24 / 115
一章 田舎育ちの令嬢
24.王都観光
しおりを挟む
翌日、何故かディランはシャーロットに呼び出されて、町人姿で王都の街を歩いていた。王太子に会わないことにはお墓にいけないので時間はあったのだが、面倒くさそうなので気が進まない。ただ、シャーロットには、最近いろいろお願いしているので、断ることもできなかった。
「遅いわよ。ディラン!」
「急に呼び出しておいて、それはないよ」
ディランを待っていたのは、護衛を2人従えたシャーロットと、居心地悪そうに小さくなっているエミリーだった。
「エミリー、おはよう」
「おはようございます」
2人とも町娘風の服を着ているが、街に馴染んでいるエミリーとは違い、シャーロットは、いかにもお忍び中のやんごとなき御方といった雰囲気だ。街ゆく人の注目を一身に集めているが、その視線を気にしているのはエミリーだけだ。
「で、どうしたの?」
「今日はエミリーと2人でお買い物に行くのよ。ディランはエミリーの護衛たから、よろしくね」
「そういうことね。分かったよ」
ディランはなんとも言えない気持ちになるが、エミリーのためだと思って承諾する。どこの世界に王子を護衛にする人間がいるのか。シャーロットには呆れそうになるが、エミリーの状況を考えると妥当な判断とも言える。
「ディラン殿下、申し訳ありません」
「気にしないで。シャーロットに振り回されるのはなれてるからね」
「まあ! わたくしがいつディランを振り回したというの?」
「……さあ、いつだろうね」
ディランは面倒くさくなって、シャーロットの発言を適当に流す。どうやってここまで来たのか聞いたら、シャーロットはついてきていることを信じて姿の見えないエミリーと寮から歩いて来たそうだ。ディランの姿を見つけて隠蔽を解いたらしい。
「今度から寮の前まで迎えに行くから、遠慮せずに声かけてよ」
「外で待ちあわせをするのが醍醐味なのよ。ディランは分かってないわね」
ディランはエミリーに話しかけたのだが、横からシャーロットが出てきてクスリと笑う。
「エミリー、何を買いたいの?」
「えっと……」
「今日は王都を歩いたことがないエミリーを案内するのよ。まずは、お忍び用の服を買いに行きましょう!」
シャーロットがエミリーの手を取って歩き出す。ディランはシャーロットの護衛とともに後に続いた。シンビジウム公爵家の護衛は、流石に優秀でエミリーに影響されることはない。
「この店にするわ」
「了解」
ディランは、シャーロットたちが選んだお店に一緒に入り、男がいないことを確認して一人店を出る。女性だけが集まるお店は居心地が悪い。
そんなディランのもとへ3人の男が音もなく忍び寄ってきた。無駄のない動きに日差しの中を歩いたことがないような真っ白な肌。如何にも怪しげだ。
「よろしいですか?」
男の一人が身分証をこちらに差し出す。ディランはそれを見て、戦闘態勢を解いた。チャーリーがシャーロットに内緒で護衛としてつけている近衛騎士団の秘密部隊のようだ。
「うん、護衛方法について知りたいのかな?」
リーダー格の男が遠回しにエミリーの状態について聞いてくる。きっと魔道士なのだろう。一般人なら魅了にかからなくても、エミリーから発せられる魔力には気づかない。
「何かあれば、僕はエミリーを守って逃げるから、シャーロットのことは任せていいかな?」
「畏まりました」
秘密部隊の者たちは納得した様子で姿を消した。
(うん、僕の事も一緒に守りますとかはないんだね。知ってた)
これでは、ディランは本当にただの護衛だ。楽しそうなエミリーの顔をお店の窓越しに見て、心を落ち着かせる。
結局、ディランは護衛に徹することにして、何かあったときのため、自分の取るべき行動に考えを巡らせた。
「そろそろ休憩でもしない?」
ディランが声をかけたのは、10軒目のお店を出たときだった。シンビジウム公爵家の護衛は両手一杯に買い物袋を抱えている。
明らかに戦闘ができるような体制ではなく、秘密部隊が隠れて護衛しているからといって油断しすぎだとディランは思う。
「そうね。エミリーはどういったカフェに行きたいのかしら?」
「シャーロット様の行きたいお店についていきますよ」
「わたくしでは決められないわ。エミリー、お願い」
シャーロットは護衛からカフェのリストを受け取って、エミリーと2人で相談を始める。
ディランは、護衛の実力が心配になったので、その隙にシャーロットへ殺気を放ってみた。
(想像以上だな……)
ただの試しのはずが、ディランは20近くの目に一斉に睨まれた。一歩でも動いたら殺されそうだ。念の為に言っておくが、ディランはこの国の王子だ。
もちろん、シャーロットとエミリーは気づいていない。
ディランは吹き出した汗をハンカチで拭くと、敵意がないことを必死でアピールした。
「遅いわよ。ディラン!」
「急に呼び出しておいて、それはないよ」
ディランを待っていたのは、護衛を2人従えたシャーロットと、居心地悪そうに小さくなっているエミリーだった。
「エミリー、おはよう」
「おはようございます」
2人とも町娘風の服を着ているが、街に馴染んでいるエミリーとは違い、シャーロットは、いかにもお忍び中のやんごとなき御方といった雰囲気だ。街ゆく人の注目を一身に集めているが、その視線を気にしているのはエミリーだけだ。
「で、どうしたの?」
