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一章 田舎育ちの令嬢
26.王家の墓
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次の休日、ディランは王太子の許可を得て、馬で王家の墓に向かった。王家の墓は王都の北門を出た先の森の中にある。ディランだけなら馬で行く方法が効率的だ。
森の中に入ると、小さな馬車が一台通れるだけの細い道しかない。これはこの国の最初の王が生前希望したためで、激動の人生を歩んだと神話の中で語られている王も、最後は静かな場所で眠りたかったのかもしれない。
木々に囲まれたその道をまっすぐ進むと、突如、荘厳な門が見えてくる。ディランは門の脇にある小さな扉の前で馬を降りた。怪訝そうにこちらを見た騎士に、外套をはずして顔を見せる。
「これはディラン殿下、今、門をお開けいたします」
戸惑う若い騎士を下がらせて、壮年の騎士がディランの前に歩み出る。
「お忍びだから門は開けなくていいよ。中に入れてもらえる?」
「畏まりました。どうぞ、こちらへ」
ディランは騎士のためにつけられた扉を開けてもらって、馬を預けて中に入った。ここから先が王家の墓と呼ばれている一帯で、王族の墓が森の中に点在している。馬車が通れるような道はない。女性なら輿を用意させるのだが、ディランは細い石畳の道を歩いて奥に進んだ。
時々、警備の騎士とすれ違うが、一般に公開されている場所ではないので静かなものだ。ディランは王族の墓石が見えるたびに、目当ての名前や紋章がないか確かめながら歩いた。
ディランも年に数回訪れているが、行事として参加するため、全ては把握しきれていない。ゆっくり歩いて見ていくと、時代ごとに場所が分かれているのが分かる。予め資料で確認した情報と一致していて安心する。
同じ王族の墓石といえど時代により大きさも形も様々だ。王家の力が強かった時代のものは大きく、国が乱れていた時代のものは慎ましい。
ヴァランティーヌ・シクノチェスの生きた時代の王族は、後者のようで、木々に隠れるようにして、そこにあった。
王女の祖父母や処刑を命令した彼女の両親、その跡を継いだ兄夫婦の墓石が並んでいる。どうやら、王女自身の墓はここにはないようだが、ディランにとっては想定内だ。罪を犯したヴァランティーヌが一緒に埋葬されている可能性は低い。
王女の墓は後で探すこととして、この場で出来ることをやっておく。
日記はヴァランティーヌ王女の死後、親族によって封印せれた可能性もある。ディランは、王太子から特別に許可をもらって持ち出したヴァランティーヌ王女の日記をカバンの中からとりだした。お墓にはそれぞれの紋章が掘られているが、残念ながら日記の紋章と一致するものはない。それでも、可能性を潰すため、日記を王女に縁のある人物の墓にかざしてみたり、封印を解くいくつかの方法を試してみた。
(ここではないか)
ディランは空振りだと分かって肩を落とす。もう一度だけ、日記と同じ紋章がないかグルリと確認してからその場を離れた。
(あまり、あそこには入りたくなかったんだけどな……)
渋々ディランが向かったのは、王家の墓の中で一番大きな始祖王の墓だ。
当時最先端だったであろう木の塀で囲まれ、扉を潜るとその奥にさらに石でできた囲いがある。
ディランは石の囲いの中に入り始祖王の墓石に一礼した。
(奥に入らせて頂きます)
ディランは正面から見ると墓石に隠れる位置に回り込む。墓石を背にしてまっすぐ石の囲いまで歩いて、そこに掘られた始祖王の紋章を探した。
(あった!)
