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部屋に戻ると、私が泥んこにしてしまったせいで、夕ご飯の前に2人でお風呂タイムとなってしまった。
この家には水道がないので、お風呂場のバスタブに溜めた井戸水を温めて使うシステムだ。
早々とバスタブの水を温めたサイラスは、素早く自分と私の泥まみれの服を脱ぎ捨てると、手際良く全身を洗い、温かな湯船に2人で浸かった。
サイラスは一人で暮らしているからか、何でも出来る。
料理、掃除、洗濯、私のお世話まで、完璧に。
『あー、あたかーい、きもちいー、サイラス、てんさーい。』
『フフッ。なんだそれ。』
私がサイラスの腕にしがみ付いて、湯船の中で溜息混じりにそう言うと、サイラスは笑いながら手でお湯をすくい、私の肩に何度もかけて温めてくれる。
サイラスは、最近よく笑ってくれるようになった。嬉しい。
『サイラス、おととさん、みたい。』
『おととさん?……あぁ、お父さん?』
『おとーさん!』
『え~、俺まだ14歳なんだけど……お父さんは、なんか嫌だなぁ。』
な、なんだって!?
『サイラス、おとな、ちがう!?みえなーい!!』
『何それ。老け顔って言いたいの?』
サイラスがムスッとしてしまった。
ああ、違うよ!!そうじゃなくて!!
サイラスはイケメンだし、背が高くて大人っぽいから!!
それに、何でも出来ちゃうし、私を助けてくれたし、一人で暮らしてるし…………って、あれ?何で14歳が一人暮らし?
『サイラス、おとうさん、おかさん、いない?』
『おかさんじゃなくて、お母さんだよ。』
『おかーさん』
『そう。…………お母さんは、いたよ。2年前まで一緒に暮らしてた。病気で死んでしまったけどね。………お父さんは、いない。顔も知らない。物心ついた頃から、俺は母さんと2人きりだったから。だから、今、俺は一人だ。』
私の肩にお湯をかけながら、サイラスが淡々と話す。
まるで、他人事のように。
一人なのが、当たり前のように。
『いまひとり、ちがう。わたし、いる。』
両手をサイラスの頬にムギュッと当てて
、顔を覗き込む。
『…………ユーカ……』
『サイラスと、ずっとずっと、いっしょ。……だめ?』
両手でサイラスの頬を挟んだまま、見つめる。
私、このまま此処にいたい。
サイラスの側に、ずっとずっといたいよ。
そんな事を思っていた私は、たぶんすごく、必死な表情をしていたんだろう。
サイラスがフッと笑って、サイラスの頬にある私の手を握り、優しく包み込んでくれた。
『俺と、ずっと一緒にいてくれるのか?』
『うんっ!』
『…………どんな俺でも?』
私を見つめるサイラスの瞳が、不安そうに揺らぐ。
ーー何がそんなに不安なの?
『うんっ!』
勿論だよ!!
そんな思いを込めて、満面の笑みで、答えた。
…………答えたつもり、だったけど。
サイラスの表情は不安そうなまま、変わらない。
少し寂しげに笑って、私をギュッと抱き締める。
『そうだといいなぁ…………。』
ボソッ呟くサイラスに、なんだか胸が苦しくなって、私もギュッと抱き締めた。
温かな湯船の中で暫くそうしていたら、いつもの様子に戻ったサイラスに、背中をトントンと赤ちゃんをあやすように優しく叩かれる。
『…………ユーカはあの時、何であの森にいたんだ?』
今まで、私がこっちの言葉を話せなかったっていうのもあるけど、この話題に、サイラスもあまり触れてこなかった。
でも、親の話しが出たこのタイミングで、サイラスは思ったのかもしれない。
私に、帰りを待つ親がいるのなら、帰してあげよう、とか。
居場所が分からないなら、探してあげよう、とか。
きっと、そうだと思う。
だって、サイラスは優しいから。
とってもとっても、優しいから。
でもね、サイラス。
私に、帰る場所なんて無いんだよ。
『わたし、にげた。』
『え?』
サイラスの腕をギュッと掴んで、見上げる。
『おとーさん、おかーさん、わたし、いらない。だから、ここきた。じぶんで。』
『…………』
ーーねえ、サイラス。
お父さんは、サイラスみたいに私のお世話なんてしてくれなかったよ。
新しいお母さんがくるまでは、全部お手伝いさんに任せっきりだった。
一緒にお風呂なんて、入った記憶が無いんだよ。
お父さんと最後に話したのは、いつだったかな。
それすら覚えてないくらい、お父さんとは話せてなかった。
ーーねえ、サイラス。
