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第二章 邪と天然と鬼の温泉地
EP 3
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鬼神、農場に立つ~最強のバーテンダーと耕す者~
それは、ただの偶然ではなかった。
世界の因果律を管理する女神ルチアナですら制御できない、「強すぎる異物」を呼ぶ強い魔力の波動。
その因果に引かれ、鬼神龍魔呂(きしん たつまろ)はアナスタシア世界へと辿り着いた。
彼は黒を基調としたジャケットを翻し、農場の入り口に静かに立つ。
その双眸は冷たく、この地を品定めしていた。
「さて……凶が出るか。邪が出るか。何にせよ、悪が出たら、処刑だ」
彼の流儀に、カタギの者はいない。だが、この地の平和はあまりにも異様だった。
龍魔呂は畑を見た。
一分の隙もない畝(うね)。活き活きと実る作物。その土壌からは、神に祝福されたような生命力があふれている。
「ほお……よく育ててある」
龍魔呂の脳裏に、幼い弟ユウのために、独学で野菜を育てていた貧しい日々が蘇る。
「俺も昔は土いじりをしたものだ」
†
だが、その静寂はすぐに破られた。
庭の警備をしていた狼王フェンリルが、侵入者の凄まじい闘気に気づき、即座に身構えたからだ。
「待ちな! テメェは誰だァ!」
フェンリルは構える間もなく、瞬時に自己の氷狼分身を五体生成し、周囲を取り囲ませる。
同時に、縁側で昼寝をしていたポチ(始祖竜)が、ギロッと目を開けた。
「ぐるるる……(生半可な相手じゃねぇな……)」
ポチの本能が警鐘を鳴らしている。
目の前の人間は、自分やデューク、ラスティアと同格、あるいはそれを超える「絶対強者」の臭いがする。
龍魔呂は無表情で、警戒の構えを取る最強の番犬とペットを一瞥した。
「何だ? お前らは」
その言葉には、一切の感情がなかった。
「このシマは俺の縄張りでね! 侵入者は躾(しつけ)が必要だぜ!」
フェンリルは闘志を燃やし、一歩踏み出した。
ポチは尻尾を叩きつけ、口元に『終焉のブレス』を凝縮し始める。
龍魔呂はため息をついた。
(面倒だ。殺気がない分、余計に面倒な奴らだ)
フェンリルは待てない。
「遊んでやるよ!」
狼王は『絶対零度ブレス』を放った。極限の冷気が空間を凍らせながら、龍魔呂へと一直線に襲いかかる。
同時に、ポチも迎撃として同種の『ゼロ・ブレス』を吐き、空間で激突。冷気同士が相殺され、農場には白い霧が充満した。
しかし、その霧の中。
龍魔呂は動じない。
彼は右手の指に闘気の指輪を装着すると、全身に赤黒い闘気を纏わせた。
バリバリバリ!!
闘気は、空間を歪ませながら、ポチとフェンリルのブレスの余波を、たった一発の拳で跳ね飛ばした。
ドォンッ!
