闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1477話 恩知らず

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「蕭炎兄、この薬万帰は四段初期の斗聖強者で非常に強く、対処するのは容易ではありません」

その言葉を聞いた一旁の薰(くん)が優しく口を開いた。

「私は心得ている」

萧炎が微笑みながら答えた。

四段初期の斗聖という実力は確かに彼にとって厄介だが、もし浄蓮妖火を得て融合できれば、この薬万帰を滅ぼすのも一瞬のことだ。

薰(くん)は黙り込んだ。

彼女は蕭炎が冷静であることを知っていた。

無謀なことは決してしない人物だ。

空に現れた薬万帰の三人組は多くの注目を集めた。

薬族は古来より珍しい遠古種族で、その族人十中七八が薬師であり、個々も調合の才能を備えていた。

そのため彼らの空間では薬を調合する風潮が広がっていた。

もし彼らが中州に頻繁に出れば、丹塔の名は大きく脅かされるだろう。

実際、ある意味で薬族の方が伝統を完璧に守り続けている。

丹塔のような半公開性を持つ組織とは違い、どの面でも見劣りしない。

しかし薬族の規律は厳しい。

その術を習得するのは一族のみ。

外人がそれを学べば殺されるという。

この制約が彼らの発展を阻んでいるが、遠古種族としてのプライドもまた事実だ。

空に現れた薬万帰三人組は周囲を見回し、やがて魂殿主(こんでんぬす)の三人組に視線を向けた。

「古族の人も来たのか……」

その目が薰(くん)たちに移り、ついに薬老と対面した。

「藥塵(くすじみ)、ふむ、あの棄人(きにん)が斗聖の域に達しているとは驚きだな」

薬万帰は眉をひそめながら笑った。

「貴方のおかげで老躯も生き延びているよ」

藥塵の目は険しかった。

その陰険な表情を見た薬万帰は平然と笑い返す。

一星斗聖とはいえ、彼の前に比べれば些末だ。

「あの棄人藥塵か……当時は一族に帰還する機会を断り続けたという話だが、どうやら無知だったようだな」

その男が薄い唇を歪めて笑った。

薬老がかつて一族に戻ることを拒んだことは族内で広まっていた。

彼は当時冷笑したが、今や嘲讽の言葉を投げつけた。



ふふ、外をぶらついて名前が知れ渡ったからか、つい自分に酔いしれてるんだろうね。

やまんかいが軽く笑った。

その声はゆっくりと流れるように響き、最も煩わしいものだった。

周囲の空気が一瞬不協和音を奏でたのは、それを察知した強者たちの視線が次々と集まったからだ。

しかし誰も口を開かなかった。

薬族は遠古種族であるし、通常の強者が手を出すわけにはいかない。

多くの者は見物人としての態度で、ちょうど空間移動の最適なタイミングではないこともあって、この騒ぎを楽しんでいた。

その二人が笑い交わす声を聞いた瞬間、やおとしの体がわずかに震えた。

普段は冷静であるはずの彼だが、かつて薬族から追放されたという傷跡が、今や揺さぶられた。

特にその触れたのは、当時自分を一族から追い出した張本人だった。

「長年の修練で霊魂の境界はいまだに天境後期に達していない。

この程度の才能なら凡庸だ。

彼が以前自分で帰還を放棄したなら、今や一族からはその名も呼ばない方がいい」

やてんが肩をすくめると、不機嫌そうに続けた。

やまんかいは笑ったあと頷いた。

「長年の修練で霊魂の境界は天境後期に留まる。

薬族の若手第一人者という称号も凡庸だ」

しょうえんがやおとの肩を軽く叩き、やてんを見つめるように振り返った。

その顔には笑みが浮かんでいた。

突然の割り込みに驚いて、やてんとやまんかいは一瞬硬直した。

