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終章 王子様の決断
14.侵入者
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ディランが目を覚ますと、エミリーが心配そうにディランを覗き込んでいた。窓から差し込む朝日が眩しい。
「おはよう、エミリー」
「お、おはようございます」
ちょこんとベッドに座っているエミリーが、戸惑った様子で挨拶を返してくる。ディランはよく分からなくて首を傾げるが、すぐに戸惑いの理由に思い至って慌てた。
「ごめん! 帰るつもりだったんだけど……眠っちゃったみたい」
「いいえ、それは良いんです。帰りにくくしちゃったのは、私なので……そうではなくて……」
エミリーがディランの後ろの方をチラチラ気にしている。その表情は固い。
「ん? どうしたの、エミリー?」
ディランがエミリーの視線の先に振り返ると、チャーリーが仁王立ちでディランを睨みつけていた。
「へ!? 兄上!」
ディランは慌てて立ち上がる。勢い余って椅子が後ろに倒れた。椅子がチャーリーの足をかすめてヒヤリとする。
「私はお前が夜のうちに来ると思って待っていたんだがな」
「えっ!? 報告ならトーマスとハリソンからありませんでしたか?」
「私が待っていたのはそれだ」
チャーリーが指差すディランの胸元に視線を向けると、チャーリーとシャーロットの指輪が寄り添うように輝いていた。
「あ、なるほど。すみません」
「昨日のうちに指輪を返しに来なかったのは、シャーロットにまだ未練があるからか?」
「あるわけないでしょ!」
ディランはチェーンを魔法で外して、指輪をチャーリーに押し付ける。チャーリーは指輪を握りしめて満足そうな顔をした。
「熱は下がったんですか?」
「なんだ、心配したのか?」
チャーリーがニヤリと笑う。腫れ上がった両頬に布があてられていて痛々しいが思ったより元気そうだ。
「一応僕のせいなので、気にはなりますよ」
「一応ではなく、お前のせいだぞ」
「チャーリー殿下、そろそろ戻りませんか? シャーロット様も指輪を気にしているでしょうし」
チャーリーの後ろからハリソンが顔を出す。ここは個室とはいえ病室だ。また喧嘩をはじめられては困ると思ったのだろう。
「仕方がない、戻るぞ」
チャーリーは部屋を出ていきかけて扉の前で振り返る。
「ディラン。婚約者とはいえ、エミリー嬢は未婚の女性だ。醜聞にならぬようきちんと配慮しろ。何がきっかけで足元を掬われるか分からないんだぞ」
「申し訳ありません」
チャーリーはディランが反省して謝ると、それで良いとでも言うように頷いて部屋を出ていく。
「一晩一緒にいたのに手を出せないとは情けない」
扉が閉まる直前、チャーリーのそんな声が聞こえてくる。ディランにというより、ルークの部下たちに聞かせているのだろう。彼らがエミリーの不利益になることを話すとは思えないが、このくらい気を遣えということだろうか。
(まさか、エミリーのために押し掛けてきたとか?)