ブレスは明後日の空へ消える。
ポチとフェンリルは、その余波で吹き飛ばされそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「ぐるるる……(やるなぁ……楽しくなってきた)」
ポチは殺気を漲らせた。久々に本気で遊べる相手だと。
フェンリルも興奮で銀色の毛を逆立てた。
「ヒャハハ! マジモンかよ! ガチ勢大好物ぅ!」
二匹(二柱)が再び突撃しようとした、その瞬間だった。
「――何を、してるの~?」
のんきで、場違いで、間の抜けた声が響いた。
畑の中から現れたのは、麦わら帽子を被った農夫――カイトだ。
「僕の畑で、また激しく遊んでるの? 収穫に影響が出ちゃうじゃないか」
カイトは鍬を担ぎ、不機嫌そうな顔でポチとフェンリルを見た。
戦闘狂二匹は、主人の(または家主の)言葉に、ビクッと動きを止める。
そして、龍魔呂の方を見た。
「ん? 何だお前は?」
龍魔呂は拳を下げた。殺気も闘気も霧散させる。
この男の気配は、他の神々や王たちとは違う。どこまでも穏やかで、静かだ。
「僕はカイトです。この農園の管理者みたいな者です」
「管理者……」
龍魔呂はカイトを頭からつま先まで観察した。
武力E。魔力F。……しかし、その背中には、世界最強の獣たちを従える、揺るぎない「中心軸」が見えた。
「そうか。ここは良い農園だな」
龍魔呂の視線は、カイトの背後に生えているサトウキビの畑に移った。
「そのサトウキビは特に」
彼は懐かしむように、サトウキビの茎を一本、無造作に折った。
そして、冷たい瞳のまま、それを口に含む。
「……頂こう」
「美味しいですか?」
カイトは緊張など微塵もなく、無邪気に尋ねた。
「まぁまぁ、だな。だが、土の配合を変えるべきだ」
「え?」
龍魔呂は口の中でサトウキビを噛み砕きながら、静かに指摘を始めた。
「この地は鉄分が不足し、カルシウムが過多。茎が太くなる代わりに、糖度の上昇が頭打ちになっている。本来なら、さらに二割は甘くなるはずだ」
「つ、土の配合……!?」
カイトは驚愕した。
「肥料はどうしてある?」
「は、はい。トライバードの糞を、牛骨粉と混ぜて……」
「成る程。比率を変えるべきだな。豚骨……いや、牛骨粉の量を減らし、発酵させた木灰を混ぜる。そうすれば、リン酸が不足せず、糖度が上がる」
「!?」
カイトは目を見開いた。
この男、素人ではない。まるで熟練の農学者のような口ぶりだ。
「僕より詳しい! あなたは一体……!」
俺の畑を瞬時に見抜いた、この冷酷な強者は何者なのか。
龍魔呂は、カイトの驚きを意に介さず、サトウキビをしゃぶり続けた。
「……昔取った杵柄(きねづか)、というやつだ」
そう呟いた龍魔呂の横顔は、数分前まで最強の神獣と殺し合いをしていた冷酷な鬼神ではなく、ただの「土を愛する職人」の顔をしていた。
こうして、龍魔呂の農場への滞在が決定した。
カイトは彼を「農業に詳しい料理人」だと認識した。
ポチとフェンリルは「危険だが、最高の遊び相手」だと認識した。
そして龍魔呂は、この農場を「己の心と体を癒やす唯一の安息の地」だと悟ったのである。
それは、ただの偶然ではなかった。
世界の因果律を管理する女神ルチアナですら制御できない、「強すぎる異物」を呼ぶ強い魔力の波動。
その因果に引かれ、鬼神龍魔呂(きしん たつまろ)はアナスタシア世界へと辿り着いた。
彼は黒を基調としたジャケットを翻し、農場の入り口に静かに立つ。
その双眸は冷たく、この地を品定めしていた。
「さて……凶が出るか。邪が出るか。何にせよ、悪が出たら、処刑だ」
彼の流儀に、カタギの者はいない。だが、この地の平和はあまりにも異様だった。
龍魔呂は畑を見た。
一分の隙もない畝(うね)。活き活きと実る作物。その土壌からは、神に祝福されたような生命力があふれている。
「ほお……よく育ててある」
龍魔呂の脳裏に、幼い弟ユウのために、独学で野菜を育てていた貧しい日々が蘇る。
「俺も昔は土いじりをしたものだ」
†
だが、その静寂はすぐに破られた。
庭の警備をしていた狼王フェンリルが、侵入者の凄まじい闘気に気づき、即座に身構えたからだ。
「待ちな! テメェは誰だァ!」
フェンリルは構える間もなく、瞬時に自己の氷狼分身を五体生成し、周囲を取り囲ませる。
同時に、縁側で昼寝をしていたポチ(始祖竜)が、ギロッと目を開けた。
「ぐるるる……(生半可な相手じゃねぇな……)」
ポチの本能が警鐘を鳴らしている。
目の前の人間は、自分やデューク、ラスティアと同格、あるいはそれを超える「絶対強者」の臭いがする。
龍魔呂は無表情で、警戒の構えを取る最強の番犬とペットを一瞥した。
「何だ? お前らは」
その言葉には、一切の感情がなかった。
「このシマは俺の縄張りでね! 侵入者は躾(しつけ)が必要だぜ!」
フェンリルは闘志を燃やし、一歩踏み出した。
ポチは尻尾を叩きつけ、口元に『終焉のブレス』を凝縮し始める。
龍魔呂はため息をついた。
(面倒だ。殺気がない分、余計に面倒な奴らだ)
フェンリルは待てない。
「遊んでやるよ!」
狼王は『絶対零度ブレス』を放った。極限の冷気が空間を凍らせながら、龍魔呂へと一直線に襲いかかる。
同時に、ポチも迎撃として同種の『ゼロ・ブレス』を吐き、空間で激突。冷気同士が相殺され、農場には白い霧が充満した。
しかし、その霧の中。
龍魔呂は動じない。
彼は右手の指に闘気の指輪を装着すると、全身に赤黒い闘気を纏わせた。
バリバリバリ!!
