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終章 王子様の決断
19.食堂で
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午前中の授業を終えて一年の教室に向かうと、エミリーは他の令嬢たちと楽しそうに話していた。
エミリーは友人たちと食事をすると言うので、午前中に問題が起こらなかったことだけ確認して別れた。もちろん、エミリーには守護の魔法をかけてある。
「振られたな」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」
ディランの横でトーマスがゲラゲラと笑っている。これでもトーマスはディランの護衛中だ。
「ハリソンもいないし、たまには一緒に食堂で食おうぜ」
「うん、いいよ。エミリーたちも行くみたいだしね」
ハリソンは事件の後処理に追われて登校していないらしい。
ディランはエミリーと距離を取りつつ、それでも見える範囲にいられるよう気をつけて歩いた。傍から見ると怪しげな行動だが、婚約者なので許してほしい。
「ディランって、過保護なんだな」
トーマスはそんなことを言いつつ、ディランについてくる。食堂の中は、生徒たちの笑い声で溢れていた。
「学食なんて久しぶりだな」
ディランは食事を持って席につくと、食堂を見回す。
「いつもは森で食べてるんだし、食堂に思い入れなんてないだろう?」
「知ってたの? 」
トーマスはスープを飲みながら、ディランの秘密の場所をあっさりと口にした。ディランは驚くが、トーマスとしては知ってて当たり前のことらしい。
「チャーリー殿下が、困りごとは森の中に持っていけってよく言ってたぞ」
「……」
チャーリーは、シャーロットだけでなくトーマスにまで、ディランの憩いの場所を避難先のように言っていたらしい。隠していたつもりでいたディランはなんだか恥ずかしくなってくる。
ディランが落ち込みながら食べていると、エミリーと視線が合って小さく手を振られた。ディランも目立たないように小さく振り返す。たったそれだけのやり取りで、ディランの落ち込んだ心が癒やされた気がした。
「ディランを見てると、婚約って悪いばかりじゃないんだなって思えてくるな。俺もかわいい婚約者を探すべきかな」
トーマスがいつになく、しんみりとした顔をしている。ディランがエミリーと婚約したので、幼馴染みの中で婚約者がいないのはトーマスだけになった。
「そういえば、トーマスってどんな女性がタイプなの」
「うーん。気が強くて、俺が間違っていたときに、ちゃんと叱ってくれる人かな」
ディランの脳裏には、ある人物の顔がはっきりと浮かび上がる。
「……それって兄弟喧嘩に扇で割って入ってくるタイプってこと?」
「喧嘩中は思わず反撃しちゃいそうだから、やめて欲しくないか?」
「いや、そうじゃなくて……」
ディランは、なんとも言えない気持ちになる。これ以上突っ込まないほうが良いのかと思い直して食事に視線を戻した。
「ディランもシャーロットのことが好きだったんだろう? 小さい頃の俺たちにとっては唯一の華だ」
どうやら、そんな気遣いはいらなかったようで、トーマスがさっぱりとした口調で話し出す。
「それ、本気で言ってる?」
「チャーリー殿下の婚約者になってからは、絶対に手の届かない高嶺の華になってしまったが……ディランが王族なのに婚約者を決めなかったのも、シャーロットが忘れられなかったからなんだろう?」
ディランが隣に座るトーマスを見ると、なぜか同情するような視線を返された。チャーリーがディランとシャーロットの関係を誤解したときに、トーマスも同意していたことを思い出す。
「勘違いする理由が分からない……」
「違ったのか?」
ディランのため息交じりの言葉を聞いても、トーマスはキョトンとした顔をしている。チャーリーの考えをそのまま聞き入れてしまったのか、自分とディランを重ね過ぎているのか分からない。とにかく、トーマスのことが心配になってくる。
ディランはこれ以上言ってもしょうがない気がして、話をトーマスに戻す。
「トーマス、もし婚約者を自分で決めたいなら早めに動きなよ。兄上が王太子になって落ち着いたら、誰か戦略的に重要な家の娘を突然紹介されるよ」
「かもな」
トーマスは自分のことなのにケラケラと笑う。ディランは意外な反応に戸惑ってしまう。
「なんだか、余裕だね。それでもいいの?」
「チャーリー殿下が選んで下さるなら、変な相手ではないだろうからな。ディランは幸せなんだろう?」
「まぁ、うん」
認めたくはないが、ディランとエミリーを引き合わせたのはチャーリーだ。そんなふうに言われたら、ディランは何も言えなくなってしまう。
「チャーリー殿下は、ディランの好みを把握するほど、ディランを大切に思ってる。それでも、ディランは王籍を離れるつもりなのか?」
ディランは突然の質問に驚いてトーマスを見る。トーマスはいつになく真剣な顔をしていた。
「急にどうしたの? 僕が王籍を離れた方が兄上のためにも良いと思うけど……」
「でも、殿下は……悪い、やっぱりなんでもない」
