【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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二章 誘惑の秘宝と王女の日記

3.手がかり

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 エミリーはディランを熱っぽく見つめながら、魅了の魔法を使い続けている。ディランが向かってくる魔法を全身全霊で耐えていることには気づいていないのだろう。そして、ボードゥアンは、唯一エミリーを止められるのに、この状況を楽しんでしまっている。

(師匠……)

「今日はこんなもんかな? エミリーちゃん、やめていいよ」

「はい」

 ディランが魔法に抗うのを諦めようとした瞬間にボードゥアンの声がして、魅了の魔法が弱まる。ディランは気づかれないように息を吐き出した。

「やっぱり、ボクが補助しても、放った魔法のすべてを魔道具に入れ込むのは難しいな。魔力の質が違うからかな? どう思う、ディラン?」

 ボードゥアンは、記憶しておいた魔法陣を紙に書きつつ、ディランに聞いてくる。

「さ、さぁ? 僕のような若輩者には、とても分かりません」

「そっか」

 ボードゥアンは、ディランに状況を分析する余裕がなかったことなど分かっているのに、そんなことを聞いてくる。製作中に浮かび上がった魔法陣を書き留める者がいなかったので、ボードゥアンは細かい絵のような魔法陣を思い出して書くという繊細な作業をしている。それでも、揶揄う余裕があることにディランは改めて ボードゥアンの凄さを実感させられた。

「エミリー、ごめんね。落としちゃった」

「あ、気にしないで下さい。私が拾いますよ。殿下にそんなことはさせられません」

「それはいいんだけど……」

 ディランはパタパタとやってくるエミリーの足音を聞きながら、装飾品に手を伸ばす。魔道具のイヤリングと腕輪、そして……

「あーっ!! これだ!」

 ディランはエミリーの日時計を手にとって思わず叫ぶ。近くに来ていたエミリーがビクリと肩を揺らした。

「どうしたの、ディラン? 急に大きな声出さないでよ」

「す、すみません。でも、見てください、これ!」

 ディランは、ボードゥアンに日時計の裏に掘られた紋章を見せた。日時計には、蔦のような模様と花が3輪彫り込まれている。

「これって、日記に押されていた箔押しの紋章と同じものだよね」

「はい、前にも見せてもらっていたのに、思い出せませんでした」

「エミリーちゃん、この紋章について詳しい話を聞かせてもらえるかな?」

 ディランはボードゥアンの言葉に賛同するように、エミリーに向き直る。エミリーは二人の視線を受けて神妙な面持ちで頷いた。

「あの、この建物って、他の人に聞かれないような魔法がかかってるんですよね?」

 ディランはエミリーの意味深な言葉に息を呑む。

「エミリーちゃん、お茶でも飲みながらゆっくり話そうか」

 ボードゥアンの落ち着いた一声で、3人は研究部屋を片付けて台所に向かった。
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