闘気は、空間を歪ませながら、ポチとフェンリルのブレスの余波を、たった一発の拳で跳ね飛ばした。
ドォンッ!
ブレスは明後日の空へ消える。
ポチとフェンリルは、その余波で吹き飛ばされそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「ぐるるる……(やるなぁ……楽しくなってきた)」
ポチは殺気を漲らせた。久々に本気で遊べる相手だと。
フェンリルも興奮で銀色の毛を逆立てた。
「ヒャハハ! マジモンかよ! ガチ勢大好物ぅ!」
二匹(二柱)が再び突撃しようとした、その瞬間だった。
「――何を、してるの~?」
のんきで、場違いで、間の抜けた声が響いた。
畑の中から現れたのは、麦わら帽子を被った農夫――カイトだ。
「僕の畑で、また激しく遊んでるの? 収穫に影響が出ちゃうじゃないか」
カイトは鍬を担ぎ、不機嫌そうな顔でポチとフェンリルを見た。
戦闘狂二匹は、主人の(または家主の)言葉に、ビクッと動きを止める。
そして、龍魔呂の方を見た。
「ん? 何だお前は?」
龍魔呂は拳を下げた。殺気も闘気も霧散させる。
この男の気配は、他の神々や王たちとは違う。どこまでも穏やかで、静かだ。
「僕はカイトです。この農園の管理者みたいな者です」
「管理者……」
龍魔呂はカイトを頭からつま先まで観察した。
武力E。魔力F。……しかし、その背中には、世界最強の獣たちを従える、揺るぎない「中心軸」が見えた。
「そうか。ここは良い農園だな」
龍魔呂の視線は、カイトの背後に生えているサトウキビの畑に移った。
「そのサトウキビは特に」
彼は懐かしむように、サトウキビの茎を一本、無造作に折った。
そして、冷たい瞳のまま、それを口に含む。
「……頂こう」
「美味しいですか?」
カイトは緊張など微塵もなく、無邪気に尋ねた。
「まぁまぁ、だな。だが、土の配合を変えるべきだ」
「え?」
龍魔呂は口の中でサトウキビを噛み砕きながら、静かに指摘を始めた。
「この地は鉄分が不足し、カルシウムが過多。茎が太くなる代わりに、糖度の上昇が頭打ちになっている。本来なら、さらに二割は甘くなるはずだ」
「つ、土の配合……!?」
カイトは驚愕した。
「肥料はどうしてある?」
「は、はい。トライバードの糞を、牛骨粉と混ぜて……」
「成る程。比率を変えるべきだな。豚骨……いや、牛骨粉の量を減らし、発酵させた木灰を混ぜる。そうすれば、リン酸が不足せず、糖度が上がる」
「!?」
カイトは目を見開いた。
この男、素人ではない。まるで熟練の農学者のような口ぶりだ。
「僕より詳しい! あなたは一体……!」
俺の畑を瞬時に見抜いた、この冷酷な強者は何者なのか。
龍魔呂は、カイトの驚きを意に介さず、サトウキビをしゃぶり続けた。
「……昔取った杵柄(きねづか)、というやつだ」
そう呟いた龍魔呂の横顔は、数分前まで最強の神獣と殺し合いをしていた冷酷な鬼神ではなく、ただの「土を愛する職人」の顔をしていた。
こうして、龍魔呂の農場への滞在が決定した。
カイトは彼を「農業に詳しい料理人」だと認識した。
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