レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ

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第四章

8 足りないぬくもり

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 ザイン大陸はエート大陸の東にあり、他のどの大陸よりも距離的に近い。船で三日も進めば最北端の港に到着する。
 三日と言えど時間が惜しい。
 僕は船に防護結界魔法を掛けて風魔法を当て続ける方法で船を速く進めて、三時間ほどでザイン大陸に到着した。
「これが勇者様の力……」
「はぁ……うぷっ……おれ、初めて船酔いした……」
「大変だ! 船首に魔物がいくつもこびりついてる!」
 今回はじめて僕の船無理矢理高速移動に付き合わせてしまった船員さん達が何事か騒いでいる。
 そういえば途中で魔物を轢いたかもしれない。
 止めは任せて大丈夫かな? おお、船員さん達が総出で銛で突いている。大丈夫そうだ。よかった。


 港には人影どころか人の気配すらなかった。
 船は僕が乗ってきた船以外にも何隻か停泊しているが、どれも帆がボロボロだったり、甲板に腐った魚がそのまま放置してあったりと、手入れされている様子がない。
 波は穏やかで天気もいいのに、船だけが陰気で、余計に不気味だ。
「では我々は帰路に就きますが、本当に宜しいのですか?」
 乗ってきた船の船長さんが僕に最終確認を取る。
「はい。帰りもお気をつけて」
 防護結界魔法はそのままにしたから、来る時みたいに無茶な速さで移動しなければ魔物にぶつかることも無いと思う。
「ラウト殿も、ご武運を」


 船長さん達と別れて、港町を散策する。
 町中は寂れていると言うほどではないが、行き交う人の顔は皆一様に暗く、港町特有の活気がない。
 露店には空の棚が目立った。港がああだということは、物流も滞っているのだろう。

 冒険者ギルドは、大通りを歩いているとすぐに見つかった。
 昼過ぎの今は大抵の冒険者がクエストに勤しんでいるから人が少ないのは分かるが、クエストボードに残っているクエストの数が多すぎる。
 SとAが五つずつに、B以下が……ざっと五十くらいか。
 他の町の冒険者ギルドなら、多めに残っていても合わせて十ほどなのに。
 とりあえずSのクエスト五つを持って、受付へ向かった。
 受付さんはひとりしかいなかった。僕より少し年上くらいの女性の受付さんは覇気のない顔をしていたが、僕が持ってきたクエスト内容を見て目を剥いた。
「他の方の姿が見えませんが、何人パーティですか?」
「ひとりです」
「クエストを故意に失敗したら、冒険者資格停止処分になりますよ。B以上となると無期限で実質……」
「知ってます」
 僕は自己紹介がわりにステータスを表示させ、受付さんに見せた。
 受付さんはクエスト内容を見た時よりも更に目を剥いた。目玉が零れそうで怖い。
「あ……あなたが……」
「受付お願いします」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい! 監査役を呼んできますっ!」
 この高難易度クエストを早く片付けたくてステータスを見せたのに、逆効果になってしまった。

 ギルドの建物の最奥にある部屋、つまり監査役室に通された。
 すぐに、耳の上にだけ白髪の生えた老齢の男性がやってきて、僕の向かいに座った。
「勇者ラウト殿がお見えと聞きましたが……念のため、私にもステータスを見せていただいても構いませんか?」
「どうぞ」
 監査役は胸ポケットから拡大鏡を取り出して、僕のステータスをつぶさに読み始めた。
「ふむ……ふむ……なるほど、お名前は訊いた通りですね」
 ステータスから目を離すと、今度は僕の顔をまじまじと見つめてきた。拡大鏡は必要なのだろうか。
「見た目も……これはこれは、勇者様。遥々お越しいただきまして……」
「あの、なるべく早くクエストを片付けたいのですが」
 机に禿頭を擦り付けて挨拶の口上を述べようとする監査役を止めようとしたが、監査役は続けた。
「勇者様がクエストを請けて頂けるのは大変ありがたいのですが……実は、大変申し上げにくいことに、只今冒険者ギルドではクエスト達成の報酬をお渡しすることが出来ないのです」
「構いませんよ」
 報酬が出ないこと自体には驚いたが、僕はお金には困っていない。それよりも、高難易度のクエストを放置することにより発生するであろう人里への被害のほうが心配だ
「しかし、勇者様をタダ働きさせるわけには」
「他の国から十分に報酬を頂いています。報酬がなくても困りません。……が、出ない理由は訊いてもいいですか?」
「勿論です」


