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本編
そして僕達は
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「それではこれで正妻の契約を締結いたします」
僕が目覚めてから、十日程過ぎたある日。
大安吉日、そんなのが人生で気になるなんて思った事が無かった。
僕は緊張して、雅が用意してくれた白無垢といっても良さそうな着物を着て雅の隣に座っていた。
「千晴」
「父様、そんなに不安そうな顔しないで、僕は凄く幸せなんだよ」
白い絹の着物地には銀糸で美しい刺繍が全体に刺されていて凄く重い。
同じ着物地で仕立てた羽織袴を纏った雅は無茶苦茶格好良い。
「そうか、千晴」
「はい」
これは所謂婚約式なんだけれど、雅は男の僕を正妻にするという誓いの契約をしたために大がかりな契約式となった。
お父様とお母様、それに兄様。僕の為に遠くの領地から来てくれた三人は、僕が白い着物を着て部屋の中に入ってくると涙を浮かべて祝ってくれた。
「千晴『旦那様はお前を正妻として望んでくれた。千晴はこれから過去を受け入れて幸せになる』千晴。幸せになるんだよ」
カチリ。
なんだろう、これ、なんだろう。
記憶が蘇る。
お母様と同じくらい大好きだったメイド。
彼女と過ごす時間が好きだった。一緒に食べるおやつ、眠るまで読んでくれる絵本。
一緒に過ごす陽だまり、濃い緑色の芝生の上で僕は大好きなブランコにのって、笑う。
「千晴『旦那様はお前を正妻として望んでくれた。千晴はこれから過去を受け入れて幸せになる』分るかい? 『旦那様はお前を正妻として幸せにしてくれる』だから大丈夫だ」
大好きなメイドは、家族と同じくらい大切な人だった。
なのに、彼女は僕を裏切って、そして。
暗い部屋に僕を連れて行って、僕は眠らされた。
気がつくと、僕は裸で、僕は家庭教師のお兄さんと、大好きなメイドに見下ろされていたんだ。
「お父様。僕、僕は」
わけが分からず、泣き叫ぶ僕。
気持ち悪い、怖い、気持ち悪い。
混乱する僕を、お父様が抱きしめて。
泣き叫ぶ僕を、お母様が抱きしめて。
そして僕の世界のすべては箱庭の中になったんだ。
「雅」
「ハル。『大切な正妻の千晴を夫として俺は一生大切にすると誓うよ』幸せにする。愛している。生涯、死が二人を分かつとも、それでも俺はハルを愛すると誓う」
「うん僕も、『僕の大好きな旦那様、ずっと一緒にいてくれますか?』雅、大好き」
あれ、今のゲームの台詞? 違うかな。でも、そうだと思う。
「ハル『お前を一生愛すると誓うよ』愛してる」
雅もゲームの台詞を言ってくれた気がする。
これが本当のハッピーエンドなのかな。
もしかして、これは主人公のバッドエンドの世界なのかな。
「雅、千晴君おめでとう」
「お義父様ありがとうございます」
「雅様、どうか千晴をよろしくお願いします。どうか、どうか」
お父様が何度も何度も雅に頭を下げている。
お父様の後ろには、呆れた様な顔のお母様とお兄様。
「お父様」
「千晴。辛くなったらいつでも帰っておいで、父様は一生千晴を守っていくと誓ったのだから、遠慮せずに帰っておいで」
「お義父さん、ハルは、千晴はもう俺の妻ですから。まだ正式婚姻に至っていませんが、でもこの契約は絶対です。もう千晴以外俺は妻にしませんから」
「雅」
白い羽織袴は雅に似合いすぎて、僕はうっとりと雅に見とれてしまう。
結婚式は、この刺繍に金糸の刺繍が加わって、僕はこの着物の上に金糸の総刺繍の打ち掛けを羽織るらしい。学園を卒業するまでにその打ち掛けは出来上がるんだって、凄いよね。
「よろしくお願いします。私の宝である千晴をどうか、どうか幸せにして下さい」
「はい。絶対にハルを返したりしませんから。不幸にせず常に笑顔でいられるように、愛して愛して愛し抜きます」
雅の誓いは、恥ずかしすぎて僕は顔を真っ赤にしながら俯いた。
まだ正式な結婚じゃなくて、婚約なんだけどなあ。
まるで今日、雅に嫁いだみたいだ。
