50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一

文字の大きさ
11 / 19

EP 11

しおりを挟む
噂の「激辛部隊」と、白銀の若造たち
 山賊砦の攻略から数日が経過し、商業都市コルムには平穏と活気が戻っていた。
 だが、その平和とは裏腹に、人材ギルドの酒場では、ある奇妙な噂がまことしやかに囁かれていた。
「おい、聞いたか? あの『赤鴉』の砦をたった数人で潰した連中の話」
「ああ。『空から激辛の雨を降らせた』ってやつだろ? 嘘くせぇ」
「いや、本当らしいぞ。生き残った山賊が『目が、目がぁぁ!』って泣き叫んでたって話だ」
「なんだそりゃ。悪魔の所業かよ……」
 カウンターの隅でその噂を聞きながら、坂上真一は深くため息をつき、冷めたコーヒーをすすった。
「……悪魔の所業、か。人聞きが悪い」
「ヒャハハ! ええ宣伝文句やないですか。おかげで『激辛スパイス』の相場が爆上がりしてまっせ!」
 向かいの席で、ニャングルがニヤニヤしながら金貨を積み上げている。
 この数日、彼の懐は暖まりっぱなしだ。坂上がPXで仕入れた物資を適切なタイミングで市場に流し、コルムの経済を完全に掌握しつつある。
「……オッサン。俺たち、賞金首にでもなったのか?」
 龍魔呂が不機嫌そうに頬杖をつく。
 彼が睨みを利かせているおかげで、周囲の冒険者たちは遠巻きに見ているだけで、誰も話しかけてこない。
「有名税というやつだ。気にしなくていい」
 坂上がなだめていると、ギルドの受付嬢が小走りでやってきた。
 以前の塩対応とは打って変わり、今は満面の営業スマイルだ。
「サカガミ様! ご指名の依頼(クエスト)が入っております!」
「指名? 我々に?」
「はい! コルム近郊で見つかった未踏破ダンジョン『碧水晶(へきすいしょう)の洞窟』の調査依頼です。内部のマッピングと、資源サンプルの確保をお願いしたく……」
 未踏破ダンジョン。
 それは冒険者にとって、一攫千金のチャンスであり、死と隣り合わせの危険地帯だ。
「マッピングか。……悪くない」
「洞窟……ということは、お宝があるのね!?」
 ルナが目を輝かせ、ネギオが冷静に補足する。
 
「お嬢様、未踏破ということは整備されていない悪路です。ドレスが汚れますよ」
「えー、じゃあネギオがおんぶして!」
 相変わらずの緩い空気。
 坂上が依頼書を受け取ろうとした、その時だった。
「おいおい、受付ちゃん。冗談だろ?」
 入り口の方から、キザな声が響いた。
 ジャラジャラと金属音をさせて入ってきたのは、揃いの白銀の鎧に身を包んだ、若い男女の4人組だった。
 顔立ちは良く、装備も上等。いかにも「王道のエリート」といった風情だ。
「そんな重要任務、そのへんの『シルバー人材(ロートル)』に任せていいのかい?」
 リーダー格と思われる金髪の剣士が、嘲笑を浮かべて坂上たちを見下ろした。
 胸には、Aランク昇格間近を示す金のバッジが輝いている。
「あ、アルヴィス様! いえ、これはギルドマスターの判断で……」
「ハッ! 噂は聞いてるぜ。『唐辛子』を使ってコソコソ山賊を追い払った色物部隊だろ?」
 アルヴィスと呼ばれた男は、坂上の目の前まで歩み寄ると、大袈裟に肩をすくめた。
「俺たち『白銀の剣』は、王都から派遣された正規の精鋭だ。正々堂々の剣技と魔法で戦う俺たちと違って、おじいちゃん達は随分と『セコい』戦い方がお好きらしいな」
 その瞬間。
 酒場の空気が凍りついた。
 ガリッ……
 龍魔呂が、口の中の角砂糖を噛み砕いた音だ。
 彼がゆっくりと立ち上がる。パーカーのフードの下から、隠しきれない殺気が漏れ出す。
「……あ? 今なんつった? 若造」
「おっと、怖い怖い。狂犬も飼い慣らせてないのか?」
 アルヴィスは余裕の笑みで腰の剣に手をかけた。後ろの魔術師の女も杖を構える。
「アンタらみたいな『残り物』の集まりが、ダンジョンの最深部まで行けると思ってんのか? 足手まといなんだよ。……ゲートキーパー(荷物持ち)でもしてな」
 明確な侮辱。
 龍魔呂の右手の指輪が赤く発光する。
 ルナも「ムッ」として杖を握りしめた。
 一触即発。
 だが、坂上は眉一つ動かさず、静かにコーヒーカップを置いた。
「……龍魔呂、座れ」
「オッサン! こいつら、ナメてんぞ!」
「座れと言っている」
 短く、しかし絶対的な命令。
 龍魔呂はギリッと歯噛みしたが、不承不承ドカッと椅子に座り直した。
 坂上は立ち上がり、アルヴィスと視線を合わせた。
 激昂するでもなく、卑屈になるでもない。ただ、駄々をこねる子供を見るような、大人の冷めた瞳だ。
「……先行権は譲ろう」
「は?」
「君たちが先に行けと言っている。我々は後方から、地図の作成と残敵処理を行う。……それでいいだろう?」
 それは、実質的な「譲歩」に見えた。
 アルヴィスは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「ハッ! 賢明な判断だ。最初からそうやって老人ホームに引っ込んでりゃいいんだよ。行こうぜ、みんな! お宝は俺たちの総取りだ!」
 『白銀の剣』の一行は、高笑いを残してギルドを出て行った。
 残されたテーブルには、重い沈黙が落ちる。
 龍魔呂がテーブルを拳で叩いた。
「……なんで止めた、オッサン。あんな奴ら、3秒ありゃミンチにできたぞ」
「喧嘩を買うのは簡単だ。だが、利益がない」
 坂上はPXウィンドウを開きながら、淡々と言った。
「彼らは『先行偵察部隊(捨て駒)』を志願してくれたんだ。感謝こそすれ、怒る理由はない」
「……へ?」
「未踏破ダンジョンだぞ? 罠の有無、魔物の配置、地形……先頭を行くリスクは計り知れない。それを彼らが引き受けてくれる」
 坂上はニヤリと笑った。
「それに……『暗闇』を甘く見ているようだったな」
 アルヴィスたちの装備には、大量の「松明(たいまつ)」が含まれていた。
 通気性の悪い地下洞窟で、煙の出る松明を頼りに進むことが、どれほどのデバフ(悪影響)になるか、若きエリートたちはまだ知らない。
「我々は『文明の利器』で、安全かつ迅速に攻略する。……彼らが泣き叫ぶ頃に、後ろから追い抜けばいい」
 坂上は購入ボタンを押した。
 虚空から現れたのは、4人分の『高輝度LEDヘッドライト(予備電池付き)』と、『登山用チョーク』、そして通信用の『トランシーバー』だった。
「総員、装備を換装せよ。……これより、『大人のダンジョン攻略』を教示してやる」
 坂上の策士ぶりに、ニャングルがゾッとしたように、しかし嬉しそうに呟いた。
「……敵に回さんでよかったわ。あの若造ども、可哀想に……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...