 僕が一体目の魔王を倒してから、もうすぐ一年が経つ。
 ここザイン大陸の魔王は十一年前に現れた時に大陸中を荒らし回り、混乱の最中にザイン大陸最大の国、キスタ国の王族の殆どが亡くなった。
 亡くなった王妃の遠縁をとりあえずの国王に据えたが、これが最初の失敗だった。
 ぶっちゃけると愚王だったのだ。
 国どころか世界中が混乱しているというのに、王の責務は果たさず、引きこもって贅沢三昧する始末。
 しかしお飾りでも王がいないと王国として成り立たない。
 救いは、愚王は政治には興味がなく、悪政を敷いたりはしなかったことだった。
 王の豪遊費だけが嵩んだが、その時はまだ些末な出来事だった。
 前王の死後、実質国を回していた家臣は次々に過労で倒れ、残る手段は全面降伏か他の大陸へ逃げるかという選択肢を迫られるほど状況は悪化した。
 しかし約一年前、魔王の侵攻はぱたりと途絶えた。
 魔物の数は魔王出現前と変わらなくなり、魔物対策に費やしていた労力や人材を、どうにか国力回復へ回すことが出来るようになった。
 しかし、時既に遅かった。
 王の贅沢を止める気力のある人間がいなかったので、キスタ国は既に財政が破綻していたのだ。
 ついに軍部からクーデターが起こり、ようやく王が処刑され、軍の総司令と宰相が国王代理に就いた。

 それからというもの、国の内部の人たちの自己犠牲によりどうにか国としての体裁を保っていたが、国王代理の一人だった軍の総司令が先日突然亡くなった。激務による過労死だろうと言われている。
 宰相が内政、総司令が外交や冒険者ギルドの運営を担当していたため、他国へ魔王に関する連絡や、冒険者ギルドへの資金提供もできなくなったそうだ。



「報酬が出なくなっても、一部の冒険者は魔物の核の収入を目当てにクエストを請けてくれましたが、最近では冒険者を辞めるものも増えてきまして、ご覧の有様というわけです」
 一通り話を聞く頃には陽がだいぶ傾いてしまったが、事情は大体理解できた。
「分かりました。では、行ってきますね」
「おおおお待ち下さい! やはり勇者様にこのようなことは頼めませぬ!」
「何を言ってるんですか。勇者だからこそ魔物を倒すんですよ」
 本当は一刻も早く魔王を探しに行きたいが、この惨状を見てしまったからには放っておけない。
 僕なら難易度Sの十や二十、半日もあれば全部倒せる。
 クエストを無視して魔物だけ倒してもいいが、クエストとして貼られている魔物を倒した場合は後からでも申告しなければならない。でないと、クエストが取り下げられないのだ。

 小一時間に渡る監査役と受付さんとのやり取りの末、僕への報酬は「いつか必ず払う」という書類を作り残すことになった。
 前例のない書式だったので、書類を作るだけで更にもう一時間。
 流石にこの日はクエストを諦め、僕はギルド内の宿泊施設に泊まった。


 普通の個室でいいと言ったのに、「どうせ誰も使わないので」と一番広い部屋へ案内されてしまった。
 旅装を解き、机でいくつか手紙を書き上げて、各地への連絡用マジックバッグにそれぞれ放り込む。
 最初に返事が来たのはアムザドさんだ。
「キスタ国の実情は把握しました。支援団の派遣を検討しております」
 次に冒険者ギルドから。
「報酬の件、把握した。各国のギルドにも通達し、支援を送る」
 ギロからも返信が届いた。
「ご無事で何よりです。こちらは変わりありません」
 ギロからの返事を読んでいる間に、同じマジックバッグからもう一通やってきた。アイリだ。
「こっちは準備万端。いつでも行けるわ」
 手紙からは、アイリの匂いがする。他の人の匂いはわからないが、アイリだけは何故か分かる。

 室内で、ひとりで眠るのは久しぶりだ。
 一人用のベッドなのに、広く、寒く感じてしまう。
 監査役には「勇者だからこそ魔王を倒す」なんて見栄を張ってしまったけど、僕が魔王を倒す最大の理由は、何の憂いもない平凡な生活をアイリと共に過ごしたいがためだ。

 体力も魔力もたくさん使った日なのに、この夜はなかなか寝付けなかった。
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