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終章 王子様の決断
7.魔道士団長
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王族の印章指輪や婚約指輪には、誘拐されたときのために簡単な機能が備わっている。その時の魔道士団長が施すのが慣例で、団長の裁量で機能が違った時代もあったが、ここ何代かは統一されている。一つは指輪を奪われないよう指輪を隠蔽する機能、もう一つは誘拐された王族を迅速に見つけるための追跡機能だ。しかし、機能を発揮させるには定期的な魔力の補充が必要で、効果は永遠ではない。
「シャーロットが襲撃されたのは4日前だ。指輪の魔力が持つのは長く見積もっても、明日の夜までだろう?」
「そうですね」
もうすぐ夜明けという時間なので2日もない。しかし、ディランにはチャーリーが焦る理由が分からなかった。
「なぜ追跡が後手に回ってるんですか? 魔道士団長に隠すような案件ではないですよね?」
指輪の追跡は悪用される危険性を排除するため、魔道士団長が国王の保管している『鍵』を使用したときのみ可能だ。ボードゥアンがいなくても、魔道士団長がいれば問題なく追うことが出来る。むしろ、ボードゥアンがいたとしても、この件に関しては団長に相談する方が早い。
「……」
「兄上?」
「ディラン、盗聴防止の魔法をかけろ」
チャーリーが険しい表情でディランに命令する。ディランはこれから話される事を想像して嫌な汗をかいた。
「では、我々は失礼します。トーマス、行くぞ」
ハリソンが状況を察してトーマスを促す。
「お前たちも聞いておけ。他言は無用だぞ」
「はい」
意外にもその行動はチャーリーによって止められた。ハリソンは神妙な顔をして、その場に留まる。ディランは5人の周囲に盗聴防止の魔法をかけた。
「ディランの盗聴防止魔法は、私の優秀な部下でも破れないから安心だ」
「そ、そうなんですか?」
ディランの引き攣った顔を見てチャーリーがニヤリと笑う。心臓に悪いし危険なので、魔法の使用中はやめてほしい。最近、盗聴防止の魔法を何度か使っているが、いつのことを言っているのだろう。
全部な気もするが、破れていないようなので、気にしないほうが精神的に良さそうだ。軽い脅しのような気もするが、魔法をかけないで話した内容をチャーリーに知られる方が危険だ。
「そ、それで?」
「魔道士団長は魔法を使える状態にない。これは本人と主治医以外には、国王と王太子しか知らないことだ。私もつい最近知らされた」
誰かがゴクリと唾を飲み込んだ音がする。数年前から病気を患っており、悪化を防ぐために魔法の使用を避けているらしい。今は魔道士団で書類仕事だけをこなしている。魔道士団長自らが魔法を使わなければならない状況は少ないので隠してこれたようだ。
「それで師匠なんですね」
「ああ、今の魔道士団で印章指輪の追跡魔法を使えるのはボードゥアンしかいない」
「師匠だけ? そうなんですか?」
魔道士団長になにかあったときのため、通常は数名の後継者が決められている。その者も王族3名以上の承認があれば、魔道士団長と同じ権限を行使することができる。
「今の基準ではボードゥアンしか後継者に指名できなかったらしい」
「なるほど……そういえば、他に思いあたる方がいませんね」
魔道士団長やその後継者になれるのは、魔道士の中でも強い魔力を持っている者だけだ。昔は選べるくらいの人数がいたようだが、魔道士全体の人数も減ってきている現在、該当者は探しても中々見つからない。
「納得したなら、急いでボードゥアンを説得して連れて来い」
「分かりました。ところで、師匠って今どこにいるんですか?」
「……」
黙ってしまったチャーリーのかわりに、ハリソンが場所を教えてくれる。休憩せずに往復しても明日の夜までにギリギリ戻れるかどうかだ。戻ってから、王族の承認を受けて、追跡を開始し……
ディランが少し考えただけでも無謀だと分かる。
「馬はすでに用意してあります。ボードゥアン様がこちらに向かっていることに賭けましょう」
「……いや、そんな非効率なことをしたくないよ」
「では、お前は私の可愛いシャーロットが怪我までして作った機会を不意にするつもりか?」
チャーリーがものすごい形相で睨みつけてくる。隣ではシャーロットが嬉しそうに頬を赤くしているが、ディランには理不尽以外の言葉が見つからない。
ディランはため息をつきながら、チャーリーを睨み返した。
「そもそも、兄上が魔道士団長の状況を知っていながら、師匠を外の仕事に行かせたのが原因なんですよ! 分かっていますか?」
「だから、なんだ?」
チャーリーも自分が何をしたかは分かっているはずだ。魔道士団長は王都にいることがほとんどだが、それはこういった状況を想定してのことだ。ボードゥアン相手に王都に閉じ込めるようなことは難しくても、必要のない用事を押し付けて王都から離すなんて危険なことはすべきでない。
「シャーロットが捕まっていた場合はどうしたんですか? 期限は決まっている。出遅れている間に遠くに行かれた場合、追いつく前に追跡不能になっています」
「……」
今回は指輪だけだ。だからこそ、追跡できない場所まで逃げられていた場合も仕方ないで済む。王族が誘拐されたときに打つ手がないなんてバレたら大変なことだ。
