93 / 115
終章 王子様の決断
12.建物の中
しおりを挟む
建物内部に入ると、廊下は狭く迷路のように入り組んでいた。侵入者を惑わすための罠というよりは、何度も増築を繰り返した結果のような気がする。
部屋もディランの想像する部屋とは違い、掃除道具を入れる物置のように狭い。その中に三段に積まれたベッドが押し込めてあり、トーマスと泊まったエビネ伯爵領の安宿のほうが環境が良いくらいだ。
「はぐれないように気をつけましょう」
「そうだね。トーマスも見失わないようについてきて」
「了解!」
ディランたちはそんな部屋を一つ一つ、姿を隠した状態で調べていく。まずはディランの魔法で検索し、人のいない部屋を選んだ。トーマスが扉の前で見張りをし、ハリソンとディランが部屋の中のメモや武器などを探していく。
ディランの使用する隠蔽魔法の性質上、三人に同時にかけるとトーマスとハリソンはお互いの存在を認識することができない。魔法の使用者であるディランだけが二人を認識し、二人に認識される状態だ。
そんな中でも、トーマスとハリソンは、お互いを信じて淡々と役割をこなしていた。こういうときに幼馴染みという関係が役に立つ。ハリソンにはトーマスの行動がある程度予測できているだろう。
慣れてきてからは、人がいる部屋も気にせずに確認していった。
「何も出てこないのか?」
「うん、下の人間は何も知らされないまま働いているのかもね」
ディランはトーマスの質問に落胆しながら答える。
特に成果のないまま、二階へ三階へと移り、四階に出たところで廊下の雰囲気が変わった。四階の廊下は見通しがよく手を広げていても歩けるような幅で、扉が二つしかない。
「この階が一番怪しいですね」
「いかにもって感じだけどね」
ディランとハリソンは屋敷の者には聞こえないと分かりながら小声で会話する。二つのうち奥の扉の前には、扉を守るように大きな男が二人立っていた。何かあると言っているようなものだ。
「他の部屋はあらかた調べましたし、証拠があるなら、ここで間違いないでしょうね」
「トーマスに気絶させてもらおう」
「しかし、警戒されては泳がせている意味が……」
バキッ ドカン
「ディラン、これでいいか?」
トーマスが部屋の前に立っていた男二人を一発ずつで気絶させて、振り返ってニッコリ笑った。トーマスにはハリソンの声が聞こえていない。幼馴染みの連携もたまにはうまくいかないこともある。
「……」
「……他の人間が来る前に調べよう」
「そうですね」
ディランはハリソンを促して部屋に入る。トーマスは、男二人の足を引きずって部屋に入れていた。廊下に放置するより発覚を遅らせることができるだろう。
部屋の中には大きな金庫が置いてあった。男たちはこれを守っていたのだろう。
「この金庫開けられますか?」
「うん。開けても良いなら……」
「お願いします」
法的な手続きを取らずに金庫を魔法で開けることは、もちろん違法だ。ハリソンも言葉遣いは丁寧だが犯罪行為を平気でさせるあたり、トーマス以上にディランを王子扱いはしていないと思う。
「仕方ないな」
ディランがしぶしぶ魔法で開けると、金庫にはお金や宝石がぎっしり詰まっていた。
「すごい量ですね」
「でも……これだけじゃ証拠とは言えないよね」
その後も部屋の中を隈なく探してみたが、証拠品と呼べるようなものはない。廊下に戻って隣の部屋も確認したが、成果はなかった。
「仕方ありませんね。あとは部下たちが何か掴んでくれていることを願いましょう」
「うーん。どうせだし、指輪だけでも見つけて帰ろうか」
なんの成果もなく、このまま帰るのはかけた時間を考えると避けたい。幸いディランは仮眠をとったのでいくらか魔力は回復している。隠蔽に使う魔力は大したことがないので、ディランがトーマスの馬に同乗して帰ることだけ我慢すればなんとかなるだろう。
「大丈夫ですか?」
「たぶんね」
ディランはチャーリーの指輪に再び魔力を送り込み、フラフラしながらシャーロットの指輪を探して建物の中を歩いた。見かねたトーマスに途中で抱き上げられたが仕方ない。
「ありがとう、トーマス」
「お前は軽すぎるくらいだから気にするな」
「……」
ディランのなんとも言えない気持ちは、満面の笑みを浮かべるトーマスには伝わりそうもない。ハリソンからは宙に浮いたディランしか見えていないことが救いだった。
部屋もディランの想像する部屋とは違い、掃除道具を入れる物置のように狭い。その中に三段に積まれたベッドが押し込めてあり、トーマスと泊まったエビネ伯爵領の安宿のほうが環境が良いくらいだ。
「はぐれないように気をつけましょう」
「そうだね。トーマスも見失わないようについてきて」
「了解!」
ディランたちはそんな部屋を一つ一つ、姿を隠した状態で調べていく。まずはディランの魔法で検索し、人のいない部屋を選んだ。トーマスが扉の前で見張りをし、ハリソンとディランが部屋の中のメモや武器などを探していく。
ディランの使用する隠蔽魔法の性質上、三人に同時にかけるとトーマスとハリソンはお互いの存在を認識することができない。魔法の使用者であるディランだけが二人を認識し、二人に認識される状態だ。
