【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

文字の大きさ
105 / 115
終章 王子様の決断

24.ドレス

しおりを挟む
 ディランが屋敷の書斎でこれからのことに思いを馳せていると、執事がやってきた。

「ディラン様。そろそろ準備された方がよろしいのではありませんか?」

「もう、そんな時間か」

 夜には王宮で卒業パーティが行われる。卒業式は三年生だけで行われたが、パーティは在校生も参加する。ディランもエミリーをエスコートして出席する予定だ。

 実はエミリーも朝からこの屋敷に来ていて、すでに準備を始めている。学院の寮でもドレスを着る手伝いは頼めるが、ディランの屋敷の者の方が手慣れているから呼んだのだ。

 この屋敷の使用人たちは、王宮に暮らしていた頃からディランに仕えてくれていた者も多い。王太子の側室であるディランの母が希望者を募ってディランのもとへ送り出してくれたのだ。そんなことをしてくれるとは思っていなかったので、ちょっとだけ感動した。

「もう少し後でも構いませんが、エミリー様のドレス姿を堪能する時間がなくなりますよ」

「それは困るね」

 ディランは執事と笑い合う。小さい頃からディランのそばにいた執事は、ディランが堅苦しい雰囲気を嫌うことをよく知っている。

 ディランは自室に戻って、今日のために新調したスーツに袖を通した。しばらくして、エミリーの準備が終わったという報告が来て客間へと向かう。ディランの隣の部屋には女主人の部屋も用意しているが、さすがにまだエミリーには伝えていない。

 トントン

「エミリー。入っても良い?」

「はい、大丈夫です」

 エミリーの声がして、侍女が扉を開けてくれる。エミリーはソファに座っていたようだが、ディランが入ると立ち上がって出迎えてくれた。

「……」

 エミリーはディランの用意したワインレッドのドレスを着ている。ディランがエミリーのパーティドレス姿を見るのは初めてだ。

 いつもは可愛らしいエミリーだが、今日はドレスに合わせて大人っぽい雰囲気になっている。ドレスと同じ色のリボンで編み上げられたピンクブロンドの髪が、エミリーの整った容姿をさらに引き立てていた。

「ディラン様。おかしくないですか?」

「あっ……ごめん。とってもきれいだよ。想像以上で言葉が出てこなかった」

「ディラン様……」

 エミリーが恥ずかしそうに笑うと、耳のイヤリングが揺れてキラリと光る。ディランの瞳の色の宝石の付いたイヤリングは、事件の日にエミリーを守ってくれたディランお手製の魔道具だ。宝石が砕け落ちてしまっていたが、エミリーが気に入っているようだったので、ディランがお店に頼んで修復した。

「やっぱり、そのイヤリングにしたんだね」

「はい。これを付けていると安心するんです」

 イヤリングの宝石には、隠蔽魔法を再度入れ直してある。ディランが溢れる気持ちを込めたので、何が起こってもエミリーを守ってくれるだろう。

 普段使いのイヤリングだが、他のイヤリングも重ねてつけることで、パーティの華やかなドレスに合わせている。そこまでして、このイヤリングにこだわったエミリーが可愛くてしかたない。

 本当はイヤリングに合わせて、ディランの瞳の色のドレスが良いと言われたが、それは説得して諦めてもらった。エミリーが王宮で行われるパーティに出席するのは初めてだ。そんな記念すべき日に地味な茶色のドレスは着せられない。王子らしい華やかな色合いでない自分が悲しくなる。

「エミリー、緊張してる?」

「少しだけ」

 ディランを見上げるエミリーの笑顔がなんだかぎこちない。王宮はディランにとっては実家にすぎないが、普通の貴族の子女にとっては特別な場所だ。

 学院に通う間に参加する3回の卒業パーティは、王宮のパーティの雰囲気になれるための予行演習でもある。ほとんどの生徒が一年生のときの卒業パーティで初めて大人の社交の雰囲気を味わう。

「僕がずっと一緒にいるから安心していいよ」

「はい、心強いです」

 ディランが腰に手を回して引き寄せると、エミリーの表情が安心したように緩む。廊下に出るとエミリーの護衛を務めるルークが冷やかすように見てきたが気にしない。ディランはそのままエミリーをエスコートして、カモミールの模様が美しいカモマイル公爵家の馬車に乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです

朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。 取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。 フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、 王太子妃候補になれるほど家格は高くない。 本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。 だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。 そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。 王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

処理中です...