紋章が掘られた石の囲いの先には鬱蒼と生い茂った木々しかない。ディランは、かばんの中から始祖王の紋章が入った国宝のペンダントを取り出して、石の紋章にかざした。
〈〈 我は始祖王の血を受け継ぐ者。シクノチェスの前に真実を語れ〉〉
始祖王の時代にも僅かな者しか話せなかったと言われる古語を唱えると、石の囲いが消え、木々が左右に分かれて道を作った。
(嫌だな……)
ここに来ると子供の頃の嫌な思い出が蘇る。ディランは新しく出できた薄暗い道を見つめて、ため息をついた。
森の中に入ると、小さな馬車が一台通れるだけの細い道しかない。これはこの国の最初の王が生前希望したためで、激動の人生を歩んだと神話の中で語られている王も、最後は静かな場所で眠りたかったのかもしれない。
木々に囲まれたその道をまっすぐ進むと、突如、荘厳な門が見えてくる。ディランは門の脇にある小さな扉の前で馬を降りた。怪訝そうにこちらを見た騎士に、外套をはずして顔を見せる。
「これはディラン殿下、今、門をお開けいたします」
戸惑う若い騎士を下がらせて、壮年の騎士がディランの前に歩み出る。
「お忍びだから門は開けなくていいよ。中に入れてもらえる?」
「畏まりました。どうぞ、こちらへ」
ディランは騎士のためにつけられた扉を開けてもらって、馬を預けて中に入った。ここから先が王家の墓と呼ばれている一帯で、王族の墓が森の中に点在している。馬車が通れるような道はない。女性なら輿を用意させるのだが、ディランは細い石畳の道を歩いて奥に進んだ。
時々、警備の騎士とすれ違うが、一般に公開されている場所ではないので静かなものだ。ディランは王族の墓石が見えるたびに、目当ての名前や紋章がないか確かめながら歩いた。
ディランも年に数回訪れているが、行事として参加するため、全ては把握しきれていない。ゆっくり歩いて見ていくと、時代ごとに場所が分かれているのが分かる。予め資料で確認した情報と一致していて安心する。
同じ王族の墓石といえど時代により大きさも形も様々だ。王家の力が強かった時代のものは大きく、国が乱れていた時代のものは慎ましい。
ヴァランティーヌ・シクノチェスの生きた時代の王族は、後者のようで、木々に隠れるようにして、そこにあった。
王女の祖父母や処刑を命令した彼女の両親、その跡を継いだ兄夫婦の墓石が並んでいる。どうやら、王女自身の墓はここにはないようだが、ディランにとっては想定内だ。罪を犯したヴァランティーヌが一緒に埋葬されている可能性は低い。
王女の墓は後で探すこととして、この場で出来ることをやっておく。
日記はヴァランティーヌ王女の死後、親族によって封印せれた可能性もある。ディランは、王太子から特別に許可をもらって持ち出したヴァランティーヌ王女の日記をカバンの中からとりだした。お墓にはそれぞれの紋章が掘られているが、残念ながら日記の紋章と一致するものはない。それでも、可能性を潰すため、日記を王女に縁のある人物の墓にかざしてみたり、封印を解くいくつかの方法を試してみた。
(ここではないか)
ディランは空振りだと分かって肩を落とす。もう一度だけ、日記と同じ紋章がないかグルリと確認してからその場を離れた。
(あまり、あそこには入りたくなかったんだけどな……)
渋々ディランが向かったのは、王家の墓の中で一番大きな始祖王の墓だ。
当時最先端だったであろう木の塀で囲まれ、扉を潜るとその奥にさらに石でできた囲いがある。
ディランは石の囲いの中に入り始祖王の墓石に一礼した。
(奥に入らせて頂きます)
ディランは正面から見ると墓石に隠れる位置に回り込む。墓石を背にしてまっすぐ石の囲いまで歩いて、そこに掘られた始祖王の紋章を探した。
(あった!)
紋章が掘られた石の囲いの先には鬱蒼と生い茂った木々しかない。ディランは、かばんの中から始祖王の紋章が入った国宝のペンダントを取り出して、石の紋章にかざした。
〈〈 我は始祖王の血を受け継ぐ者。シクノチェスの前に真実を語れ〉〉
始祖王の時代にも僅かな者しか話せなかったと言われる古語を唱えると、石の囲いが消え、木々が左右に分かれて道を作った。
(嫌だな……)
ここに来ると子供の頃の嫌な思い出が蘇る。ディランは新しく出できた薄暗い道を見つめて、ため息をついた。
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