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花言葉
アジサイ おまけ2
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僕にだって将来というものがある。吃音をからかわれても、友達がいなくても、頭が悪くても、将来やりたいことが(というよりできそうなことが)何もなくても、とにかくも将来というものは漠然と僕の前にあるのだ。
不良との関係は切って進学なり就職なりした方が良いに決まっている。
目下問題は、いかに穏便に関係を切るかということなのだ。
「にこちゃん、あの、は……はじめさんに告げ口しないでほしいんだけど」
「ん、なぁに」
「僕にだって、し、将来がある」
「そうだねえ」
「わ、わかってくれる?」
「将来が心配なんだよね?」
「うん、そう。だ、だから、はじめさんとは、もう……」
会わないと口にする前に、にこちゃんは僕の唇をむにりと人差し指と親指でつまんだ。
抗議の意味を込めてそろりと視線を上げる。にこちゃんはぷっくりと涙袋を膨らませて目を細めていた。
「全部わかってる。俺に任せてねぇ」
胡散臭いことこの上ない笑顔だったが、にこちゃんが言うことはこれまで大体当たってきた。僕は頬を緩めてこくこくと頷くのだった。
「はじめさん、も、し、しないで、しないでくださ……っ」
「ああ。不安にさせて悪かった」
「ちが、ぁ、不安にさせないでじゃないぃ」
にこちゃんには一体何が分かっていたのだろうか。そもそもはじめさんに告げ口しない約束はどこへ言ったのだろうか。
僕は絶賛はじめさんにほとんど捕食と言って差し支えないような状態で口を口で塞がれていた。
首から後頭部にかけてがっちりと掴むはじめさんの骨ばった手の力強さは頭をこのままぱしょりと割ってしまいそうにびくともしないのでこわい。この大男にはもっと加減を知ってほしい。
頬が熱い。おでこが熱い。首が熱い。
息が上手く吸えない。
首をよじることさえできないほど強く強く掴まれている。
首だけではなかった。抱き込まれた背中はみしりと骨が鳴るほどで、絡められた足は押さえつけられて動かせやしない。
「は、離し……っ」
「卒業したら家庭に入れ」
「や、こわい、にこちゃ、んん!」
頼みの綱(そして今の元凶)のにこちゃんを呼ぶも、かえって強く抱き込まれ唇を塞がれる。
僕がくったりとなって肩で息をするほか何もできなくなった頃、はじめさんはゆるりと僕を抱き込む腕の強さを緩めた。
「お前はあいつに懐きすぎだ」
「め、なさい……」
この状態になったはじめさんを刺激するのは得策ではない。僕はひたすらはじめさんの考えに従って謝るしかない。
「たろうは俺のだろう」
「はい……」
はじめさんが僕の首をにぎゅにぎゅと掴んだり離したりする。生物としての身体構造上の弱点を掴まれている。
きゅう、と気道が狭くなって緊張から鼓動がはやまるのが分かった。
「お前は俺の方が好きだな」
「は……はい」
首を掴んでいた大きな手が離れてほっとする。首から離れた手はするりと上へ向かって、顎先をすくうと顔を上向かせられた。
がちりと目が合う。剣呑な目に強く射抜かれて僕はたじろいでしまう。
右へ左へと目を泳がせて、うつむこうとしても顎を掴む手の力が強くて顔を引けない。
「たろう」と呼ばれて、僕はしぶしぶと目を合わせる。再び目が合う。怯えも揺らぎもない、強者の目だ。弱者を蹂躙することを厭わない目。僕はそれがこわい。
殴られたくない。不良こわい。
はじめさんの目を見るとすっかり僕は僕が弱者であることを自覚させられる。そうして、目の前の存在に従うしかないのだということを。
「卒業したら家庭に入れ」
「はい……」
あれ、と思う。思っても遅い。僕の口は勝手にはじめさんに従っている。生存本能に近い反射だ。
「お前の不安に気付いてやれなくて悪かった」
「あ、あの、あの、僕……!」
「お前は一度頷いた。断らないだろうな」
はじめさんが顎から首にかけて親指と人差し指を支えに僕の顔を上向けたまま、きゅうと首を絞める真似をする。
ほとんど怒りと言って差し支えないような鋭い眼差しを注がれて僕はへらりと笑うしかない。
人を殺しかねない顔をしている。首をゆるゆると絞められている。
「こ、こわいの、しないでください……」
ほとんど命乞いのように首にかかったはじめさんの手首を握りすがる。さりげなく首から剥がそうとしたが全く動かなかった。仕方なくすりすりと手首から腕にかけて撫でてみる。
首の圧迫が緩まった。効いている(一体何に?)。
猛獣をあやすかのように腕を撫でつつ、そうっと両手で太い手首を掴む。僕の二回りはあるような頑丈なつくりだ。そろりと首から離してみる。
僕の首なんてぽっきりと折ってしまいそうなてのひらをまじまじと見てしまって、緊張に喉が鳴った。
意を決しててのひらに頬を寄せる。頬をぺとりとくっつけ、すり寄せてから離れる。
次に触れたのははじめさんの方からで、壊れ物が崩れないように包むみたいに、柔らかく頬に手が添えられた。すり、と涙袋の下をなぞる親指。
確実に効いているようだ(一体何がどう作用しているのか)。
優しい手つきにつられるようにてのひらに頬を押し付ける。
猛獣の鎮静化成功に成功した僕はひとまず胸を撫で下ろした。
「たろう、不安でも俺を試すような真似はしてくれるな」