私には、お父さんとお母さんとの思い出がね、一つも無いんだよ。
元いた場所よりも、此処が……サイラスがいてくれるこの場所の方が、私の帰る場所だって思えるくらい。
あっちで暮らしていた時間よりも、此処で、サイラスと過ごしている時間の方がずっとずっと短い筈なのに。
なのにね、此処では''楽しい''と"嬉しい"がいっぱいで、あっちにいた時とは比べものにならないくらい、私にとっては毎日がずっとずっと濃くて、意味のある時間だったんだ。
ーーだからね、サイラス、お願い。
『わたし、ここいたい。ずっとずっと、サイラスのそば。』
『あ~、ユーカ、泣かないで。』
サイラスが眉尻を下げ、そう言いながら私の涙を拭う。
サイラスに言われるまで、私は自分が泣いている事に気づかなかった。
ポロポロと流れ出る涙を、サイラスが眉尻を下げたまま、拭い続けてくれる。
『ユーカさえよければ、此処に居てほしい。…………ずっと、俺の側に。』
『うんっ!!』
私を見つめるサイラスの瞳が、とっても優しい。
私は涙でグショグショの顔をサイラスの肩に擦り付けて抱き付いた。
…………あ、ヤバイ。鼻水つけちゃった。
涙が全然止まらなくて、鼻をグジュグジュさせながら、鼻水のついたサイラスの肩を手でゴシゴシしていると、サイラスがプッと吹き出してクスクス笑い出す。
『鼻水くらい大丈夫だよ。ここお風呂なんだし。いっぱいつけてもすぐ洗い流せるしね。』
だからおいで、と、両手を広げて抱き締めてくれるサイラスに、私の涙腺は完全に決壊した。
『サイラス~!!おとーさん!!』
『え~?だから、お父さんはヤダってば。』
ギュウギュウとサイラスを抱き締めて泣き叫ぶ私を優しく包み込んでくれるサイラスは、私のお父さん発言に苦笑しながらも、とってもとっても嬉しそうで。
私は暫く涙が止まらなかった。
ーーあ、サイラス。お父さんが嫌なら、お兄ちゃんでどうかな?
この家には水道がないので、お風呂場のバスタブに溜めた井戸水を温めて使うシステムだ。
早々とバスタブの水を温めたサイラスは、素早く自分と私の泥まみれの服を脱ぎ捨てると、手際良く全身を洗い、温かな湯船に2人で浸かった。
サイラスは一人で暮らしているからか、何でも出来る。
料理、掃除、洗濯、私のお世話まで、完璧に。
『あー、あたかーい、きもちいー、サイラス、てんさーい。』
『フフッ。なんだそれ。』
私がサイラスの腕にしがみ付いて、湯船の中で溜息混じりにそう言うと、サイラスは笑いながら手でお湯をすくい、私の肩に何度もかけて温めてくれる。
サイラスは、最近よく笑ってくれるようになった。嬉しい。
『サイラス、おととさん、みたい。』
『おととさん?……あぁ、お父さん?』
『おとーさん!』
『え~、俺まだ14歳なんだけど……お父さんは、なんか嫌だなぁ。』
な、なんだって!?
『サイラス、おとな、ちがう!?みえなーい!!』
『何それ。老け顔って言いたいの?』
サイラスがムスッとしてしまった。
ああ、違うよ!!そうじゃなくて!!
サイラスはイケメンだし、背が高くて大人っぽいから!!
それに、何でも出来ちゃうし、私を助けてくれたし、一人で暮らしてるし…………って、あれ?何で14歳が一人暮らし?
『サイラス、おとうさん、おかさん、いない?』
『おかさんじゃなくて、お母さんだよ。』
『おかーさん』
『そう。…………お母さんは、いたよ。2年前まで一緒に暮らしてた。病気で死んでしまったけどね。………お父さんは、いない。顔も知らない。物心ついた頃から、俺は母さんと2人きりだったから。だから、今、俺は一人だ。』
私の肩にお湯をかけながら、サイラスが淡々と話す。
まるで、他人事のように。
一人なのが、当たり前のように。
『いまひとり、ちがう。わたし、いる。』
両手をサイラスの頬にムギュッと当てて
、顔を覗き込む。
『…………ユーカ……』
『サイラスと、ずっとずっと、いっしょ。……だめ?』
両手でサイラスの頬を挟んだまま、見つめる。
私、このまま此処にいたい。
サイラスの側に、ずっとずっといたいよ。
そんな事を思っていた私は、たぶんすごく、必死な表情をしていたんだろう。
サイラスがフッと笑って、サイラスの頬にある私の手を握り、優しく包み込んでくれた。
『俺と、ずっと一緒にいてくれるのか?』
『うんっ!』
『…………どんな俺でも?』
私を見つめるサイラスの瞳が、不安そうに揺らぐ。
ーー何がそんなに不安なの?
