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EP 24
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王者の説法と、持ち上げられぬ宝
サバルテ王宮の廊下にて。
先ほどまで意気揚々と胸を張っていた孔雀(くじゃく)の羽根のドレスは、今や見る影もなくしおれていた。
「ぐ、ぐぬぬ……重い……! なんで私がこんな……!」
エリザ伯爵夫人は、顔を茹で上がった蛸のように真っ赤にし、脂汗を流しながら床に這いつくばっていた。
彼女の両腕には、ルクスたちが命がけで持ち帰った『仏の御石の鉢』や『竜の首の珠』が抱えられている。
従者がいなくなった今、彼女は自分の力でこの「ガラクタ(元・宝物)」を持ち帰らねばならないのだ。
「な、何故……? こんなに素晴らしい、国宝級の宝を持ってきたのに……私はこのような仕打ちを?」
エリザは涙目で、目の前に立ちはだかる女王を見上げた。
悔しさと恥ずかしさで、言葉が震える。
「ルクスのような薄汚れた下僕は招かれて、何故、高貴な私がゴミ拾いなど……!」
「――エリザよ」
レオナの冷徹な声が、エリザの愚痴を遮った。
女王は腕を組み、哀れな貴族を見下ろしている。
「何故、そちが退けられ、ルクスという一介の青年が茶室に招き入れられたか……本当に分からぬか?」
「わ、分かりませぬ……! あやつはただ、私の命令で動いただけの道具……」
「それが答えだ」
レオナはため息をついた。
「エリザ。……それはな、お前自身が『何も動いていない』からだ」
「は……?」
エリザはきょとんとした。
「わ、私は! 宝を持ってきました! 金庫を開け、指示を出し、こうして足を運んで……!」
「違う。お前はただ、安全な屋敷の椅子に座り、顎(あご)で指図をしただけだ」
レオナが指差した先には、エリザが抱えている『火鼠の皮衣』があった。
「その皮衣を取るために、ルクスは火傷を負っただろう。その鉢を取るために、誰かが崖から落ちかけたかもしれん。……それは、お前の手柄じゃない。汗を流し、血を流したルクス達の手柄だ」
「そ、そんな……! 主人の命令を遂行するのは、部下の務め……!」
「その部下を『道具』と呼び、傷ついても顧みぬ者に、茶室の敷居を跨ぐ資格はない」
レオナは一歩踏み出した。その覇気に、エリザは思わず尻餅をついた。
「それに……いいか、よく聞け。飛鳥殿の茶を飲みたいなら、宝など必要ないのだ」
「え……?」
「金も、権力も、伝説の秘宝も要らぬ。……ただ一つ、『敬う心』があれば、飛鳥殿は誰であろうと茶を点ててくれる」
エリザは呆然と呟いた。
「敬う心……とは……?」
彼女にとっての敬意とは、高価な貢物をすることか、平伏することだった。それ以外を知らないのだ。
「少なくとも……玉座やソファにふんぞり返り、自身では指一本動かさず、部下の手柄を自分のものとして茶を飲もうとすることではない」
レオナは、かつて自分も飛鳥に諭された言葉を思い出しながら、厳しく告げた。
「『敬意』とは、相手のために自ら汗をかき、心を砕くことだ。……エリザ、貴様自身が動かねば意味が無いのだ」
「私が……動く……?」
「そうだ。他人の力で手に入れた虚飾の宝など捨て置け。……裸の自分に何ができるか、考えて出直して参れ」
レオナはそれだけ言うと、踵(きびす)を返して去っていった。
廊下には、エリザだけが残された。
「……う、うぅ……」
重い、重い宝物。
それは今や、彼女のプライドという名の重石(おもし)でしかなかった。
エリザはふらつく足で立ち上がり、宝を引きずりながら、逃げるように王宮を後にした。
「覚えていなさい……! このままでは終わらないわよ……!」
