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終章 王子様の決断
24.ドレス
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ディランが屋敷の書斎でこれからのことに思いを馳せていると、執事がやってきた。
「ディラン様。そろそろ準備された方がよろしいのではありませんか?」
「もう、そんな時間か」
夜には王宮で卒業パーティが行われる。卒業式は三年生だけで行われたが、パーティは在校生も参加する。ディランもエミリーをエスコートして出席する予定だ。
実はエミリーも朝からこの屋敷に来ていて、すでに準備を始めている。学院の寮でもドレスを着る手伝いは頼めるが、ディランの屋敷の者の方が手慣れているから呼んだのだ。
この屋敷の使用人たちは、王宮に暮らしていた頃からディランに仕えてくれていた者も多い。王太子の側室であるディランの母が希望者を募ってディランのもとへ送り出してくれたのだ。そんなことをしてくれるとは思っていなかったので、ちょっとだけ感動した。
「もう少し後でも構いませんが、エミリー様のドレス姿を堪能する時間がなくなりますよ」
「それは困るね」
ディランは執事と笑い合う。小さい頃からディランのそばにいた執事は、ディランが堅苦しい雰囲気を嫌うことをよく知っている。
ディランは自室に戻って、今日のために新調したスーツに袖を通した。しばらくして、エミリーの準備が終わったという報告が来て客間へと向かう。ディランの隣の部屋には女主人の部屋も用意しているが、さすがにまだエミリーには伝えていない。
トントン
「エミリー。入っても良い?」
「はい、大丈夫です」
エミリーの声がして、侍女が扉を開けてくれる。エミリーはソファに座っていたようだが、ディランが入ると立ち上がって出迎えてくれた。
「……」
エミリーはディランの用意したワインレッドのドレスを着ている。ディランがエミリーのパーティドレス姿を見るのは初めてだ。
いつもは可愛らしいエミリーだが、今日はドレスに合わせて大人っぽい雰囲気になっている。ドレスと同じ色のリボンで編み上げられたピンクブロンドの髪が、エミリーの整った容姿をさらに引き立てていた。
「ディラン様。おかしくないですか?」
「あっ……ごめん。とってもきれいだよ。想像以上で言葉が出てこなかった」
「ディラン様……」
エミリーが恥ずかしそうに笑うと、耳のイヤリングが揺れてキラリと光る。ディランの瞳の色の宝石の付いたイヤリングは、事件の日にエミリーを守ってくれたディランお手製の魔道具だ。宝石が砕け落ちてしまっていたが、エミリーが気に入っているようだったので、ディランがお店に頼んで修復した。
「やっぱり、そのイヤリングにしたんだね」
「はい。これを付けていると安心するんです」
イヤリングの宝石には、隠蔽魔法を再度入れ直してある。ディランが溢れる気持ちを込めたので、何が起こってもエミリーを守ってくれるだろう。
普段使いのイヤリングだが、他のイヤリングも重ねてつけることで、パーティの華やかなドレスに合わせている。そこまでして、このイヤリングにこだわったエミリーが可愛くてしかたない。
本当はイヤリングに合わせて、ディランの瞳の色のドレスが良いと言われたが、それは説得して諦めてもらった。エミリーが王宮で行われるパーティに出席するのは初めてだ。そんな記念すべき日に地味な茶色のドレスは着せられない。王子らしい華やかな色合いでない自分が悲しくなる。
「エミリー、緊張してる?」
「少しだけ」
ディランを見上げるエミリーの笑顔がなんだかぎこちない。王宮はディランにとっては実家にすぎないが、普通の貴族の子女にとっては特別な場所だ。
学院に通う間に参加する3回の卒業パーティは、王宮のパーティの雰囲気になれるための予行演習でもある。ほとんどの生徒が一年生のときの卒業パーティで初めて大人の社交の雰囲気を味わう。
「僕がずっと一緒にいるから安心していいよ」
「はい、心強いです」
ディランが腰に手を回して引き寄せると、エミリーの表情が安心したように緩む。廊下に出るとエミリーの護衛を務めるルークが冷やかすように見てきたが気にしない。ディランはそのままエミリーをエスコートして、カモミールの模様が美しいカモマイル公爵家の馬車に乗り込んだ。