「今日はエミリーと2人でお買い物に行くのよ。ディランはエミリーの護衛たから、よろしくね」
「そういうことね。分かったよ」
ディランはなんとも言えない気持ちになるが、エミリーのためだと思って承諾する。どこの世界に王子を護衛にする人間がいるのか。シャーロットには呆れそうになるが、エミリーの状況を考えると妥当な判断とも言える。
「ディラン殿下、申し訳ありません」
「気にしないで。シャーロットに振り回されるのはなれてるからね」
「まあ! わたくしがいつディランを振り回したというの?」
「……さあ、いつだろうね」
ディランは面倒くさくなって、シャーロットの発言を適当に流す。どうやってここまで来たのか聞いたら、シャーロットはついてきていることを信じて姿の見えないエミリーと寮から歩いて来たそうだ。ディランの姿を見つけて隠蔽を解いたらしい。
「今度から寮の前まで迎えに行くから、遠慮せずに声かけてよ」
「外で待ちあわせをするのが醍醐味なのよ。ディランは分かってないわね」
ディランはエミリーに話しかけたのだが、横からシャーロットが出てきてクスリと笑う。
「エミリー、何を買いたいの?」
「えっと……」
「今日は王都を歩いたことがないエミリーを案内するのよ。まずは、お忍び用の服を買いに行きましょう!」
シャーロットがエミリーの手を取って歩き出す。ディランはシャーロットの護衛とともに後に続いた。シンビジウム公爵家の護衛は、流石に優秀でエミリーに影響されることはない。
「この店にするわ」
「了解」
ディランは、シャーロットたちが選んだお店に一緒に入り、男がいないことを確認して一人店を出る。女性だけが集まるお店は居心地が悪い。
そんなディランのもとへ3人の男が音もなく忍び寄ってきた。無駄のない動きに日差しの中を歩いたことがないような真っ白な肌。如何にも怪しげだ。
「よろしいですか?」
男の一人が身分証をこちらに差し出す。ディランはそれを見て、戦闘態勢を解いた。チャーリーがシャーロットに内緒で護衛としてつけている近衛騎士団の秘密部隊のようだ。
「うん、護衛方法について知りたいのかな?」
リーダー格の男が遠回しにエミリーの状態について聞いてくる。きっと魔道士なのだろう。一般人なら魅了にかからなくても、エミリーから発せられる魔力には気づかない。
「何かあれば、僕はエミリーを守って逃げるから、シャーロットのことは任せていいかな?」
「畏まりました」
秘密部隊の者たちは納得した様子で姿を消した。
(うん、僕の事も一緒に守りますとかはないんだね。知ってた)
これでは、ディランは本当にただの護衛だ。楽しそうなエミリーの顔をお店の窓越しに見て、心を落ち着かせる。
結局、ディランは護衛に徹することにして、何かあったときのため、自分の取るべき行動に考えを巡らせた。
「そろそろ休憩でもしない?」
ディランが声をかけたのは、10軒目のお店を出たときだった。シンビジウム公爵家の護衛は両手一杯に買い物袋を抱えている。
明らかに戦闘ができるような体制ではなく、秘密部隊が隠れて護衛しているからといって油断しすぎだとディランは思う。
「そうね。エミリーはどういったカフェに行きたいのかしら?」
「シャーロット様の行きたいお店についていきますよ」
「わたくしでは決められないわ。エミリー、お願い」
シャーロットは護衛からカフェのリストを受け取って、エミリーと2人で相談を始める。
ディランは、護衛の実力が心配になったので、その隙にシャーロットへ殺気を放ってみた。
(想像以上だな……)
ただの試しのはずが、ディランは20近くの目に一斉に睨まれた。一歩でも動いたら殺されそうだ。念の為に言っておくが、ディランはこの国の王子だ。
もちろん、シャーロットとエミリーは気づいていない。
ディランは吹き出した汗をハンカチで拭くと、敵意がないことを必死でアピールした。
0
あなたにおすすめの小説
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています
さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。
侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。
お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。
形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。
やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。
剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で――
互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。
「俺はお前を愛している」
「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」
契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。
――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる