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EP 13
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無線機(トランシーバー)の衝撃
『碧水晶の洞窟』中層エリア。
ここは複雑な迷路構造になっており、多くの冒険者が方向感覚を失い、遭難する難所として知られている。
坂上たちの前には、左右に分かれる巨大な分岐路が現れた。
「……地図(マッピング)作成のためには、両方のルートを確認する必要があるな」
坂上がタブレットの画面を見ながら呟く。
そこへ、息を切らせた『白銀の剣』のパーティが追いついてきた。
彼らはLEDの残光を頼りに必死でついてきたのだ。プライドだけは立派である。
「はぁ、はぁ……! 待てよ老人たち! 俺たちを置いてくな!」
「追いついたか。ちょうどいい、ここからは二手に分かれるぞ」
坂上の言葉に、リーダーのアルヴィスが鼻を鳴らした。
「フン、やっとまともな提案か。いいだろう、俺たちが右を行く。お前らは左だ。……何かあったら大声で叫べよ? 助けに行ってやるからな」
「大声、か」
坂上は呆れたように眉を上げた。
洞窟内で大声を出すリスクを、このエリートたちは理解していない。声は反響して位置を特定しにくくし、聴覚の鋭い魔物を呼び寄せるゴングにしかならない。
「忠告しておくが、連携(リンク)を密に取れよ」
「言われなくても分かってるさ! 行くぞお前ら! 右ルート制圧だ!」
アルヴィスたちは松明を掲げ、右の通路へと消えていった。
直後、「おーい! 先行班、何かあるかー!?」という馬鹿でかい声が反響して聞こえてくる。
「……やれやれ。反面教師としては優秀だな」
坂上は首を振り、PXウィンドウを開いた。
今回購入するのは、現代戦において最も基本的かつ重要なツールだ。
『特定小電力トランシーバー(イヤホンマイク付き・4台セット)』
「総員、これを耳に装着しろ。腰の本体とコードで繋ぐんだ」
「なんやこれ? 黒い耳飾りでっか?」
「カッコイイ! 司令官ごっこだね!」
全員が装着し、チャンネルを合わせる。
「……マイクテスト。感度良好。聞こえるか?」
坂上が小声で囁くと、全員の耳元に、ノイズ交じりの、しかし鮮明な坂上の声が直接響いた。
「「「!?!?」」」
全員がビクリと跳ね上がる。
ルナがキョロキョロと辺りを見回す。
「えっ!? 坂上さんの声が頭の中に!? テレパシー!?」
「すげぇ……オッサンがすぐ隣で喋ってるみてぇだ」
「こ、これは高位の『念話(テレパス)』の魔道具と同じ効果だすか!? いったいいくらするんでっか!?」
ニャングルが震える手でトランシーバーを拝んでいる。この世界で同様の効果を持つ魔道具は、国家予算レベルの超高級品だ。
「ただの無線機だ。……いいか、これからは無駄口を叩くな。必要な情報だけを短く伝えろ」
坂上はハンドサインを送り、部隊を二つに分けた。
龍魔呂とネギオが先行(スカウト)。坂上、ルナ、ニャングルが後方待機だ。
「龍魔呂、状況を送れ」
『……こちら龍魔呂。前方50メートル、曲がり角の先に気配あり。数は2。おそらくリザードマンだ』
龍魔呂の声が、クリアに届く。姿は見えないが、状況が手に取るように分かる。
「了解(ラジャー)。ネギオと挟撃しろ。音を立てるなよ」
『御意。……処理完了(クリア)。秒殺です』
ネギオの冷静な報告。
連携がスムーズすぎて、もはや恐怖すら感じるレベルだ。
大声で叫ぶ必要もない。暗闇の中で、彼らは無言のまま、完璧な殺戮マシーンとして機能していた。
◇
一方、右ルートを進んだ『白銀の剣』は地獄を見ていた。
「おーい! そっちはどうだー!?」
「何もねぇよ! ……うわっ!? 敵だ!?」
アルヴィスの叫び声に反応して、天井から岩トカゲ(ロック・リザード)が落下してきたのだ。
