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本編
それでも僕は……
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「大林君は無事なんだよね」
自分が使うために用意されていたナイフ。
それを使う理由まで思い出した瞬間保険医に拘束された感触が甦ってきて、嫌悪感で吐きそうになりながら雅に尋ねると「ああ」と返事をされた。
「大林は無事だ。刺されそうになったらしいけれど、傷を負っていたのはあっちの方だから、心配する必要はない」
「良かった。舞も無事?」
「佐々木の小姓に何かあれば、佐々木があいつの息の根を文字通り止めているだろうな」
疲れたような雅の呟きに、何かあったのかもと思うけれど僕には言わないなら聞かないでおこうと思う。
「白井さんは」
「あれは家に戻した」
真顔になった雅は、それしか言わなかった。
家に戻したというのは、自分の意志で戻ったんじゃないってことだろうか。
だとしたら、それは僕のせいなのかもしれない?
「新学期始まったら、普通に通えるよね」
白井さんが退学して家に戻されたのなら、それは僕が雅の小姓になったせいなのかも知れない。
僕が木村君に狙われたから、他の人達が木村君に酷い目にあわされてしまったのかもしれない。
そう思いながら、それでも違う。新学期が始まったら今まで通り平和に学校生活が送れるんだよと雅に言って欲しくて、そう尋ねる。
「ハルは学園に戻りたい?」
だけど、雅は僕にこう聞いたんだ。
「僕?」
「ハルが学園に戻るのが不安だ。ハルはこの屋敷に住んで学園は退学するんじゃ駄目か?俺としては正直そうして欲しいんだ」
「僕だけ退学するの?」
そんな風に言われると思っていなかった僕は、呆然と雅の顔を見つめてでも「そうだね」とは頷けなかった。
だって、学園を辞めるなんて思って無かったから。
「俺はここから通学する。全寮制だが、今回の不手際は学園に非があるからその位は問題ない」
そうじゃない、聞きたいのはそういう事じゃ無くて、どうして雅だけ学園に通うの。
どうして? 僕は通っちゃ駄目なの?
「やだよ。嫌だよ、僕は雅と一緒に学園に通う、通いたい」
「心配なんだよ」
「もう木村君はいないんでしょ? なら大丈夫だよ」
「でも、あんな風に襲われたら? ショップの店員だってハルを狙ってたんだよ。保険医だって、そうだ」
暗い顔で雅が首を振る。
「俺はハルを守れなかった。守っているつもりでいたのに、ハルが消えたと言われて俺がどんな気持ちだったか分かるか」
「絶対に気を付ける。一人にならないよ。それでも駄目なの?」
雅に縋り付いて、雅の胸に自分の頬を擦りつけて、やっと自分が震えているって気がついた。
学園に戻りたいけれど、でも怖い。
雅が守ってくれていたのは勿論分っていた。メイドさんだって側にいて、大林君だって舞だって僕の側にいてくれた。
でも、僕は不注意で白井さんに一人で会ってしまい、簡単に攫われたんだ。
それはすべて僕のせい。でも、その不注意で僕は木村君に閉じ込められて、保険医に襲われそうになった。
体を蹴られて、縫ったばかりの傷を踏まれて、そして。
「僕が頼り無いから、だから駄目なの」
「そうじゃない。俺が駄目なんだ。ハルがあいつに羽交い締めにされていたあの光景が忘れられないんだ。あと少しあの場所に、ハルの前に行くのが遅れたら。あいつが、白井がドアを開けてくれなかったら。俺は永久にハルを失っていたかもしれないんだ」
「分るけど、そんなの分るけど」
頷くのは簡単だ。
雅がそれで納得するなら、僕はこの屋敷にいて雅が許すまで永久に外に出ない。
そんなの、ほんの一年前まではそういう暮らしをしていたんだから、僕には苦痛でもなんでもない。
でも、本当に苦痛じゃ無い?
「雅、僕だって外に出たいよ。雅と一緒に外に行きたいよ」
お父様が守ってくれていた箱庭。
そこで暮らす僕。
学園に通うまで、小さな世界が僕のすべてだった。
「雅、僕から外を奪わないで。雅と一緒に色んな体験をしたい。そんな事を望むのは僕には過ぎた夢なのかな」
だって雅と一緒にいたい。
学園で、雅と一緒に授業を受けて、試験を受けて、色んな事を雅と体験したいんだ。
「俺が不安でも、それを望むんだな」
「雅と一緒に学園に通いたいんだ。そして卒業して雅の元に嫁ぎたいよ」
白井さんにすら認められなかった僕だけど、それでも僕は雅が好きだから。
小姓として学園生活を雅と過ごして、そして卒業したいんだ。
「お願い雅。僕は退学なんてしたくないよ」
雅に縋り付きながら、僕は必死にお願いしたんだ。
自分が使うために用意されていたナイフ。
それを使う理由まで思い出した瞬間保険医に拘束された感触が甦ってきて、嫌悪感で吐きそうになりながら雅に尋ねると「ああ」と返事をされた。
「大林は無事だ。刺されそうになったらしいけれど、傷を負っていたのはあっちの方だから、心配する必要はない」
「良かった。舞も無事?」
「佐々木の小姓に何かあれば、佐々木があいつの息の根を文字通り止めているだろうな」
疲れたような雅の呟きに、何かあったのかもと思うけれど僕には言わないなら聞かないでおこうと思う。
「白井さんは」
「あれは家に戻した」
真顔になった雅は、それしか言わなかった。
家に戻したというのは、自分の意志で戻ったんじゃないってことだろうか。
だとしたら、それは僕のせいなのかもしれない?
