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第七章 魔人サルバロス現る
EP 4
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カイトの違和感
カイト農場に、奇妙な「分断」が生まれ始めていた。
農場の南エリア。難民たちが暮らす居住区に、サルバロスは豪華な天幕(マジック・パビリオン)を作り出し、そこを『救世主のサンクチュアリ』と名付けた。
「さあ、おいで。疲れただろう? お腹が空いたろう?」
サルバロスは玉座に座り、指先から甘い香りのする菓子や、極上のワインを無限に湧き出させていた。
「私の力があれば、君たちはもう働く必要はない。汗水垂らして泥にまみれるなんて、野蛮人のすることだ」
その言葉は、国を失い、心身ともに疲れ果てていた難民たちの心に、毒のように染み渡っていった。
「ああ、サルバロス様……! ありがとうございます!」
「もう働かなくていいんだ! ここは楽園だ!」
一人、また一人と、農具を捨ててサンクチュアリへと吸い込まれていく。
かつて砂漠の国で起きたことと同じ。
「努力の放棄」と「奇跡への依存」。それが崩壊への第一歩だとは知らずに。
†
一方、北側の畑エリア。
カイトは、少し寂しそうな顔で畑を見回していた。
雑草が少し伸びている。
収穫時期を迎えたキュウリが、採り手がいなくて大きくなりすぎている。
いつもなら難民の人たちが手伝ってくれていた場所が、今は静まり返っていた。
「……みんな、来なくなっちゃったね」
カイトが呟くと、隣で黙々と作業をしていたオークの将軍(ジェネラル)が鼻を鳴らした。
「ブヒッ。人間とは脆いものですな、カイト様。あの優男(サルバロス)の甘い餌に釣られて、働く喜びを忘れてしまうとは」
「……うーん」
カイトは首を傾げた。
彼が感じているのは、怒りではない。
もっと根本的な、胸の奥がザワザワするような「違和感」だった。
カイトは鍬(くわ)を置き、南のサンクチュアリへと向かった。
†
天幕の中は、異様な熱気に包まれていた。
働かずに満腹になり、酒に酔い、サルバロスを讃える歌を歌う人々。彼らの顔は笑っているが、その目はどこか虚ろだ。
「やあ、カイト君! 君も仲間に入りに来たのかい?」
サルバロスがワイングラスを片手に、余裕の笑みで手招きした。
「どうだい、この光景は。みんな幸せそうだろ? 君が強いていた『労働』という呪縛から、私が解放してあげたんだ」
サルバロスは勝ち誇った。
カイトが反論すれば、「君は民衆を苦しめたいのか?」と論破するつもりだった。
しかし、カイトは真っ直ぐにサルバロスを見つめ、静かに言った。
「……サルバロスさん。君の作った野菜や果物には、『種』がないね」
「……は?」
サルバロスの動きが止まった。
予想外の指摘。
「さっき、君が作ったトマトを見たんだ。真っ赤で綺麗だけど、種が入ってなかった。……それじゃあ、次は育たないよ」
カイトの言葉は、農業の話であり、同時にこの「楽園」の本質を突いていた。
「食べて、おしまい。……未来に繋がらないんだ。そんなの、命じゃないよ」
カイトは悲しそうに、酔い潰れている難民たちを見た。
「彼らも同じだよ。今だけ楽しくても、明日へ繋がる『種(ちから)』を無くしてしまったら……この魔法が消えた時、彼らはどうなるの?」
ドキリ。
サルバロスの心臓が跳ねた。
バレている?
この農夫は、私が最後にはしごを外し、彼らを絶望に突き落とす未来(シナリオ)を、本能的に察知しているのか?
「……ふん。生意気な口を」
サルバロスの仮面(笑顔)に、ピキリと亀裂が入った。
「未来? 種? そんなものは私が無限に供給してやればいいことだ。私は神に近い存在なのだからな」
「違うよ」
カイトはきっぱりと否定した。
初めて見せる、頑固な「農家のオヤジ」の顔だった。
「土と、水と、お日様と、人の手。……全部が揃って初めて『実る』んだ。君のやり方は、ただの『消費』だよ。……僕は、そんなの認めない」
決定的な決裂。
カイトは背を向けた。
「行こう、ポチ。……ここは空気が悪いや」
カイトの足元で、影がグルルと唸った。
サルバロスは、去っていくカイトの背中を睨みつけ、ワイングラスを握りつぶした。
パリンッ!
「……認めない、だと? この私が? 下等な農夫ごときに?」
サルバロスの瞳から、慈愛の光が消え、どす黒い愉悦と殺意が浮かび上がった。
「いいだろう。そこまで言うなら見せてやる。……私が作り上げる『最高の絶望』をな!」
農場は完全に二つに割れた。
カイトを信じて働く者たちと、サルバロスに依存する者たち。
そして、その様子を遠くから眺めていた魔王ラスティアが、ついに動く。
「……確信したわ。あの男、やっぱり『黒』ね」
彼女の手には、サルバロスの正体を暴くための、ある「証拠」が握られていた。
次回、魔王VS偽救世主!
「ラスティアの看破」へ続く!
カイト農場に、奇妙な「分断」が生まれ始めていた。
農場の南エリア。難民たちが暮らす居住区に、サルバロスは豪華な天幕(マジック・パビリオン)を作り出し、そこを『救世主のサンクチュアリ』と名付けた。
「さあ、おいで。疲れただろう? お腹が空いたろう?」
サルバロスは玉座に座り、指先から甘い香りのする菓子や、極上のワインを無限に湧き出させていた。
「私の力があれば、君たちはもう働く必要はない。汗水垂らして泥にまみれるなんて、野蛮人のすることだ」
その言葉は、国を失い、心身ともに疲れ果てていた難民たちの心に、毒のように染み渡っていった。
「ああ、サルバロス様……! ありがとうございます!」
「もう働かなくていいんだ! ここは楽園だ!」
一人、また一人と、農具を捨ててサンクチュアリへと吸い込まれていく。
かつて砂漠の国で起きたことと同じ。
「努力の放棄」と「奇跡への依存」。それが崩壊への第一歩だとは知らずに。
†
一方、北側の畑エリア。
カイトは、少し寂しそうな顔で畑を見回していた。
雑草が少し伸びている。
収穫時期を迎えたキュウリが、採り手がいなくて大きくなりすぎている。
いつもなら難民の人たちが手伝ってくれていた場所が、今は静まり返っていた。
「……みんな、来なくなっちゃったね」
カイトが呟くと、隣で黙々と作業をしていたオークの将軍(ジェネラル)が鼻を鳴らした。
「ブヒッ。人間とは脆いものですな、カイト様。あの優男(サルバロス)の甘い餌に釣られて、働く喜びを忘れてしまうとは」
「……うーん」
カイトは首を傾げた。
彼が感じているのは、怒りではない。
もっと根本的な、胸の奥がザワザワするような「違和感」だった。
カイトは鍬(くわ)を置き、南のサンクチュアリへと向かった。
†
天幕の中は、異様な熱気に包まれていた。
働かずに満腹になり、酒に酔い、サルバロスを讃える歌を歌う人々。彼らの顔は笑っているが、その目はどこか虚ろだ。
「やあ、カイト君! 君も仲間に入りに来たのかい?」
サルバロスがワイングラスを片手に、余裕の笑みで手招きした。
「どうだい、この光景は。みんな幸せそうだろ? 君が強いていた『労働』という呪縛から、私が解放してあげたんだ」
サルバロスは勝ち誇った。
カイトが反論すれば、「君は民衆を苦しめたいのか?」と論破するつもりだった。
しかし、カイトは真っ直ぐにサルバロスを見つめ、静かに言った。
「……サルバロスさん。君の作った野菜や果物には、『種』がないね」
「……は?」
サルバロスの動きが止まった。
予想外の指摘。
「さっき、君が作ったトマトを見たんだ。真っ赤で綺麗だけど、種が入ってなかった。……それじゃあ、次は育たないよ」
カイトの言葉は、農業の話であり、同時にこの「楽園」の本質を突いていた。
「食べて、おしまい。……未来に繋がらないんだ。そんなの、命じゃないよ」
カイトは悲しそうに、酔い潰れている難民たちを見た。
「彼らも同じだよ。今だけ楽しくても、明日へ繋がる『種(ちから)』を無くしてしまったら……この魔法が消えた時、彼らはどうなるの?」
ドキリ。
サルバロスの心臓が跳ねた。
バレている?
この農夫は、私が最後にはしごを外し、彼らを絶望に突き落とす未来(シナリオ)を、本能的に察知しているのか?
「……ふん。生意気な口を」
サルバロスの仮面(笑顔)に、ピキリと亀裂が入った。
「未来? 種? そんなものは私が無限に供給してやればいいことだ。私は神に近い存在なのだからな」
「違うよ」
カイトはきっぱりと否定した。
初めて見せる、頑固な「農家のオヤジ」の顔だった。
「土と、水と、お日様と、人の手。……全部が揃って初めて『実る』んだ。君のやり方は、ただの『消費』だよ。……僕は、そんなの認めない」
決定的な決裂。
カイトは背を向けた。
「行こう、ポチ。……ここは空気が悪いや」
カイトの足元で、影がグルルと唸った。
サルバロスは、去っていくカイトの背中を睨みつけ、ワイングラスを握りつぶした。
パリンッ!
「……認めない、だと? この私が? 下等な農夫ごときに?」
サルバロスの瞳から、慈愛の光が消え、どす黒い愉悦と殺意が浮かび上がった。
「いいだろう。そこまで言うなら見せてやる。……私が作り上げる『最高の絶望』をな!」
農場は完全に二つに割れた。
カイトを信じて働く者たちと、サルバロスに依存する者たち。
そして、その様子を遠くから眺めていた魔王ラスティアが、ついに動く。
「……確信したわ。あの男、やっぱり『黒』ね」
彼女の手には、サルバロスの正体を暴くための、ある「証拠」が握られていた。
次回、魔王VS偽救世主!
「ラスティアの看破」へ続く!
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