【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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終章 王子様の決断

6.手がかりの代償

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 ディランのせいで部屋が使えなくなったので、最初にチャーリーがいた部屋に5人で戻る。あんなに人がいたはずの部屋には誰も居らず、部屋は閑散としていた。言い争いを聞く者が出ないように席を外したのかもしれない。

「シャーロット、その腕どうしたの?」

「フフフッ、なんのことかしら?」 

 シャーロットは左腕を布で首から吊っている。ディランはソファに落ち着くまで気づかなかったが、右腕しか使えないようだ。

「腕の骨が折れている。だから、エミリー嬢に怪我がなくて良かったと言っただろう」

 チャーリーはトーマスに手を借りながら、そろりとソファに座った。

「チャーリー様、少し黙っていて下さい」

 シャーロットが睨んでいるが、チャーリーは落ち着きを取り戻したようで動じることはない。

「エミリー嬢を襲撃した連中の追跡に人員を割いていて、シャーロットの護衛が手薄になった隙を突かれた。相手も焦っていたようだな」

「シャーロットの護衛を捜査に回したんですか?」

 ディランの疑問にチャーリーは苦い顔をする。シャーロットを何よりも大切にしているチャーリーがシャーロットの護衛を減らすとは驚くべきことだ。

「弟の大事な婚約者が襲撃されたんだ。当たり前だろう」

「えっ……?」

 ディランが驚いてマジマジと見ると、チャーリーはさり気なく視線をそらす。表情を取り繕えていないのは珍しい。

「チャーリー様もディランやエミリーのことをちゃんと考えているのよ。ちょっと、分かりにくいけれど察して差し上げて」

「ちょっとではないと思うけど……理解するよう努力するよ」

「お願いね」

 ディランはシャーロットの言葉に頷く。チャーリーのなんとも言えない視線を受けて、シャーロットはクスリと笑った。公には出来ない2人の力関係を見せられて、ディランはいたたまれない。

「チャーリー殿下、お医師様が入室を求めております」

「入ってもらえ」

 チャーリーがハリソンの呼んできた医師の治療を受ける。見た目はひどいが跡は残らないと聞いて、ディランはホッとする。医師は賢明にも扇子の跡がついた頬を見ても何も言わなかった。黙々と治療して静かに出ていく。

「それで、兄上は僕に何をさせたいのですか? 説明を省きたいくらい急いでいたんでしょ?」

「ああ、お前にはボードゥアンを呼びに行ってほしい。こちらから使者を送ったが、早く戻るよう促してもいまいち反応がない」

「順を追って説明して頂けますか?」

 ディランの言葉にチャーリーは苦い顔をして、シャーロットに視線を向ける。対照的にシャーロットはなぜか得意気だ。

「シャーロットが襲われたとき、わざと捕まって襲撃犯のポケットに指輪を入れたらしい。それの追跡を頼みたい」

「まさか……兄上との婚約指輪ですか?」

 チャーリーが静かに頷く。

 シャーロットの護衛たちは、襲撃の際、必死で増援が来るまでシャーロットを守っていた。それなのに、シャーロットは増援が来たのを確認してわざわざ捕まったらしい。

「わたくしも、たまには役に立つでしょう? 実行犯だけ捕まえても仕方ないじゃない。エミリーがまた襲われたりしたら嫌だもの」

「シャーロット、私は君の行動をまだ許していない」

 チャーリーが珍しくシャーロットを睨みつけている。視線だけで人を殺しそうな雰囲気だが、シャーロットはその視線をまっすぐ受け止めてクスクスと笑った。

「奇遇ですわね。わたくしもエミリーを巻き込んだことをまだ許していませんのよ」

 笑っているのは声だけで、チャーリーを見つめ返すシャーロットの目が怖い。

「もしかして、その腕の怪我って……」

「ディラン、後でお前からもシャーロットに注意しておいてくれ。シャーロットの骨折のせいで、何人が首を差し出そうとしたことか」

 チャーリーはわざとらしくため息をつく。護衛対象者に怪我をさせたのだ。チャーリーの言葉は比喩ではない。

「それで、兄上は何人を……?」

 ハリソンがチャーリーの後ろで青い顔をしているのが目に入ってしまって、ディランは聞かずにはいられなかった。

「死者は出していない。数名が……」

「チャーリー殿下、そろそろ話を戻しませんか? ディラン殿下にはできれば明日の朝には出発して頂きたいので……」

「そうだな」

 ハリソンが珍しくチャーリーの会話を遮るように声をかけてくる。この話は深く追求しないほうが良いようだ。
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