レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ

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第三章

13 脳キングダム

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 テアト大陸最大の国、フォーマ国は大陸の中央にある。
 魔王の元へ向かう直線距離からは少し逸れるが、魔王に会う前に国王と謁見してほしいと頼まれているので、城下町に到着して早速城へと向かった。

 城門の門番さんに、南港町でフォーマ国の使者さんから預かっていた書状を見せる。
「ああ、貴方が。こちらへどうぞ」
 書状を確認した兵士さんに着いていくと、大きな扉の前へ案内された。
 これまでの経験から、この手の扉の中は謁見室だ。
 僕の旅程が流動的で今きたのも急なことなのに、丁度都合がついたのだろうか。
「すまんすまん、待たせたな」
 廊下をどすどすばたばたと走りながら、集団が近寄ってくる。待たせたと言っているが、ここへ到着して一分も経っていない。
 先頭の人は冒険者ギルドの監査役のような、鍛え上げられた身体を革鎧で包んだ壮年の男性だ。
 後ろからはお城の宰相や大臣といった風な服の人たちが、息を切らせながら着いてきていた。
 僕がどう反応したものか悩んでいると、監査役のような男性が謁見室の扉を開けた。
 中には誰もいない。
「さ、入ってくれ」
「はい、あの、貴方は」
 男性はきょとん、としてから「そうかそうか」と頭をかいた。

「俺はフォーマ国王、ダルブッカ・レ・フォーマだ。よろしくな、勇者ラウト」
 国王は、まるで冒険者同士がこれからパーティを組む時の挨拶のような気軽さで、僕に握手を求めてきた。
 眼の前にいる監査役のような人物が王様だという事実に頭が追いつかず、思わず握り返した。

 謁見室に入ってからも、フォーマ国王は玉座に座らず、部屋の中央に用意された長机と椅子に座り、僕たちにも着席を促した。
「フォーマ国王に置かれましては……」
 僕はどうにか型どおりの挨拶を思い出し、アイリとシェケレも立ち上がって僕に続いて頭を下げかけたが、止めたのは国王本人だ。
「ああ、楽にしてくれ。俺は国王でもあるが冒険者でもある。冒険者に身分の差は無いだろう?」
 冒険者の身分に関しては国王の言う通りなのだが、冒険者である前に国王であることは問題にならないのだろうか。
 その国王の元に、宰相や大臣らしき人たちが次々に書類や書状を持ってくる。国王はそれらに目を通し、時折「ふむ」「ほお」等と声を上げた。
「なるほど、早速功績を上げているとは流石だな。この大陸の魔物は、勇者から見てどうだ?」
「ここから東にある村で生贄を要求していた魔物は手強い相手でした。ですが、他の魔王がいる大陸と比べて、魔物は平均的に若干弱めです」
 道中遭遇した魔物は全て倒してきたが、普通の冒険者でも倒せる相手ばかりだった。ここへ来る前は「魔物の侵攻によって人口の三割が殺された」と聞いていたのに強い魔物の気配を感じないのは、不思議といえば不思議だ。
「そうかそうか。定期的に魔物の大掃討をしている成果と考えてもよさそうだな、宰相」
 宰相と呼ばれた人は顔をしかめた。
「しかし陛下自ら出向かなくても」
 なんかとんでもないことが聞こえた気がする。
「俺がこの国で一番強いのだから、当然だろう」
 更にとんでもないことを王様が言った気がする。
 でも確かに、国王の気配はかなり強い。こっそり『鑑定』を使うと、レベル九十、魔力はないが他は千前後、力に至っては五千もあった。
 魔物相手なら無敵の強さだ。
「ところでラウト。……あー、皆、席を外してくれるか」
 国王は僕たち以外の人を追い払うように、手をしっしと振った。
 宰相はじめ近衛兵まで抵抗や抗議をする素振りも見せずに従い、謁見室は僕たちと国王の四人だけになった。

「人語を操る魔物は魔族と呼ぶのだったか。何度かそれに遭遇した。ラウトは魔族を倒せるか?」
 国王が人払いしたのは、魔族の存在を不用意に広めて余計な混乱を作らないためだったのかと納得した。
「はい。東の村で生贄を要求していたのが魔族でした」
 倒した証拠の核は冒険者ギルドから「こんなの手に余る」「記録は取ったので」と突き返されてしまったので、マジックバッグに入れっぱなしにしてある。
 それを取り出して、机の上に置いた。
「おお……こんな大きさの核は、難易度Sの魔物からも出たことがない。触れてもいいか?」
「どうぞ」
 国王は手に取った核を、色んな角度から眺め、そっと机の上に戻した。
「確かに、魔物の……いや、魔族の核だろうな。ラウトに折り入って頼みがある。これは冒険者としてではなく、国からの依頼として聞いてくれるか」
 冒険者同士の砕けた雰囲気はあっと言う間に霧散し、僕の前に座っているのは、たしかに一国の王様だ。

