【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

目覚めたら

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「知らない天井だ」

 前世でちょっと言ってみたかった台詞だな、なんて内心笑いながら、声に出そうとして出てないって気がついた。
 あれ? 声かすれてる?

「あー? ご、ごほっごほっ」

 口の中がからからに乾いていて、なのに声を出そうと頑張ったらこうなっちゃうよね。

「咳?……ハル?」

 仰向けに寝ていたのを横向きに変えて、体を丸めて咳こむけれど、なんでだろ体の向きを変えるの凄く大変だったんだけど。

「大丈夫か、水飲むか?」

 タイミング良く部屋に来てくれたのか、雅が側に来てくれて背中を撫でながら、横向きのまま小さなガラスのティーポット?みたいなもので水を飲ませてくれる。

「あ、ありがと」
「ずっと寝ていたんだ、口が乾いてたんだろ。無理に話さなくていい」
「うん」

 けほけほと軽い咳を数回して、また水を飲ませて貰って漸く落ち着いて、体を起こそうとして起こせなかった。
 え、どういうこと?

「体を起こしたいのか?」
「う、うん」
「じゃあ、仰向けに寝た方がいいかな」
「え?」

 戸惑っているうちに雅にころりと体勢を変えられて「動かすぞ」という声に軽いパニックを起こしていたら、ベッドがウィィーンという音と共に動き出した。

「え、これ」

 リクライニング?あれ、僕もしかして病院かどこかにいるの?
 寮の雅の部屋じゃないのは、天井で違うって別ったけど。
 でも、ここ豪華すぎない?

「苦しくないか?クッション背中に当てようか」

 てきぱきと雅は慣れた手付きで僕の背中にクッションを当ててくれた。

「雅、ここどこなの?」
「一度説明してるが覚えてないだろうな、ここは俺の家だよ」
「雅の家?」

 寮でも病院でも無く?
 疑問が顔に出ていたんだろう、雅はベッドの縁に僕の肩を抱きながら座ると、額にチュッとキスしてくれた。

「ちゃんと目が覚めて良かった。ハル、どこまで覚えている?」
「どこまでって」

 なんでそんな聞き方するんだろ?
 あれ、ちゃんと目が覚めてって言った?

「雅、今日って何日?」
「春休みに入っている、ハルは三週間程寝ていたことに、いやずっと寝ていた訳じゃないから、これは語弊があるか」
「起きてた時もあるの?」
「あれを起きていたというなら、だが。覚えていないだろう?」
「全く。僕の最後の記憶は、ええと。寮の部屋に戻ってお医者さんに傷を診て貰って……」

 それが最後? あれ、そうだっけ?

「そうか」
「僕、どうしたの?」
「手の傷はもう塞がっている。抜糸も終わっているから大丈夫だ。動かさなかったのが幸いしたらしい」
「そうなの?良かったー」
「諸々のショックで高熱を出して、そのせいで最初意識が戻らなかったんだ。精神的な疲労だな」
「精神的な疲労、そっか」

 確かに保健室での出来事は、精神的な疲労で高熱を出してもおかしくないかもしれない。

「寮では医療設備が整ってないから、屋敷に運んだんだ」
「え、じゃあ雅も学校お休みしちゃったの?」
「俺だけじゃなく、学園があの後休校になったんだ」
「え」

 雅の話を纏めると、木村君が持っていた腕輪には幻覚というか悪い意識を増幅させる催眠術的な効果がある薬を体内に注入出来る様な細工がされていて、木村君はそれを相手に飲ませることで相手の思考を操っていたのだそうだ。
 学園内のどの辺りまで影響があるか分からないから、だから休校にして生徒は自宅待機となったそうだ。

「木村君とあの人は?」
「保健医は某公爵の公にされていない庶子で、父親が領地に閉じ込めると誓った。そのうち病気になるだろうな」
「そ、そうなんだ。木村君は?」

 病気になるということは、つまりそういうことだ。
さすがに驚くけど、でも僕には何も言えないし擁護なんて絶対にしたくない。

「あれは」
「あれは?」
「谷崎家に引き取られた」
「引き取られた?」
「大林を刺そうとしたから、向こうで処罰されると決まったんだ」

 ぐらりと視界が歪んだ気がした。
 いきなり頭の中に入ってきた情報量の多さに、僕の気持ちは既についていけなくなって来ている気がする。

「話し止めるか?」
「ううん、聞かない方が気になるから、続けて欲しい」

 後回しにしたら駄目だと分かるから、辛くても聞くしかない。

「なんで大林君を?」
「俺もその場には居なかったから、話しに聞いただけなんだが」

 雅の話しによれば、木村君的には大林君はここにいてはいけなかったキャラらしい。
 だから攻略が上手くいかなかった。だから邪魔物は消えろと、木村君に刺されそうになった。ということらしい。

「どうして刃物なんて」
「もともと持っていたらしいんだ、その」

 雅が口ごもる。
 そうか、その前後を考えたら簡単に答えが分かる。

「僕に使わせるつもりだった?」

 無言の雅の、その顔が答えだった。
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