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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
17.忠告
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ディランが急な展開に戸惑っている間に、食事が応接室に運び込まれ、そのまま伯爵家の人々との夕食会となった。ディランが伯爵と話している間に夫人が準備をしてくれていたのだろう。堅苦しい晩餐ではなく語らいながら食事を摘む様式は、身内に入れてもらえたようで嬉しい。
「……それでね、ディラン様が追いかけてきて下さって……」
「まぁ、素敵ね」
エミリーがディランの隣りに座って、夫人にキャピキャピと馴れ初めを話している。エミリーが楽しそうなので嬉しいが、伯爵とレジーもいるので正直恥ずかしい。ディランのいない所で話してほしい気もするが、男性陣だけで残されるのもそれはそれで気まずい。
ディランは仕方なく聞こえないふりをしながら、カランセ伯爵領の郷土料理を味わった。エミリーがボードゥアンの屋敷で作ってくれていたので、ディランにも馴染みのある味だ。伯爵とレジーはディランの向かいに座って浴びるようにお酒を飲んでいる。
(誰も止めないし、強いのかな?)
ディランはお酒の減りが早すぎて戸惑うが、お酒を飲んでいる理由が分かるだけに口も挟めない。
「殿下、澄ましてないで一緒に飲みましょうよ」
レジーはすぐに酔っ払ったのかヘラヘラと笑いながら、ディランに絡み始めた。飲み始めて時間は経っていないが、勢いよく飲んでいたので無理もない。
「いえ、僕は未成年なので……」
「そんなこと言って、私より年上に見えますよ。サバ読んでるでしょ!」
「……」
確かにレジーはディランより年下に見えるが、ディランが老けているというよりレジーの見た目が若すぎるのだ。エミリーと双子のように見えるのに、成人していると言うのだから驚く。ディランはこれ以上絡まれると面倒なので指摘せずに笑って流した。
「私の小さいエミリーが……ムニャムニャ……」
レジーは騒ぐだけ騒いですぐに眠ってしまった。伯爵は今尚、顔色一つ変えずにワインを飲んでいる。こちらは本当に強いらしい。
「殿下、少し外で話しませんか?」
「はい」
伯爵はワインを飲み干すと、険しい表情のまま立ち上がる。エミリーが不安そうにこちらを見ていたが、ディランは大丈夫だと笑顔で示した。
伯爵は庭に出て、エミリーたちの声が聞こえない位置まで移動する。部屋を出た時点でエミリーに聞かれたくない話だと分かったが、伯爵が前置きもなく喋り始めたのは意外な話だった。
「不敬を承知で申し上げますが、ディラン殿下は王位に関して実際はどのようにお考えですか? チャーリー殿下が今のような行動を続けるなら、ディラン殿下を王太子にと考える者も出てくることでしょう」
ディランは『不敬を承知で』のあたりで察して周囲に魔法をかけて会話を遮断する。いないと思いたいがチャーリーの手の者に聞かれている可能性もある。
「僕を過大評価し過ぎではないでしょうか? 僕が兄に勝てるのは魔力だけです。今の兄の行動が問題視されているのと同様に、魔力で脅して従わせるような政治は誰も望んでいないですよ」
「そんなふうに仰るが、殿下は王族にとって大切なものを持っているではありませんか。カランセ伯爵領に入られてからの数日だけでそれを示したのです。王都の重鎮たちは皆ご存知でしょう」
「えっと……、どういうことでしょう?」
ディランが首を傾げると、伯爵は自嘲するように笑う。
「ライアンは我軍の中でも伯爵家に対する忠誠心が高い。そのライアンが私の命令を無視してあなたを受け入れた。そういうことです」
「伯爵、それはあなたのためですよね? ライアンさんは最初から僕に敵意を持っていなかったように思います」
「……殿下のそういう所が人を惹きつけるんでしょうな」
伯爵はそんなふうに呟いて応接室を振り返る。ディランにはよく分からないが聞いても説明してくれそうにない。伯爵の視線を追うと、エミリーが心配そうにこちらを見ていた。
「ディラン殿下がその気になれば、チャーリー殿下の脅威になりうる。ディラン殿下が想像しているより、そう思う者がずっと多いことを忘れないで下さい。殿下は王家を出ると仰るが、私には王家が殿下を簡単に手放すとはとても思えない」
