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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
16.伯爵の覚悟
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ディランはそのまま応接室に通され、伯爵と向かい合って座った。お茶の用意が終わって使用人が出ていくと、部屋の中はしんと静まりかえる。ディランは不機嫌さを隠さなくなった伯爵を真っ直ぐに見つめた。少し怖いが目をそらすわけにはいかない。
「伯爵、まずは王家による強引な申し出に対して謝罪させて下さい。申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんが、謝罪を受け入れるわけにはいきません」
「……」
「ディラン殿下はチャーリー殿下が我々に宛てた手紙の内容を把握されていたのですか? 言ってしまえば、私達はエミリーを人質に取られた状態で脅されたのです。今更謝罪されたところで王家を信じることなどできません。今日はこのまま泊まっていただいて構いませんが、明日の朝には帰っていただけませんか? エミリーが学院で起こした事件が事実なら、あの子を育てた私がすべての責任を負います」
ディランは伯爵の言葉に息を呑む。チャーリーは婚約を受け入れないのであれば、伯爵家を降爵させるようなことを手紙で匂わせていた。責任を伯爵が負うということは、レジーに家督を譲り子爵家として再出発するということだ。地位が下がれば権限も弱くなるし、領地経営に余裕がなくなる。
伯爵が王家の要求を呑んだのは、王都に残っているエミリーを確実に伯爵領へ呼び戻すためだったのだろう。
「元々、兄が言い出したことに関しては取り消すつもりで参りました。エミリーが学院で起こした一連の出来事の原因は解明されつつあります。夏期休暇明けの状況にもよりますが、不問に付されるか、処分が下されるとしても謹慎程度になると思います」
魅了状態になっていた男子生徒も休暇に入って魅了が解けているはずだ。魅了を防ぐ訓練を怠ったのも原因の一つなので、エミリーにだけ責任を押し付けることはできない。お互いの利害が一致して有耶無耶になる可能性が高いとディランはみている。
「では、婚約はなかったことでよろしいのですね?」
「いいえ。それに関しましては、僕から改めて申し込ませて下さい」
伯爵から鋭い視線を送られて、ディランはゴクリと唾を飲み込む。ディランは立ち上がって恐ろしい形相の伯爵を真っすぐに見た。
「僕はエミリーを一人の男として愛しています。娘さんを僕にください」
ディランはカランセ伯爵に勢いよく頭を下げる。
「ディラン殿下、そのようなことをされても困ります。そもそも、娘は身体が弱いので王子妃など務まりません。顔をあげていただけますか?」
「いいえ、認めていただくまでは動くつもりはありません。王子妃が心配とのことですが、僕は学院卒業とともに王籍を離れることに決まっております。王家から下げ渡される予定の領地は、この伯爵領からも近く気候も温暖で過ごしやすい風土です。僕は魔道士もしておりますので、その力も使ってエミリーにとって快適な生活空間を作るつもりです」
「いや、しかし……」
ディランは言葉の通り認めてもらえるまで動くつもりはない。伯爵を困惑させて申し訳ないが、エミリーとの未来は譲れない。ディランは自分の強引さに王家の血を色濃く感じて心の中で苦笑する。根本的な部分ではチャーリーと大差がない。
「僕との婚約はエミリーも了承してくれています。前向きに考えて頂けませんか?」
「……」
「父上、諦めたら? どうせ、ライアンからも説得されたんでしょ?」
「しかし……」
声がして振り返ると、レジーが部屋の隅で壁に寄りかかっていた。ディランは緊張して気づいていなかったが、この部屋に一緒に入ってきていたのかもしれない。
「父上だって、殿下とエミリーが玄関先でイチャイチャしてたの見てたでしょ? こっちはエミリーのためにやってるのに、エミリーに大嫌いとか言われるんだよ。割に合わないよね……」
「ぼ、僕達は決してイチャイチャなどは……」
「殿下、昨日からずっとイチャイチャしてますよ。まさか、気づいてないなんて言いませんよね?」
レジーがため息混じりに言うので、ディランは顔を赤くする。伯爵もムスッとしていて、これに関してはレジーに同意しているようだ。
「エミリー、いるんでしょ。怒らないから、入っておいで」
レジーが気まずい雰囲気も気にせずに、扉の向こうに呼びかける。ディランが扉に視線を向けると、エミリーが扉を薄く開けて入ってきた。
「ごめんなさい。どうしても気になって……」
エミリーはバツが悪そうにディランの視線を避けていたが、ディランに近づいてきて隣に寄り添うように並んだ。
伯爵はエミリーがぴったりディランにくっついているのを見て、ショックを受けたような顔をしている。
