【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

文字の大きさ
43 / 123

大神官の記憶2

しおりを挟む
「まさかそういう理由で神聖契約を行うとは思いませんでした」

 結婚しても互いが信用できない故の神聖契約など、想像できるものではありません。

「陛下も婚姻の際に行っているのでしょうか。王妃様はこの国の伯爵家の令嬢ですし、陛下がお茶会で見初められての婚姻だったと聞いていますが」
「はい。これは王家の婚姻の決まり事です。他国から嫁いできたから、国内の貴族の令嬢だからという差はありません。違いがあるとすれば、神聖契約を破った時の代償を決めるのは陛下であるというだけです」
「互いを害さないという契約を行って、それを破った場合の代償は当事者である陛下が契約の時に決めるのですか」
「そうです」

 思っていたよりもイオン様は詳しく内容を教えて下さいます。
 王妃様から不興を買い王都の神殿から、この地に流れることになった件で思うところがあるのでしょうか。
 それとも私がまだフィリップ殿下の婚約者だと思っているから、話をして下さるのでしょうか。
 真意が判断できないまま、私はどうやって話を聞こうかと考えていました。

「婚姻の際に神聖契約を行うのは理解できました。では、神聖契約を婚姻時に行った者だけは相手を代償として神聖契約を行えるのですね」
「そうですね。神聖契約の際に王妃様に教えられるのはその話だけです」
「だけと言うのは、それ以外にも出来るということでしょうか」
「ええ。出来ます。ですが、お嬢様は一体何をお知りになりたいのですか? 婚約の際に神聖契約を行っていないのであれば、婚姻の儀式の際に神聖契約を神殿は行わない筈です。今の王都の神殿の大神官に大神官たる埃があればですが」

 イオン様は、おばあ様が話していた様に王家をよく思っていないと同じく王都の大神官様についても思うところがあるようです。
 大神官としての誇りがイオン様にあるのなら、私は素直に話をした方がいいのかもしれません。

「イオン様にはまだ情報が来ていないのかもしれませんが、私はすでにフィリップ殿下の婚約者ではありません」
「フィリップ殿下から婚約を破棄したのですか? 王妃様がそれを許したというのですか?」

 この驚きの表情は、イオン様が王妃様の本心をご存じだという証でしょうか。
 これを信じていいのか、少し不安がありながらも信じなければ先に進めないのです。
 ですから、私は賭けに出ようと決心しました。

「いいえ。王妃様は許してはいないと思います。フィリップ殿下は運命の相手を見つけたそうです。私の前にその相手を連れていらっしゃったので、私は父が唯一陛下から頂いた『不義不貞があった場合のみ婚約破棄を願い出られる』権利を使い婚約破棄を行いました」
「なんとまあ。フィリップ殿下も愚かなことを」

 イオン様は思わず本心を漏らしてしまったのでしょうか。
 でも、これでイオン様がフィリップ殿下に敬意を持っていないらしいというのは分かりました。
 まだ、完全に信用していいわけではありませんが。

「イオン様、私は祖母からイオン様がこの地にいらした理由を教えられています。フィリップ殿下は、その」
「陛下のお子ではありません。私はそれを王妃様だけでなく王太后様、陛下、王太子殿下にお伝えしました」
「それは確かなのでしょうか」
「ええ。大神官の鑑定は魔力系統が分かるのです。ご存じですか?」
「祖母から、少し聞いていますが。詳しくは存じません」

 ケネスの方を見ると小さく首を横に振っています。
 大神官様がどんな力を持っているか、神殿の関係者でもない限り詳しく知る機会もないので当然です。

「そうですか。通常であれば王家に生まれたお子は侍医の鑑定により、魔法の適正で簡易的に魔力系統を判断しますが、それでフィリップ殿下は魔力系統に王家の血が入っていれば持っていて当然の光魔法の適性を持っていませんでした。王族から過去に臣籍降下し血筋に王家の血を持つ家の者でも、曾孫、玄孫程度位までは確実に光魔法は適性として出てくるのが普通です。適性を持っていても使えない者もいますが、フィリップ殿下はそうではなく適性そのものがないのです。ですから陛下のお子ではないのではないかと疑いが出たのです」
「そうでしたか」
「あの日、私は王太后様の宮に呼ばれ密かにフィリップ殿下を鑑定するよう命を受けました」

 遠くを見るような目で、イオン様は当時の事を話し始めたのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...