闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1164話 最後の賭け

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夜OWLのような冷たい笑い声が空を震わせ、稲妻が走るたびに慕骨老人の顔が強烈な光で照らされる。

その表情は異様に歪んで見えた。

巨大な光柱が万目睽睽の下で天高く伸び上がり、その中に宿る圧倒的な力は場を凍りつかせるほどだった。

エネルギーの波動を見る限り、これまで登場した者たちとは比べ物にならないほどのものだ。

「この謎めいた黒衣の男は一体何者なのか?」

人々の胸中には疑問が広がる。

こんな実力を持つ人物が無名などあり得ないはずだが...

高台に立つ玄空子たちの顔色が次第に暗く染まっていく。

光柱が暴れ、慕骨老人がこれまで隠してきた気配が一気に露わになる。

「基骨老人...」

玄空子の笑みは消え、冷たい目線で黒衣の影を射る。

「まさか三人の目を欺くとは...この顔も変えていたのか」

白服の老婦人の頬に寒気が走り、「三位会長様、これ以上放任したら丹会の優勝は彼の手に。

それが外伝の耳に入れば、魂殿との不和がさらに露呈するでしょう」

白袍の老者も顔を引き攣らせた。

「この老人は明らかに準備してきた。

そのままにしておくと丹塔の汚名を世界中に晒すかもしれない」

玄空子の表情はさらに険しくなり、手のひらが拳を握り締め、「今は見守るしかない。

我々の警戒も不十分だった。

彼が魂殿の人間とはいえ煉金術師として資格はある。

公開で排除すれば魂殿に怒らせ、丹塔の評判にも傷つく」

「ではそのまま放っておくのか?」

白袍老者の声が震える。

「会長様は嫉妬で血沸き返っているのでしょう」

美肌の婦人と黒人老者も顎を合わせた。

その目には互いに理解する冷たい光があった。

石台の上で蕭炎は慕骨老人を鋭く睨みつけ、拳を握り締めながら先ほどの嘲笑を思い出し、殺意が湧き上がった。

老人は無視して天高く光柱を見上げた。

その先端では恐ろしいエネルギーが濃い霧となって集まり、瞬く間に雷雲の形に変化していく。



空を覆う雷雲が形作られる時、場にいる全員の心臓は一気に引き締まった。

この丹雷の出現こそが今後の勝負を決める最後の瞬間となるのだ。

無数の視線が注がれる中、雷雲は激しく渦巻き始めた。

青と銀の二色が瞬時に広がり、丹雷を二色に染め上げた。

「二色になった!」

その空の異変を見た大規模な会場からは次々と驚愕の声が上がった。

「まだ終わらない!もう一つの色が現れた!」

その叫びが消えた直後、雷雲は再び激しく渦巻き始めた。

その中で一筋の赤い光が静かに広がり、灼熱の視線を浴びながら瞬く間に他の二色と並ぶまでになった。

「三色!三色になった!」

第三の色が完全に現れた時、会場は再び沸き立った。

短時間で三色丹雷を見たという事実が人々の興奮をさらに煽り立てていた。

高台の丹塔長老たちの表情は険しかった。

もし慕骨老人も三色丹雷ならまだ挽回の可能性があると彼らは考えていた。

「次から次へと色が現れる…」

突然、会場に驚愕の叫びが響き渡った。

第三の色が安定した直後、雷雲の中に金色の輝きが隠された太陽のように静かに広がり始めたのだ。

「四色!四色丹雷!」

この最終局面は丹会史上初めての光景だった。

高台では長老たちの顔色が白くなり、互いに視線を合わせるしかなかった。

「冷静だ!」

隣にいた黒衣の老人が玄空子の肩を叩きながら低く言った。

「この件が終わったら必ずその野郎を粉々にやっつける!」



「あなたが手を出すなら、それは丹塔と魂殿の戦いを引き起こす大規模な争いになるでしょう。

魂殿の人間は非常に強力で、かつて我々三人が連携しても相手にはならなかった存在です。

戦闘となれば、丹塔に不利になりますよ」

一旁的美しい婦人が重々しい表情で述べた。

玄空子の身体がわずかに震え、目から溢れるように恐ろしい怒りの炎を放ちながら「まずは様子を見よう。

奇跡が起きるかもしれない…」とつぶやいた。

美しい婦人はため息をつきながらも、この出来事はほぼ決定的事実だと悟っていた。

「四色の電雷(よんしょくでんらい)が青華老怪(しょうかろうかい)と蕭炎(しょうえん)の三色丹雷(さんしょくだんらい)を確実に抑えつけている」

石台の上で、慕骨老人(ぼこつおじい)は空高く停止した四色の電雷を見つめながらようやっと心を落ち着かせ「ハハ!」

「玄空子、あなたもご覧になったでしょう。

老夫が言った通り、この丹会(たんかい)の優勝者として魂殿(こんてん)の手に収まるのは必然だ!」

その狂笑は天地を震わせるほど響き渡った。

「魂殿? あの人物はまさか魂殿の人間なのか…。

丹塔の最高の栄誉が、水火のごとく対立する魂殿に奪われるとは…残念だ…」

「今回のことで丹塔は魂殿にズタズタにやられてしまった。

この出来事以降、煉薬師(れんやくし)たちが丹塔の地位を疑うようになるかもしれない」

石台周辺で囁かれる声を聞きつけた多くの丹塔の煉薬師は顔色を変えたが、その場では何も言えず胸に溜め込んだ怒りだけが渦巻く。

曹颖(そういん)と丹晨(たんちん)も慕骨老人を見つめる目を鋭くしていた。

彼ら同様、慕骨老人の行動は自身の顔にも泥を塗られたような屈辱だった。

しかし怒りだけではどうしようもない。

空高く轟く四色の電雷の下で、慕骨老人は余裕を持って丹塔の名誉を踏みにじっていた。

その暴怒の最中、曹颖の視線が別の石台へと向かった。

そこには蕭炎(しょうえん)がいる。

彼の顔には明らかに迷いの色があった。

その光景を見て曹颖は心臓が一拍子跳ねた。

突然湧き上がった細かな希望を抑え切れず「萧炎、男なら完全に出るんだ!」

その突然の喝破(かっぱ)は空気を切り裂くように響き渡り、無数の視線が削瘦した青年へと集まった。

蕭炎も驚いて遠方に目覚めた頬を赤らめた曹颖を見つめ「ハハッ、完全に出る? その程度の小僧にか。

薬塵(やくじん)老混蛋さえいなければ、老夫は彼を眼中にも入れない」

慕骨老人も驚きを隠せずに「ハハッ」と冷笑した。

その笑い声が消えた直後、慕骨老人の心臓が一拍子跳ねた。

蕭炎を見やると、彼の顔は完全に険悪な表情になっていた。

「お前にはまだ老師(ろうしょ)が出る資格はない」

冷たい言葉と共に蕭炎が一歩前に進み、手を光柱の中に突き出した。

彼はついに決断したのだ。

「くっ! 本当に強すぎるぜ…」

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