田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第二章 邪と天然と鬼の温泉地

EP 4

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最強の男、角砂糖に泣く
 農場の畑で、カイトと龍魔呂は並んでサトウキビの収穫をしていた。
「……手際がいいな」
 龍魔呂が感心したように呟く。
 カイトは鍬(くわ)を置き、汗を拭った。
「そう? 龍魔呂さんこそ、鎌の使い方が達人級だよ。まるで、長年その道で生きてきたみたいだ」
「……人を刈るのと、草を刈るのは似たようなものだからな」
 龍魔呂はボソリと呟いたが、カイトには聞こえなかったようだ。
 カイトは収穫したサトウキビを束ねながら、嬉しそうに言った。
「実はさ、このサトウキビを使って、新しい調味料を作ってみたんだ。よかったら味見してくれる?」
 カイトはポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
 中に入っているのは、精製したばかりの純白の結晶。
 一辺1センチほどの、綺麗な**「角砂糖」**だった。
「角砂糖……」
 龍魔呂の目が、わずかに見開かれた。
 それは、彼が元の世界(日本)で最も愛し、そして最も辛い記憶と結びついている食べ物だったからだ。
「どうぞ。自信作なんだ」
 カイトが瓶から一つ取り出し、手のひらに乗せて差し出す。
 龍魔呂は震える指でそれを摘み上げた。
 太陽の光を浴びて、キラキラと輝く白い塊。
 彼はそれを口に放り込んだ。
 カリッ……。
 前歯で砕いた瞬間、濃厚で、それでいて優しい甘みが口いっぱいに広がった。
 疲れた脳髄に染み渡る、強烈な糖分。
 そして、その味は――鮮烈なフラッシュバックを引き起こした。
 『にいちゃん、あまいね!』
 弟のユウの声が聞こえた気がした。
 ゴミ捨て場のような貧民街で、盗んだ本で必死に勉強し、なけなしの金で買った角砂糖を二人で分け合った日々。
 ユウを守るために地下闘技場で血に塗れ、鬼となり、多くの命を奪ってきた日々。
 その果てに、守りたかった弟すら失い、復讐の鬼と化した孤独な夜。
 ずっと、口の中は血の味しかしなかった。
 世界は赤と黒の憎悪で塗り潰されていた。
 なのに、どうだ。
 この角砂糖は、あまりにも白く、甘く、温かい。
「――――」
 龍魔呂の冷酷な瞳から、一筋の雫が零れ落ちた。
 ポタリ、と足元の土を濡らす。
 自分でも気づかないうちに、涙が止まらなくなっていた。
「あ、あれ? 龍魔呂さん? もしかして虫歯だった!?」
 カイトが慌てて顔を覗き込む。
 最強の男が、たかが砂糖菓子一つで泣いているのだ。普通なら驚くだろう。
 だが、カイトは違った。彼は龍魔呂の涙を見て、優しく微笑んだ。
「……そっか。懐かしい味がしたんだね」
 その言葉に、龍魔呂はハッとした。
 この男には、見えているのか。俺の背負っている業や、血塗られた過去ではなく、ただの「ホームシックにかかった男」としての姿が。
「……ああ。懐かしいな。昔、弟と一緒に食べた味だ」
 龍魔呂は袖で乱暴に涙を拭った。
 憑き物が落ちたような顔だった。
 カイトは何も聞かず、ただ頷いた。
「龍魔呂さん。もし行くあてがないなら、ここにいない?」
「……俺にか?」
「うん。龍魔呂さん、料理も上手そうだし。実は、夜に大人がお酒を飲める場所がなくて困ってたんだ。龍魔呂さんが店を出してくれたら、みんな喜ぶと思うよ」
 店。
 昼は小料理屋、夜はBAR。かつて自分が日本で営んでいた、つかの間の安息の場所。
「……悪くない提案だ」
 龍魔呂はフッと笑った。
 その笑顔には、もう殺気はなかった。
「だが、俺の料理は高いぞ? それに、俺はカタギじゃない客も呼び寄せるかもしれん」
「ははは、うちは魔王とかドラゴンとか変な客ばっかりだから大丈夫だよ! それに、美味しいものには対価を払うのが当然でしょ?」
 カイトの能天気な言葉に、龍魔呂は肩の力を抜いた。
「分かった。雇われてやろう。……ただし、報酬は金じゃない」
 龍魔呂は空になったガラス瓶を指差した。
「この角砂糖だ。これを毎日、俺に寄越せ」
「え? そんなのでいいの?」
「ああ。それが今の俺には、どんな宝石よりも価値がある」
 †
 その夜。
 カイト農場の片隅にある、使われていなかったログハウスに、赤提灯ならぬシックな看板が掲げられた。
 【BAR 煉獄(Purgatory)】
 カウンターの中には、黒いベストに赤いネクタイを締めた龍魔呂が立っていた。
 シェイカーを振るその姿は、昼間の農夫とは別人のように洗練されている。
「いらっしゃいませ。……迷える子羊たちよ」
 ドアが開く。
 最初の客は、昼間の騒ぎを聞きつけた女性陣だった。
「あら、本当に新しいお店ができてるわ! ……って、マスター、すっごいイケメンじゃない!?」
 魔王ラスティアが目を輝かせる。
 隣には不死鳥フレアと、天使ヴァルキュリアもいる。
「な、なによその憂いを帯びた瞳は……! 私の『不死鳥の眼』で見ても、底が見えないわ!」
「黒と赤のオーラ……堕天使のような危険な香りがします……(トゥンク)」
 龍魔呂は無表情でカクテルグラスを磨き、静かに言った。
「注文は? ……俺のおすすめは、血のように赤い『ブラッディ・マリー』だが」
「そ、それでお願いしますぅぅ!!」
 黄色い悲鳴が上がる。
 龍魔呂は心の中で苦笑した。
 平和だ。あまりにも平和すぎて、拍子抜けする。
 だが、悪くない。
 カウンターの隅では、カイトがホットミルク(角砂糖入り)を飲みながら、ニコニコと笑っていた。
 龍魔呂はカイトに目配せをし、小さく呟いた。
(……礼を言うぞ、カイト。この場所は、俺が命に代えても守ってやる)
 鬼神龍魔呂。
 最強の処刑人は今宵、カイト農場の「影の守護者(バーテンダー)」として生まれ変わったのである。
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