ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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すれ違う2人の心 〜ジル〜

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僕の隣に佇み花畑をボーッと見つめる可愛い友人を、暫く黙って見守る。

こうしてユーカを見ていると、2か月程前に僕を訪ねて来たもう1人の友人の姿が重なり、その時のことが思い出された。


ーーある日の深夜。

窓をガリガリと擦るような音で目が覚めた僕はベッドから体を起こして真っ暗な窓の外に目を向けた。

ガリガリと音の鳴り止まない方を目を凝らしてよく見てみれば、ギラギラと光る2つの瞳がこちらを鋭く睨みつけている。


「……俺だ。サイラスだ。開けろ」

「…………サイラス?」


窓越しに物凄い圧を受けながら僕は恐る恐る窓の鍵を開けた。


バンッと大きな音を立てて飛び込んで来た狼姿のサイラスは、グルルと喉を鳴らして室内をウロウロと歩き回る。

僕を睨みつけ牙を剥き出しにして威嚇するサイラスは、何かを探しているようだった。


「ど、どうしたの、サイラス……?」


威圧が凄すぎて固まっていた僕は声がなかなか出せず、なんとかそれだけを必死に絞り出した。

その間もサイラスは辺りをギロリと睨み回し、クンクンと匂いをを嗅いでいる。

……何か探しているのか?


「サイラス、一旦落ち着いて人間の姿に戻ったらどう?」


体の力がだいぶ抜けた僕はサイラスに近付こうとするも、ガウゥッと牙を剥いて威嚇されてしまい側に寄ることが出来ない。

サイラスからは苛立ち、怒り、不安、恐怖など色々な感情が混じり合い溢れ出ていた。


「ここにも居ない……なんでだ……なんで……」

「サイラス、落ち着いて!」


低く唸りながらウロウロと歩き回るサイラスに再び声をかけると、サイラスは動きを止めてこちらに目を向ける。


「落ち着いて?そして取り敢えず人間の姿に戻って僕に何があったのか教えてほしい」

「何が……?何があったかなんて俺の方こそ教えてほしい……なんで……なんでユーカはいなくなったんだ?なんで俺の側にいないんだ?なんで……なんで……」

「サイラス!!」


興奮した様子でウロウロと歩くサイラスは狂気じみていて、その姿に背中がゾクリとした。


「サイラス、取り敢えず人間の姿に……」

「戻れない……」

「え?」

「……ずっとこの姿でユーカを探していたんだ。狼の方が鼻が利くから。ずっとずっと……ユーカがいなくなってからずっとこの姿で探していたら、もとに戻れなくなっていた……そんなことより」


ウロウロとしたまま唸るように言うサイラスは、人間の姿に戻れないことは別段気にしていないようで僕を見つめ……というより睨みながら言葉を続ける。


「お前はユーカの居場所を知らないのか?半年以上ユーカの匂いを探しているが、微かにも感じたことが1度も無いんだ。俺がユーカを見つけられないようにアイツが……フータが隠してやがる」

「フータ様が?」


確かに、サイラス程の獣人が半年以上も手掛かりすら見つけられていないのはおかしい。
フータ様が何かしているのだと考えるのが妥当だが、何故そこまでしてユーカを隠す必要が?
何か思うところがあっての行動ではないのだろうか。

というか、今、獣人国にユーカはいないのか。
サイラスの言い方だと、ユーカはサイラスに何も言わず突然いなくなり、その行方をフータ様によって隠されている?
……そのような事をするのには、フータ様にも何かお考えがあってなのだろうとは思うのだが……。

僕が言葉に詰まっていると、サイラスはもう此処には用は無いといったように踵を返し部屋から出て行こうとする。


「サイラス待って!どこに行くの?ちゃんと獣人国へ帰るんだよね!?」

「……ユーカのいない場所へ戻って何の意味がある?ユーカを見つけるまで帰るつもりはない。……俺の帰る場所は……俺の居場所はユーカだけだ」


呼び止める僕を、光の宿らない絶望色の滲み出ている瞳で一瞥して、サイラスは行ってしまった。



ーー今、僕の目の前で佇んでいるユーカも、あの時のサイラス程ではないが瞳に光を宿していない。

自分が本来在るべき場所にいないから。


「そろそろ馬車に戻ろうか。王都を案内するよ」

「…………うん」


黙って花畑を見つめていたユーカに声をかけると、ずっと考え込んでいた真剣な表情のままユーカにジッと見上げられた。


「……ジルは今、幸せなんだね」

「そうだね。僕は、僕の居場所に帰ってこれた。今はとっても幸せだよ」


僕は、ユーカの問いかけに胸を張ってしっかりと答える。

それが、ユーカにとっての何かきっかけになれたらいい。

少しでも、ユーカの力になれたらいい。

そんな思いを込めて満面の笑みを向ければ、ユーカも笑み返してくれた。


「そっか……そっかぁ……」


ユーカの表情が再会した時より明るく見えるのは、僕の気のせいでは無いだろう。


「馬車までエスコートさせてもらえますか、お姫様?」

「え、あ、ありがとう」


恭しく差し出した僕の手に、ユーカがちょっと恥ずかしがりながらも手を重ねた。



ーーこの可愛らしい友人と、獰猛だが一途なあの友人が、こうして仲良く手を取り合って歩く未来が来ることを、僕は切に願う。














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