レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ

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第一章

23 試し試され

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 僕の身長より大きな箱には管や線がいくつもくっついて、ごちゃごちゃした見た目をしている。
 先程から聞こえるゴウンゴウンと唸るような音は、この詳細ステータス表示魔道具が発しているようだ。
 ごちゃごちゃした箱の一箇所に、透明な球体の半分がはみ出ている。
 サリュンさんから、そこに手を置くように言われたので、素直に従った。
 手を置いてすぐに魔道具の唸り声が大きくなり、細い隙間から白く長い紙が吐き出された。
 紙をサリュンさんが受け止め、それを眺めて目を見開いた。
「能力値は想像以上ですね。ご覧になりますか?」
 怖いもの見たさで見せてもらった。
 筋力、体力、知力、敏捷といった項目全てが一万を超えていた。……が、他の人がどんなものなのかを知らないから、なんとも言えない。
「ちなみに先日いらっしゃったレベル六十九の方は、筋力が千と少しで、他は五、六百ほどでしたね」
 あれ、もしかしてこれ、おかしい?
「故障では……」
「毎日調整と試験出力をしていますから、その心配はありません」
 サリュンさんは妙に迫力のある笑顔で断言した。
「では次に、こちらで選抜した高レベルの冒険者と試合をしていただきます。すぐにできますか?」
「はい」
 サリュンさんはお喋りな人で、ギルドハウスの中庭へ向かっている間も話し続けた。
「人の強さは能力値だけでは測れない部分もあるのです。それを確認するための試合ですので、退屈かもしれませんがお付き合いくださいね。それにしても、日頃どんな鍛錬を積んでいらっしゃるのでしょうか?」
「クエストを請けない日に、素振りをするくらいですよ」
「成る程、何事も基礎が大事ということですね。さあ、こちらです」
 中庭の訓練場には、仰々しい全身鎧を身に着けた赤い髪の男と、他にギルド職員らしい人たちがいた。
 冒険者は皆、なるべく軽い防具を選ぶ。金属鎧を着けるとしてもせいぜい胸鎧と篭手くらいで、全身鎧を着ている人は初めて見た。
 重い鎧は動きづらいし、野営のたびに着脱するのが大変だから、皆避けている。
 普段から全身鎧で活動しているのなら、余程筋力や体力に自信があるのだろう。
 そんなことをぼんやり考えていたら、全身鎧がこちらへやってきた。
「君が今日の試合相手か。俺はヘッケル。宜しく頼む」
「ラウトです。よろしくお願いします」
 軽く握手を交わすと、ヘッケルは中庭の中央に立った。
 僕も刃を潰した剣を渡されて促され、ヘッケルから少し離れた場所に、向かい合うように立つ。

「一本勝負、始め!」
 開始と同時にヘッケルは僕に殺到した。
 半歩動いて攻撃を躱し、更に一歩でヘッケルの背後を取る。
 そのまま、ヘッケルの首筋に剣を添えた。
 僕は真剣に試合をしていたつもりだったのに、後でアイリから「なんだか散歩中に足元のゴミを避けるみたいな仕草してるなーって思ったら、ヘッケルが負けてた」などと言われた。心外である。
「……!? ま、参った」
 ヘッケルは僕が剣を動かしてから数秒後に、ようやく自分が置かれた状況を理解した、というふうに負けを認めた。
「え、えっと? 勝負あり? ……勝負ありです!」
 さらに数秒遅れて、審判をしていたサリュンから試合終了が告げられた。
「次元が違うじゃないか。例の件が試せなかったぞ」
「仕方ないですね。アイリさん、こちらへ来ていただけますか?」
 僕が剣を外すと、サリュンとヘッケルが何事か話し合い、唐突にアイリを呼んだ。
「はい」
 アイリが不審そうな顔で二人のもとへ歩いてきた。

 ヘッケルの手がアイリの喉元へ剣を突きつけようとしたので、僕の剣でアイリをガードした。
 金属同士がぶつかる甲高い音が、訓練場に響く。
「何をするつもりですか」
 思わずヘッケルを睨みつける。
 アイリを試すなんて、聞いていない。
「すまんっ! その、魔王が卑劣な手段を使った場合の対処を試したかっただけなんだ! 本当だ!」
 ヘッケルは剣を放り出して、僕とアイリから離れた。
 サリュンを見ると、サリュンもぶんぶんと首を縦に振った。
「なにせ相手は魔王です。どんな手段を使ってくるかわかりません。それを伝えるために、試したのです」
 言いたいことはよく分かったし、なるほどと頷けたので、睨むのをやめて剣を引いた。
 しかし心臓に悪かった。アイリに何かあったら、何をしても意味がない。
 ……ん?
「今日の試験はこれで終了です。部屋を用意してありますので、ゆっくり休んでください。お疲れ様でした」
 サリュンは僕たちをギルドハウス内にある部屋まで案内してくれた。

