ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

生きる意味

ボロボロと涙を流して胸の内を告白するサイラスに、お父さんも私も息を呑んだ。


「…………アンタの事を……母さんに聞いた事がある。優しくて、誠実な人だって言ってた。……でも、自分が約束を破ってしまったから、もう会えないって……お、俺が変身する体を上手くコントロール出来なかったせいで、町を転々と移らないといけなかったから……！」

「サイラス……お前のせいじゃ……」

「俺のせいなんだよ！！俺が変身なんてしなければ、ずっと故郷の町にいてアンタが迎えに来るのを待てた筈だろ？もしそうだったなら、母さんは病気なんかで死なずに今頃アンタの隣で笑っていたかもしれないじゃないか！！…………俺が母さんを死なせたんだ。…………俺が……俺がいなければ……母さんは幸せに暮らせた筈なのに…………」


流れ出る涙が頬を伝って、握っているサイラスの手にポタポタと零れ落ちた。


ーー辛い。苦しい。


サイラスの思いが、私にも痛いくらい伝わってきて。

私は泣かずに、サイラスを見守ろうと決めていたのに、サイラスの思いが痛くて……痛過ぎて、涙が溢れ出るのを我慢出来なかった。



ーーサイラスがいなければ、なんて、そんなこと言わないで。

サイラスがいなかったら、今の幸せな私はいないんだから。



声を殺して泣く私を、サイラスが膝の上に乗せて強く抱き締めてくれる。


「ユーカ……ごめん……ごめん……」


泣きながら謝るサイラスに、私はブンブンと首を横に振ってギュッと抱きついた。


「謝らないで、サイラス……。好き…………大好き……大好きだよ……。」


私は泣きながら、それでも気持ちを伝えたくて、必死に声を絞り出す。

サイラスはそれに答える代わりに、更に強く私を抱き締めて、声を上げて泣いた。


「すまない…………サイラス……すまなかった……」


そんなサイラスを見守りながら、お父さんも涙を流して謝っている。


お母さんを失ってしまった苦しみ、悲しみは、サイラスもお父さんも、きっと一生、消えることは無いんだろうな。

そう思ったら、またどんどん悲しくなっちゃって、私もいっぱい泣いてしまった。


サイラスが少し体を離して、涙でグシャグシャな私の顔を手で拭ってくれる。

その優しい手が、愛しそうに私を見つめる瞳が嬉しくて、涙はなかなか止まらないけど、サイラスを見上げて微笑んで見せた。

そんな私に、サイラスも笑ってくれて。

サイラスと２人、顔を見合わせて泣き笑いをする。

一頻り笑ってから、サイラスがお父さんの方を向いた。


「そんな俺を、ユーカが救ってくれたんだ。母さんが死んでから、毎日が辛くて…………なんで俺は今生きているんだろうって、毎日毎日思ってた。」


私の頬を撫でながら、頭を撫でながら、眉間に皺を寄せるサイラス。

私は思わず手を伸ばして、サイラスの眉間の皺を無くそうと指で擦った。

サイラスはフフッと笑うと、その私の手を取り、手の甲にチュッとキスを落とす。


「でもユーカが俺の前に現れてから、辛いだけの毎日が、気付いたらどんどん楽しくて幸せなモノになってた。そして分かったんだ。俺は、ユーカに出会う為にあそこに居たんだって。愛し愛される、そんな存在と出会う為に、あの森に居たんだって。…………ユーカの存在が、俺の生きる意味なんだって、分かったんだ。」


チュッチュッと、私の手の甲にサイラスが何度もキスをするのがくすぐったくて、身を捩って笑っていると、お父さんが椅子から立ち上がりテーブルのこっち側に歩いて来た。

そしてサイラスの椅子の後ろに立ち、サイラスを恐る恐る抱き締める。

サイラスに抱っこされている私ごと、一緒に。


「な、何を……」

「これからは、私にサイラスを守らせてくれ。サイラスと、サイラスを救ってくれたユーカを、これからは私が一生、全力で守ると今ここで誓おう。」

「やめろ……」


サイラスがお父さんから離れようと手で押すけれど、お父さんはびくともしない。

暫くジタバタともがいていたサイラスも、無理だと悟って最後は大人しくお父さんに抱き締められていた。

かなり複雑そうな、変な顔をしていたけどね。


サイラスを見て私がクスクス笑っていると、サイラスがムスッとして頬を膨らませるから、また可笑しくて笑ってしまって。


プイッと顔を背けたサイラスに「ゴメンね」と、謝って、そっと内緒話をするように、サイラスの耳に手を当てて顔を近づける。


「私もきっと、サイラスに会う為にこの世界に来たんだよ。」



私がそう言うと、サイラスはとっても嬉しそうに顔を綻ばせ、また私をギュッと強く抱き締めた。