その捨て台詞には、以前のような傲慢さはなく、どこか悲痛な響きが混じっていた。
サバルテ王宮の廊下にて。
先ほどまで意気揚々と胸を張っていた孔雀(くじゃく)の羽根のドレスは、今や見る影もなくしおれていた。
「ぐ、ぐぬぬ……重い……! なんで私がこんな……!」
エリザ伯爵夫人は、顔を茹で上がった蛸のように真っ赤にし、脂汗を流しながら床に這いつくばっていた。
彼女の両腕には、ルクスたちが命がけで持ち帰った『仏の御石の鉢』や『竜の首の珠』が抱えられている。
従者がいなくなった今、彼女は自分の力でこの「ガラクタ(元・宝物)」を持ち帰らねばならないのだ。
「な、何故……? こんなに素晴らしい、国宝級の宝を持ってきたのに……私はこのような仕打ちを?」
エリザは涙目で、目の前に立ちはだかる女王を見上げた。
悔しさと恥ずかしさで、言葉が震える。
「ルクスのような薄汚れた下僕は招かれて、何故、高貴な私がゴミ拾いなど……!」
「――エリザよ」
レオナの冷徹な声が、エリザの愚痴を遮った。
女王は腕を組み、哀れな貴族を見下ろしている。
「何故、そちが退けられ、ルクスという一介の青年が茶室に招き入れられたか……本当に分からぬか?」
「わ、分かりませぬ……! あやつはただ、私の命令で動いただけの道具……」
「それが答えだ」
レオナはため息をついた。
「エリザ。……それはな、お前自身が『何も動いていない』からだ」
「は……?」
エリザはきょとんとした。
「わ、私は! 宝を持ってきました! 金庫を開け、指示を出し、こうして足を運んで……!」
「違う。お前はただ、安全な屋敷の椅子に座り、顎(あご)で指図をしただけだ」
レオナが指差した先には、エリザが抱えている『火鼠の皮衣』があった。
「その皮衣を取るために、ルクスは火傷を負っただろう。その鉢を取るために、誰かが崖から落ちかけたかもしれん。……それは、お前の手柄じゃない。汗を流し、血を流したルクス達の手柄だ」
「そ、そんな……! 主人の命令を遂行するのは、部下の務め……!」
「その部下を『道具』と呼び、傷ついても顧みぬ者に、茶室の敷居を跨ぐ資格はない」
レオナは一歩踏み出した。その覇気に、エリザは思わず尻餅をついた。
「それに……いいか、よく聞け。飛鳥殿の茶を飲みたいなら、宝など必要ないのだ」
「え……?」
「金も、権力も、伝説の秘宝も要らぬ。……ただ一つ、『敬う心』があれば、飛鳥殿は誰であろうと茶を点ててくれる」
エリザは呆然と呟いた。
「敬う心……とは……?」
彼女にとっての敬意とは、高価な貢物をすることか、平伏することだった。それ以外を知らないのだ。
「少なくとも……玉座やソファにふんぞり返り、自身では指一本動かさず、部下の手柄を自分のものとして茶を飲もうとすることではない」
レオナは、かつて自分も飛鳥に諭された言葉を思い出しながら、厳しく告げた。
「『敬意』とは、相手のために自ら汗をかき、心を砕くことだ。……エリザ、貴様自身が動かねば意味が無いのだ」
「私が……動く……?」
「そうだ。他人の力で手に入れた虚飾の宝など捨て置け。……裸の自分に何ができるか、考えて出直して参れ」
レオナはそれだけ言うと、踵(きびす)を返して去っていった。
廊下には、エリザだけが残された。
「……う、うぅ……」
重い、重い宝物。
それは今や、彼女のプライドという名の重石(おもし)でしかなかった。
エリザはふらつく足で立ち上がり、宝を引きずりながら、逃げるように王宮を後にした。
「覚えていなさい……! このままでは終わらないわよ……!」
その捨て台詞には、以前のような傲慢さはなく、どこか悲痛な響きが混じっていた。
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