そんな中でも、トーマスとハリソンは、お互いを信じて淡々と役割をこなしていた。こういうときに幼馴染みという関係が役に立つ。ハリソンにはトーマスの行動がある程度予測できているだろう。
慣れてきてからは、人がいる部屋も気にせずに確認していった。
「何も出てこないのか?」
「うん、下の人間は何も知らされないまま働いているのかもね」
ディランはトーマスの質問に落胆しながら答える。
特に成果のないまま、二階へ三階へと移り、四階に出たところで廊下の雰囲気が変わった。四階の廊下は見通しがよく手を広げていても歩けるような幅で、扉が二つしかない。
「この階が一番怪しいですね」
「いかにもって感じだけどね」
ディランとハリソンは屋敷の者には聞こえないと分かりながら小声で会話する。二つのうち奥の扉の前には、扉を守るように大きな男が二人立っていた。何かあると言っているようなものだ。
「他の部屋はあらかた調べましたし、証拠があるなら、ここで間違いないでしょうね」
「トーマスに気絶させてもらおう」
「しかし、警戒されては泳がせている意味が……」
バキッ ドカン
「ディラン、これでいいか?」
トーマスが部屋の前に立っていた男二人を一発ずつで気絶させて、振り返ってニッコリ笑った。トーマスにはハリソンの声が聞こえていない。幼馴染みの連携もたまにはうまくいかないこともある。
「……」
「……他の人間が来る前に調べよう」
「そうですね」
ディランはハリソンを促して部屋に入る。トーマスは、男二人の足を引きずって部屋に入れていた。廊下に放置するより発覚を遅らせることができるだろう。
部屋の中には大きな金庫が置いてあった。男たちはこれを守っていたのだろう。
「この金庫開けられますか?」
「うん。開けても良いなら……」
「お願いします」
法的な手続きを取らずに金庫を魔法で開けることは、もちろん違法だ。ハリソンも言葉遣いは丁寧だが犯罪行為を平気でさせるあたり、トーマス以上にディランを王子扱いはしていないと思う。
「仕方ないな」
ディランがしぶしぶ魔法で開けると、金庫にはお金や宝石がぎっしり詰まっていた。
「すごい量ですね」
「でも……これだけじゃ証拠とは言えないよね」
その後も部屋の中を隈なく探してみたが、証拠品と呼べるようなものはない。廊下に戻って隣の部屋も確認したが、成果はなかった。
「仕方ありませんね。あとは部下たちが何か掴んでくれていることを願いましょう」
「うーん。どうせだし、指輪だけでも見つけて帰ろうか」
なんの成果もなく、このまま帰るのはかけた時間を考えると避けたい。幸いディランは仮眠をとったのでいくらか魔力は回復している。隠蔽に使う魔力は大したことがないので、ディランがトーマスの馬に同乗して帰ることだけ我慢すればなんとかなるだろう。
「大丈夫ですか?」
「たぶんね」
ディランはチャーリーの指輪に再び魔力を送り込み、フラフラしながらシャーロットの指輪を探して建物の中を歩いた。見かねたトーマスに途中で抱き上げられたが仕方ない。
「ありがとう、トーマス」
「お前は軽すぎるくらいだから気にするな」
「……」
ディランのなんとも言えない気持ちは、満面の笑みを浮かべるトーマスには伝わりそうもない。ハリソンからは宙に浮いたディランしか見えていないことが救いだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです
朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。
取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。
フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、
王太子妃候補になれるほど家格は高くない。
本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。
だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。
そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。
王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~
めもぐあい
恋愛
イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。
成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。
だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。
そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。
ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる