50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一

文字の大きさ
7 / 19

EP 7

しおりを挟む
スパイスの香りと、鬼神の拳
「やっちまえ! 鍋をひっくり返せ!」
 悪徳商人ガメツの号令と共に、十数人の護衛たちが剣や棍棒を振りかざして殺到する。
 市民たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う――はずだった。
「……遅ぇよ、雑魚ども」
 低い呟きと共に、龍魔呂(たつまろ)の姿が掻き消えた。
 否、速すぎて常人の目には消えたように映ったのだ。
 ドンッ!
 先頭を走っていた大柄な男が、何かにぶつかったように宙を舞い、背後の仲間を巻き込んで派手に転倒した。
 その中心には、赤黒い闘気を湯気のように立ち昇らせる龍魔呂が、無造作に立っていた。
「な、なんだコイツは!?」
「囲め! 殺せ!」
 三方向から剣が迫る。
 だが、龍魔呂はポケットから角砂糖を一粒取り出し、ポイと口に放り込む余裕すら見せた。
 ガリッ。
 その音が、処刑開始のゴングだった。
 龍魔呂は、迫る剣の腹を素手で叩いて軌道を逸らすと、ガラ空きになった男の脇腹へ、軽く拳を打ち込んだ。
「鬼神流・『徹(とお)し』」
 ドムッ、と鈍い音が響く。
 鎧の上からの打撃。表面には傷一つない。
 だが次の瞬間、男は白目を剥き、口から泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
 衝撃を内部に浸透させ、内臓を揺らす絶技だ。
「ヒッ……!? 妖術か!?」
「ビビんな! 数で押せ!」
 残りの連中がパニックになりながら突っ込んでくる。
 だが、今の龍魔呂には、坂上から与えられた「首輪(オーダー)」があった。
(……チッ。『殺すな』だったか。面倒くせぇ)
 彼は舌打ちしながらも、急所(延髄や心臓)を避け、関節や武器を持つ手首だけを的確に破壊していく。
 それは戦闘というより、作業(タスク)に近かった。
 一方、後方では――。
「ええい! あっちの鍋を狙え! 魔法使いと商人を殺せ!」
 ガメツの指示で、別動隊がルナとニャングルに矢を放った。
「ヒィィッ! 矢ぁ! 矢が来ましたでぇ!?」
「あら、危ないわ!」
 ルナが杖を振るう。
「『大地の壁(アース・ウォール)』!」
 ズゴゴゴゴッ!
 地面が隆起し、分厚い土の壁が出現して矢を弾き返す。
 だが、その壁は勢い余って広場の出口まで完全に塞いでしまった。
「ルナ! 出口まで塞いでどうする! 客が逃げられないだろう!」
 坂上の怒号が飛ぶ。
「えっ? ごめんなさい! 『崩れろ(ブレイク)』!」
 今度は壁が一瞬で砂になって崩れ落ち、その砂煙が敵に襲いかかる。
 視界を奪われ、咳き込む護衛たち。
 そこへ、優雅な執事服の影が滑り込む。
「ゴホッ、なんだ……うわっ!?」
 ネギオの腕が緑色の蔦(つた)に変形し、敵の足を絡め取る。
 そのまま宙吊りにし、遠心力で次々と投げ飛ばした。
「当店のランチタイムは騒々しいのが苦手でして。お引取りを」
 完全なる防衛戦。
 坂上は、PXで購入した**『メガホン』**を片手に、戦場全体を俯瞰していた。
「龍魔呂、深追いはするな! 3時の方向、リーダー格が逃げようとしているぞ」
「……あ?」
 龍魔呂が視線を向けると、形勢不利と見たガメツが、混乱に乗じて路地裏へ逃げ込もうとしていた。
「逃がすかよ、豚野郎」
 龍魔呂が地面を蹴る。
 一瞬で距離を詰め、ガメツの襟首を掴み上げると、軽々と片手で持ち上げた。
「ひ、ひぃぃ! 助けてくれ! 金なら払う! 倍だ、いや三倍払う!」
 ガメツが小刻みに震えながら喚く。
 その醜悪な顔を見て、龍魔呂の瞳から理性の光が消えかける。
 コイツは、子供たちを飢えさせた元凶だ。ここで握り潰せば、どんなに清々するだろうか。
