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新しく始まる物語
しおりを挟むサイラスと再会して一週間。
その間、私をドロドロに甘やかして過ごしていたサイラスは、そろそろ獣人国へ帰れとフータに促されて渋々帰国。……ではなく、上機嫌で帰国。
何故って?それは勿論、私も一緒だからです。
『もうサイラスはお主を死んでも離さぬだろうしな。我らも共に戻るとしよう』
と、これまたフータに促されるかたちで私達も戻ることになった。
そう、私達。
「ここが獣人国…………ユーカ様の国なのですね」
「うん、……あの、グレイソンさん?ここは私の国じゃなくて、サイラスの……フータの国だよ?」
「ああ、こうしてユーカ様と一緒に獣人国へ来られるなんて夢のようです……」
「うん、……あ、あの、グレイソンさん?」
胸に手を当て感慨深げなグレイソンさんに、どうやら私の声は聞こえていないらしい。
獣人国に戻る前、フータはグレイソンさんも一緒に来るように言ったのだけれど「この屋敷の管理が私の仕事ですので」と、グレイソンさんは首を縦には振らなかった。
「この屋敷の管理は他の者を手配する。ユーカも此処を気に入っておるでの。しっかりと管理する者を厳選するから心配するな。グレイソンには我らと一緒に来てサイラスの側近として働いてもらいたいのだ。国王がなかなかサイラスの側近が決まらぬとボヤいておったでな。お主ならこの生意気で戯け者な王子と上手くやっていけると思うのだが、どうだ?」
「それこそ私には荷が重過ぎますので」
フルフルと首を横に振るグレイソンさんに、私はシュンと肩を落とす。
グレイソンさんとはずっと一緒に暮らしていて、もう家族みたいに私が勝手に思っちゃってたから離れるのは凄く寂しい。
「ほれ、ユーカを見てみろ。お主のせいでこんなに不細工な顔になっておるではないか。いつもの顔に戻したくば首を縦に振るのだ」
不細工とは失礼な。まあ確かに悲しくて泣きたいのを我慢してるからちょっと変な顔になってるかもだけど。あ、やべ、鼻水垂れてきちゃった。
「ああ、ユーカ様!グシャグシャなお顔も不細工とはいえ、それもまたなんとも可愛らしい!!」
ーーおい。グレイソンさんまで不細工って言うなよ。嘘でもそこは否定して欲しかった。
「おい。ユーカは鼻水垂らしてても、泣くの我慢し過ぎて半目で変顔になってても世界で一番可愛いんだよ。てか、グレイソンは来なくていい。これ以上ユーカが懐いても困るし。ユーカは俺のだから」
……っく!サイラスまでも……!!
何も言い返せない自分が憎いよ!
ジト目でみんなを見ていた私に気付いたフータがクックッと笑い、頭をグシャグシャと撫でてくる。
「ユーカもグレイソンが一緒に来ぬと寂しいだろう?お主は屋敷に居る間はいつもグレイソンに付いて歩いておったからのう」
「……うん。だってグレイソンさん優しいし、私が何を聞いても嫌な顔一つしないで教えてくれるし、お料理上手だし、毎朝淹れてくれる紅茶を一緒に飲むのも大好きだし、それから……」
「ちょっと待った。仲良くなり過ぎじゃない?やっぱりグレイソンは来なくていいから」
話の途中で私の口を手で塞ぎ抱き寄せるサイラスが不貞腐れながらグレイソンさんをギロッと睨んだ。なんで最後まで言わせてくれないのさ。
サイラスから逃れようとジタバタと暴れてみるけど私を離してくれる気配が微塵も感じられない。……こういう時のサイラスからは絶対に逃げられないと私は知っている。なので早々に抵抗をやめて大人しくサイラスに抱き締められたままでいることにした。なんならサイラスの背中に腕を回して私からもギュッと抱き付く。ご機嫌斜めなサイラスに私からのサービスですよ。これで機嫌も直るでしょ?ほら、すぐに蕩けるような笑顔を向けてくれる。サイラスってば、チョロい。好き。大好き。
「サイラスや。嫉妬深い男は嫌われるぞ」
「フータ煩い」
「えー?私がサイラスを嫌うなんて一生無いから大丈夫だよ?」
「ユーカ愛してる」
私の頭にチュッチュッとご機嫌でキスをするサイラスの背中をキュッと掴んでサイラスを見上げた。どうしたの?というようにサイラスが微笑みながら私を見つめてくれたところで眉尻を下げつつコテンと首を傾げる。
「でもね、私が家族みたいに思ってるグレイソンさんにサイラスが冷たいと、スゴく悲しいなぁ……」
「っ!?つ、冷たくなんてないよ!?べ、別に俺達と一緒に獣人国に来ればいいさ!」
「嬉しい!!ありがとうサイラス!!……あっ……でも、グレイソンさんは一緒に行きたくないのかぁ……私が勝手に家族みたいに思ってるだけだもんね……そうだよね……」
「いいえ、行きましょう。すぐにでも出発しましょう。私も一緒に行かせてください」
「本当!?やったぁ!!ありがとうグレイソンさん!!これで獣人国でもみんな一緒だね!嬉しい!!」
サイラスに抱き付き喜ぶ私を、サイラスとグレイソンさんが目を細めて見ている。
その横ではフータがそんな私達を生暖かい目で見守っていた。
「気難しい2人を上手いこと手のひらで転がしておるのう」
なんてフータがボソッと呟いていたけど聞こえないフリをしておいたよ。
それでみんなが幸せになるのなら、いいじゃん。ね?
「フータ様!!ユーカ様が私を家族と……家族と仰ってくださいました!」
「そうかそうか、良かったのう。我もグレイソンを最早他人とは思うておらぬでな?」
「フ、フータ様……!!……私は……私は幸せ者にございます……」
「そうかそうか、良かったのう。ではグレイソンも、我ら家族と共に獣人国へ行く準備をするのだ」
「はい!すぐに荷物を纏めて参ります!」
と、獣人国に戻る前にこういったすったもんだがありまして、この話の冒頭に至ったというわけなのであります。
……はぁ、思い出しただけでなんだか疲れちゃったよ。
何はともあれ、戻って来ました獣人国へ。
…………国王様やメイソンさん、エマさんも……みんな、みんな元気かな?
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