反響音のせいで、仲間の警告も聞こえない。
「なに言ってるか分かんねぇよ! 助けろ!」
「ギャアアア! こっちにも来た!」
情報が錯綜し、パニック連鎖(スパイラル)に陥る。
狭い通路で剣を振り回し、同士討ち寸前の大乱戦。
「くそっ! 左ルートの老人たちを呼べ! 救援要請だ!」
「聞こえるわけないでしょ! こんなに離れてるのに!」
彼らは孤立無援の暗闇で、消耗していった。
◇
数十分後。
左右のルートが合流する広間で、両チームが再び顔を合わせた。
坂上チームは、汗一つかいていない。
龍魔呂が退屈そうに欠伸をし、ルナが拾った水晶を眺めている。
対するアルヴィスたちは、鎧がボロボロで、全員が肩で息をしていた。
生傷が絶えず、目は血走っている。
「はぁ……はぁ……! な、なんで……お前らは無傷なんだ……!?」
アルヴィスが信じられないものを見る目で坂上を睨む。
あれだけ離れていたのに、彼らの連携は完璧だった。まるで全員が糸で繋がっているかのように。
「……簡単なことだ」
坂上は耳元のイヤホンを指差して見せた。
「情報の速度が違う。……君たちが大声で喉を枯らしている間に、我々は音速で会話をしていただけだ」
「お、音速……!? まさか、その黒い耳飾りは……伝説の『遠話のピアス』!?」
エリートたちが驚愕に目を見開く。
あんな国宝級のアイテムを、人数分揃えているのか?
この老人、一体どこの大国の密偵なんだ!?
坂上はニヤリと笑い、ニャングルに目配せした。
「……さて、ニャングル。彼らは随分と消耗しているようだ。ポーションの在庫はどうだ?」
「へっへっへ。もちろんありまっせ。……ただし、ダンジョン内特別価格(定価の5倍)になりますけどなぁ?」
ニャングルが算盤をチャキッと鳴らす。
アルヴィスたちは屈辱に顔を歪めながらも、背に腹は代えられず、財布の紐を緩めるしかなかった。
情報格差は、戦力格差。
坂上真一の持ち込んだ「現代の通信技術」は、個々の武力を超える最強の武器として、ダンジョン攻略を加速させていく。
『碧水晶の洞窟』中層エリア。
ここは複雑な迷路構造になっており、多くの冒険者が方向感覚を失い、遭難する難所として知られている。
坂上たちの前には、左右に分かれる巨大な分岐路が現れた。
「……地図(マッピング)作成のためには、両方のルートを確認する必要があるな」
坂上がタブレットの画面を見ながら呟く。
そこへ、息を切らせた『白銀の剣』のパーティが追いついてきた。
彼らはLEDの残光を頼りに必死でついてきたのだ。プライドだけは立派である。
「はぁ、はぁ……! 待てよ老人たち! 俺たちを置いてくな!」
「追いついたか。ちょうどいい、ここからは二手に分かれるぞ」
坂上の言葉に、リーダーのアルヴィスが鼻を鳴らした。
「フン、やっとまともな提案か。いいだろう、俺たちが右を行く。お前らは左だ。……何かあったら大声で叫べよ? 助けに行ってやるからな」
「大声、か」
坂上は呆れたように眉を上げた。
洞窟内で大声を出すリスクを、このエリートたちは理解していない。声は反響して位置を特定しにくくし、聴覚の鋭い魔物を呼び寄せるゴングにしかならない。
「忠告しておくが、連携(リンク)を密に取れよ」
「言われなくても分かってるさ! 行くぞお前ら! 右ルート制圧だ!」
アルヴィスたちは松明を掲げ、右の通路へと消えていった。
直後、「おーい! 先行班、何かあるかー!?」という馬鹿でかい声が反響して聞こえてくる。
「……やれやれ。反面教師としては優秀だな」
坂上は首を振り、PXウィンドウを開いた。
今回購入するのは、現代戦において最も基本的かつ重要なツールだ。
『特定小電力トランシーバー(イヤホンマイク付き・4台セット)』
「総員、これを耳に装着しろ。腰の本体とコードで繋ぐんだ」
「なんやこれ? 黒い耳飾りでっか?」
「カッコイイ! 司令官ごっこだね!」