すぐに視線をしょうえんに戻すと、やてんはしょうえんを見詰めた。

「お前は一体何者だ? 俺の前に指図する資格があるのか?」

やてんがしょうえんに鋭い目つきで見つめると、その顔には冷たい弧線が浮かんだ。

炎の弟子と呼ばれる者だと、しょうえんは笑みを浮かべながら会釈した。

「ああ? お前こそ丹塔の丹会チャンピオン、しょうえんというのか?」

やてんの顔にさらに深い弧線が刻まれた。

彼はしょうえんを見下すように凝視し、淡々と言った。

「所謂丹会なんて、凡庸たちの争いだ。

我が薬族では三つ言える。

凡庸……」

「我が一族の中での地位を考えれば、薬塵さえもお前がそのような態度を取る資格はない。

我慢できなかったなら、言ってやったことを償わせよう」

やてんの最後の一言と共に、彼の美しい顔に冷たい色が広がり、足を前に踏み出した瞬間、驚異的なほどの膨大な霊魂力が爆発的に放出された。

それは万丈の巨浪のように押し寄せる恐怖の威圧で、しょうえんに向かって猛スピードで襲いかかった。

「今日は薬塵の代わりにその弟子を厳しく教えるんだ」

その轟音と共に迫る霊魂の巨浪を見つめながら、しょうえんはゆっくりと首を横に振った。

その笑みが一瞬消えたとき、彼は多くの視線を集める中で、掌を開き虚空を掴むようにした。

「バキッ!」



この手のひらは、一筋の斗気の波動も感じさせないが、その掌を握られた瞬間、巨大な霊魂の波紋がたちまち崩壊した。

驚愕の視線の中で、その掌から放たれた圧倒的な霊魂の力が消滅する。

「一星の斗聖の実力、天境後期の霊魂も、私の師を教える資格があるとは無知にも程がある!」

掌で簡単に霊魂の波紋を粉砕した蕭炎は、冷ややかな笑みを浮かべた。

その足が動き出すと同時に拳を握り、驚愕の表情を見せる薬天に向かって一撃を放った。

「ドン!」

蕭炎の一撃で空中に数百丈にも及ぶ霊魂の拳印が形成され、その表面には不思議な結晶層が覆っていた。

その瞬間、圧倒的な霊魂の威圧感が四方八方に広がり始めた。

「天境大円満!」

その強烈な霊魂の圧力を感じ取った人々は驚愕の声を上げた。

その痩せた身体からは想像できないほど、この若者は天境大円満という極限の領域に達していたのだ。

「どうして?!」

薬天と薬万帰、そして薬霊の三人の顔色が一変した。

彼らはまだ天境大円満には到達できていないのに、この若者がその域にまで達していることに絶望を感じていた。

霊魂の拳印は驚異的な速度で薬天の前に迫り、その脳髄を直撃する勢いで襲いかかった。

その一撃が当たれば、薬天の霊魂は重大な損傷を受けるはずだった。

「小僧め!」

薬万帰は即座に薬天を引き摺りながら後方に投げだし、四星斗聖の力で拳印を迎え撃った。

その衝突が響くと同時に、薬万帰は僅か一歩後退した。

「万归長老!この男を殺せ!」

薬天の顔色が青白くなりながら、怒りの声を上げた。

彼は自分が蕭炎に一撃も耐えられないことに絶望を感じていた。

その場に集まった人々の視線は刃のように切り立っており、彼の怒りはさらに増幅された。

「チィ!」

薬天の怒吼が響くと同時に空間が歪み、無数の霊魂粒子が凝縮して新たな姿を現した。

その容貌は明らかに蕭炎そのものだった。

「霊魂分身?!」

薬天の瞳孔が収縮し、体中の斗気は反射的に暴発しようとしたが、次の瞬間にはその手元で冷たい掌が伸びていた。

その掌からは清々しい笑みと共に、鋭い掌撃音が響き渡った。

「この程度のものなど、私の師に喧嘩を売る資格はない。

一掴みはお見舞いだ」

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