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一章 田舎育ちの令嬢
38.魔道士の食卓
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作業はエミリーの協力により早く終わり、あとは各々のんびりと過ごした。夕方になり、ディランが台所に戻ってくると、エミリーが興味深そうに台所を見て回っている。
「エミリー、お待たせ。そろそろ始めようか」
「はい……でも、この台所には見慣れないものが多くて……お役に立てないかもしれないです」
エミリーは申しわけなさそうに眉を下げる。この屋敷の台所は、ボードゥアンが作り替えているので一般的なものではない。普通なら貴重な魔力がいくらでも使える前提なので、魔道具だらけなのだ。
「使い方が分かれば便利なものばかりだよ。魔力なしでも使えるから安心してね」
「そうなんですね。良かった」
ボードゥアンは料理をしないので、雇っていた魔力を持たない料理人が使うために作られた設備だ。魔力の定期的な補充は必要だが、魔道士以外も問題なく使える。もっとも、料理人は屋敷ができて数年で首になったと聞いている。ディランが通うようになるまでは、お茶を沸かすくらいにしか使っていなかったようだ。
「これが冷蔵庫で、隣が冷凍庫だよ」
「冷凍庫まであるんですか?」
「うん。お肉屋さんに何度も届けてもらうのは申し訳ないから、一回にたくさん注文して凍らせておくんだ」
ディランは冷蔵庫から肉の塊や玉ねぎを取り出しながら、エミリーに説明する。エミリーは興味深そうに、ディランの横から冷蔵庫の中を覗き込んでいた。魔力が必要なので、冷蔵庫はあまり一般に普及していない。伯爵家でも氷を買って食材を冷やしているようだ。
「玉ねぎのみじん切りは、やったことある?」
「任せてください!」
ディランがまな板と包丁を取り出すと、エミリーは安心した顔をして引き受けてくれた。ディランはエミリーの手慣れた包丁さばきを横目に、魔道具で肉の塊をミンチにする。
「玉ねぎを炒めたいんですけど……」
「この宝石に触れると火がつくよ」
「す、すごい……」
ディランはコンロに埋め込まれたいくつかの宝石に触れて、火の調節や消し方を説明する。エミリーは戸惑っていたが、慣れればディランよりよほど料理の手際が良い。ハンバーグはエミリーに任せることにして、ディランはスープと付け合わせのサラダを作り、買ってきたパンを軽く焼いた。
「いい匂いだね」
「師匠。ちょうど呼びに行こうと思ってたんです」
ディランたちが盛り付けをしていると、ボードゥアンが匂いに誘われてやってきた。最後にスープを取り分けて皆で席につく。
こんがりと焼けたハンバーグは食欲をそそる良い薫りがする。エミリーが緊張した面持ちで見守る中、ボードゥアンがハンバーグにナイフを入れた。見ているディランまで緊張してくるが、エミリーがディランの様子も気にしているので、ハンバーグを食べ始める。
「うん、美味しい!」「美味しいですね」
「本当ですか? 良かった」
ディランも作り慣れている気でいたが、手際といい味といい負けている気がして、ちょっと悔しい。
「ディランのスープも美味しいよ」
「はい。すごく美味しいです」
「あ、ありがとうございます」
ボードゥアンがクスクス笑いながら、ディランの料理も褒めてくれる。子供っぽい考えを見抜かれたようで、なんだか恥ずかしい。エミリーは純粋にスープを楽しんでくれているようなので、ディランは内心ホッとした。
「エミリーちゃん。魔道士団に入って正式に僕の弟子にならない? 一応、ディランは王子様だから、毎日通ってもらうのは難しいからさ」
「えっ!? 無理ですよ!」
ボードゥアンの言葉に、エミリーは目を丸くしている。魔道士団は魔力が高くないと入れないエリート集団だ。魔力を持たない人間が声をかけられたなら、全員がエミリーと同じ顔をしただろう。
「魔道士団って給料いいんだよ」
「それは知ってますけど……ディラン殿下……」
エミリーが助けを求めるように見つめてくる。ディランはこの表情に弱い。
「師匠……、エミリーが困っているから分かりにくい冗談はやめてあげて下さい」
エミリーがディランに賛同するようにコクコクと頷く。
「えー、結構本気だったんだけどな」
ボードゥアンは冗談とも本気ともとれる笑顔で言った。エミリーさえ頷けば、本当に弟子にしてしまうかもしれない。ボードゥアンからの推薦なら、どんな例外でも通る気がする。
