【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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終章 王子様の決断

20.王族会議

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 学院が休みの日の早朝、ディランは王宮の一番広い部屋に来ていた。

 部屋の中心にはポツンと小さな円卓があり、ディランは円卓の豪華すぎる椅子に座っている。ディランの右にはチャーリーが、左には王太子が座っている。そして、正面に座るのは退位間近な国王だ。

「皆、早朝からご苦労」

「ディラン」

 王太子に声をかけられて、ディランは円卓に盗聴されないような魔法をかける。これで叫んだとしても、壁際にズラリと並ぶ近衛騎士たちに聞こえることはない。

「今日はどういったことを話すのでしょう? もし、国の今後についてなら、僕は会話が聞こえない場所で待機します」

「ディラン、今日は君の今後について話そうと思っている。席を立つ必要はない」

 ディランが腰を浮かそうとすると、王太子に押し止められる。呼ばれたのだから、ディランの将来について話すことは予想していた。しかし、最後に少し話す程度で、この集まりの中心議題だとは思っていなかった。

「国の今後について話すのだとしても、お前は参加すべきだと私は思うがな」

「チャーリー、話がややこしくなるから後にしなさい」

「しかし、父上……」

 チャーリーはいつもと違って余裕がないように見える。ディランは不思議に思いながら、お茶を一口飲んだ。口が異様に乾くので、ディランも自分で思う以上に緊張しているのかもしれない。

「ディラン、魔道士団長の体調についてはチャーリーから聞いているな? 先日、正式に引退の打診がきた」

 王太子は現在、後継者の適性があるのはボードゥアンとディランだけであることなどを改めて説明した。

「ボードゥアンは団長になるのを嫌がるだろう。国としては才能あるボードゥアンを手放したくない。よって、無理強いはしない方針だ」

「父上。遠回しな言い方はやめませんか? はっきり仰って下さって構いません」

 ディランの言葉に王太子は眉をピクリと動かす。ディランがそのようなことを言うとは思っていなかったのだろう。ディランはこの件に関して、王太子に主導権を渡すつもりはない。実際には無理だとしても、その意志だけは示しておきたかった。

「ディラン。君に魔道士団長を任せたい。引き受けてくれるか?」

「僕に選択を委ねて下さるのですか? この指輪が既に僕の指にピッタリはまっているのに?」

 ディランは魔道士団長の証である指輪を外して円卓に置いた。ここまできても、王太子はディランにすべてを話すつもりはないらしい。

「……」

「気がついていたのか。流石は私の孫だ」

 今まで黙って聞いていた国王が豪快に笑い出す。王太子はその様子を呆れた顔で見ていた。

「国王陛下、どういうことですか? 私にも分かるように説明して下さい」

 チャーリーは戸惑った顔をして指輪と国王の顔を交互に見ている。ディランはチャーリーが知らされていなかったことに内心驚いた。

「ディランは既に魔道士団長の地位にある。あとは、公式に発表するだけの段階だ」

「気づいていると分かった途端に、言い切ってしまうのですね」 

 王太子の説明に、ディランは思わず低い声を出す。

「ディランは分かっているはずだ。君に選択を委ねるつもりはない。これは決定事項だ」

 王太子は為政者の顔をして言った。そこに家族の情など少しもない。それならば、ディランも遠慮なく言うことができる。

「確かに僕は、父上の仰る通り既に魔道士団長です。そして、後継者指名は行っていません。この意味がお分かりですか?」

「何が言いたい?」

 ディランの言葉を聞いて、王太子が警戒するような視線を向けてくる。

「この国の魔道士団長が担う役割は大きい。ここにいる誰かが誘拐されたとしても、僕が協力しなければ追跡はできない。禁書室の結界魔法だって書き換えてしまえば、僕が許可した者しか入れなくなる。すでに理解されていると思いますが、これはほんの一例です」

 ディランは言い切って、魔導師団長の指輪を自分の指に戻す。

 本来、魔道士団長には、そこまで強い権限はない。今は条件が重なっているのだ。

 団長指名と同時に行われる後継者指名が行われていないこと。ディランが王族としての権限を持っていること。ディラン以上の魔力保有者がこの国にボードゥアンしかいないこと。これらが合わさって、口には出せないような危険なことも可能な状態にある。

「……我々を脅す気か?」

「まさか。僕にそんな度胸なんてないですよ。少しがあるだけです」

 ディランは王太子を真っ直ぐ見てニッコリと笑う。ボードゥアンと色々な状況を想定して練習してきたが、こんなに平然とこなせるとは思っていなかった。ディランは、大嫌いなシクノチェス王家のふてぶてしい血が、自分にも流れていることを自覚して悲しくなった。
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