ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

文字の大きさ
94 / 96

新しく始まる物語

しおりを挟む

サイラスと再会して一週間。

その間、私をドロドロに甘やかして過ごしていたサイラスは、そろそろ獣人国へ帰れとフータに促されて渋々帰国。……ではなく、上機嫌で帰国。

何故って?それは勿論、私も一緒だからです。


『もうサイラスはお主を死んでも離さぬだろうしな。我らも共に戻るとしよう』


と、これまたフータに促されるかたちで私達も戻ることになった。

そう、


「ここが獣人国…………ユーカ様の国なのですね」

「うん、……あの、グレイソンさん?ここは私の国じゃなくて、サイラスの……フータの国だよ?」

「ああ、こうしてユーカ様と一緒に獣人国へ来られるなんて夢のようです……」

「うん、……あ、あの、グレイソンさん?」


胸に手を当て感慨深げなグレイソンさんに、どうやら私の声は聞こえていないらしい。


獣人国に戻る前、フータはグレイソンさんも一緒に来るように言ったのだけれど「この屋敷の管理が私の仕事ですので」と、グレイソンさんは首を縦には振らなかった。


「この屋敷の管理は他の者を手配する。ユーカも此処を気に入っておるでの。しっかりと管理する者を厳選するから心配するな。グレイソンには我らと一緒に来てサイラスの側近として働いてもらいたいのだ。国王がなかなかサイラスの側近が決まらぬとボヤいておったでな。お主ならこの生意気で戯け者な王子と上手くやっていけると思うのだが、どうだ?」

「それこそ私には荷が重過ぎますので」


フルフルと首を横に振るグレイソンさんに、私はシュンと肩を落とす。
グレイソンさんとはずっと一緒に暮らしていて、もう家族みたいに私が勝手に思っちゃってたから離れるのは凄く寂しい。


「ほれ、ユーカを見てみろ。お主のせいでこんなに不細工な顔になっておるではないか。いつもの顔に戻したくば首を縦に振るのだ」


不細工とは失礼な。まあ確かに悲しくて泣きたいのを我慢してるからちょっと変な顔になってるかもだけど。あ、やべ、鼻水垂れてきちゃった。


「ああ、ユーカ様!グシャグシャなお顔も不細工とはいえ、それもまたなんとも可愛らしい!!」


ーーおい。グレイソンさんまで不細工って言うなよ。嘘でもそこは否定して欲しかった。


「おい。ユーカは鼻水垂らしてても、泣くの我慢し過ぎて半目で変顔になってても世界で一番可愛いんだよ。てか、グレイソンは来なくていい。これ以上ユーカが懐いても困るし。ユーカは俺のだから」


……っく!サイラスまでも……!!

何も言い返せない自分が憎いよ!


ジト目でみんなを見ていた私に気付いたフータがクックッと笑い、頭をグシャグシャと撫でてくる。


「ユーカもグレイソンが一緒に来ぬと寂しいだろう?お主は屋敷に居る間はいつもグレイソンに付いて歩いておったからのう」

「……うん。だってグレイソンさん優しいし、私が何を聞いても嫌な顔一つしないで教えてくれるし、お料理上手だし、毎朝淹れてくれる紅茶を一緒に飲むのも大好きだし、それから……」

「ちょっと待った。仲良くなり過ぎじゃない?やっぱりグレイソンは来なくていいから」


話の途中で私の口を手で塞ぎ抱き寄せるサイラスが不貞腐れながらグレイソンさんをギロッと睨んだ。なんで最後まで言わせてくれないのさ。
サイラスから逃れようとジタバタと暴れてみるけど私を離してくれる気配が微塵も感じられない。……こういう時のサイラスからは絶対に逃げられないと私は知っている。なので早々に抵抗をやめて大人しくサイラスに抱き締められたままでいることにした。なんならサイラスの背中に腕を回して私からもギュッと抱き付く。ご機嫌斜めなサイラスに私からのサービスですよ。これで機嫌も直るでしょ?ほら、すぐに蕩けるような笑顔を向けてくれる。サイラスってば、チョロい。好き。大好き。


「サイラスや。嫉妬深い男は嫌われるぞ」

「フータ煩い」

「えー?私がサイラスを嫌うなんて一生無いから大丈夫だよ?」

「ユーカ愛してる」


私の頭にチュッチュッとご機嫌でキスをするサイラスの背中をキュッと掴んでサイラスを見上げた。どうしたの?というようにサイラスが微笑みながら私を見つめてくれたところで眉尻を下げつつコテンと首を傾げる。


「でもね、私が家族みたいに思ってるグレイソンさんにサイラスが冷たいと、スゴく悲しいなぁ……」

「っ!?つ、冷たくなんてないよ!?べ、別に俺達と一緒に獣人国に来ればいいさ!」

「嬉しい!!ありがとうサイラス!!……あっ……でも、グレイソンさんは一緒に行きたくないのかぁ……私が勝手に家族みたいに思ってるだけだもんね……そうだよね……」

「いいえ、行きましょう。すぐにでも出発しましょう。私も一緒に行かせてください」

「本当!?やったぁ!!ありがとうグレイソンさん!!これで獣人国でもみんな一緒だね!嬉しい!!」


サイラスに抱き付き喜ぶ私を、サイラスとグレイソンさんが目を細めて見ている。
その横ではフータがそんな私達を生暖かい目で見守っていた。


「気難しい2人を上手いこと手のひらで転がしておるのう」


なんてフータがボソッと呟いていたけど聞こえないフリをしておいたよ。
それでみんなが幸せになるのなら、いいじゃん。ね?


「フータ様!!ユーカ様が私を家族と……家族と仰ってくださいました!」

「そうかそうか、良かったのう。我もグレイソンを最早他人とは思うておらぬでな?」

「フ、フータ様……!!……私は……私は幸せ者にございます……」

「そうかそうか、良かったのう。ではグレイソンも、我らと共に獣人国へ行く準備をするのだ」

「はい!すぐに荷物を纏めて参ります!」


と、獣人国に戻る前にこういったすったもんだがありまして、この話の冒頭に至ったというわけなのであります。
……はぁ、思い出しただけでなんだか疲れちゃったよ。



何はともあれ、戻って来ました獣人国へ。




…………国王様やメイソンさん、エマさんも……みんな、みんな元気かな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

処理中です...