闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1055話 天蠍毒龍獣

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落神涧の深部では毒霧が渦巻き、空気自体に微かな腥味が漂っている。

その匂いを吸い込むと、体調不良を起こすほどの毒性がある。

落神涧内には無数の漆黒の巨大な亀裂が広がり、時折そこから唸るような声が響く。

この地に生息する生物は全て劇毒を持ち、油断すると死に至る危険性があった。

荒野の空気を切り裂く微かな破風音と共に、遠方から数人の影が駆け寄ってきたように見えた。

彼らは瞬時に百メートル先まで接近し、近づいてくるとようやくその姿が判明した。

天毒蝎龍児に向かって走り寄っているのは、蕭炎率いる一行だった。

蕭炎の軽やかな足取りで彼は黒石に降り立ち、遠くを見つめた。

しかし毒霧のため視界は大きく遮られていた。

「小医仙、天毒蝎龍児はどこだ?」

蕭炎が後ろを振り返り、小医仙と欣藍を見る。

その言葉に反応し、小医仙も周囲を見回した。

厄難毒体の彼女は毒物への感覚が鋭く、僅かな匂いでも感知できる。

しばらくして目を開き、指を北の方へ向けた。

「あそこだ。

その臭いは遠くからでも分かる」

蕭炎が小さく頷き、隣にいる地妖傀を見やりながらため息をついた。

「欣藍、戦闘が始まったらできるだけ離れていてくれ。

八星斗宗の実力と、魔獣の強大な**を持つこの天毒蝎龍児は、非常に厄介な相手になるだろう」

「分かっています」欣藍が頷く。

彼女の実力ではその戦いに参加する資格はないため、遠くから見守るのが最善だった。

「気をつけてね。

避毒丹を飲んだから、積極的に関わらなければ危険は避けられるわ」小医仙が欣藍に笑みかけた後、蕭炎の後に続くようにした。

落神涧口では白い人影の大群が集まっていた。

彼らからは驚くほど冷たい気配が溢れ出し、周囲の温度まで下がりかけていた。

その大群の最前列には四人の老人の姿があった。

彼らは背を丸めて立っているものの、それぞれに三つの圧倒的な氷結の気配が広がり、見るものを圧迫するような重厚な空気に包まれていた。



四人の中でも最も注目を集めるのは中央に立つ白髪の老人だった。

その人物は白玉のような蛇頭杖を手にし、巨きな口を開いた蛇の頭が威圧的にもたらす陰気さと、他の三人の白装束老者とは対照的な普通さが際立っていた。

周囲からはエネルギーが溢れ出ず、その蒼白い顔は枯れたように渇き、濁りのある目は微かに開いていた。

しかし奇妙にも、この外見から何の特徴も読み取れない人物こそが隊列の中心に位置し、他の三人の圧倒的な気配さえもその背後に控えさせている。

落神涧口周辺には観戦者が集まり、彼らは皆驚きを隠せなかった。

特に白装束老者の衣服に刻まれた特殊な雪花模様を見た瞬間、ざわめきが広がった。

「まさか氷河谷の人たちなのか?」

「先頭の四人が全て斗宗級の強者とは驚きだ。

一体この氷河谷は何を企んでいるんだ?」

「聞いた話では三位の氷河谷長老と弟子たちが厄難毒女に葬り去られたらしい。

今回の復讐は本気だろうな。

蛇頭杖を持つ老人は天蛇長老だと聞く。

その人物は氷河谷でも上位三傑に入る存在だ」

「天蛇長老? まさか本当に来ていたのか。

厄難毒女は危ない状況かもしれない」

白装束の隊列に騒動は一切届かず、杖を持つ老人が濁り目を開いて淡々と言った。

「全員揃ったか?」

「全員到着しました。

蛇老のご指示をお願いします」

呼ばれた人物がゆっくりと頷き、手を伸ばすと寒気が立ち上り、氷の鏡が形成された。

その鏡面には蕭炎、小医仙、地妖傀、天火尊者の姿が映っていた。

「これらは氷河谷の弟子たちの残された記憶から抽出した断片だ。

厄難毒女に援軍がいるとは知らなかったが、この人々は丹域外の人間だろう。

氷河谷も久しぶりにこのような挑発を受けたな。

老人の手も少し生ぬるいものだ」

蛇頭杖を持つ人物が鏡面を視線で撫でると笑みが浮かんだ。

その笑い声は夜の鳥のように不気味だった。

その笑いに反応して三人の白装束老者の肌が寒気に侵された。

彼らは知っていた。

この人物ほど笑顔が増すほど殺意が高まっていることを。

老人は深く息を吸って言う。

「行こう。

老人も久しぶりに新たな強者と会いたいものだ。

氷河谷の威圧は許されないのだ」

老人が軽く手を振ると、蛇骨杖を持ちながら落神涧へと向かう。

その背後に続く氷河谷の弟子たちの足音は一切聞こえない。

彼らは訓練されたプロフェッショナルな動きで進み、毒霧で覆われた先には白い石の城がぼんやりと浮かんでいた。

「ここだ…この石の城こそが目標だ」

その言葉に反応して蕭炎が足を止めた。

彼は目を細めて遠くを見やる。

毒霧の向こうに巨大な白い石の城が影のように存在する。

その周囲には血色の尾と十丈もの龍翼を持つ生物が舞っている。

「天蝎毒龙兽はそこにいるのか?」

彼は手を擦り合わせながら目を輝かせた。

中州まで追ってきた甲斐があった。

小医仙が微笑んで頷く。

「おそらく私の厄難毒体に反応したのだろう。

この程度の毒獣なら…」

「ならば会おう、その荒古毒兽とはどのような存在なのか。

欣藍はここで待っていてくれ」

蕭炎が笑みを浮かべて地面を蹴り出す。

瞬間的に白い石の城へと向けて疾走する。

小医仙と地妖傀も後ろから追いかける。

三人の速度は驚異的で、すぐに石の城の周辺に到達した。

その規模に彼らは息を吞んだ。

毒霧が遮る中でもその圧倒的な存在感を感じさせる。

突然大地が震え、天高く龍鳴きが響く。

「小美人!?お前もここに来てくれたのか…ならば貴方の厄難毒体で私の子孫を作りたい」

血色の影が現れた。

十丈もの龍翼と尾は寒光を放ち、月明かりの中で狂気的な威圧感を醸し出す。

「やはり強い…でも魔核や精血は我々のものだ」

蕭炎が舌なめずりしながら目を輝かせる。

彼の瞳孔に燃える戦意が宿った。



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