【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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終章 王子様の決断

12.建物の中

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 建物内部に入ると、廊下は狭く迷路のように入り組んでいた。侵入者を惑わすための罠というよりは、何度も増築を繰り返した結果のような気がする。

 部屋もディランの想像する部屋とは違い、掃除道具を入れる物置のように狭い。その中に三段に積まれたベッドが押し込めてあり、トーマスと泊まったエビネ伯爵領の安宿のほうが環境が良いくらいだ。

「はぐれないように気をつけましょう」

「そうだね。トーマスも見失わないようについてきて」

「了解!」

 ディランたちはそんな部屋を一つ一つ、姿を隠した状態で調べていく。まずはディランの魔法で検索し、人のいない部屋を選んだ。トーマスが扉の前で見張りをし、ハリソンとディランが部屋の中のメモや武器などを探していく。

 ディランの使用する隠蔽魔法の性質上、三人に同時にかけるとトーマスとハリソンはお互いの存在を認識することができない。魔法の使用者であるディランだけが二人を認識し、二人に認識される状態だ。

 そんな中でも、トーマスとハリソンは、お互いを信じて淡々と役割をこなしていた。こういうときに幼馴染みという関係が役に立つ。ハリソンにはトーマスの行動がある程度予測できているだろう。

 慣れてきてからは、人がいる部屋も気にせずに確認していった。

「何も出てこないのか?」

「うん、下の人間は何も知らされないまま働いているのかもね」

 ディランはトーマスの質問に落胆しながら答える。

 特に成果のないまま、二階へ三階へと移り、四階に出たところで廊下の雰囲気が変わった。四階の廊下は見通しがよく手を広げていても歩けるような幅で、扉が二つしかない。

「この階が一番怪しいですね」

「いかにもって感じだけどね」

 ディランとハリソンは屋敷の者には聞こえないと分かりながら小声で会話する。二つのうち奥の扉の前には、扉を守るように大きな男が二人立っていた。何かあると言っているようなものだ。

「他の部屋はあらかた調べましたし、証拠があるなら、ここで間違いないでしょうね」

「トーマスに気絶させてもらおう」

「しかし、警戒されては泳がせている意味が……」

 バキッ ドカン

「ディラン、これでいいか?」

 トーマスが部屋の前に立っていた男二人を一発ずつで気絶させて、振り返ってニッコリ笑った。トーマスにはハリソンの声が聞こえていない。幼馴染みの連携もたまにはうまくいかないこともある。

「……」

「……他の人間が来る前に調べよう」

「そうですね」

 ディランはハリソンを促して部屋に入る。トーマスは、男二人の足を引きずって部屋に入れていた。廊下に放置するより発覚を遅らせることができるだろう。

 部屋の中には大きな金庫が置いてあった。男たちはこれを守っていたのだろう。

「この金庫開けられますか?」

「うん。開けても良いなら……」

「お願いします」

 法的な手続きを取らずに金庫を魔法で開けることは、もちろん違法だ。ハリソンも言葉遣いは丁寧だが犯罪行為を平気でさせるあたり、トーマス以上にディランを王子扱いはしていないと思う。

「仕方ないな」

 ディランがしぶしぶ魔法で開けると、金庫にはお金や宝石がぎっしり詰まっていた。

「すごい量ですね」

「でも……これだけじゃ証拠とは言えないよね」

 その後も部屋の中を隈なく探してみたが、証拠品と呼べるようなものはない。廊下に戻って隣の部屋も確認したが、成果はなかった。

「仕方ありませんね。あとは部下たちが何か掴んでくれていることを願いましょう」

「うーん。どうせだし、指輪だけでも見つけて帰ろうか」

 なんの成果もなく、このまま帰るのはかけた時間を考えると避けたい。幸いディランは仮眠をとったのでいくらか魔力は回復している。隠蔽に使う魔力は大したことがないので、ディランがトーマスの馬に同乗して帰ることだけ我慢すればなんとかなるだろう。

「大丈夫ですか?」

「たぶんね」

 ディランはチャーリーの指輪に再び魔力を送り込み、フラフラしながらシャーロットの指輪を探して建物の中を歩いた。見かねたトーマスに途中で抱き上げられたが仕方ない。

「ありがとう、トーマス」

「お前は軽すぎるくらいだから気にするな」

「……」

 ディランのなんとも言えない気持ちは、満面の笑みを浮かべるトーマスには伝わりそうもない。ハリソンからは宙に浮いたディランしか見えていないことが救いだった。
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