闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,040 / 1,458
1000

第1074話 枯れ枝を折るが如く

しおりを挟む
驚天動地の爆発音が響き渡った。

その瞬間、灼熱の炎の波紋が空を駆け抜けた。

赤々と燃える火浪は周囲の寒気を一掃し、冷えた街並みをたちまち温め上げた。

無数の視線が天高く広がる炎の海を見つめる。

短時間で蕭炎が完璧な逆転劇を演じ、劣勢だった戦況を一気に回復させたことに、人々は呆然と見入っていた。

二星斗宗の実力で八星斗宗の護法・鴻を圧倒するなど、常識破りの光景が眼前に広がる。

「この男は尋常じゃない」と囁き合う声が響く。

斗宗間の格差は巨大だ。

しかし蕭炎の凄まじい戦闘力は天蛇らをも震撼させた。

彼の連続した高級術法の破壊力に、彼らの表情には驚愕が浮かんでいた。

「いずれこの若者を放っておけば、氷河谷の大敵になるだろう」と天蛇と幾名の長老は顔を見合わせる。

その目には殺意が宿っていた。

葉家の館では家族たちも息を呑む。

特に葉重は信じられない表情で見つめる。

「欣藍が彼を推薦した理由が分かるわ」そう囁くように語りかけた。

炎の波紋が消えると、その先に立つのは無傷の青年だった。

彼の悠然とした気迫は人々を圧倒する。

対面には鴻の影が残る。

黒霧が消えたことで、虚ろな姿が露わになる。

「魂魄体か!」

驚きの声が飛び交う。

「この殿閣は魂を集めるために存在するのか」

鴻の目元に陰りが走った。

蕭炎の一撃で彼の最大の防御を破壊し、さらに灼熱の碧緑の炎が霊魂まで傷つけたのだ。



目が急速に揺らぐ。

物足りなさそうに炎を凝視する護法の日光は、蕭炎を不満げに凝視している。

しかし、先ほど彼が発揮した驚異的な戦闘力への恐怖が胸中で渦巻いている。

かつて初めてこの男を見た時、まだ斗室すら成り得ない小者だった。

薬塵の霊力さえ借りればやっと斗宗に達する程度で、彼の目にはただの脆い蟻としか映らない存在だった。

しかし今や、その頃の蟻が彼を完全に粉砕したのだ。

もしも危機の一瞬前に体内の魂気を最大限まで解放しなければ、あの炎蓮の下で即座に滅びていたかもしれない。

「この男は二度と殿内に侵入できるほど実力があるのか……」護法が歯を嚙み締める。

今日の誤判を悔やむ気持ちが胸中で湧き上がる。

あの頃の蟻が、短い数年の修練でここまで成長するとは想像もできなかったのだ。

「やはり才能があるものだ。

魂殿に護法を増派する必要がありそうだ」

その思考が頭を駆け巡る直後、心臓が一瞬で引き締まった。

虚空を踏みながら急いで後退り出す。

彼の身体が暴走し始めた時、碧緑の炎を纏った拳が先ほどいた場所に突き出された。

その一撃は空間自体を波紋状に震わせた。

「あの黒霧を失えば、貴様たち魂殿の強者も爪牙を失った虎と同じだ……」炎蓮の一撃が虚しく空間を切り裂くと、蕭炎の顔に冷笑が浮かんだ。

身体が一瞬で消滅する。

護法はその姿を見た途端、背筋が凍り付いた。

この男の速度は異常だ。

もしあれが最盛期ならまだ恐れなかったかもしれないが、あの炎蓮の衝撃で魂まで傷つけられた今では、彼の追跡すら不可能だった。

虚空を踏みながら黒影のように後退り続ける護法だが、ある瞬間身体が突然硬直した。

驚愕の表情と共に急に振り返ると、掌から黒い霧が蠢き出す。

その中に凄惨な叫び声を上げる無数の影が湧き上がり、次々と爆発する。

その爆発は凶猛な衝撃波を生み出し、空間を四方八方に広げた。

しかし碧緑の炎の拳がその衝撃波を一撃で粉砕し、余波を切り裂いて護法の顎に直撃した。

「ドン!」

その一撃を受けた護法は惨叫を上げながら虚幻な身体が震えだし、顔色が白くなる。

この一拳があれば、あの衝撃波さえなければ彼の命はそこで断ち切られていたのだ。

護法はその推力を利用して瞬時に後退り、驚愕の声と共に「天蛇長老!力を貸せ!」

と叫んだ。