ディランはそれも楽しそうだと思ってしまうが、エミリーは困っているので、ボードゥアンに加勢するのは控えておいた。
「エミリー、お待たせ。そろそろ始めようか」
「はい……でも、この台所には見慣れないものが多くて……お役に立てないかもしれないです」
エミリーは申しわけなさそうに眉を下げる。この屋敷の台所は、ボードゥアンが作り替えているので一般的なものではない。普通なら貴重な魔力がいくらでも使える前提なので、魔道具だらけなのだ。
「使い方が分かれば便利なものばかりだよ。魔力なしでも使えるから安心してね」
「そうなんですね。良かった」
ボードゥアンは料理をしないので、雇っていた魔力を持たない料理人が使うために作られた設備だ。魔力の定期的な補充は必要だが、魔道士以外も問題なく使える。もっとも、料理人は屋敷ができて数年で首になったと聞いている。ディランが通うようになるまでは、お茶を沸かすくらいにしか使っていなかったようだ。
「これが冷蔵庫で、隣が冷凍庫だよ」
「冷凍庫まであるんですか?」
「うん。お肉屋さんに何度も届けてもらうのは申し訳ないから、一回にたくさん注文して凍らせておくんだ」
ディランは冷蔵庫から肉の塊や玉ねぎを取り出しながら、エミリーに説明する。エミリーは興味深そうに、ディランの横から冷蔵庫の中を覗き込んでいた。魔力が必要なので、冷蔵庫はあまり一般に普及していない。伯爵家でも氷を買って食材を冷やしているようだ。
「玉ねぎのみじん切りは、やったことある?」
「任せてください!」
ディランがまな板と包丁を取り出すと、エミリーは安心した顔をして引き受けてくれた。ディランはエミリーの手慣れた包丁さばきを横目に、魔道具で肉の塊をミンチにする。
「玉ねぎを炒めたいんですけど……」
「この宝石に触れると火がつくよ」
「す、すごい……」
ディランはコンロに埋め込まれたいくつかの宝石に触れて、火の調節や消し方を説明する。エミリーは戸惑っていたが、慣れればディランよりよほど料理の手際が良い。ハンバーグはエミリーに任せることにして、ディランはスープと付け合わせのサラダを作り、買ってきたパンを軽く焼いた。
「いい匂いだね」
「師匠。ちょうど呼びに行こうと思ってたんです」
ディランたちが盛り付けをしていると、ボードゥアンが匂いに誘われてやってきた。最後にスープを取り分けて皆で席につく。
こんがりと焼けたハンバーグは食欲をそそる良い薫りがする。エミリーが緊張した面持ちで見守る中、ボードゥアンがハンバーグにナイフを入れた。見ているディランまで緊張してくるが、エミリーがディランの様子も気にしているので、ハンバーグを食べ始める。
「うん、美味しい!」「美味しいですね」
「本当ですか? 良かった」
ディランも作り慣れている気でいたが、手際といい味といい負けている気がして、ちょっと悔しい。
「ディランのスープも美味しいよ」
「はい。すごく美味しいです」
「あ、ありがとうございます」
ボードゥアンがクスクス笑いながら、ディランの料理も褒めてくれる。子供っぽい考えを見抜かれたようで、なんだか恥ずかしい。エミリーは純粋にスープを楽しんでくれているようなので、ディランは内心ホッとした。
「エミリーちゃん。魔道士団に入って正式に僕の弟子にならない? 一応、ディランは王子様だから、毎日通ってもらうのは難しいからさ」
「えっ!? 無理ですよ!」
ボードゥアンの言葉に、エミリーは目を丸くしている。魔道士団は魔力が高くないと入れないエリート集団だ。魔力を持たない人間が声をかけられたなら、全員がエミリーと同じ顔をしただろう。
「魔道士団って給料いいんだよ」
「それは知ってますけど……ディラン殿下……」
エミリーが助けを求めるように見つめてくる。ディランはこの表情に弱い。
「師匠……、エミリーが困っているから分かりにくい冗談はやめてあげて下さい」
エミリーがディランに賛同するようにコクコクと頷く。
「えー、結構本気だったんだけどな」
ボードゥアンは冗談とも本気ともとれる笑顔で言った。エミリーさえ頷けば、本当に弟子にしてしまうかもしれない。ボードゥアンからの推薦なら、どんな例外でも通る気がする。
ディランはそれも楽しそうだと思ってしまうが、エミリーは困っているので、ボードゥアンに加勢するのは控えておいた。
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