「新学期始まったら、普通に通えるよね」
白井さんが退学して家に戻されたのなら、それは僕が雅の小姓になったせいなのかも知れない。
僕が木村君に狙われたから、他の人達が木村君に酷い目にあわされてしまったのかもしれない。
そう思いながら、それでも違う。新学期が始まったら今まで通り平和に学校生活が送れるんだよと雅に言って欲しくて、そう尋ねる。
「ハルは学園に戻りたい?」
だけど、雅は僕にこう聞いたんだ。
「僕?」
「ハルが学園に戻るのが不安だ。ハルはこの屋敷に住んで学園は退学するんじゃ駄目か?俺としては正直そうして欲しいんだ」
「僕だけ退学するの?」
そんな風に言われると思っていなかった僕は、呆然と雅の顔を見つめてでも「そうだね」とは頷けなかった。
だって、学園を辞めるなんて思って無かったから。
「俺はここから通学する。全寮制だが、今回の不手際は学園に非があるからその位は問題ない」
そうじゃない、聞きたいのはそういう事じゃ無くて、どうして雅だけ学園に通うの。
どうして? 僕は通っちゃ駄目なの?
「やだよ。嫌だよ、僕は雅と一緒に学園に通う、通いたい」
「心配なんだよ」
「もう木村君はいないんでしょ? なら大丈夫だよ」
「でも、あんな風に襲われたら? ショップの店員だってハルを狙ってたんだよ。保険医だって、そうだ」
暗い顔で雅が首を振る。
「俺はハルを守れなかった。守っているつもりでいたのに、ハルが消えたと言われて俺がどんな気持ちだったか分かるか」
「絶対に気を付ける。一人にならないよ。それでも駄目なの?」
雅に縋り付いて、雅の胸に自分の頬を擦りつけて、やっと自分が震えているって気がついた。
学園に戻りたいけれど、でも怖い。
雅が守ってくれていたのは勿論分っていた。メイドさんだって側にいて、大林君だって舞だって僕の側にいてくれた。
でも、僕は不注意で白井さんに一人で会ってしまい、簡単に攫われたんだ。
それはすべて僕のせい。でも、その不注意で僕は木村君に閉じ込められて、保険医に襲われそうになった。
体を蹴られて、縫ったばかりの傷を踏まれて、そして。
「僕が頼り無いから、だから駄目なの」
「そうじゃない。俺が駄目なんだ。ハルがあいつに羽交い締めにされていたあの光景が忘れられないんだ。あと少しあの場所に、ハルの前に行くのが遅れたら。あいつが、白井がドアを開けてくれなかったら。俺は永久にハルを失っていたかもしれないんだ」
「分るけど、そんなの分るけど」
頷くのは簡単だ。
雅がそれで納得するなら、僕はこの屋敷にいて雅が許すまで永久に外に出ない。
そんなの、ほんの一年前まではそういう暮らしをしていたんだから、僕には苦痛でもなんでもない。
でも、本当に苦痛じゃ無い?
「雅、僕だって外に出たいよ。雅と一緒に外に行きたいよ」
お父様が守ってくれていた箱庭。
そこで暮らす僕。
学園に通うまで、小さな世界が僕のすべてだった。
「雅、僕から外を奪わないで。雅と一緒に色んな体験をしたい。そんな事を望むのは僕には過ぎた夢なのかな」
だって雅と一緒にいたい。
学園で、雅と一緒に授業を受けて、試験を受けて、色んな事を雅と体験したいんだ。
「俺が不安でも、それを望むんだな」
「雅と一緒に学園に通いたいんだ。そして卒業して雅の元に嫁ぎたいよ」
白井さんにすら認められなかった僕だけど、それでも僕は雅が好きだから。
小姓として学園生活を雅と過ごして、そして卒業したいんだ。
「お願い雅。僕は退学なんてしたくないよ」
雅に縋り付きながら、僕は必死にお願いしたんだ。
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