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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
11.カモミール
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ディランとエミリーはそのままベンチに座って、ひまわりを見ながら他愛のない話をした。エミリーの家族の話はどれも温かい。ディランはエミリーと家族になれる未来を想像して幸せな気持ちになった。
ディランはポカポカした陽気にのんびりしてしまいそうになるが、目的を果たすにはこの場所がぴったりだ。話が一段落するたびに、ポケットの小箱に触れるが、取り出すには勇気がいる。
「あの……ディラン様。どうかしましたか?」
エミリーに声をかけられて顔をあげると、エミリーがディランのポケットを不思議そうに見ていた。ディランはその視線に促されるように、ポケットから小箱を取り出す。
「ごめん。王都を出発するときに渡そうと思ってたんだけど、機会を逃しちゃったんだ。その……気に入ってくれると嬉しいんだけど……好みじゃなかったら作り直すから遠慮せずに言ってね」
ディランは黄色いリボンのかかった箱をエミリーに渡す。
「これ、私にですか?」
「うん、遅くなってごめんね。開けてみてくれる?」
エミリーは、緊張するディランを不思議そうに見上げていたが、促すと小箱を膝の上にのせてリボンを解いていく。箱の中から宝石箱を取り出して静かに開けた。
「きれい……」
エミリーの呟くような言葉を聞いて、ディランは肩の力を抜く。今日はこれを渡すためにエミリーを連れ出したと言っても過言ではない。
「婚約指輪だよ。王家では印章指輪を作ったときに、婚約者にも対になる指輪を渡す風習があるんだ。僕は王籍を離れる事が決まっているから、王家の伝統的な物とは違うけど、僕の印章と対になるようにデザインしてみたんだ……どうかな?」
「素敵です。ディラン様のカモミールですね」
エミリーが嬉しそうにリングに刻まれたカモミールをなぞる。指輪は中央に大粒のイエローダイアモンドをあしらい、両側から支えるようにディランの印章を彫り込んだ。
「つけてくれる?」
「はい」
ディランが手を差し出すと、エミリーが恥ずかしそうに頬を染めて指輪を渡してくれる。ディランはエミリーの左手を取って、緊張しながら指輪をはめた。
「お揃いですね」
エミリーはディランの手元の指輪を見て幸せそうに微笑んだ。その表情がいつもより艶めいて見えて、ディランは思わずエミリーの頬に手を伸ばす。
「お母さん、アイス美味しいね」
「走って落とさないでよ」
子供連れの声が聞こえて、ディランは我に返った。なんの邪魔も入らなければ、ディランはエミリーに……
(婚約の許可もまだなのに、何やってるんだよ)
周囲にはアイスを持った観光客がたくさんいる。ディランたちに注目する者はいないが、自分の行動を思い出すとなんだか恥ずかしい。エミリーは何も気づいていないのか、キョトンとしたままディランを見つめていた。
「できれば、ずっとつけていてほしいな」
ディランは誤魔化すように笑って言う。咄嗟に出た言葉が本音そのままで、心の中で苦笑した。
「はい、もちろんです。もしかして、腕輪みたいに私とディラン様しか外せないとかありますか?」
「まさか! そこまではしてないよ」
エミリーの純粋な視線を受けて、ディランは慌てて否定する。ディランが挙動不審なので指輪に秘密があるとでも思ったようだ。
「なんだ。違うんですね」
エミリーががっかりしているので、ディランは頬が緩んでしまう。エミリーの言葉に深い意味はなさそうだが、どんなディランでも受け入れてくれそうで嬉しかった。
エミリーは婚約の話が出てから作ったと思っているだろうが、これは告白に向けて、かなり前から作り始めていた物だ。ディランは振られて不要になる覚悟もしていた指輪なので、エミリーの指に輝いているのを見ると感慨もひとしおだ。
「ディラン様。素敵な贈り物、ありがとうございます。大切にしますね」
「うん。僕の方こそ、受け取ってくれてありがとう」
エミリーの笑顔はダイアモンドより輝いている。ディランはその笑顔を独り占めしながら、ルークたちが探しに来るまで、ひまわり畑での会話をエミリーと楽しんだ。
ディランはポカポカした陽気にのんびりしてしまいそうになるが、目的を果たすにはこの場所がぴったりだ。話が一段落するたびに、ポケットの小箱に触れるが、取り出すには勇気がいる。
「あの……ディラン様。どうかしましたか?」
エミリーに声をかけられて顔をあげると、エミリーがディランのポケットを不思議そうに見ていた。ディランはその視線に促されるように、ポケットから小箱を取り出す。
「ごめん。王都を出発するときに渡そうと思ってたんだけど、機会を逃しちゃったんだ。その……気に入ってくれると嬉しいんだけど……好みじゃなかったら作り直すから遠慮せずに言ってね」
ディランは黄色いリボンのかかった箱をエミリーに渡す。
「これ、私にですか?」
「うん、遅くなってごめんね。開けてみてくれる?」
エミリーは、緊張するディランを不思議そうに見上げていたが、促すと小箱を膝の上にのせてリボンを解いていく。箱の中から宝石箱を取り出して静かに開けた。
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「つけてくれる?」
「はい」
ディランが手を差し出すと、エミリーが恥ずかしそうに頬を染めて指輪を渡してくれる。ディランはエミリーの左手を取って、緊張しながら指輪をはめた。
「お揃いですね」
エミリーはディランの手元の指輪を見て幸せそうに微笑んだ。その表情がいつもより艶めいて見えて、ディランは思わずエミリーの頬に手を伸ばす。
「お母さん、アイス美味しいね」
「走って落とさないでよ」
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