「雅」
ほわほわと夢の中にいるような気持ち。
僕は、今日雅の正式な婚約者となった。
「ハル、大丈夫か?」
雅は何を心配しているんだろう。
急に思い出した昔の事とか、父様の不安そうな顔とか、なんだかおかしいね。
僕はそれよりも、今日の初夜の方が不安なんだけれど。
上手く出来るのかな。
凄く不安。
「ハル。本当に気持ち悪くないか?」
「うん。大丈夫、凄く緊張してるけど」
その夜、僕は二人きりの部屋で一糸まとわぬ姿で、雅の妻になった。
どうしてか、幼い頃の僕の記憶が頭の中を駆け巡ったけれど、でもそれだけだった。
雅は僕を優しすぎる位に優しく愛してくれて、僕を雅のものにしてくれた。
「雅大好き、僕の旦那様」
「ハル、愛してる」
初夜から三日三晩、僕達は寝室に閉じこもって愛ある時間を過ごした。
恥ずかしかったり嬉しかったり、変なところが筋肉痛になって、恥ずかしいのも嬉しいという不思議な感覚を自覚したりもしたんだ。
「雅、大好き。旦那様」
筋肉痛の体で雅に縋り付くと、旦那様は優しく抱きしめてくれる。
この瞬間がたまらなく好きだ。
「僕の大好きな旦那様、ずっと一緒にいてくれますか?」
そう言えば雅は必ず「お前を一生愛すると誓うよ」と答えてくれる。
その度に僕は例えようもない、幸福な気持ちになるんだ。
僕はゲームのモブでしか無い。
ゲームの主人公である木村君が言っていたゲームの世界と、僕が知っている世界は違う。
だけど僕は雅が好きで、雅だけが大切で、だからこうして雅に愛される毎日がただただ幸せだ。
一生この世界で雅に愛されて生きる。
僕は、モブだけれど、それでも攻略対象者の雅に愛されて生きるんだ。モブとして。
終わり
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
本編完了しました。
ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます。
この後おまけで、没ネタを載せる予定です。
IF話になるので、そういうのが嫌いな方は、申し訳ありません。
僕が目覚めてから、十日程過ぎたある日。
大安吉日、そんなのが人生で気になるなんて思った事が無かった。
僕は緊張して、雅が用意してくれた白無垢といっても良さそうな着物を着て雅の隣に座っていた。
「千晴」
「父様、そんなに不安そうな顔しないで、僕は凄く幸せなんだよ」
白い絹の着物地には銀糸で美しい刺繍が全体に刺されていて凄く重い。
同じ着物地で仕立てた羽織袴を纏った雅は無茶苦茶格好良い。
「そうか、千晴」
「はい」
これは所謂婚約式なんだけれど、雅は男の僕を正妻にするという誓いの契約をしたために大がかりな契約式となった。
お父様とお母様、それに兄様。僕の為に遠くの領地から来てくれた三人は、僕が白い着物を着て部屋の中に入ってくると涙を浮かべて祝ってくれた。
「千晴『旦那様はお前を正妻として望んでくれた。千晴はこれから過去を受け入れて幸せになる』千晴。幸せになるんだよ」
カチリ。
なんだろう、これ、なんだろう。
記憶が蘇る。
お母様と同じくらい大好きだったメイド。
彼女と過ごす時間が好きだった。一緒に食べるおやつ、眠るまで読んでくれる絵本。
一緒に過ごす陽だまり、濃い緑色の芝生の上で僕は大好きなブランコにのって、笑う。
「千晴『旦那様はお前を正妻として望んでくれた。千晴はこれから過去を受け入れて幸せになる』分るかい? 『旦那様はお前を正妻として幸せにしてくれる』だから大丈夫だ」
大好きなメイドは、家族と同じくらい大切な人だった。
なのに、彼女は僕を裏切って、そして。
暗い部屋に僕を連れて行って、僕は眠らされた。
気がつくと、僕は裸で、僕は家庭教師のお兄さんと、大好きなメイドに見下ろされていたんだ。
「お父様。僕、僕は」
わけが分からず、泣き叫ぶ僕。
気持ち悪い、怖い、気持ち悪い。
混乱する僕を、お父様が抱きしめて。
泣き叫ぶ僕を、お母様が抱きしめて。
そして僕の世界のすべては箱庭の中になったんだ。
