神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
58 / 73

試練の時 2 〜フレイ〜

しおりを挟む
天気の良い昼下がり。男3人で立ち話をしていれば、城で働いている侍女や使用人達に少なからず注目を浴びてしまう。

カール隊長とダナン副隊長は独身でそこそこカッコイイので、城で働く者達に人気がある。

そこへ、一際注目を浴びる人物が稽古場の方から歩いて来た。

サラサラと輝く金髪が、陽の光をうけて更に輝きを増している。
周囲からの熱い視線を全く無視して、睫毛が長く魅力的な青い目は真っ直ぐ前だけを向いていた。


「リスター」

私の呼ぶ声に気づき視線をこちらに移すと、表情を変えること無く歩み寄って来る。

「なんですか?」

私の目の前まで来たリスターは、少し私を見下ろしながら言った。

リスターはグングンと背が伸び、今では背を抜かされてしまっている。

14歳でこの身長……私も背は高い部類に入るのだけれど。リスターはもう少し伸びるかもしれない。

声変わりもして、外見はすっかり大人の男の仲間入りをしている私の弟は、2年前、アヤナがいなくなってしまった日から、一切の表情を無くしていた。

アヤナがいた頃の表情豊かなリスターは姿を消し、その面影はどこにも無い。

リスターの見事なまでの無表情は、アヤナが側にいなくなってしまったリスターの哀しみ具合をそのまま物語っていて、見守る私達家族もとても辛かった。

「だから、なんですか?」

ジッと見つめる私に気づいて、リスターが再度言う。

「いや、大きくなったなと思ってね。」

「いつまでも子供扱いしないで下さい。」

用はそれだけですか?と、踵を返そうとするリスターを、私は慌てて止めた。

「もう家に帰るのかい?私も今日は早く終わったから、一緒に帰ろうよ。」

私は城での仕事が忙しく、リスターは騎士団での訓練に明け暮れていたので、最近まともに話した記憶が無いのだ。

たまには兄弟でゆっくり話しがしたい。

そう私が言うと、リスターは少し目を伏せて首を横に振る。

「今日はこれからアヤナの家へ行きます。叔母上が伏せってしまったようなので……。」

「叔母上が?」

昨日、アヤナが帰って来れないと連絡を受けたからだろうか。


幼少期に体の弱かったという叔母上は、アヤナがいなくなるとすっかり気落ちしてしまい、病に伏せる事が多くなった。

それに伴い、屋敷に籠る事が多くなる。

リスターと母上は、そんな叔母上を心配し、よく会いに行っていた。

アヤナ以外誰に対しても関心がないリスターだが、叔父上と叔母上の事は気にかけていて、アヤナがいなくなってからも屋敷を訪れているのだ。

「私も一緒に行くよ。」

私の申し出にリスターが頷く。

カール隊長とダナン副隊長とはここで別れて、リスターと馬車に乗り込んだ。

久しぶりにじっくり見る我が弟の顔は、心なしか疲れて見える。

「昨日は眠れなかったのかい?」

「…………」

「悪かったね。リスターと叔母上には期待させるだけさせといて……。」

「謝らないでください。兄上のせいではないのですから。」

「でも…」

窓の外を見ていたリスターが、私に目を向けて軽く睨み、まだ謝ろうとする私を制した。

リスターは私より背が高い上に毎日鍛えているから体格もしっかりしている。

私もほどほどに鍛えてはいるが、毎日机にかじりついて働いている私とは雲泥の差があるだろう。

そんなリスターに制されてしまえば、大人しく従うしかなかった。

「アヤナを守るために強くなりたい」と、意気込んで騎士団に通い出した幼い頃のリスターを思い出す。

あの頃のリスターはとてもキラキラとしていた。アヤナといつも一緒にいて、笑い合って、本当に幸せそうだったのに。

今でもリスターは騎士になるべく訓練している。まだ成人前で正式に騎士団には入団出来ていないが、幼い頃から共に訓練してきた騎士達には、既に仲間として迎え入れられていた。

今は試練の時だと、表情を無くしても頑張り続けるリスターの心中を思い、私は胸が痛んだ。



そして、ベッドの上で体を起こし、力無く微笑む叔母上に会って、私の胸は更に痛む事になる。

久しぶりに会った叔母上はすっかり痩せてしまい、気力も体力も無いというような状態だった。
叔母上が弱く微笑む度に、変な焦燥感に駆られる。

早くこの状況をなんとかしなければ。
早くしなければ、みんな手遅れになる。


そんな事を考えながら立ち尽くす私の横で、リスターは慣れた手つきで叔母上に水を飲ませたり、背中にクッションを当てがったりしていた。

叔母上のリクエストに応えて、図書室から本を何冊か取りに行くリスターの後に付いて、私も慌てて部屋を出る。

正直、部屋に残っても叔母上と上手く話せる自信が全くない。胸が締めつけられてしまって、ろくに話せないだろうから。



図書室に入り、私はキョロキョロと辺りを見渡した。
うちには書斎に大きな本棚はあっても、ここまでちゃんとした図書室は無い。

叔母上が本好きな為に叔父上が作らせたとか。

何度か屋敷には訪れていたけど、この図書室に入るのは初めてだ。

リスターはというと、勝手知ったるように本棚間を歩み進め、叔母上から頼まれた本を探している。

リスターはアヤナに字を教える為に、よく図書室を利用していたらしい。


「よく場所を把握しているね。」

「アヤナといつも来てましたから。アヤナと一緒じゃないのは今日が初めてです。」

私を見る事なく本を探していたリスターの足が止まった。
本棚にある手の先には絵本の背表紙が見える。

「アヤナはこの絵本が好きで、2人で何回も読んでいました。」

リスターは絵本を手に取り、懐かしむようにパラパラとめくった。
と、めくる手が突然止まり、リスターが目を瞠っている。

固まって動かなくなったリスターを不思議に思い、私は絵本の開かれたままのページを覗き見た。

そこには、そのページに挟まっていただろう2通の手紙がある。

『リスターへ』

『お父様、お母様へ』

封筒に書かれていた幼さの残る可愛らしい字。


それは、誰からの手紙だと問わなくても分かるものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...