96 / 115
終章 王子様の決断
15.久しぶりの日常
しおりを挟む
エミリーはレジーの過保護すぎる態度に怒った話をしてくれていたが、ボードゥアンからの手紙が届けられて途中で切り上げることになった。ディランもレジーと同じ行動を取って叱られないよう、気をつけようと思う。
手紙を届けに来た騎士が部屋を出ていくと、ディランはその場で手紙を開いた。
『魔道士団長の件、了解。明日の午後には王都に着くよ』
手紙に添えられていた日付は昨日のものなので、ボードゥアンは今日のうちに帰ってくるようだ。思っていたより早い到着なので、ボードゥアンもチャーリーの指示を受けて引き返して来ていたのだろう。
「エミリー、師匠が帰ってくるみたい。午後から会いに行くけど、エミリーも一緒に来る?」
「はい。お邪魔でなければ、ご一緒させて下さい」
「じゃあ、後で迎えに来るよ」
ディランはとりあえずエミリーを病室に残して王宮に戻った。王太子から渡された追跡用のチェーンを返却してから私室に戻る。
ディランは久しぶりの自室で、ゆっくり浴槽に浸かって身体をほぐした。浴槽を出て身体を洗っているときに新たな問題に気づいたが、それはとりあえず棚上げすることにする。
ディランは昼前に再びエミリーのもとを訪れ、二人で病院を出た。病院で騎士に見守られながら暮らすのは気を使うようなので、このままエミリーがボードゥアンの屋敷で暮らせるよう頼むつもりだ。ボードゥアンなら、二人を快く受け入れてくれるだろう。
ルークの部下たちは護衛を続けようとしてくれたが、行き先を告げると安心した様子で送り出してくれた。魔道士団ほどディランたちにとって安全な場所はない。
ディランは2人の姿を隠したまま、ボードゥアンの屋敷に移動する。早すぎたようで、ボードゥアンはまだ戻ってきていなかった。エミリーが自分の部屋を整えている間に、ディランは弟子としての仕事に取り掛かる。
掃除などを終えて台所に移動すると、エミリーもやってきた。冷蔵庫の中身と相談して、夕食は簡単にシチューを作ることにする。2人で台所に立つのは久しぶりだ。
「ディラン様、お野菜切り終えました。ここに、おいておきますね」
「あ、入れちゃっていいよ」
「じゃあ、入れちゃいます」
ディランがお肉を炒めている鍋に、エミリーが順番に野菜を投入していく。鍋がジュウジュウと美味しそうな音を立てている。こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。
「エミリーと料理をしてると、普段の生活に戻れたんだって実感してくるよ」
「私もです」
すぐ近くで満面の笑みを浮かべるので、ディランはエミリーの頬に口づけする。ディランがエミリーを見つめると分かりやすく真っ赤になった。昨日は抱きついて来たので踏み込んでみたが、これでもやりすぎだったらしい。
「あまりに可愛かったから……ごめんね」
「だ、大丈夫です!」
「あとは煮込むだけだから、座ってゆっくりしてて」
「は、はい。お言葉に甘えさせて頂きます」
エミリーはビュンと音がしそうな勢いでディランから離れていく。冷蔵室からお茶を取り出してグビグビッと飲んだ。本人は必死なんだと思うが、小動物のようで可愛らしい。
ディランが鍋をかき混ぜながらエミリーの様子を目で追っていると、落ち着いてきたのか、エミリーがディランに一番近い椅子に座る。
「仕込みも済んだしお昼にしよう。王宮の料理人が作ったから美味しいと思うよ」
「はい、楽しみです」
ディランはエミリーの表情を気にしながら、エミリーの髪に手を伸ばす。エミリーはディランの手をぼんやり眺めていたが、頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。このくらいの方がエミリーには心地いいのかもしれない。
(当分はこれで我慢したほうが良いかな?)
ディランはエミリーの笑顔を見て、自分の欲をしまい込んだ。
手紙を届けに来た騎士が部屋を出ていくと、ディランはその場で手紙を開いた。
『魔道士団長の件、了解。明日の午後には王都に着くよ』
手紙に添えられていた日付は昨日のものなので、ボードゥアンは今日のうちに帰ってくるようだ。思っていたより早い到着なので、ボードゥアンもチャーリーの指示を受けて引き返して来ていたのだろう。
「エミリー、師匠が帰ってくるみたい。午後から会いに行くけど、エミリーも一緒に来る?」
「はい。お邪魔でなければ、ご一緒させて下さい」
「じゃあ、後で迎えに来るよ」
ディランはとりあえずエミリーを病室に残して王宮に戻った。王太子から渡された追跡用のチェーンを返却してから私室に戻る。
ディランは久しぶりの自室で、ゆっくり浴槽に浸かって身体をほぐした。浴槽を出て身体を洗っているときに新たな問題に気づいたが、それはとりあえず棚上げすることにする。
ディランは昼前に再びエミリーのもとを訪れ、二人で病院を出た。病院で騎士に見守られながら暮らすのは気を使うようなので、このままエミリーがボードゥアンの屋敷で暮らせるよう頼むつもりだ。ボードゥアンなら、二人を快く受け入れてくれるだろう。
ルークの部下たちは護衛を続けようとしてくれたが、行き先を告げると安心した様子で送り出してくれた。魔道士団ほどディランたちにとって安全な場所はない。
ディランは2人の姿を隠したまま、ボードゥアンの屋敷に移動する。早すぎたようで、ボードゥアンはまだ戻ってきていなかった。エミリーが自分の部屋を整えている間に、ディランは弟子としての仕事に取り掛かる。
掃除などを終えて台所に移動すると、エミリーもやってきた。冷蔵庫の中身と相談して、夕食は簡単にシチューを作ることにする。2人で台所に立つのは久しぶりだ。
「ディラン様、お野菜切り終えました。ここに、おいておきますね」
「あ、入れちゃっていいよ」
「じゃあ、入れちゃいます」
ディランがお肉を炒めている鍋に、エミリーが順番に野菜を投入していく。鍋がジュウジュウと美味しそうな音を立てている。こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。
「エミリーと料理をしてると、普段の生活に戻れたんだって実感してくるよ」
「私もです」
すぐ近くで満面の笑みを浮かべるので、ディランはエミリーの頬に口づけする。ディランがエミリーを見つめると分かりやすく真っ赤になった。昨日は抱きついて来たので踏み込んでみたが、これでもやりすぎだったらしい。
「あまりに可愛かったから……ごめんね」
「だ、大丈夫です!」
「あとは煮込むだけだから、座ってゆっくりしてて」
「は、はい。お言葉に甘えさせて頂きます」
エミリーはビュンと音がしそうな勢いでディランから離れていく。冷蔵室からお茶を取り出してグビグビッと飲んだ。本人は必死なんだと思うが、小動物のようで可愛らしい。
ディランが鍋をかき混ぜながらエミリーの様子を目で追っていると、落ち着いてきたのか、エミリーがディランに一番近い椅子に座る。
「仕込みも済んだしお昼にしよう。王宮の料理人が作ったから美味しいと思うよ」
「はい、楽しみです」
ディランはエミリーの表情を気にしながら、エミリーの髪に手を伸ばす。エミリーはディランの手をぼんやり眺めていたが、頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。このくらいの方がエミリーには心地いいのかもしれない。
(当分はこれで我慢したほうが良いかな?)
ディランはエミリーの笑顔を見て、自分の欲をしまい込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています
さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。
侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。
お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。
形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。
やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。
剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で――
互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。
「俺はお前を愛している」
「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」
契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。
――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる