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第九章 異議あり!学校法廷
EP 2
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【授業風景】1時間目:体育 ~担当教師が「竜王」で、種目が『ブレス回避訓練』だった件~
キーンコーンカーンコーン……。
どこかノスタルジックなチャイムの音が鳴り響く。
だが、校庭で行われているのは、平和な学校生活とは程遠い光景だった。
「えー、整列」
ジャージ姿(特注サイズ)の竜王デュークが、首から下げたホイッスルを鳴らした。
その隣では、同じくジャージを着崩した狼王フェンリルが、準備運動代わりにシャドーボクシングで衝撃波を飛ばしている。
目の前に並ぶのは、新入生である魔族や獣人の子供たち、そしてアレンだ。
彼らは震えていた。
なぜなら、教師二人の背後から、隠しきれない「覇気(プレッシャー)」が立ち昇っているからだ。
「今日の1時間目は『体育』だ。担当は我、デュークと、そこの駄犬フェンリルだ」
「あ? 誰が駄犬だ。噛み砕くぞオッサン」
「静かにしろ。生徒が怯えるだろう」
デュークは威厳たっぷりに生徒たちを見回した。
「さて、基礎体力の向上には『走る』ことが一番だ。よって、今日の種目は『鬼ごっこ』とする」
「お、鬼ごっこですか……?」
魔族の少年が、少しホッとした顔で尋ねる。
なんだ、ただの遊びか。それなら僕たちでも――。
「うむ。ただし、ただ走るだけでは退屈だろう。よって、ルールを追加する」
デュークがニヤリと笑い、口元からチロチロと「黄金の炎」を漏らした。
「我はここから動かん。だが、口から『火球(ブレス)』を吐く。当たれば黒焦げだ」
「は?」
「俺は追いかける係だ」
フェンリルが一歩前に出る。その足元の地面が、パキパキと凍りついた。
「捕まったら『氷漬け』にする。解凍されるまでの間、反省してもらう。……安心しろ、死にはしねぇよ。たぶん」
「逃げろぉぉぉぉッ!!!」
誰かが叫んだ瞬間、地獄の鬼ごっこがスタートした。
ズドォォォォンッ!!
「甘いッ! 右翼、動きが遅いぞ!」
デュークの口から放たれた火球が、生徒たちのすぐ横に着弾し、校庭にクレーターを作る。
爆風で吹き飛ばされながら、子供たちは必死に走る。
「ヒャッハー! 狩りの時間だぁ!」
フェンリルが残像を残して疾走する。
「冷たッ!?」「足が凍るぅ!」
逃げ遅れた獣人の子供が次々と氷像に変えられ、校庭に美しいオブジェが増えていく。
「ひぃぃぃ! 学校ってこんなに命懸けなの!?」
「ママァァァァッ!」
阿鼻叫喚の校庭。
だが、その中で一人だけ、ケラケラと笑っている子供がいた。
「あははは! わんわん待て~!」
アレン(5歳)だ。
彼はフェンリルの超高速移動にぴったりと追随し、あろうことかフェンリルの尻尾を掴もうとしていた。
「ッ!? なんだこのガキ、速ぇぞ!?」
「捕まえた~!」
「うおっ!?」
ガシッ!
アレンの小さな手が、フェンリルの尻尾を鷲掴みにする。
そのまま遠心力を利用して、フェンリルごと空中に放り投げようと踏ん張った。
「馬鹿野郎! 俺は狼王だぞ!?」
「ぐるぐるどっか~ん!」
勇者の身体能力と、子供の無邪気さ。
最強の狼王が、5歳児に追いかけ回されるという異常事態。
その横を、デュークのブレスが掠めていく。
「ふむ、アレン坊主、なかなかやるな。合格だ」
◇
「……ぜぇ、ぜぇ、ひぃ……」
授業終了後。
校庭の隅には、黒焦げのアフロヘアーになった生徒や、氷漬けからようやく解凍されて震えている生徒たちが累々と横たわっていた。
「た、大変です! 保健室へ運んで!」
保健室の先生・セーラが、血相を変えて飛び出してきた。
彼女は生徒たちに駆け寄ると、熟練の手つきで回復魔法(ハイ・ヒール)をかけていく。
「もう! 何なんですかこの授業は! 体育じゃなくて『戦場』じゃないですか!」
セーラが怒鳴ると、ジャージ姿のデュークがタオルで汗を拭きながら答えた。
「何を言う。生き残る力こそが教育だ。見ろ、誰も死んでおらん」
「私の回復魔法が間に合ってるだけですッ!」
セーラは頭を抱えた。
魔力ポーションの在庫がマッハで消えていく。入学初日からこれでは、卒業までに保健室の予算が破綻する。
「……腹が減ったな」
そこに、給食着(割烹着)を着た龍魔呂が、お盆を持って現れた。
「龍魔呂さん! 呑気に給食の話ですか!?」
「セーラ、心配するな」
龍魔呂は、ぐったりしている生徒の口に、試作品の唐揚げを放り込んだ。
「人間(および魔族)、腹一杯食えば大抵の傷は治る」
「もぐ……ん、んんっ!?」
唐揚げを食べた生徒の目に、急激に光が戻った。
カイト農場のSランク食材と龍魔呂の料理スキル。その相乗効果は、ポーションよりも遥かに高い回復効果をもたらすのだ。
「うおおお! なんか力が湧いてきた!」
「火傷が治った! すげぇ!」
「ほらな」
龍魔呂はニヤリと笑った。
「次(2時間目)は給食だ。今日のメニューは『Sランクドラゴンのハンバーグ』だ。食えばレベルが上がるぞ」
「「「やったぁぁぁぁ!!」」」
子供たちは歓声を上げ、食堂へとダッシュした。
さっきまで瀕死だったとは思えない回復力だ。
その様子を、校舎の窓からカイトがニコニコと眺めていた。
「うんうん。みんな元気に走り回って、お腹を空かせて……いい学校になったなぁ」
「(カイト殿の目は節穴か……?)」
隣に立つ事務長ルーベンスは、胃薬を飲み込みながら、深く溜息をついた。
この学校、一時間生き残るだけで、外の世界の迷宮探索に匹敵する経験値が入るらしい。
キーンコーンカーンコーン……。
どこかノスタルジックなチャイムの音が鳴り響く。
だが、校庭で行われているのは、平和な学校生活とは程遠い光景だった。
「えー、整列」
ジャージ姿(特注サイズ)の竜王デュークが、首から下げたホイッスルを鳴らした。
その隣では、同じくジャージを着崩した狼王フェンリルが、準備運動代わりにシャドーボクシングで衝撃波を飛ばしている。
目の前に並ぶのは、新入生である魔族や獣人の子供たち、そしてアレンだ。
彼らは震えていた。
なぜなら、教師二人の背後から、隠しきれない「覇気(プレッシャー)」が立ち昇っているからだ。
「今日の1時間目は『体育』だ。担当は我、デュークと、そこの駄犬フェンリルだ」
「あ? 誰が駄犬だ。噛み砕くぞオッサン」
「静かにしろ。生徒が怯えるだろう」
デュークは威厳たっぷりに生徒たちを見回した。
「さて、基礎体力の向上には『走る』ことが一番だ。よって、今日の種目は『鬼ごっこ』とする」
「お、鬼ごっこですか……?」
魔族の少年が、少しホッとした顔で尋ねる。
なんだ、ただの遊びか。それなら僕たちでも――。
「うむ。ただし、ただ走るだけでは退屈だろう。よって、ルールを追加する」
デュークがニヤリと笑い、口元からチロチロと「黄金の炎」を漏らした。
「我はここから動かん。だが、口から『火球(ブレス)』を吐く。当たれば黒焦げだ」
「は?」
「俺は追いかける係だ」
フェンリルが一歩前に出る。その足元の地面が、パキパキと凍りついた。
「捕まったら『氷漬け』にする。解凍されるまでの間、反省してもらう。……安心しろ、死にはしねぇよ。たぶん」
「逃げろぉぉぉぉッ!!!」
誰かが叫んだ瞬間、地獄の鬼ごっこがスタートした。
ズドォォォォンッ!!
