レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ

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第四章

21 伯爵家の姉妹

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 サラミヤの姉たち、スフォルツァンド家の三人の令嬢は全員、日常生活に支障なく過ごせるまでに回復した。
 ユジカル国からの支援の元、長女が伯爵位を継ぎ、次女、三女と共に協力しあって以前の生活を取り戻しつつある。
 悪夢の詰まった屋敷は三人の意向で解体、更地にし、伯爵領内の別の場所に新居を建てた。
 竣工から程なくして、姉妹は新居に住み始めた。

「どこから手を付けたらいいのかしらね」
 長女は伯爵専用の書斎で、積み上がった荷物や書類を前に、溜息を吐いていた。
 大きな家具は国から派遣された使用人たちが設置してくれたが、細々とした私物や貴重品は本人の手でやるしかない。
 姉妹を囲っていた魔族は人のふりをしていたが屋敷自体や金銀財宝には一切興味を示さず、財産は無事だったのだ。
「姉様、お茶を……あら、まだ片付いていらっしゃらなかったの?」
 書斎に顔を出したのは次女だ。几帳面で仕事の早い次女はさっさと自分の手荷物の片付けを済ませ、侍女に命じて茶の支度までさせていた。
「助けて」
 細かい手仕事の苦手な長女に速攻で助けを求められた次女は、苦笑いを浮かべた。
「仕方ありませんわね。先にお茶にしませんか? 折角用意させたのに、冷めてしまいます」
「じゃあ頂くわ」
 長女は一旦考えを放棄して、次女と共にサロンへ向かった。

 サロンでは三女が侍女に混ざって和気藹々と小さな茶会の支度をしていた。
「姉様達、ちょうど整ったところよ」
「ありがとう。頂きます」
 三人がこうして優雅にお茶の席を囲めるようになったのは、末妹のサラミヤと勇者、そして勇者の従者であるギロのおかげであると、三人は知っていた。
「魔王は倒れたというのに、魔物が増えて荒れているそうですわ」
「物騒ね。では、サラミヤを呼ぶのは落ち着いてからにしましょうか」
「魔物が増えたということは、勇者様もお忙しいでしょうし」
 三人の話題は、専ら末妹のサラミヤと、その養父となったギロのことである。
 サラミヤとは手紙のやり取りしかしていないが、女の勘により、サラミヤとギロがお互いに寄せ合う気持ちには完全に気付いていた。
「一旦養子縁組してしまうと、解消が面倒なのにねぇ」
「年の差なんて気にしないのに」
「全くだわ」
 可愛い末妹に会えないのは残念だが、それ以上に末妹の幸せを願う三人である。
 端的に言えば「早くギロ様とくっつけばいいのに」だ。
「私も早く旦那様を見つけないと」
 長女が零せば、次女が待ってましたとばかりに侍女に命じて書類の束を取り寄せる。
「やっとその気になってくださいましたか」
 次女がテーブルの上に並べたのは、見合いの釣書だ。
 三女が身を乗り出して、何枚かの釣書を手に取った。
「こちらは伯爵家の庶子、こちらは男爵家の三男……子爵家の五男。見事に爵位目当ての方ばかりですわね」
「仕方ないでしょう。私達は事情が事情なのですから」
 魔族に囚われ、一時期行方不明とされていた姉妹は、貴族社会で傷物扱いになっていた。
 国が名誉挽回策として長女に伯爵位を継がせたが、焼け石に水だ。
 長女に持ち込まれる縁談は、ご覧の有様である。
 三女が名を挙げた分は、貴族に在籍しているだけでもマシな方と言える。
「もういっそ、サラミヤ経由でギロ様に爵位をお渡ししようかしらね」
「姉様、それは既に何度も断られてますわ」
 長女の提案を次女がばっさりと斬った。
「打診済みだったの!?」
「ええ。姉様の性格上、こういった婚姻を面倒くさがりそうでしたので」
 歯に衣着せぬ物言いは、仲の良い姉妹特有のものだ。

 三人はギロと直接の面識はない。勇者とともに行動していることと、サラミヤからの手紙に書かれている内容から、ギロの人となりを推し量っている。
 それによれば、ギロはかなりの優良物件であった。
 長身で見目も整っており、物腰穏やかであること。
 なにより勇者の補佐として完璧である点は、爵位目当ての貴族令息達に比べたら、信頼できる人物であることは間違いない。
 それと、サラミヤの手紙には、ギロは料理が得意であることが頻繁に書かれていた。
「料理……」
「料理ねぇ……」
「あの子、そんなに食いしん坊だったかしら」
「少食のサラミヤがこれだけ言うのだから、よっぽど上手なのよ」
「なるほど」