「……?」
「いい子だから、俺から離れるなよ」
「……は、はい」
不良との縁切りに今回も失敗した上に家庭に入る約束までさせられてしまった。
僕はとりあえずにこちゃんに文句を言いに行くことを決意して、はじめさんのゆるゆると頬を撫でる手の好きにさせるのだった。
不良との関係は切って進学なり就職なりした方が良いに決まっている。
目下問題は、いかに穏便に関係を切るかということなのだ。
「にこちゃん、あの、は……はじめさんに告げ口しないでほしいんだけど」
「ん、なぁに」
「僕にだって、し、将来がある」
「そうだねえ」
「わ、わかってくれる?」
「将来が心配なんだよね?」
「うん、そう。だ、だから、はじめさんとは、もう……」
会わないと口にする前に、にこちゃんは僕の唇をむにりと人差し指と親指でつまんだ。
抗議の意味を込めてそろりと視線を上げる。にこちゃんはぷっくりと涙袋を膨らませて目を細めていた。
「全部わかってる。俺に任せてねぇ」
胡散臭いことこの上ない笑顔だったが、にこちゃんが言うことはこれまで大体当たってきた。僕は頬を緩めてこくこくと頷くのだった。
「はじめさん、も、し、しないで、しないでくださ……っ」
「ああ。不安にさせて悪かった」
「ちが、ぁ、不安にさせないでじゃないぃ」
にこちゃんには一体何が分かっていたのだろうか。そもそもはじめさんに告げ口しない約束はどこへ言ったのだろうか。
僕は絶賛はじめさんにほとんど捕食と言って差し支えないような状態で口を口で塞がれていた。
首から後頭部にかけてがっちりと掴むはじめさんの骨ばった手の力強さは頭をこのままぱしょりと割ってしまいそうにびくともしないのでこわい。この大男にはもっと加減を知ってほしい。
頬が熱い。おでこが熱い。首が熱い。
息が上手く吸えない。
首をよじることさえできないほど強く強く掴まれている。
首だけではなかった。抱き込まれた背中はみしりと骨が鳴るほどで、絡められた足は押さえつけられて動かせやしない。
「は、離し……っ」
「卒業したら家庭に入れ」
「や、こわい、にこちゃ、んん!」
頼みの綱(そして今の元凶)のにこちゃんを呼ぶも、かえって強く抱き込まれ唇を塞がれる。
僕がくったりとなって肩で息をするほか何もできなくなった頃、はじめさんはゆるりと僕を抱き込む腕の強さを緩めた。
「お前はあいつに懐きすぎだ」
「め、なさい……」
この状態になったはじめさんを刺激するのは得策ではない。僕はひたすらはじめさんの考えに従って謝るしかない。
「たろうは俺のだろう」
「はい……」
はじめさんが僕の首をにぎゅにぎゅと掴んだり離したりする。生物としての身体構造上の弱点を掴まれている。
きゅう、と気道が狭くなって緊張から鼓動がはやまるのが分かった。
「お前は俺の方が好きだな」
「は……はい」
首を掴んでいた大きな手が離れてほっとする。首から離れた手はするりと上へ向かって、顎先をすくうと顔を上向かせられた。
がちりと目が合う。剣呑な目に強く射抜かれて僕はたじろいでしまう。
右へ左へと目を泳がせて、うつむこうとしても顎を掴む手の力が強くて顔を引けない。
「たろう」と呼ばれて、僕はしぶしぶと目を合わせる。再び目が合う。怯えも揺らぎもない、強者の目だ。弱者を蹂躙することを厭わない目。僕はそれがこわい。
殴られたくない。不良こわい。
はじめさんの目を見るとすっかり僕は僕が弱者であることを自覚させられる。そうして、目の前の存在に従うしかないのだということを。
「卒業したら家庭に入れ」
「はい……」
あれ、と思う。思っても遅い。僕の口は勝手にはじめさんに従っている。生存本能に近い反射だ。
「お前の不安に気付いてやれなくて悪かった」
「あ、あの、あの、僕……!」
「お前は一度頷いた。断らないだろうな」
はじめさんが顎から首にかけて親指と人差し指を支えに僕の顔を上向けたまま、きゅうと首を絞める真似をする。
ほとんど怒りと言って差し支えないような鋭い眼差しを注がれて僕はへらりと笑うしかない。
人を殺しかねない顔をしている。首をゆるゆると絞められている。
「こ、こわいの、しないでください……」
ほとんど命乞いのように首にかかったはじめさんの手首を握りすがる。さりげなく首から剥がそうとしたが全く動かなかった。仕方なくすりすりと手首から腕にかけて撫でてみる。
首の圧迫が緩まった。効いている(一体何に?)。
猛獣をあやすかのように腕を撫でつつ、そうっと両手で太い手首を掴む。僕の二回りはあるような頑丈なつくりだ。そろりと首から離してみる。
僕の首なんてぽっきりと折ってしまいそうなてのひらをまじまじと見てしまって、緊張に喉が鳴った。
意を決しててのひらに頬を寄せる。頬をぺとりとくっつけ、すり寄せてから離れる。
次に触れたのははじめさんの方からで、壊れ物が崩れないように包むみたいに、柔らかく頬に手が添えられた。すり、と涙袋の下をなぞる親指。
確実に効いているようだ(一体何がどう作用しているのか)。
優しい手つきにつられるようにてのひらに頬を押し付ける。
猛獣の鎮静化成功に成功した僕はひとまず胸を撫で下ろした。
「たろう、不安でも俺を試すような真似はしてくれるな」
「……?」
「いい子だから、俺から離れるなよ」
「……は、はい」
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