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第三章 勇者と聖女様、神話級の相手のパシリにされる
EP 9
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ピザによる平和条約
カイト農場の前庭は、さながら巨大なガーデンパーティー会場と化していた。
数分前まで殺気を放っていた聖教国の騎士団(500名)は、今は全員が地面に車座になり、ジャージ姿でピザを頬張っている。
「う、うめぇ……! なんだこの生地のモチモチ感は!」
「チーズが……俺の知ってるチーズじゃない! 濃厚なのにしつこくない!」
「ママ……俺、天国に来たみたいだ……」
あちこちで感涙に咽(むせ)ぶ声が聞こえる。
彼らは教会騎士として清貧を強いられ、普段は硬いパンと薄いスープしか口にしていない。
そんな彼らにとって、カイトの作った**「究極のマルゲリータ(神話級素材入り)」**は、まさに劇薬。
一口食べただけで、信仰の対象が「遠くの神」から「目の前のピザ」へと書き換わってしまったのだ。
†
その輪の中心で、勇者カイルもまた、震える手でピザを握りしめていた。
「くっ……! 毒だ……これは毒に違いない……!」
彼はまだ負けを認めたくなかった。
だが、本能が理性を凌駕する。彼はピザを口に運んだ。
ガブッ、ジュワッ。
「――ッ!!」
カイルの瞳孔が開いた。
口いっぱいに広がるトマトの酸味と甘味。それがチーズの塩気と混ざり合い、バジルの香りが鼻を抜ける。
そして何より、噛みしめるたびに溢れ出す「生命力(マナ)」。
「う、美味すぎる……! なんだこれは……!」
カイルは涙を流しながら、夢中でピザを貪った。
すると、背中の聖剣『雷霆(らいてい)』が、カタカタと小さく震え出した。
『(……おい、小僧。貴様だけいい思いをする気か?)』
雷霆の意思が脳内に響く。
「えっ? お前、食うのか?」
『(我は神造兵装だ。食事はせぬ。だが……そのピザから漂う「主(カイト)」の魔力。それを少し分けろ)』
カイルがピザの耳を鞘の鯉口(こいぐち)に近づけると、雷霆は微弱な電流を放ち、ピザの湯気(魔力)を嬉しそうに吸収した。
『(……うむ。悪くない。このエネルギー、満タンだ)』
雷霆が満足げに振動する。
カイルはガックリと項垂れた。
俺の時はうんともすんとも言わなかったくせに、ピザの湯気一つでデレやがった。
完敗だ。剣も、胃袋も。
†
一方、スッピンにされた聖女アリアも、おそるおそるピザを口にしていた。
「……信じられませんわ」
彼女は自分の頬に手を当てた。
「一口食べただけで、肌にハリが戻ってきましたわ……。いいえ、化粧で誤魔化していた時よりも、内側から輝いているような……」
ルナが作ったトマトと、ヴァルキュリアのバジル。
それらが持つ「美容効果」は、聖教国の高級化粧品など比較にならない。
「これが、本物の『美』……。わたくし、今まで何をこだわっていたのでしょう」
アリアは憑き物が落ちたような顔で、二枚目のピザに手を伸ばした。
その顔はスッピンだったが、以前の高慢な厚化粧よりも、ずっと美しく見えた。
†
そして、枢機卿ボルジア。
彼は龍魔呂に恫喝され、カイトに餌付けされ、今は放心状態で空を見上げていた。
「負けた……。完全に負けた……」
武力でも、魔法でも、そして「食」でも。
この農場は、あらゆる面で聖教国を凌駕している。
いや、そもそも勝負にすらなっていなかった。彼らにとって自分たちは、ただの「腹を空かせた観光客」でしかなかったのだ。
「あの農夫(カイト)……。彼こそが、真の預言者なのかもしれん」
ボルジアは立ち上がり、ふらふらとカイトの元へ歩み寄った。
そして、その場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「……申し訳ございませんでした」
「えっ? どうしたんですか、お爺ちゃん」
カイトが驚いてピザカッターを止める。
ボルジアは涙ながらに懺悔した。
「我々は、貴方様の偉大さを理解せず、無礼な振る舞いをしました。……このピザの味、まさに神の御業。こここそが、地上に残された最後の『聖地(サンクチュアリ)』でございます!」
ボルジアの声に、騎士たちも一斉にひれ伏した。
「聖地アナステシア! 万歳!」
「カイト様万歳! ピザ万歳!」
ジャージ姿の男たちが一斉に崇める光景。異様である。
だが、カイトのポジティブ翻訳機は、これをこう解釈した。
(なるほど……。みんな、この農場のサービスに感動してくれたんだな! 『聖地』っていうのは、最近流行りの『聖地巡礼(アニメやドラマの舞台)』みたいな意味で、最高評価ってことか!)