その声が消えた直後、蕭炎の影が再び現れ、獰悪な笑みを浮かべて頭部に拳を振り下ろした。

この一撃があれば護法は即座に魂を散らすだろう。

「ドン!」



一撃を放つ。

その直前、枯れた老人の影が電光石火で現れ、干いた掌が蕭炎の拳を掴み、二つの凄まじい力が接触点で爆発し気浪を四方八方に広げた。

「若もしも、若い者よ。

なぜそんなに殺伐としたのか?」

蛇の杖を支えながら天蛇はゆっくりと語る。

「ついに我慢できなかったか?」

その言葉に反応して蕭炎の顔が次第に曇り、冷やかに笑った。

脚を蹴り上げた時、足先から鋭い刃のような気流が陰冷な寒さと共に形成される。

「バチッ!」

音を立てて天蛇は杖を斜めに向け、蕭炎の一撃を受け止めると後退し、背後の鴨護法を連れて移動した。

「天蛇長老。

この若者を捕まえてくれれば魂殿が重ねて礼を申します。

面倒なら引きつけるだけでも構いません。

私は既に信号を送りましたから、いずれ強力な援軍が来るでしょう。

その時はこの男は逃げ場がありません」

鴨護法の怨毒な視線が蕭炎に向く。

「森然たる声で言うと、今や一人では捕まえられないと悟ったのか?これまで何度か死に瀕えたが、運良く助かっただけだ。

次こそは……」

その言葉に天蛇は笑みを浮かべて頷いた。

「鴨護法様ご安心あれ。

この男は我が氷河谷の手に」

軽く笑いながら天蛇は陰森な目つきで蕭炎を見据え、掌を振った。

「氷玄、氷華。

この男は変わっているから三人で協力して捕まえてくれ。

速やかに」

隣にいた二人の氷河谷長老が驚きの表情を見せた。

「蛇老、多くの目が見ている前で我々三人が若者を相手にするのは不自然ではないか?」

「若者?」

天蛇は冷やかに笑った。

「貴方たちふたりがこの男と戦おうとするなら危険を伴うだろう。

それを『若者』と呼ぶ資格があるのか?」

氷玄、氷華は驚きの表情を見せた。

彼らの実力は七星斗宗程度で鴨護法より劣り、先ほどの鴨護法の悲惨な結果を目の当たりにしていたため、天蛇の言葉には反論できなかった。

互いを見合いながら二人は歯噛みし、頷いた。

三人が三角形を形成して蕭炎を取り囲むと、鋭い気流が彼を包み込む。



空の上でのこの光景を見た瞬間、葉城の街中に多くの驚きの声が響き渡った。

氷河谷が三名の長老を動員して、その謎めいた若者と対決するのか?「外敵の非難は虚言に過ぎない。

真の栄誉は生存者だけが手にするものだ『虚栄に囚われた者はいずれ自滅する』」天蛇は下方の騒動を無視し、淡々とした目線で蕭炎を見据えた。

「天火三玄変を使い終わった後の君は確かに強くなったが、それが今日の結末を変えられるわけではあるまい。

束縛されて捕らえられれば、苦痛も少なくて済むぞ」

その言葉に嗤われたのは蕭炎だった。

周囲を見回しながら彼の顔色は次第に険しくなり、「七星斗宗級の二人と斗宗最上位の一人がかりで捕縛するなら確かに簡単だが、それは君が他の底力を持っていないという前提での話だ。

残念ながら」

表情を静かに保ちつつ蕭炎は両手を軽く合わせると次々と奇妙な印結を作り始めた。

その印結の変化と共に彼の周囲の温度が急激に上昇する。

「五輪離火法!」

天火尊者の秘伝であるこの術式、修行開始以来蕭炎は一度も完全に発動させていなかった。

そのためこの天火尊者が「ほぼ天階級の斗技と匹敵する」と称賛したその威力について彼もまた詳細を知らなかったが、今日この危機的状況下でようやく、蕭炎の手からその真価が発揮されるのだ!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。 絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。 だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。 無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...