「ここより北東の地にある砦に、魔族と思しきものを含めた魔物達が棲みついている。俺と冒険者の精鋭で攻め込んだが、掃討は叶わず犠牲まで出してしまった。魔王討伐という急ぐ旅の途中であることは重々承知の上だが、敢えて頼みたい。彼らの無念を晴らしてくれないか」
「わかりました」
「どうか頼……承諾早いな!? だが、礼を言う。それから、俺も連れて行ってくれ」


 国王が地図で示した場所は、馬で二日ほどの距離があった。
 僕はいつものように、馬と自分たちに補助魔法や風魔法を使い、城を出て二十分後には砦の目の前にいた。
 アイリは慣れた様子で馬から降りたが、国王とシェケレは馬上でしばらく固まっていた。
「先ほど城を出たばかりのはずだが……」
「え、ここ? ここでいいの?」
「着きましたよ。確かに魔族が数体いますね」
 砦はごく普通の石材でできている。以前見たもののように魔物を使っているわけではなさそうだ。
「この砦は魔族が?」
「いや、元々この一帯を任せていた辺境伯がいた。この砦は辺境伯が築いたものだが、辺境伯自身は行方不明だ」
 人が造ったものを魔族が占拠しているのか。ならば建材が普通なことにも納得だ。
 辺境伯の行方も気になるが、今はここの魔族を全てやっつけることに専念しよう。
「陛下、魔族ですが」
「ラウト、ここへ連れ出したときは王命だと言ったが、今ここにいる俺は冒険者のダルブッカだ」
 王族を名前呼びするのは抵抗あるけど、仕方ない。
「ダルブッカではここの魔族に敵わないから、直接の仇討ちは諦めてもらうよ。それでいい?」
「仇討ちに拘って俺がやられては、先に逝った奴らに面目が立たない。ラウトが良いように動いてくれ」
「わかった。魔族は、どうやら一階につき一体の計五体。途中の魔物は余程強くなければダルブッカとシェケレに任せる。アイリは僕よりダルブッカとシェケレに注意して。行くぞ」
 僕は腰の剣を抜いて、正面から突っ込んだ。


 後ろを任せられる仲間がいるというのは頼もしい。
 僕は前進に邪魔な魔物だけを斬り倒し、他はダルブッカとシェケレに任せた。近くの魔物が完全に沈黙してから、アイリが二人に回復魔法を掛ける。
 シェケレは僕が剣を教えてから毎日、夜中や不寝番中に自主練を繰り返している。旅の途中の魔物も、難易度Cくらいまでなら倒せるようになった。
 ダルブッカは鑑定で視た数値通りに魔物相手なら無敵だ。バスタードソードを片手で軽々と操り、次々に魔物を屠っていく。
 砦は広く大きく、各階に一体ずついた魔族を倒しながら階段を五つほど上がり、ようやく最上階に辿り着いた。

「騒がしいと思ったら、人間か」
 今まで見たことのある魔族の中で、ギロを除けば一番人の姿に近かった。
 体格は僕と同じくらい。金髪と、人ではあまり見かけない金色の瞳は、夜会に出る貴族が着るような華やかな服によく似合っている。
 翼も角も尾もなく、手足は人そのものだ。
 気配だけが、魔族である証拠に禍々しく歪んでいた。
 だから、魔族は魔族だ。
 僕が問答無用で魔族に斬りかかろうとする寸前で、ダルブッカが叫んだ。
「ストラム!」
 ほとんど人に近い見た目の、見目の良い魔族。僕の頭の中にはギロの姿が過る。嫌な予感がする。
「どうした、ダルブッカ」
「ラウト、あれは魔族なのだな?」
「はい」
「しかし……あまりにも……」
「どうしたのですか」
「……辺境伯、ストラムに似ている」
 ああ、やっぱり。
 核を埋め込まれた本人か、躯を弄ばれているのか。
「ああそうだよダルブッカ。私だ、ストラムだよ」
 魔族は口を笑みの形に歪めると、両手を広げながら僕たちに近づいてきた。
「違った」
 ダルブッカは魔族を睨みつけた。
「ストラムは俺のことを、頑なに陛下と呼んでいた。何度も名で呼べと命じたにも関わらずだ」
「ちぇっ、ひっかからなかったかぁ」
 魔族は笑みをさらに深めた。
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