「ありがとうございます! そんなに気に入ってもらえて嬉しいです!」
カイトは満面の笑みでボルジアの手を握った。
「いつでも来てくださいね! 次は新作の『テリヤキチキンピザ』を用意しておきますから!」
「おぉ……! なんと慈悲深い……!」
ボルジアは感涙した。
侵略者である自分たちを許し、さらなる饗応(きょうおう)を約束してくれるとは。
「誓います! これより我が聖教国ルミナリスは、この農場を『絶対不可侵の聖地』と認定し、全力で布教……いえ、宣伝させていただきます!」
「はい! 口コミ、よろしくお願いしますね!」
こうして、歴史的な和解(?)が成立した。
数時間後。
聖騎士団は、ルチアナの魔法が解けないまま、「えんじ色の芋ジャージ」姿で整列し、帰路についた。
彼らの背中には「ANASTASIA FARM」というロゴが魔法で刻まれており、歩く広告塔と化していた。
去り際、勇者カイルはカイトに振り返り、少し照れくさそうに言った。
「……また来る。今度は、客としてな」
「うん、待ってるよ!」
雷霆も鞘の中で『(またな、主よ)』と小さく紫電を放った。
†
嵐が去った農場。
カイトは空になったピザ窯を見ながら、満足げに呟いた。
「いやあ、賑やかな一日だったなぁ。ピザも好評だったし、頑張って窯を作った甲斐があったよ」
その横で、神々や魔王たちは顔を見合わせて苦笑していた。
「……まさか、聖教国をピザ一枚で軍門に下るとはな」
「カイト様、恐ろしい子……!」
平和は守られた。
だが、カイト農場の名声(と勘違い)は、聖教国の布教活動によって、大陸全土へ爆発的に広がることになる。
そして数日後。
その名声を聞きつけた、大陸最高峰の学術機関から、一通の招待状が届くことになるのである。
カイト農場の前庭は、さながら巨大なガーデンパーティー会場と化していた。
数分前まで殺気を放っていた聖教国の騎士団(500名)は、今は全員が地面に車座になり、ジャージ姿でピザを頬張っている。
「う、うめぇ……! なんだこの生地のモチモチ感は!」
「チーズが……俺の知ってるチーズじゃない! 濃厚なのにしつこくない!」
「ママ……俺、天国に来たみたいだ……」
あちこちで感涙に咽(むせ)ぶ声が聞こえる。
彼らは教会騎士として清貧を強いられ、普段は硬いパンと薄いスープしか口にしていない。
そんな彼らにとって、カイトの作った**「究極のマルゲリータ(神話級素材入り)」**は、まさに劇薬。
一口食べただけで、信仰の対象が「遠くの神」から「目の前のピザ」へと書き換わってしまったのだ。
†
その輪の中心で、勇者カイルもまた、震える手でピザを握りしめていた。
「くっ……! 毒だ……これは毒に違いない……!」
彼はまだ負けを認めたくなかった。
だが、本能が理性を凌駕する。彼はピザを口に運んだ。
ガブッ、ジュワッ。
「――ッ!!」
カイルの瞳孔が開いた。
口いっぱいに広がるトマトの酸味と甘味。それがチーズの塩気と混ざり合い、バジルの香りが鼻を抜ける。
そして何より、噛みしめるたびに溢れ出す「生命力(マナ)」。
「う、美味すぎる……! なんだこれは……!」
カイルは涙を流しながら、夢中でピザを貪った。
すると、背中の聖剣『雷霆(らいてい)』が、カタカタと小さく震え出した。
『(……おい、小僧。貴様だけいい思いをする気か?)』
雷霆の意思が脳内に響く。
「えっ? お前、食うのか?」
『(我は神造兵装だ。食事はせぬ。だが……そのピザから漂う「主(カイト)」の魔力。それを少し分けろ)』
カイルがピザの耳を鞘の鯉口(こいぐち)に近づけると、雷霆は微弱な電流を放ち、ピザの湯気(魔力)を嬉しそうに吸収した。
『(……うむ。悪くない。このエネルギー、満タンだ)』
雷霆が満足げに振動する。
カイルはガックリと項垂れた。
俺の時はうんともすんとも言わなかったくせに、ピザの湯気一つでデレやがった。
完敗だ。剣も、胃袋も。
†