「ディラン様。そろそろ準備された方がよろしいのではありませんか?」
「もう、そんな時間か」
夜には王宮で卒業パーティが行われる。卒業式は三年生だけで行われたが、パーティは在校生も参加する。ディランもエミリーをエスコートして出席する予定だ。
実はエミリーも朝からこの屋敷に来ていて、すでに準備を始めている。学院の寮でもドレスを着る手伝いは頼めるが、ディランの屋敷の者の方が手慣れているから呼んだのだ。
この屋敷の使用人たちは、王宮に暮らしていた頃からディランに仕えてくれていた者も多い。王太子の側室であるディランの母が希望者を募ってディランのもとへ送り出してくれたのだ。そんなことをしてくれるとは思っていなかったので、ちょっとだけ感動した。
「もう少し後でも構いませんが、エミリー様のドレス姿を堪能する時間がなくなりますよ」
「それは困るね」
ディランは執事と笑い合う。小さい頃からディランのそばにいた執事は、ディランが堅苦しい雰囲気を嫌うことをよく知っている。
ディランは自室に戻って、今日のために新調したスーツに袖を通した。しばらくして、エミリーの準備が終わったという報告が来て客間へと向かう。ディランの隣の部屋には女主人の部屋も用意しているが、さすがにまだエミリーには伝えていない。
トントン
「エミリー。入っても良い?」
「はい、大丈夫です」
エミリーの声がして、侍女が扉を開けてくれる。エミリーはソファに座っていたようだが、ディランが入ると立ち上がって出迎えてくれた。
「……」
エミリーはディランの用意したワインレッドのドレスを着ている。ディランがエミリーのパーティドレス姿を見るのは初めてだ。
いつもは可愛らしいエミリーだが、今日はドレスに合わせて大人っぽい雰囲気になっている。ドレスと同じ色のリボンで編み上げられたピンクブロンドの髪が、エミリーの整った容姿をさらに引き立てていた。
「ディラン様。おかしくないですか?」
「あっ……ごめん。とってもきれいだよ。想像以上で言葉が出てこなかった」
「ディラン様……」
エミリーが恥ずかしそうに笑うと、耳のイヤリングが揺れてキラリと光る。ディランの瞳の色の宝石の付いたイヤリングは、事件の日にエミリーを守ってくれたディランお手製の魔道具だ。宝石が砕け落ちてしまっていたが、エミリーが気に入っているようだったので、ディランがお店に頼んで修復した。
「やっぱり、そのイヤリングにしたんだね」
「はい。これを付けていると安心するんです」
イヤリングの宝石には、隠蔽魔法を再度入れ直してある。ディランが溢れる気持ちを込めたので、何が起こってもエミリーを守ってくれるだろう。
普段使いのイヤリングだが、他のイヤリングも重ねてつけることで、パーティの華やかなドレスに合わせている。そこまでして、このイヤリングにこだわったエミリーが可愛くてしかたない。
本当はイヤリングに合わせて、ディランの瞳の色のドレスが良いと言われたが、それは説得して諦めてもらった。エミリーが王宮で行われるパーティに出席するのは初めてだ。そんな記念すべき日に地味な茶色のドレスは着せられない。王子らしい華やかな色合いでない自分が悲しくなる。
「エミリー、緊張してる?」
「少しだけ」
ディランを見上げるエミリーの笑顔がなんだかぎこちない。王宮はディランにとっては実家にすぎないが、普通の貴族の子女にとっては特別な場所だ。
学院に通う間に参加する3回の卒業パーティは、王宮のパーティの雰囲気になれるための予行演習でもある。ほとんどの生徒が一年生のときの卒業パーティで初めて大人の社交の雰囲気を味わう。
「僕がずっと一緒にいるから安心していいよ」
「はい、心強いです」
ディランが腰に手を回して引き寄せると、エミリーの表情が安心したように緩む。廊下に出るとエミリーの護衛を務めるルークが冷やかすように見てきたが気にしない。ディランはそのままエミリーをエスコートして、カモミールの模様が美しいカモマイル公爵家の馬車に乗り込んだ。
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