「ラウト、入っていい?」
 別室に通されたアイリが、僕にあてがわれた部屋の扉を叩いた。
「どうぞ」
 ベッドとテーブルと椅子に、ちょっとした荷物置き場があるだけの、シンプルな部屋だ。
 アイリは部屋にするりと滑り込むように入ってくると、後ろ手に扉を閉めた。
 ……うーん、さっきからなんだろう。アイリを見るとソワソワする。
「アイリ、ちょっとこっち来て」
「うん」
 アイリは大人しく僕のすぐ近くまで寄ってきた。
 三つ年下の妹のレベッカよりも小さな体が、今はどうにも儚く見える。
「頼めるか、スプリガン」
 空間を渡るのが得意なスプリガンの本質は、宝を守ることだ。
 普段、防護魔法や結界魔法を使ってくれるのはドモヴォーイだが、守りに関しては魔法が効いている間のみの、一時的なものに過ぎない。
 精霊たちは僕以外の人間には棲めないと言っていた。僕から離れることも難しい、とも。
 だけど、僕が僕であるためには、アイリが安全でないと駄目な気がした。
 だからスプリガンにアイリを守ってもらえないかと、無理を言った。
「スプー」
 灰色の猫は気の抜けるような声とともに身体を震わせ、手のひらに収まるくらいの毛の塊をぽろりと落とした。
 それを前足で器用に挟んで、アイリの手にぐいぐいと押し付ける。
 アイリと精霊は基本的に触れ合えないが、毛の塊は例外のようだ。
「ラウト、この精霊は何をしているの?」
「アイリを守りたくて。それ、受け入れたいって念じれば受け入れられると思う」
「私を? どうしたの?」
「さっき、本当に肝が冷えたんだ。魔王を相手にするっていうのに、僕の考えが甘かった。アイリにもしものことがあったら、僕は自分を保てる自信がない」
「えっ」
 スプリガンからアイリの手と毛の塊を取り、両手で包んだ。
「なんだろう。ずっとアイリのことは友達で、仲間で……大切な人で」
 毛の塊はなかなかアイリに馴染まない。
「危険な目に遭わせたくないのに、魔王討伐には着いてきてもらいたいんだ。ごめん、変なこと言って」
「ううん」
 アイリが首を横に振ると、毛の塊が少し小さくなった気がした。
「私も、ラウトになにかあったら嫌なの。なのに、絶対足を引っ張るのに、着いていきたいの。……我儘ね」
「僕も我儘を言ってる。お互い様だ。一緒に行こう」
 アイリの手をぎゅっと握ると、毛の塊は溶けるようにアイリに馴染んだ。
「はい」
 笑顔のアイリを、思わず抱きしめた。アイリは嫌がらずに、僕に身を預けてくれた。



 騎士団の精鋭との試合も、ヘッケルのときと似たようなことになった。
 僕としては、剣や槍の攻撃を紙一重で躱し、最小限の動きで相手の急所に剣を突きつけているだけだ。
「攻撃を避けられたと思ったら一本取られていた」
「だめだ、動きが全く見えない」
「もう一回やってみせてくれないか。できれば、ゆっくり」
 ゆっくり、と言われたので、攻撃を避けた時点で一度止まり、剣を突きつける動作も意識して遅めに行った。
 しかし精鋭さんたちは頭を抱えてしまった。
「強すぎる……いや、魔王を相手取る勇者ならば、このくらい当然なのか?」
「そうだ、勇者様だ」
「勇者様!」
 なんだか盛り上がった。
 精鋭さんと騎士さん達が騒いでいると、服にいくつも勲章を着けた人がやってきた。
「騒がしいな。試験は終わったのか」
「はい。この方は間違いなく勇者様です」
 誰かが受け答えする。とうとう勇者だと断言された。
「では、こちらへ。陛下が待ちかねている」
 陛下かぁ……。
 実は一度だけ謁見したことがある。
 父は年に一度、禄を賜る時に陛下に謁見するのだが、僕が冒険者として旅立つ少し前に、何故か僕を連れてここへきたのだ。
 僕はずっと頭を垂れていたからご尊顔は拝見できなかったが、異様な気配と迫力はしっかり覚えている。


 連れて行かれた先、謁見の間にはその時と同じ気配と迫力を持った人物がいた。
 ただ、以前のように恐ろしいと感じたりはしなかった。
「面を上げよ。……ふむ? ヨービワ男爵の三男と聞いておったが、本当に本人か?」
 ヨービワは僕の家名だ。陛下は僕のことを覚えていた。
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