「ディラン殿下、どうぞおかけになって下さい」
レジーが、固まっている伯爵を無視して仕切り始める。
「話は一段落したのかしら? そろそろ、食事にしましょう」
伯爵夫人も入ってきて張り詰めていた雰囲気はいつの間にかなくなっていた。
「伯爵、まずは王家による強引な申し出に対して謝罪させて下さい。申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんが、謝罪を受け入れるわけにはいきません」
「……」
「ディラン殿下はチャーリー殿下が我々に宛てた手紙の内容を把握されていたのですか? 言ってしまえば、私達はエミリーを人質に取られた状態で脅されたのです。今更謝罪されたところで王家を信じることなどできません。今日はこのまま泊まっていただいて構いませんが、明日の朝には帰っていただけませんか? エミリーが学院で起こした事件が事実なら、あの子を育てた私がすべての責任を負います」
ディランは伯爵の言葉に息を呑む。チャーリーは婚約を受け入れないのであれば、伯爵家を降爵させるようなことを手紙で匂わせていた。責任を伯爵が負うということは、レジーに家督を譲り子爵家として再出発するということだ。地位が下がれば権限も弱くなるし、領地経営に余裕がなくなる。
伯爵が王家の要求を呑んだのは、王都に残っているエミリーを確実に伯爵領へ呼び戻すためだったのだろう。
「元々、兄が言い出したことに関しては取り消すつもりで参りました。エミリーが学院で起こした一連の出来事の原因は解明されつつあります。夏期休暇明けの状況にもよりますが、不問に付されるか、処分が下されるとしても謹慎程度になると思います」
魅了状態になっていた男子生徒も休暇に入って魅了が解けているはずだ。魅了を防ぐ訓練を怠ったのも原因の一つなので、エミリーにだけ責任を押し付けることはできない。お互いの利害が一致して有耶無耶になる可能性が高いとディランはみている。
「では、婚約はなかったことでよろしいのですね?」
「いいえ。それに関しましては、僕から改めて申し込ませて下さい」
伯爵から鋭い視線を送られて、ディランはゴクリと唾を飲み込む。ディランは立ち上がって恐ろしい形相の伯爵を真っすぐに見た。
「僕はエミリーを一人の男として愛しています。娘さんを僕にください」
ディランはカランセ伯爵に勢いよく頭を下げる。
「ディラン殿下、そのようなことをされても困ります。そもそも、娘は身体が弱いので王子妃など務まりません。顔をあげていただけますか?」
「いいえ、認めていただくまでは動くつもりはありません。王子妃が心配とのことですが、僕は学院卒業とともに王籍を離れることに決まっております。王家から下げ渡される予定の領地は、この伯爵領からも近く気候も温暖で過ごしやすい風土です。僕は魔道士もしておりますので、その力も使ってエミリーにとって快適な生活空間を作るつもりです」
「いや、しかし……」
ディランは言葉の通り認めてもらえるまで動くつもりはない。伯爵を困惑させて申し訳ないが、エミリーとの未来は譲れない。ディランは自分の強引さに王家の血を色濃く感じて心の中で苦笑する。根本的な部分ではチャーリーと大差がない。
「僕との婚約はエミリーも了承してくれています。前向きに考えて頂けませんか?」
「……」
「父上、諦めたら? どうせ、ライアンからも説得されたんでしょ?」
「しかし……」
声がして振り返ると、レジーが部屋の隅で壁に寄りかかっていた。ディランは緊張して気づいていなかったが、この部屋に一緒に入ってきていたのかもしれない。
「父上だって、殿下とエミリーが玄関先でイチャイチャしてたの見てたでしょ? こっちはエミリーのためにやってるのに、エミリーに大嫌いとか言われるんだよ。割に合わないよね……」
「ぼ、僕達は決してイチャイチャなどは……」
「殿下、昨日からずっとイチャイチャしてますよ。まさか、気づいてないなんて言いませんよね?」
レジーがため息混じりに言うので、ディランは顔を赤くする。伯爵もムスッとしていて、これに関してはレジーに同意しているようだ。
「エミリー、いるんでしょ。怒らないから、入っておいで」
レジーが気まずい雰囲気も気にせずに、扉の向こうに呼びかける。ディランが扉に視線を向けると、エミリーが扉を薄く開けて入ってきた。
「ごめんなさい。どうしても気になって……」
エミリーはバツが悪そうにディランの視線を避けていたが、ディランに近づいてきて隣に寄り添うように並んだ。
伯爵はエミリーがぴったりディランにくっついているのを見て、ショックを受けたような顔をしている。
「ディラン殿下、どうぞおかけになって下さい」
レジーが、固まっている伯爵を無視して仕切り始める。
「話は一段落したのかしら? そろそろ、食事にしましょう」
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