「甘いッ! 右翼、動きが遅いぞ!」
デュークの口から放たれた火球が、生徒たちのすぐ横に着弾し、校庭にクレーターを作る。
爆風で吹き飛ばされながら、子供たちは必死に走る。
「ヒャッハー! 狩りの時間だぁ!」
フェンリルが残像を残して疾走する。
「冷たッ!?」「足が凍るぅ!」
逃げ遅れた獣人の子供が次々と氷像に変えられ、校庭に美しいオブジェが増えていく。
「ひぃぃぃ! 学校ってこんなに命懸けなの!?」
「ママァァァァッ!」
阿鼻叫喚の校庭。
だが、その中で一人だけ、ケラケラと笑っている子供がいた。
「あははは! わんわん待て~!」
アレン(5歳)だ。
彼はフェンリルの超高速移動にぴったりと追随し、あろうことかフェンリルの尻尾を掴もうとしていた。
「ッ!? なんだこのガキ、速ぇぞ!?」
「捕まえた~!」
「うおっ!?」
ガシッ!
アレンの小さな手が、フェンリルの尻尾を鷲掴みにする。
そのまま遠心力を利用して、フェンリルごと空中に放り投げようと踏ん張った。
「馬鹿野郎! 俺は狼王だぞ!?」
「ぐるぐるどっか~ん!」
勇者の身体能力と、子供の無邪気さ。
最強の狼王が、5歳児に追いかけ回されるという異常事態。
その横を、デュークのブレスが掠めていく。
「ふむ、アレン坊主、なかなかやるな。合格だ」
◇
「……ぜぇ、ぜぇ、ひぃ……」
授業終了後。
校庭の隅には、黒焦げのアフロヘアーになった生徒や、氷漬けからようやく解凍されて震えている生徒たちが累々と横たわっていた。
「た、大変です! 保健室へ運んで!」
保健室の先生・セーラが、血相を変えて飛び出してきた。
彼女は生徒たちに駆け寄ると、熟練の手つきで回復魔法(ハイ・ヒール)をかけていく。
「もう! 何なんですかこの授業は! 体育じゃなくて『戦場』じゃないですか!」
セーラが怒鳴ると、ジャージ姿のデュークがタオルで汗を拭きながら答えた。
「何を言う。生き残る力こそが教育だ。見ろ、誰も死んでおらん」
「私の回復魔法が間に合ってるだけですッ!」
セーラは頭を抱えた。
魔力ポーションの在庫がマッハで消えていく。入学初日からこれでは、卒業までに保健室の予算が破綻する。
「……腹が減ったな」
そこに、給食着(割烹着)を着た龍魔呂が、お盆を持って現れた。
「龍魔呂さん! 呑気に給食の話ですか!?」
「セーラ、心配するな」
龍魔呂は、ぐったりしている生徒の口に、試作品の唐揚げを放り込んだ。
「人間(および魔族)、腹一杯食えば大抵の傷は治る」
「もぐ……ん、んんっ!?」
唐揚げを食べた生徒の目に、急激に光が戻った。
カイト農場のSランク食材と龍魔呂の料理スキル。その相乗効果は、ポーションよりも遥かに高い回復効果をもたらすのだ。
「うおおお! なんか力が湧いてきた!」
「火傷が治った! すげぇ!」
「ほらな」
龍魔呂はニヤリと笑った。
「次(2時間目)は給食だ。今日のメニューは『Sランクドラゴンのハンバーグ』だ。食えばレベルが上がるぞ」
「「「やったぁぁぁぁ!!」」」
子供たちは歓声を上げ、食堂へとダッシュした。
さっきまで瀕死だったとは思えない回復力だ。
その様子を、校舎の窓からカイトがニコニコと眺めていた。
「うんうん。みんな元気に走り回って、お腹を空かせて……いい学校になったなぁ」
「(カイト殿の目は節穴か……?)」
隣に立つ事務長ルーベンスは、胃薬を飲み込みながら、深く溜息をついた。
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