【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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一章 田舎育ちの令嬢

27.推測

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 ディランがこの場を訪れるのは2回目だ。1回目は10年近く前で、王太子に連れられてチャーリーとともに入ったことがある。

 どのくらい前の王が決めたのかは分からないが、王族に生まれた者は子供の頃に必ず来ることになっている。薄暗い道で語られるのは、王族が犯した罪についてだ。

 この先の王族しか入れないひっそりとした場所にもお墓がある。眠っているのは、罪を犯して処刑されたか、北の貴賓牢で一生を終えた王族だ。

 ディランが前回ここに来たときには、恐怖で泣きながら進んだ。チャーリーはもちろん平然としていたが、この年齢になっても出来れば来たくなかったディランからすると、当時のチャーリーの落ち着きっぷりは信じられない。

 記憶より短いが、かなりの距離を歩いた先に墓石があった。今では使える者のいない魔法がいくつも施されているのだろう。手入れをする者がいないのに、墓石の周囲はきちんと整えられている。

 ディランは他の場所とは比べものにならないくらい小さな墓石を一つ一つ確認していった。

 シクノチェス王家の歴史は長いとはいえ、ここに埋葬されている王族の数が多すぎる。

 王族同士で争いあっていた時代もあったので、覇権争いに負けた人物もこの中には含まれているだろう。ヴァランティーヌ王女のように冤罪だった者もいるかもしれない。ディランも全ての人物が悪人というわけでないことは分かっている。

 それでも、始祖王の時代からこんな場所を用意し、これだけの王族を罪人として埋葬しているシクノチェス王家が、素晴らしい王族だとはとても思えない。

(僕にもこの血が流れているんだよな)

 王家の者しか入れない、この空間に入れたことがそれを裏付けている。禁書室に隠されていた歴史といい、ディランは自分に流れる高貴と呼ばれる血が嫌で嫌で仕方なかった。


 結局の所、ヴァランティーヌ王女の墓石も日記についていた紋章もこの場には存在しなかった。王族として亡くなった者が王家の墓に埋葬されなかった例など聞いたことがない。

 ディランは、そのことから一つの結論に辿り着く。

(ヴァランティーヌ王女は処刑されていない?)

 王族に生まれて王家の墓に埋葬されていないのは、他国や他家に嫁いだ者か、ディランのように臣下に下る者だけだ。

 思えば、魔道士アルビーのあとがきに書かれていた言葉には引っかかるものがあった。

『そして、この本が、彼女と、これから生まれるかもしれない同じ運命を背負った者たちの一助になることを切に願う。』

 この『彼女』が王女の事ならば、魅了状態にならない訓練が広がることで亡くなっている女性の一助になるというのは少し変だ。

『私は一人の女性の名誉を傷つけ、人生を捨てさせた事への贖罪の気持ちから魅了についての研究を始めた。』

 冒頭の一文だが、『人生を捨てさせた』というのが、処刑されたということではなく、王女として生きた、それまでの人生を捨てさせた、つまりは別の人物として生きることになったという意味だとしたら……

(やっぱり、この日記をどうにかしなくちゃいけないんだよな)

 ディランは日記を見つめて肩を落とす。ヴァランティーヌ王女がどんな人生を歩んだかは分からないが、この日記に重要なことが書かれているのは明らかだ。

 とはいえ、魔道士としての経験が浅いディランにできるのは、ここまでだ。

(師匠、早く帰ってきてくれないかな)

 エミリーとカフェに行ったあと、ディランは師匠に2通目の手紙を送っている。『了解』の一言だけだったが返事は来たので、ディランの要望を聞いてくれるのだと思いたいが……

(とにかく帰ろう)

 暗い場所に居続けると気持ちまで暗くなっていく。

 国宝まで持ち出して成果なしとは、心苦しいが、ここでディランに出来ることはもう何もなかった。
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