ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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私……いらない子でした

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「どうしたのユーカ!大丈夫!?」


ガシッと後ろから抱き締められて、遠のきかけていた意識が再び浮上する。


「サ、サイラス……」

「顔が真っ青だよ。何があったの」


私の顔を覗き込んでいたサイラスが恨めしそうにジル達を睨むから私は慌ててサイラスの腕を掴んでそれをやめさせた。


「大丈夫だよサイラス。ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃったたけだから」

「本当に?」


再び心配そうに私の顔を覗き込むサイラスに、私はコクコクと首を縦に振って見せる。

サイラスはまだ納得がいってないのか少し眉間に皺をよせたまま、私をヒョイと抱き上げて扉の方へ歩き出した。


「ちょ、ちょっとサイラス!」

「顔色が悪いから部屋へ戻ろう」

「大丈夫だってば!」

「ダメ」


サイラスの抱っこから逃れようとジタバタするけれど、ガッチリとホールドされていてびくともしない。


「確かに顔色が良くないな。少し横になった方がいいよ」


そう言って扉へ向かうサイラスと並行して歩きながら私の肩に手をポンとかけたジルをサイラスが鋭く睨む。


「誰だ、お前」

「…………はぁ、サイラスは本当にユーカ以外に興味がないんだねぇ」

「ユーカに触るな」


私の肩に乗っていたジルの手をパシッと叩き落としたサイラスの腕を、私はまた掴んで止めた。


「誰だって、ジルだよ!ほら、よく見て!男の子になっても綺麗だしカッコいいでしょ?本物の王子様みたいだよね!」

「フフッ、ありがとう。さっきも言ったと思うけど、もとから男の子だし王子だった……って、ずっとあの姿をしていたんだから強くもつっこめないか。まあ、ユーカにカッコいいって言われるのは何回聞いても嬉しいから、いいかな」

「……べつに、カッコよくないし」


ブスッと不機嫌そうに顔を曇らせジルを見ていたサイラスは、私に視線を戻すとすぐに眉尻を下げて今度はジッと私を見つめる。
さっきまで不機嫌そうだった顔は心配そうな表情に変わっていて、グイッと顔を急接近させたかと思うと自分の額と私の額をコツンと合わせてきた。


ーーち、近い!!顔が近すぎるから!!


バクバクと高鳴る心臓の音がサイラスへ聞こえてしまわないように必死に胸を押さえる私を尚も至近距離でジッと見つめてくるサイラスに、私の心臓は爆発寸前だった。


「熱は無いみたいだけど……早く部屋に戻ろう?」


ドアップのサイラスからそんなふうに言われてしまえば、私はコクコクと黙って頷くしかないワケで。

満足そうにニッコリと笑うサイラスに颯爽と連れ去られる様を、部屋にいた皆に苦笑されつつ見送られたのだった。






「本当に大丈夫?ほら、横になって。起こしてあげるから、少し眠った方がいいよ」


サイラスは私をベッドへ下ろし半ば強引に寝かせるとサッと掛け布団を被せる。
そしてベッド脇に椅子を持ってくるとそこへ座って、私の手を優しく取り握ってくれた。


「……サイラスもここに居てくれるの?」

「うん、ずっと居るよ。だから安心して眠って?」

「…………ありがとう」


握られた手の温もりとサイラスの優しい眼差しにホッとした私はだんだんと瞼が重くなっていく。


「ゆっくりおやすみ」


そう囁いたサイラスの声を聞いたらもうダメで、その後すぐ私は眠りに落ちた。









ーーーー深い、深い暗闇の中。

苦しくて苦しくて、私は何かを振り解くように必死にもがき暴れる。

けれど、そんな抵抗も虚しく、 強い力に引っ張られてどんどん暗闇の中に落ちて行く。

怖くて怖くて、私は何かから逃れるように更に必死にもがき暴れる。



フッと、一瞬、私を引っ張る力が弱まった。

私はその一瞬を逃さず、力を振り絞って手足を動かし私を引っ張るから逃れることに成功した。


やった!!!