トーマスは一度深呼吸をして、お茶をグビグビと飲んだ。トーマスなりにディランたち兄弟のことを心配してくれているのだろう。
これ以上その話題を続けるつもりはないようなので、ディランは何も言わなかった。
エミリーは友人たちと食事をすると言うので、午前中に問題が起こらなかったことだけ確認して別れた。もちろん、エミリーには守護の魔法をかけてある。
「振られたな」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」
ディランの横でトーマスがゲラゲラと笑っている。これでもトーマスはディランの護衛中だ。
「ハリソンもいないし、たまには一緒に食堂で食おうぜ」
「うん、いいよ。エミリーたちも行くみたいだしね」
ハリソンは事件の後処理に追われて登校していないらしい。
ディランはエミリーと距離を取りつつ、それでも見える範囲にいられるよう気をつけて歩いた。傍から見ると怪しげな行動だが、婚約者なので許してほしい。
「ディランって、過保護なんだな」
トーマスはそんなことを言いつつ、ディランについてくる。食堂の中は、生徒たちの笑い声で溢れていた。
「学食なんて久しぶりだな」
ディランは食事を持って席につくと、食堂を見回す。
「いつもは森で食べてるんだし、食堂に思い入れなんてないだろう?」
「知ってたの? 」
トーマスはスープを飲みながら、ディランの秘密の場所をあっさりと口にした。ディランは驚くが、トーマスとしては知ってて当たり前のことらしい。
「チャーリー殿下が、困りごとは森の中に持っていけってよく言ってたぞ」
「……」
チャーリーは、シャーロットだけでなくトーマスにまで、ディランの憩いの場所を避難先のように言っていたらしい。隠していたつもりでいたディランはなんだか恥ずかしくなってくる。
ディランが落ち込みながら食べていると、エミリーと視線が合って小さく手を振られた。ディランも目立たないように小さく振り返す。たったそれだけのやり取りで、ディランの落ち込んだ心が癒やされた気がした。
「ディランを見てると、婚約って悪いばかりじゃないんだなって思えてくるな。俺もかわいい婚約者を探すべきかな」
トーマスがいつになく、しんみりとした顔をしている。ディランがエミリーと婚約したので、幼馴染みの中で婚約者がいないのはトーマスだけになった。
「そういえば、トーマスってどんな女性がタイプなの」
「うーん。気が強くて、俺が間違っていたときに、ちゃんと叱ってくれる人かな」
ディランの脳裏には、ある人物の顔がはっきりと浮かび上がる。
「……それって兄弟喧嘩に扇で割って入ってくるタイプってこと?」
「喧嘩中は思わず反撃しちゃいそうだから、やめて欲しくないか?」
「いや、そうじゃなくて……」
ディランは、なんとも言えない気持ちになる。これ以上突っ込まないほうが良いのかと思い直して食事に視線を戻した。
「ディランもシャーロットのことが好きだったんだろう? 小さい頃の俺たちにとっては唯一の華だ」
どうやら、そんな気遣いはいらなかったようで、トーマスがさっぱりとした口調で話し出す。
「それ、本気で言ってる?」
「チャーリー殿下の婚約者になってからは、絶対に手の届かない高嶺の華になってしまったが……ディランが王族なのに婚約者を決めなかったのも、シャーロットが忘れられなかったからなんだろう?」
ディランが隣に座るトーマスを見ると、なぜか同情するような視線を返された。チャーリーがディランとシャーロットの関係を誤解したときに、トーマスも同意していたことを思い出す。
「勘違いする理由が分からない……」
「違ったのか?」
ディランのため息交じりの言葉を聞いても、トーマスはキョトンとした顔をしている。チャーリーの考えをそのまま聞き入れてしまったのか、自分とディランを重ね過ぎているのか分からない。とにかく、トーマスのことが心配になってくる。
ディランはこれ以上言ってもしょうがない気がして、話をトーマスに戻す。
「トーマス、もし婚約者を自分で決めたいなら早めに動きなよ。兄上が王太子になって落ち着いたら、誰か戦略的に重要な家の娘を突然紹介されるよ」
「かもな」
トーマスは自分のことなのにケラケラと笑う。ディランは意外な反応に戸惑ってしまう。
「なんだか、余裕だね。それでもいいの?」
「チャーリー殿下が選んで下さるなら、変な相手ではないだろうからな。ディランは幸せなんだろう?」
「まぁ、うん」
認めたくはないが、ディランとエミリーを引き合わせたのはチャーリーだ。そんなふうに言われたら、ディランは何も言えなくなってしまう。
「チャーリー殿下は、ディランの好みを把握するほど、ディランを大切に思ってる。それでも、ディランは王籍を離れるつもりなのか?」
ディランは突然の質問に驚いてトーマスを見る。トーマスはいつになく真剣な顔をしていた。
「急にどうしたの? 僕が王籍を離れた方が兄上のためにも良いと思うけど……」
「でも、殿下は……悪い、やっぱりなんでもない」
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