ディランは疑問に思うが、チャーリーに聞いてもはぐらかされるだけだろう。そして、病室の中の気まずい雰囲気を考えれば、ディランをからかっただけの可能性もある。
ディランは倒れた椅子を戻してドサリと座る。寝起きで暴風のようなチャーリーに対応するのは辛い。
「エミリー、ごめんね。僕の考えが甘かった」
「私の方こそ、すみません。そういう令嬢の常識に疎くて……きちんと勉強します」
エミリーはチャーリーの帰りがけの言葉のせいで耳まで真っ赤だ。夜着で赤くなるエミリーは色気が漂い、ディランはまっすぐに視線を合わせることが出来ない。
「僕も一緒に勉強するよ。それと、シャーロットの事は本当に誤解しないでね」
「はい、それは大丈夫ですよ」
「そっか。良かった」
エミリーは気にするのもおかしいと言いたげな雰囲気だ。前にこの話をした頃とは二人の関係もだいぶ違っている。そのことが分かってディランは嬉しかった。
「そういえば……チャーリー殿下はどうされたんですか?」
「ん? どうって?」
「その……お顔が……」
エミリーは躊躇いがちに自分の両頬を触って見せる。
「あ、うん。僕が殴っちゃった」
「えっ!?」
ディランがなるべくサラリと伝えると、エミリーは目を丸くする。
「よくある兄弟げんかだよ」
ディランは大したことないと言うように笑ってみせる。幼馴染たちに聞かれたら、よくあってたまるかと言われそうだが、ディランはエミリーに喧嘩の理由を話す気はない。エミリーも察してくれたようで、カランセ伯爵家の平和すぎる兄妹喧嘩に話を反らしてくれた。
「おはよう、エミリー」
「お、おはようございます」
ちょこんとベッドに座っているエミリーが、戸惑った様子で挨拶を返してくる。ディランはよく分からなくて首を傾げるが、すぐに戸惑いの理由に思い至って慌てた。
「ごめん! 帰るつもりだったんだけど……眠っちゃったみたい」
「いいえ、それは良いんです。帰りにくくしちゃったのは、私なので……そうではなくて……」
エミリーがディランの後ろの方をチラチラ気にしている。その表情は固い。
「ん? どうしたの、エミリー?」
ディランがエミリーの視線の先に振り返ると、チャーリーが仁王立ちでディランを睨みつけていた。
「へ!? 兄上!」
ディランは慌てて立ち上がる。勢い余って椅子が後ろに倒れた。椅子がチャーリーの足をかすめてヒヤリとする。
「私はお前が夜のうちに来ると思って待っていたんだがな」
「えっ!? 報告ならトーマスとハリソンからありませんでしたか?」
「私が待っていたのはそれだ」
チャーリーが指差すディランの胸元に視線を向けると、チャーリーとシャーロットの指輪が寄り添うように輝いていた。
「あ、なるほど。すみません」
「昨日のうちに指輪を返しに来なかったのは、シャーロットにまだ未練があるからか?」
「あるわけないでしょ!」
ディランはチェーンを魔法で外して、指輪をチャーリーに押し付ける。チャーリーは指輪を握りしめて満足そうな顔をした。
「熱は下がったんですか?」
「なんだ、心配したのか?」
チャーリーがニヤリと笑う。腫れ上がった両頬に布があてられていて痛々しいが思ったより元気そうだ。
「一応僕のせいなので、気にはなりますよ」
「一応ではなく、お前のせいだぞ」
「チャーリー殿下、そろそろ戻りませんか? シャーロット様も指輪を気にしているでしょうし」
チャーリーの後ろからハリソンが顔を出す。ここは個室とはいえ病室だ。また喧嘩をはじめられては困ると思ったのだろう。
「仕方がない、戻るぞ」
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「申し訳ありません」
チャーリーはディランが反省して謝ると、それで良いとでも言うように頷いて部屋を出ていく。
「一晩一緒にいたのに手を出せないとは情けない」
扉が閉まる直前、チャーリーのそんな声が聞こえてくる。ディランにというより、ルークの部下たちに聞かせているのだろう。彼らがエミリーの不利益になることを話すとは思えないが、このくらい気を遣えということだろうか。
(まさか、エミリーのために押し掛けてきたとか?)
ディランは疑問に思うが、チャーリーに聞いてもはぐらかされるだけだろう。そして、病室の中の気まずい雰囲気を考えれば、ディランをからかっただけの可能性もある。
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「はい、それは大丈夫ですよ」
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「その……お顔が……」
エミリーは躊躇いがちに自分の両頬を触って見せる。
「あ、うん。僕が殴っちゃった」
「えっ!?」
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「よくある兄弟げんかだよ」
ディランは大したことないと言うように笑ってみせる。幼馴染たちに聞かれたら、よくあってたまるかと言われそうだが、ディランはエミリーに喧嘩の理由を話す気はない。エミリーも察してくれたようで、カランセ伯爵家の平和すぎる兄妹喧嘩に話を反らしてくれた。
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