【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

心も体も痛い

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「千晴様、汗をお拭き致しますね」

 痛くて歯を食い縛っていた。
 麻酔が全然効かなくて、先生も処置が出来ずにいる。

「ありがと……」

 メイドさんが額の汗をハンカチで拭いてくれようとして「千晴様お熱が」と声をあげた。

「熱?」

 部屋に戻ってお医者さんが来るまでの時間は僅かだった。
 お医者さんが来て、すぐに包帯をほどいて傷の確認をされて、それだけで痛かったのに麻酔を打たれて処置を始められて痛くて泣き叫んでしまった。

「確かに熱いな、体温計を」
「はい。千晴様失礼致しますね」

 メイドさんが体温計を僕の脇に入れてくれる。
 麻酔が効いていないとお医者さんが呟いて、追加の麻酔を打たれたのが十分程前、涙を流しすぎて頭がぼぉっとしてきたのだと思っていたけれど、どうやら熱が出始めているみたいだ。

「先生、手が痛いよ」
「麻酔が効いてた筈で、抜歯を進めてしまったせいです。申し訳ない」
「麻酔まだ駄目?」

 意識がぐにゃぐにゃしてるのに、感覚が何故か鋭くて触られるとビクリと体が反応してしまう。

「感覚は無くなっていない様ですな。設備がしっかりしていない状態でこれ以上の麻酔は打てませんし、困りましたな」
「千晴様、体温計を」

 ピピピという電子音が鳴って、メイドさんが体温計をとりだして「三十八度」と呟いた。

「冷やす準備をして参ります」
「やだぁ」

 離れてい行こうとするメイドさんのエプロンのリボンを僕は必死に掴む。

「千晴様、すぐに戻って参りますから」
「駄目なの、ここにいて」

 雅がいないからなのか、いつも近くにいるメイドさんが側からいなくなるのが嫌だった。

「麻酔が中途半端に効いていて、精神が安定していないのかもしれませんね。冷やすのは後でいいので、手を握ってあげてください」
「千晴様、先程怖い思いをされたから不安なのですね」

 僕の前にしゃがみこみ、僕の手を握ってくれる。

「お側にいますから、大丈夫ですよ」
「ごめ、ごめんなさい」

 なんだか思考が子供になってきている気がする。
 手が痛いのに、凄く痛いのに、頭はぼぉっとしていて、感覚もぼやけていて、それなのに不安が抜けないのが気持ち悪いんだ。
 もう安全な場所にいるのに、怖くてたまらない。
 本当なら気を失いたい位に体が辛いのに、寝たら駄目だという意識が働いて、寝ちゃ駄目だと心の奥底で叫び続けている。

「謝らないで下さい千晴様、もうすぐご主人様も戻っていらっしゃいます」
「うん、ごめんね」

 信用してないわけじゃないのに、体が緊張している。

「深呼吸してみましょうか、さあ、息をすって、はいてーー」
「すううぅっ。はぁぁーー」
「はい、もう一度、息をすってーーーっ。はいてーーーー」

 先生に言われながら、深呼吸を繰り返す。
 何度も何度も繰り返していたら、痛みが和らいできたのを感じた。

「せんせぇ、痛くなくなってきたかもぉ」

 なんだか、口もよく回らなくなってきた。
 部分麻酔だから、感覚が鈍くなるのは指だけの筈なのに。

「それは良かった。やはり体が緊張されていたのですな」
「きんちょお?」
「ええ、さあ、もう一度深呼吸してみましょうか」
「せんせぇ、傷よくなるぅ?」
「……ええ、良くなりますよ。さぁ、息をすってーーーっ」

 深呼吸を繰り返して、やっと効いてきた麻酔。
 先生が丁寧に傷口の処置をしてくれて、包帯を巻かれた後安心した僕は、そこで意識を手放した。

 さっき気を失えば楽だったのに。
 自分自身に文句を言いながら、僕は眠りの中に落ちていくのだった。
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