「雅」
「ハル。『大切な正妻の千晴を夫として俺は一生大切にすると誓うよ』幸せにする。愛している。生涯、死が二人を分かつとも、それでも俺はハルを愛すると誓う」
「うん僕も、『僕の大好きな旦那様、ずっと一緒にいてくれますか?』雅、大好き」
あれ、今のゲームの台詞? 違うかな。でも、そうだと思う。
「ハル『お前を一生愛すると誓うよ』愛してる」
雅もゲームの台詞を言ってくれた気がする。
これが本当のハッピーエンドなのかな。
もしかして、これは主人公のバッドエンドの世界なのかな。
「雅、千晴君おめでとう」
「お義父様ありがとうございます」
「雅様、どうか千晴をよろしくお願いします。どうか、どうか」
お父様が何度も何度も雅に頭を下げている。
お父様の後ろには、呆れた様な顔のお母様とお兄様。
「お父様」
「千晴。辛くなったらいつでも帰っておいで、父様は一生千晴を守っていくと誓ったのだから、遠慮せずに帰っておいで」
「お義父さん、ハルは、千晴はもう俺の妻ですから。まだ正式婚姻に至っていませんが、でもこの契約は絶対です。もう千晴以外俺は妻にしませんから」
「雅」
白い羽織袴は雅に似合いすぎて、僕はうっとりと雅に見とれてしまう。
結婚式は、この刺繍に金糸の刺繍が加わって、僕はこの着物の上に金糸の総刺繍の打ち掛けを羽織るらしい。学園を卒業するまでにその打ち掛けは出来上がるんだって、凄いよね。
「よろしくお願いします。私の宝である千晴をどうか、どうか幸せにして下さい」
「はい。絶対にハルを返したりしませんから。不幸にせず常に笑顔でいられるように、愛して愛して愛し抜きます」
雅の誓いは、恥ずかしすぎて僕は顔を真っ赤にしながら俯いた。
まだ正式な結婚じゃなくて、婚約なんだけどなあ。
まるで今日、雅に嫁いだみたいだ。
「雅」
ほわほわと夢の中にいるような気持ち。
僕は、今日雅の正式な婚約者となった。
「ハル、大丈夫か?」
雅は何を心配しているんだろう。
急に思い出した昔の事とか、父様の不安そうな顔とか、なんだかおかしいね。
僕はそれよりも、今日の初夜の方が不安なんだけれど。
上手く出来るのかな。
凄く不安。
「ハル。本当に気持ち悪くないか?」
「うん。大丈夫、凄く緊張してるけど」
その夜、僕は二人きりの部屋で一糸まとわぬ姿で、雅の妻になった。
どうしてか、幼い頃の僕の記憶が頭の中を駆け巡ったけれど、でもそれだけだった。
雅は僕を優しすぎる位に優しく愛してくれて、僕を雅のものにしてくれた。
「雅大好き、僕の旦那様」
「ハル、愛してる」
初夜から三日三晩、僕達は寝室に閉じこもって愛ある時間を過ごした。
恥ずかしかったり嬉しかったり、変なところが筋肉痛になって、恥ずかしいのも嬉しいという不思議な感覚を自覚したりもしたんだ。
「雅、大好き。旦那様」
筋肉痛の体で雅に縋り付くと、旦那様は優しく抱きしめてくれる。
この瞬間がたまらなく好きだ。
「僕の大好きな旦那様、ずっと一緒にいてくれますか?」
そう言えば雅は必ず「お前を一生愛すると誓うよ」と答えてくれる。
その度に僕は例えようもない、幸福な気持ちになるんだ。
僕はゲームのモブでしか無い。
ゲームの主人公である木村君が言っていたゲームの世界と、僕が知っている世界は違う。
だけど僕は雅が好きで、雅だけが大切で、だからこうして雅に愛される毎日がただただ幸せだ。
一生この世界で雅に愛されて生きる。
僕は、モブだけれど、それでも攻略対象者の雅に愛されて生きるんだ。モブとして。
終わり
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
本編完了しました。
ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます。
この後おまけで、没ネタを載せる予定です。
IF話になるので、そういうのが嫌いな方は、申し訳ありません。
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