全員が装着し、チャンネルを合わせる。
「……マイクテスト。感度良好。聞こえるか?」
坂上が小声で囁くと、全員の耳元に、ノイズ交じりの、しかし鮮明な坂上の声が直接響いた。
「「「!?!?」」」
全員がビクリと跳ね上がる。
ルナがキョロキョロと辺りを見回す。
「えっ!? 坂上さんの声が頭の中に!? テレパシー!?」
「すげぇ……オッサンがすぐ隣で喋ってるみてぇだ」
「こ、これは高位の『念話(テレパス)』の魔道具と同じ効果だすか!? いったいいくらするんでっか!?」
ニャングルが震える手でトランシーバーを拝んでいる。この世界で同様の効果を持つ魔道具は、国家予算レベルの超高級品だ。
「ただの無線機だ。……いいか、これからは無駄口を叩くな。必要な情報だけを短く伝えろ」
坂上はハンドサインを送り、部隊を二つに分けた。
龍魔呂とネギオが先行(スカウト)。坂上、ルナ、ニャングルが後方待機だ。
「龍魔呂、状況を送れ」
『……こちら龍魔呂。前方50メートル、曲がり角の先に気配あり。数は2。おそらくリザードマンだ』
龍魔呂の声が、クリアに届く。姿は見えないが、状況が手に取るように分かる。
「了解(ラジャー)。ネギオと挟撃しろ。音を立てるなよ」
『御意。……処理完了(クリア)。秒殺です』
ネギオの冷静な報告。
連携がスムーズすぎて、もはや恐怖すら感じるレベルだ。
大声で叫ぶ必要もない。暗闇の中で、彼らは無言のまま、完璧な殺戮マシーンとして機能していた。
◇
一方、右ルートを進んだ『白銀の剣』は地獄を見ていた。
「おーい! そっちはどうだー!?」
「何もねぇよ! ……うわっ!? 敵だ!?」
アルヴィスの叫び声に反応して、天井から岩トカゲ(ロック・リザード)が落下してきたのだ。
反響音のせいで、仲間の警告も聞こえない。
「なに言ってるか分かんねぇよ! 助けろ!」
「ギャアアア! こっちにも来た!」
情報が錯綜し、パニック連鎖(スパイラル)に陥る。
狭い通路で剣を振り回し、同士討ち寸前の大乱戦。
「くそっ! 左ルートの老人たちを呼べ! 救援要請だ!」
「聞こえるわけないでしょ! こんなに離れてるのに!」
彼らは孤立無援の暗闇で、消耗していった。
◇
数十分後。
左右のルートが合流する広間で、両チームが再び顔を合わせた。
坂上チームは、汗一つかいていない。
龍魔呂が退屈そうに欠伸をし、ルナが拾った水晶を眺めている。
対するアルヴィスたちは、鎧がボロボロで、全員が肩で息をしていた。
生傷が絶えず、目は血走っている。
「はぁ……はぁ……! な、なんで……お前らは無傷なんだ……!?」
アルヴィスが信じられないものを見る目で坂上を睨む。
あれだけ離れていたのに、彼らの連携は完璧だった。まるで全員が糸で繋がっているかのように。
「……簡単なことだ」
坂上は耳元のイヤホンを指差して見せた。
「情報の速度が違う。……君たちが大声で喉を枯らしている間に、我々は音速で会話をしていただけだ」
「お、音速……!? まさか、その黒い耳飾りは……伝説の『遠話のピアス』!?」
エリートたちが驚愕に目を見開く。
あんな国宝級のアイテムを、人数分揃えているのか?
この老人、一体どこの大国の密偵なんだ!?
坂上はニヤリと笑い、ニャングルに目配せした。
「……さて、ニャングル。彼らは随分と消耗しているようだ。ポーションの在庫はどうだ?」
「へっへっへ。もちろんありまっせ。……ただし、ダンジョン内特別価格(定価の5倍)になりますけどなぁ?」
ニャングルが算盤をチャキッと鳴らす。
アルヴィスたちは屈辱に顔を歪めながらも、背に腹は代えられず、財布の紐を緩めるしかなかった。
情報格差は、戦力格差。
坂上真一の持ち込んだ「現代の通信技術」は、個々の武力を超える最強の武器として、ダンジョン攻略を加速させていく。
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