「今回の件、何もかも考えが浅すぎます。何を焦っているのか分かりませんが、少し冷静になって下さい。らしくないですよ」
ディランが諭すように言うと、チャーリーは視線を下げて反論もしてこなかった。
「シャーロットが襲撃されたのは4日前だ。指輪の魔力が持つのは長く見積もっても、明日の夜までだろう?」
「そうですね」
もうすぐ夜明けという時間なので2日もない。しかし、ディランにはチャーリーが焦る理由が分からなかった。
「なぜ追跡が後手に回ってるんですか? 魔道士団長に隠すような案件ではないですよね?」
指輪の追跡は悪用される危険性を排除するため、魔道士団長が国王の保管している『鍵』を使用したときのみ可能だ。ボードゥアンがいなくても、魔道士団長がいれば問題なく追うことが出来る。むしろ、ボードゥアンがいたとしても、この件に関しては団長に相談する方が早い。
「……」
「兄上?」
「ディラン、盗聴防止の魔法をかけろ」
チャーリーが険しい表情でディランに命令する。ディランはこれから話される事を想像して嫌な汗をかいた。
「では、我々は失礼します。トーマス、行くぞ」
ハリソンが状況を察してトーマスを促す。
「お前たちも聞いておけ。他言は無用だぞ」
「はい」
意外にもその行動はチャーリーによって止められた。ハリソンは神妙な顔をして、その場に留まる。ディランは5人の周囲に盗聴防止の魔法をかけた。
「ディランの盗聴防止魔法は、私の優秀な部下でも破れないから安心だ」
「そ、そうなんですか?」
ディランの引き攣った顔を見てチャーリーがニヤリと笑う。心臓に悪いし危険なので、魔法の使用中はやめてほしい。最近、盗聴防止の魔法を何度か使っているが、いつのことを言っているのだろう。
全部な気もするが、破れていないようなので、気にしないほうが精神的に良さそうだ。軽い脅しのような気もするが、魔法をかけないで話した内容をチャーリーに知られる方が危険だ。
「そ、それで?」
「魔道士団長は魔法を使える状態にない。これは本人と主治医以外には、国王と王太子しか知らないことだ。私もつい最近知らされた」
誰かがゴクリと唾を飲み込んだ音がする。数年前から病気を患っており、悪化を防ぐために魔法の使用を避けているらしい。今は魔道士団で書類仕事だけをこなしている。魔道士団長自らが魔法を使わなければならない状況は少ないので隠してこれたようだ。
「それで師匠なんですね」
「ああ、今の魔道士団で印章指輪の追跡魔法を使えるのはボードゥアンしかいない」
「師匠だけ? そうなんですか?」
魔道士団長になにかあったときのため、通常は数名の後継者が決められている。その者も王族3名以上の承認があれば、魔道士団長と同じ権限を行使することができる。
「今の基準ではボードゥアンしか後継者に指名できなかったらしい」
「なるほど……そういえば、他に思いあたる方がいませんね」
魔道士団長やその後継者になれるのは、魔道士の中でも強い魔力を持っている者だけだ。昔は選べるくらいの人数がいたようだが、魔道士全体の人数も減ってきている現在、該当者は探しても中々見つからない。
「納得したなら、急いでボードゥアンを説得して連れて来い」
「分かりました。ところで、師匠って今どこにいるんですか?」
「……」
黙ってしまったチャーリーのかわりに、ハリソンが場所を教えてくれる。休憩せずに往復しても明日の夜までにギリギリ戻れるかどうかだ。戻ってから、王族の承認を受けて、追跡を開始し……
ディランが少し考えただけでも無謀だと分かる。
「馬はすでに用意してあります。ボードゥアン様がこちらに向かっていることに賭けましょう」
「……いや、そんな非効率なことをしたくないよ」
「では、お前は私の可愛いシャーロットが怪我までして作った機会を不意にするつもりか?」
チャーリーがものすごい形相で睨みつけてくる。隣ではシャーロットが嬉しそうに頬を赤くしているが、ディランには理不尽以外の言葉が見つからない。
ディランはため息をつきながら、チャーリーを睨み返した。
「そもそも、兄上が魔道士団長の状況を知っていながら、師匠を外の仕事に行かせたのが原因なんですよ! 分かっていますか?」
「だから、なんだ?」
チャーリーも自分が何をしたかは分かっているはずだ。魔道士団長は王都にいることがほとんどだが、それはこういった状況を想定してのことだ。ボードゥアン相手に王都に閉じ込めるようなことは難しくても、必要のない用事を押し付けて王都から離すなんて危険なことはすべきでない。
「シャーロットが捕まっていた場合はどうしたんですか? 期限は決まっている。出遅れている間に遠くに行かれた場合、追いつく前に追跡不能になっています」
「……」
今回は指輪だけだ。だからこそ、追跡できない場所まで逃げられていた場合も仕方ないで済む。王族が誘拐されたときに打つ手がないなんてバレたら大変なことだ。
「今回の件、何もかも考えが浅すぎます。何を焦っているのか分かりませんが、少し冷静になって下さい。らしくないですよ」
ディランが諭すように言うと、チャーリーは視線を下げて反論もしてこなかった。
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