そう思って喜んだのも束の間、背後からゾクリと息を呑むような気配を感じ、私は恐る恐る後ろを振り返る。

そこには、凄まじい形相で私を睨みつける人の姿があった。

逃げる私を捕まえようと必死に手を伸ばすは、私を睨みつけたまま唸るように声を吐き出す。


「私から逃げてどうするの?逃げたって、アンタの居場所はどうせもう何処にも無いのよ。……もう、いらないんだって。……アンタと私はあの人に……アンタの父親に捨てられたんだから。……だから……だから、もう何処にも居場所なんて無いのよ!!」


吐き出された声は狂気を含んだ叫び声に変わり、私を捕まえようと手を伸ばしているその人の目は血走っていた。

恐怖に慄きながら必死に逃げる私を血走った目で睨みつけたまま、その人は絶叫する。


「逃げるな!!アンタはと一緒に逝くのよーーー!!!!!」



「…………カ……ユーカ!ユーカ!!!」



ビクンッ、と、私の名前を呼ぶ声に体が大きく反応して目が覚める。

視線を彷徨わせると、眠る前と変わらずベッドの脇に居てくれていたサイラスと目が合った。


「サイラス……」

「大丈夫!?凄く魘されていたけど……汗も沢山かいてるし……」


私の前髪をかき分けながら汗を拭ってくれるサイラスが心配そうに見つめてくる。

涙が出そうになるのを堪えるためにフイ、と目を逸らして体を起こした。


「……あー……、服も汗でビッショリになっちゃった」

「本当だ。……こんなになるなんて、いったいどんな夢を見たんだ?」

「ん~…………忘れちゃった。……服、着替えようかな」

「そうだな。風邪を引くといけないし。エマを呼ぶ?」


私を労わるように頭を撫でるサイラスに、目を逸らしたままフルフルと首を横に振って答える。

サイラスの心配そうな眼差しがまだ私を捉えているのが分かっていたけれど、目を合わせることが出来ない。


サイラスが軽く息を吐き、私の頭をひと撫でしてから席を立った。


「着替え終わった頃にまた来るよ。何か温かい飲み物でも持ってくるから」

「うん、ありがとう」


パタン、と、扉の閉まる音と同時に、私の涙腺が崩壊する。


「うっ……うぅ…………うぇ……」


ポタポタと零れ落ちる涙が、布団に吸い込まれ大きなシミとなって拡がっていった。

サイラスのいる間ずっと我慢していた涙は、一度溢れ出てしまえばもう止めることができない。

涙と鼻水でグシャグシャの顔をベッドに押し付け、声を殺して泣いた。



ーーお母さんは、私を置いて家を出て行ったんじゃなかった。

、お母さんは私と一緒に海で死のうとしたんだ。

そして、私だけ生き残ってしまった。


ーーお母さんは言っていた。

私は、いらない子だって。



だから、道連れにしようとしたんだね。



ーー私が、いらない子だから。



「うぅ……うぇ……」



苦しい……苦しいよ……。


ベッドに突っ伏しながら、全てを思い出し痛む胸を押さえて、私は泣き続けた。



ーー自分が、いらない子なのは分かってた。


でも、思い出してしまった記憶は今の自分がひとりで受け止めるには、あまりにもショックで。

辛くて辛くて、溢れ出る涙を止めることができなくて、上手く息を吸うこともできない。

苦しい……苦しいけどサイラスには思い出した過去を知られたくない。

思っていたよりも遥かに、私は両親から疎まれていたらしいから。

思っていたよりも遥かに、私は両親にとってだったらしいから……。



サイラスが戻ってくるまでに泣き止まないと。


「っうぅっ……うっ……」


分かってはいても、一度出てしまった涙は止まるどころかどんどん溢れて布団のシミを更に大きくしていく。


そうしているうちにも、私は急激に襲ってきた虚無感に心がとらわれていくのを止めることが出来ずに…………また、泣いた。








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