一方、スッピンにされた聖女アリアも、おそるおそるピザを口にしていた。
「……信じられませんわ」
彼女は自分の頬に手を当てた。
「一口食べただけで、肌にハリが戻ってきましたわ……。いいえ、化粧で誤魔化していた時よりも、内側から輝いているような……」
ルナが作ったトマトと、ヴァルキュリアのバジル。
それらが持つ「美容効果」は、聖教国の高級化粧品など比較にならない。
「これが、本物の『美』……。わたくし、今まで何をこだわっていたのでしょう」
アリアは憑き物が落ちたような顔で、二枚目のピザに手を伸ばした。
その顔はスッピンだったが、以前の高慢な厚化粧よりも、ずっと美しく見えた。
†
そして、枢機卿ボルジア。
彼は龍魔呂に恫喝され、カイトに餌付けされ、今は放心状態で空を見上げていた。
「負けた……。完全に負けた……」
武力でも、魔法でも、そして「食」でも。
この農場は、あらゆる面で聖教国を凌駕している。
いや、そもそも勝負にすらなっていなかった。彼らにとって自分たちは、ただの「腹を空かせた観光客」でしかなかったのだ。
「あの農夫(カイト)……。彼こそが、真の預言者なのかもしれん」
ボルジアは立ち上がり、ふらふらとカイトの元へ歩み寄った。
そして、その場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「……申し訳ございませんでした」
「えっ? どうしたんですか、お爺ちゃん」
カイトが驚いてピザカッターを止める。
ボルジアは涙ながらに懺悔した。
「我々は、貴方様の偉大さを理解せず、無礼な振る舞いをしました。……このピザの味、まさに神の御業。こここそが、地上に残された最後の『聖地(サンクチュアリ)』でございます!」
ボルジアの声に、騎士たちも一斉にひれ伏した。
「聖地アナステシア! 万歳!」
「カイト様万歳! ピザ万歳!」
ジャージ姿の男たちが一斉に崇める光景。異様である。
だが、カイトのポジティブ翻訳機は、これをこう解釈した。
(なるほど……。みんな、この農場のサービスに感動してくれたんだな! 『聖地』っていうのは、最近流行りの『聖地巡礼(アニメやドラマの舞台)』みたいな意味で、最高評価ってことか!)
「ありがとうございます! そんなに気に入ってもらえて嬉しいです!」
カイトは満面の笑みでボルジアの手を握った。
「いつでも来てくださいね! 次は新作の『テリヤキチキンピザ』を用意しておきますから!」
「おぉ……! なんと慈悲深い……!」
ボルジアは感涙した。
侵略者である自分たちを許し、さらなる饗応(きょうおう)を約束してくれるとは。
「誓います! これより我が聖教国ルミナリスは、この農場を『絶対不可侵の聖地』と認定し、全力で布教……いえ、宣伝させていただきます!」
「はい! 口コミ、よろしくお願いしますね!」
こうして、歴史的な和解(?)が成立した。
数時間後。
聖騎士団は、ルチアナの魔法が解けないまま、「えんじ色の芋ジャージ」姿で整列し、帰路についた。
彼らの背中には「ANASTASIA FARM」というロゴが魔法で刻まれており、歩く広告塔と化していた。
去り際、勇者カイルはカイトに振り返り、少し照れくさそうに言った。
「……また来る。今度は、客としてな」
「うん、待ってるよ!」
雷霆も鞘の中で『(またな、主よ)』と小さく紫電を放った。
†
嵐が去った農場。
カイトは空になったピザ窯を見ながら、満足げに呟いた。
「いやあ、賑やかな一日だったなぁ。ピザも好評だったし、頑張って窯を作った甲斐があったよ」
その横で、神々や魔王たちは顔を見合わせて苦笑していた。
「……まさか、聖教国をピザ一枚で軍門に下るとはな」
「カイト様、恐ろしい子……!」
平和は守られた。
だが、カイト農場の名声(と勘違い)は、聖教国の布教活動によって、大陸全土へ爆発的に広がることになる。
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