「それは大丈夫です。王太子からもきちんと了承を得ています」
「殿下がそう仰るなら信じますよ」
伯爵はそう言って笑った。伯爵がディランの言葉を本当に信じてくれたのかは分からない。ディランを信用できないというよりは、純粋にディランとエミリーの未来を心配してくれているのだろう。それが真っ直ぐ伝わってきたので、ディランは伯爵の忠告をしっかり心に刻みつけた。
「領地にいる我々ができることは少ない。エミリーのことをよろしくお願いします」
「はい。必ず二人で幸せになります」
ディランの言葉に伯爵は小さく頷く。これからのディランの決断はエミリーの未来をも決めることになる。その責任は重たいが、ディランにとっては幸せな重さでもあった。
「……それでね、ディラン様が追いかけてきて下さって……」
「まぁ、素敵ね」
エミリーがディランの隣りに座って、夫人にキャピキャピと馴れ初めを話している。エミリーが楽しそうなので嬉しいが、伯爵とレジーもいるので正直恥ずかしい。ディランのいない所で話してほしい気もするが、男性陣だけで残されるのもそれはそれで気まずい。
ディランは仕方なく聞こえないふりをしながら、カランセ伯爵領の郷土料理を味わった。エミリーがボードゥアンの屋敷で作ってくれていたので、ディランにも馴染みのある味だ。伯爵とレジーはディランの向かいに座って浴びるようにお酒を飲んでいる。
(誰も止めないし、強いのかな?)
ディランはお酒の減りが早すぎて戸惑うが、お酒を飲んでいる理由が分かるだけに口も挟めない。
「殿下、澄ましてないで一緒に飲みましょうよ」
レジーはすぐに酔っ払ったのかヘラヘラと笑いながら、ディランに絡み始めた。飲み始めて時間は経っていないが、勢いよく飲んでいたので無理もない。
「いえ、僕は未成年なので……」
「そんなこと言って、私より年上に見えますよ。サバ読んでるでしょ!」
「……」
確かにレジーはディランより年下に見えるが、ディランが老けているというよりレジーの見た目が若すぎるのだ。エミリーと双子のように見えるのに、成人していると言うのだから驚く。ディランはこれ以上絡まれると面倒なので指摘せずに笑って流した。
「私の小さいエミリーが……ムニャムニャ……」
レジーは騒ぐだけ騒いですぐに眠ってしまった。伯爵は今尚、顔色一つ変えずにワインを飲んでいる。こちらは本当に強いらしい。
「殿下、少し外で話しませんか?」
「はい」
伯爵はワインを飲み干すと、険しい表情のまま立ち上がる。エミリーが不安そうにこちらを見ていたが、ディランは大丈夫だと笑顔で示した。
伯爵は庭に出て、エミリーたちの声が聞こえない位置まで移動する。部屋を出た時点でエミリーに聞かれたくない話だと分かったが、伯爵が前置きもなく喋り始めたのは意外な話だった。
「不敬を承知で申し上げますが、ディラン殿下は王位に関して実際はどのようにお考えですか? チャーリー殿下が今のような行動を続けるなら、ディラン殿下を王太子にと考える者も出てくることでしょう」
ディランは『不敬を承知で』のあたりで察して周囲に魔法をかけて会話を遮断する。いないと思いたいがチャーリーの手の者に聞かれている可能性もある。
「僕を過大評価し過ぎではないでしょうか? 僕が兄に勝てるのは魔力だけです。今の兄の行動が問題視されているのと同様に、魔力で脅して従わせるような政治は誰も望んでいないですよ」
「そんなふうに仰るが、殿下は王族にとって大切なものを持っているではありませんか。カランセ伯爵領に入られてからの数日だけでそれを示したのです。王都の重鎮たちは皆ご存知でしょう」
「えっと……、どういうことでしょう?」
ディランが首を傾げると、伯爵は自嘲するように笑う。
「ライアンは我軍の中でも伯爵家に対する忠誠心が高い。そのライアンが私の命令を無視してあなたを受け入れた。そういうことです」
「伯爵、それはあなたのためですよね? ライアンさんは最初から僕に敵意を持っていなかったように思います」
「……殿下のそういう所が人を惹きつけるんでしょうな」
伯爵はそんなふうに呟いて応接室を振り返る。ディランにはよく分からないが聞いても説明してくれそうにない。伯爵の視線を追うと、エミリーが心配そうにこちらを見ていた。
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