 三人は貴族令嬢らしく、また年頃の娘としてかしましくも優雅な日々を送っていた。


 長女の部屋の片付けも次女の手助けによってどうにか落ち着いた頃、伯爵領内の村が魔物に襲われたという一報が入ってきた。
 長女はすぐさま伯爵として支援物資を送り、自身も冒険者を護衛に雇って被害状況の視察へ赴いた。
「伯爵様御本人がわざわざ魔物に襲われた村を見に行くのかい」
 冒険者は長女と同じ十七歳の、くすんだ赤い髪をした青年だった。
 伯爵令嬢に生まれ、伯爵として貴族に囲まれていた長女は、冒険者の品のない物言いが新鮮に映った。
「私の領内の出来事ですもの。何かあったら見に行くのは当然ですわ」
「でも、もう支援物資は送ったんだろう?」
「通り一遍のものをね。他に必要なものがないか、自分で見聞きしたいの。護衛がお嫌なら、他の人に代わってもらっても結構よ」
「仕事は嫌じゃねぇよ。ただ、ちょっと意外だったんだ。変な言い方して悪かったな」
 冒険者は素直に謝った。
「意外ですか? 領地持ちの貴族なら当然ですわよ」
「……俺の生まれ故郷は、そうじゃなかったからな。村が魔物に襲われても支援なんて一切来ねぇ。それどころか、被害を補填するためだとか言って、襲われた村からも更に税を搾り取るような奴だった」
「それは酷い。どこの領地なの?」
「もう滅んだ」
「ごめんなさい」
「いいよ、俺が勝手に話したことだ」
 二人は村へ到着すると、早速被害状況を確認して回った。
 死者が出ていたため、長女は墓参りをし、犠牲者の家族へ更に手厚い支援を約束した。
 三日かけて村中を徒歩で周り、その間の宿泊は村の宿屋を使った。
 どの宿でも一番上等な部屋に泊まったが、所詮田舎の小さな村である。冒険者の目には、貴族令嬢が満足するような宿には見えなかった。
「大丈夫か?」
「何がですか?」
 冒険者の問いかけに、長女はおっとりと疑問形で返した。
「その、あんまり綺麗とは言い難いだろ」
「そうですか? ちゃんと掃除されてますし、寝具からは良い香りがします。私に気を遣って香を焚いてくださったのでしょう。ありがたいですわ」
 長女に不満の色はなく、むしろ過剰なサービスを受け取って申し訳無さそうにすら見えた。
「明日、もう一度村長のところへ行って話を聞いて方針をまとめて、それで終わりですわ。貴方もゆっくり休んでくださいな」
「あ、ああ」
 冒険者は自分の中に、表現し難い感情が芽生えているのに気づいた。


 翌日、長女は宣言通り村長と話をし、視察で見聞きした被害に対応した支援を約束して、村を発った。
 帰りの道中で、長女の乗った馬車は魔物に襲われ、冒険者は腕の骨を折る大怪我を負いながらも、魔物を蹴散らした。
「あんた、無事か?」
 馬車には魔物を近づけていないが、馬車馬が怯えて馬車ごと揺らしていた。冒険者が駆けつけると、長女は客車の中で頭を抱えて蹲っていた。怯えからではなく、緊急時に最低限身を守る術だ。
「私は平……貴方、腕が!」
「ああ、やっちまったが、このくらいなら回復ポーションで……お、おい」
 長女の目からはらはらと涙がこぼれていた。
「ごめんなさい、ありがとうございます……」
「俺がしくじったんだから、自業自得だ。……泣くなよ。ほら、見てろ」
 冒険者は片手で器用に回復ポーションを取り出し、栓を弾くように抜いて一気に飲み干した。
 骨折した腕は、ぱきりと痛そうな音を立てて、元に戻った。
「ひっ! い、痛くないのですか!?」
「いつものことだ。大した痛みじゃねぇよ……だから泣くほどのことじゃねえんだって」
「す、すみません……吃驚してしまって。本当に魔物が増えているのですね。こんな風に魔物に襲われた経験がなかったものですから」
 長女は自分のハンカチで目元を拭い、冒険者に笑顔を見せた。
「貴方は命の恩人ですわ。報酬に色を付けておきますから、楽しみにしていてください」
「俺からしたら魔物とやりあう方が日常なんだがな……。ま、貰えるもんは貰っとくよ」


 無事に家に戻った長女はそれからしばらく、少しでも暇だとぼうっと遠くを見るような仕草をすることが多くなった。
「姉様、お見合いはどうされます? いい加減決めませんと、嫁き遅れますわ」
「……ねえ、冒険者と結婚してもいいのかしら」
「はい?」
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