『うんっ!』
勿論だよ!!
そんな思いを込めて、満面の笑みで、答えた。
…………答えたつもり、だったけど。
サイラスの表情は不安そうなまま、変わらない。
少し寂しげに笑って、私をギュッと抱き締める。
『そうだといいなぁ…………。』
ボソッ呟くサイラスに、なんだか胸が苦しくなって、私もギュッと抱き締めた。
温かな湯船の中で暫くそうしていたら、いつもの様子に戻ったサイラスに、背中をトントンと赤ちゃんをあやすように優しく叩かれる。
『…………ユーカはあの時、何であの森にいたんだ?』
今まで、私がこっちの言葉を話せなかったっていうのもあるけど、この話題に、サイラスもあまり触れてこなかった。
でも、親の話しが出たこのタイミングで、サイラスは思ったのかもしれない。
私に、帰りを待つ親がいるのなら、帰してあげよう、とか。
居場所が分からないなら、探してあげよう、とか。
きっと、そうだと思う。
だって、サイラスは優しいから。
とってもとっても、優しいから。
でもね、サイラス。
私に、帰る場所なんて無いんだよ。
『わたし、にげた。』
『え?』
サイラスの腕をギュッと掴んで、見上げる。
『おとーさん、おかーさん、わたし、いらない。だから、ここきた。じぶんで。』
『…………』
ーーねえ、サイラス。
お父さんは、サイラスみたいに私のお世話なんてしてくれなかったよ。
新しいお母さんがくるまでは、全部お手伝いさんに任せっきりだった。
一緒にお風呂なんて、入った記憶が無いんだよ。
お父さんと最後に話したのは、いつだったかな。
それすら覚えてないくらい、お父さんとは話せてなかった。
ーーねえ、サイラス。
私には、お父さんとお母さんとの思い出がね、一つも無いんだよ。
元いた場所よりも、此処が……サイラスがいてくれるこの場所の方が、私の帰る場所だって思えるくらい。
あっちで暮らしていた時間よりも、此処で、サイラスと過ごしている時間の方がずっとずっと短い筈なのに。
なのにね、此処では''楽しい''と"嬉しい"がいっぱいで、あっちにいた時とは比べものにならないくらい、私にとっては毎日がずっとずっと濃くて、意味のある時間だったんだ。
ーーだからね、サイラス、お願い。
『わたし、ここいたい。ずっとずっと、サイラスのそば。』
『あ~、ユーカ、泣かないで。』
サイラスが眉尻を下げ、そう言いながら私の涙を拭う。
サイラスに言われるまで、私は自分が泣いている事に気づかなかった。
ポロポロと流れ出る涙を、サイラスが眉尻を下げたまま、拭い続けてくれる。
『ユーカさえよければ、此処に居てほしい。…………ずっと、俺の側に。』
『うんっ!!』
私を見つめるサイラスの瞳が、とっても優しい。
私は涙でグショグショの顔をサイラスの肩に擦り付けて抱き付いた。
…………あ、ヤバイ。鼻水つけちゃった。
涙が全然止まらなくて、鼻をグジュグジュさせながら、鼻水のついたサイラスの肩を手でゴシゴシしていると、サイラスがプッと吹き出してクスクス笑い出す。
『鼻水くらい大丈夫だよ。ここお風呂なんだし。いっぱいつけてもすぐ洗い流せるしね。』
だからおいで、と、両手を広げて抱き締めてくれるサイラスに、私の涙腺は完全に決壊した。
『サイラス~!!おとーさん!!』
『え~?だから、お父さんはヤダってば。』
ギュウギュウとサイラスを抱き締めて泣き叫ぶ私を優しく包み込んでくれるサイラスは、私のお父さん発言に苦笑しながらも、とってもとっても嬉しそうで。
私は暫く涙が止まらなかった。
ーーあ、サイラス。お父さんが嫌なら、お兄ちゃんでどうかな?
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