッと、壁から鈍い音がした。僕の顔の真横にははじめさんの腕があって、僕が逃げられないように囲われたのだということが分かった。
「じゃあ、どうして俺が怒っているのか、わかるか」
はじめさんが怒気を隠そうともしないで言うので、僕はもう泣いてしまいそうだった。
普段は僕にだけはこの雰囲気を和らげて優しく話しかけてくれるので、耐性のついていない僕の精神はがりがりに削られている。
「こないって、ゆった、から、から…です、か」
目を合わせないと余計に怒るので、僕は恐怖に負けそうになりながらはじめさんの目を見て言った。
「それだけか」
まるで、最後に言い残すことはそれだけか、みたいなテンションではじめさんが言うので、僕は本気で殺されるのかもしれないと思った。
「さ、さぃ、最初、ちゃんと答えなかっ、たから」
ガクガクブルブル。本格的に震え出した身体は言うことを聞かずに震えている。
口も上手く回らない。
はじめさんはそんな僕を見下ろして、はあ、と溜息をついた。
「たろう、自分が悪いことをしたのは分かるか」
悪いこと、悪いこと、そうか、僕は悪いことをしたのか。
この緊張に張り詰めた空間から解放されたくて、コクコクと頷く。
「悪いことをしたら、どうすればいいんだ?」
悪いこと、したから、ごめんなさいしなきゃ。
僕は、はじめさんの首に腕を回してぎゅうと抱き着くと、「ごめんなさい、もうしません」と謝った。
でも、いつもならはじめさんは僕が抱き着いたら抱きしめ返して、頭を撫でてくれるのに、今日は何の反応もない。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。
どうしよう、今度こそ、僕は暴力に曝されてしまうのだろうか。
さあっと走馬灯のような思い出が僕の頭を駆け巡った。
理由も分からないままここに連れてこられた日のこと。ただただはじめさんの隣に座って虐げられる人を眺めるだけの日々。抱き着いてお願いすれば優しくしてくれることを知った日。(今は効いていないが)
そして――『はじめさんが怒ったときはちゅーすれば機嫌なおるよぉ』という、いつも僕を迎えに来るにこにこへらへらしている男の言葉。多分、こいつが今回のこともはじめさんにチクったのだ。許すまじ。
しかし、この男の助言は毎回正しかったりする。
僕は、「はじめさん、」と声を掛けると、意を決して、抱き着いていたのを少し離れて。
ちゅ、とほっぺたに唇をくっつけた。
それから、すぐに離れて、はじめさんの顔を伺い見た。
目を丸くして、僕を見ている。怒りの色は感じられない。
やはり、アドバイスの通りだった!僕は少し浮かれながら、ちゅ、ちゅと頬にキスをした。
「ご、ごめんなさい、もう、怒らないで」
しばらくキスをし続けてそろそろいいか、という頃に機嫌を伺いながらそう言うと、トン、と肩を押された。
え、と言っている間にぽすりとベッドに倒れていて、僕は目をぱちくりさせた。
はじめさんの目は、なんだかぎらぎらと光っている。
怒ってはいなさそう、いなさそう…なんだけど。なんだか、怖い。
恐怖でぎゅ、と目を瞑ると、唇にふにっと柔らかい感触がした。
驚いて目を開けるとはじめさんの整った顔が目の前にあって、僕は驚いてまた目を閉じた。
口を開ける様に促されて、恐る恐る少し開くと舌が入って来た。
奥に縮こまっている僕の舌を引っ張り出して絡めさせて、唾液を僕に送り込んで飲ませた。
「んんん、はじめ、さ…っ」
息継ぎの合間にはじめさんの名前を呼ぶが、すぐにまた唇を塞がれる。
はじめさんの胸を押していた腕に力が入らなくなって、ベッドの上にぽすんと落ちた。
じんじんとした痺れが身体全体に広がって、力が抜ける。
頭にもやがかかったように何も考えられない。
こういうとき、どうすればいいんだ。僕はぼんやりとした頭で必死に思い出していた。
『はじめさんが言うこと聞かなくなったら、好きだから言うこときいて、ってお願いしなねぇ』
ああ、原因はお前にあるけど今だけは藁にも縋る思いで助言を聞きます。
僕はなけなしの力ではじめさんのほっぺをぺちぺちして離れてもらった。
「は、はじめ、はじめしゃ、すき、だからっ、言うこと、聞いて…?」
必死に呼吸をしながら息も絶え絶えで言った。
すると突然、抱き起されてがばりと抱きしめられた。
「たろう、好き、好き?好き、と言ったのか」
「ん、うん、はい、すきです。だからもう、怒らないで、くださ、い」
そう言うと、はじめさんは余計にぎゅうぎゅうに僕を抱きしめた。
「ああ、がっついて悪かった。たろうも反省してるみたいだから、もう怒ってない」
怖かったか、すまないと謝られて、僕はニコニコ顔の助言が効果覿面すぎて凄いなあという感想を抱いていた。
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