 赤黒い闘気が、指先に集中する。
「……テメェの金なんぞ要らねぇ。その命で償え」
 龍魔呂が拳を振り上げた、その時。
「待て、龍魔呂」
 背後から、坂上の静かな声が届いた。
 龍魔呂の拳が、ガメツの鼻先数センチでピタリと止まる。
「……止めるなよ、オッサン。こいつは生かしておけねぇ」
「殺せばただの殺戮だ。……それに、こいつにはまだ利用価値がある」
 坂上がゆっくりと歩み寄ってくる。
 その手には、まだ湯気の立つカレー皿があった。
 彼はガメツの前に立つと、冷徹な艦長の眼差しで見下ろした。
「ブラックドッグ商会と言ったか。……お前たちの独占業務はこれにて終了だ」
 坂上は龍魔呂に目配せをする。
 龍魔呂は「チッ」と舌打ちをして、ガメツをゴミのように地面に放り投げた。
「さて、ニャングル」
「へ、へいっ! ここにおります!」
 算盤を抱えたニャングルが、揉み手をしながら現れた。
「こいつらが暴れたせいで、今日の売上が台無しだ。……損害賠償を請求しろ」
「お任せおきを! 慰謝料、営業妨害、精神的苦痛、鍋の再加熱費用……きっちり『市場価格』で請求させてもらいますわ!」
 ニャングルがニタニタと笑いながら電卓(算盤)を弾き始める。その音が、ガメツには死刑宣告のように聞こえた。
 広場には、倒れ伏す護衛たちと、呆然とする市民たちが残された。
 坂上はメガホンを持ち直し、市民たちに向かって声を張り上げた。
「お騒がせした! ……カレーの販売を再開する! 子供と老人は優先だ、並べ!」
 一瞬の静寂の後、市民たちから「うおおおお!」という歓声が上がった。
 悪徳商人が倒されたカタルシスと、カレーの香りが、彼らの生きる力を呼び覚ましたのだ。
 ◇
 その夜。
 ガメツの屋敷の一室を「接収」した坂上一行は、縛り上げたガメツを尋問していた。
 尋問官は龍魔呂。彼の指の関節を鳴らす音だけで、ガメツは全てを吐いた。
「そ、そうなんだ! 街道を封鎖している盗賊団『赤鴉(レッド・クロウ)』と手を組んでいた! 俺が街の食料を買い占め、奴らが外からの供給を断つ! 利益は折半だ!」
「……クズが」
 龍魔呂が吐き捨てる。
 坂上はコーヒー(ブラック)を飲みながら、地図を広げた。
「敵の規模は?」
「よ、40……いや50人くらいだ! 元傭兵崩れもいて、砦を築いている!」
 50人の武装集団。
 対してこちらは、指揮官1、狂犬1、天然1、執事1、商人1。
 戦力比は10対1。
「ダンナ、これは無理でっせ。兵糧攻めを解除するには、あの砦を潰さんとあきまへん」
「正面からやり合えば、数の暴力で押し潰されるな」
 坂上は地図上の「砦」の位置を指でなぞった。
 険しい山道に作られた、天然の要害。攻めるに難く、守るに易い。
「……だが、やりようはある」
 坂上の瞳が、怪しく光った。
 それは、かつて演習で「戦力差を覆す奇策」を練っていた時の、悪戯っ子のような、しかし冷徹な策士の目だった。
「ルナ。お前、明日の天気は分かるか?」
「うん! 明日はとってもいい天気! お洗濯日和だよ!」
「そうか。……なら、雨を降らせることはできるか?」
「え? できるけど……広範囲だと疲れちゃうよ?」
「そこだけでいい」
 坂上は、PXのウィンドウを開いた。
 検索カテゴリ【日用品・雑貨】ではなく、【工具・資材】のページへ。
 
「龍魔呂、明日は忙しくなるぞ。……お前の腕力が必要だ」
「……また変なことを思いついた顔をしてやがる」
「ああ。『水攻め』と『兵糧攻め』の逆襲だ。……現代の物量(ロジスティクス)の恐ろしさを、盗賊共に教えてやる」
 坂上が購入ボタンを押したのは、大量の『ブルーシート』と、『業務用の強力接着剤』、そして『大量の七味唐辛子』だった。
 最強部隊による、盗賊団殲滅作戦。
 その作戦名は――『オペレーション・激辛レイン』。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...