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終章 王子様の決断
25.会場では
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ディランたちは王宮に着くと、案内に従って控室に入った。王族専用の控室には、他の出席者の姿はない。チャーリーたちは別の部屋を使用しているのだろう。
「ディラン・シクノチェス殿下、お時間です」
「行こうか」
「はい」
ディランは緊張気味のエミリーをエスコートして大広間に入る。在校生の中では最後の入場なので、生徒たちの多くが卒業生の入場を待ちながら談笑していた。ディランが王族として参加した大人だらけのパーティとは異なり、ソワソワしている者も多い。
「ディラン……殿下!」
いつもと変わらない雰囲気のトーマスが、ディランたちの元へやってくる。エスコートしている女性がトーマスに咎めるような視線を送っているが、気がついていないようだ。
「紹介しておくな。俺の婚約者のマイラだ」
「マイラと申します。よろしくお願い致します」
マイラはスラリとした長身で凛とした佇まいをしている。武を重んじる伯爵家の令嬢で、トーマスとは冬期休暇中に行われた騎士団と伯爵家の軍との合同練習で初めて会ったようだ。マイラは見学に来ていたのではなく、参加していたというのだから驚きだ。二人は意気投合して、すぐに婚約となったらしい。
「よろしくね。エミリーとは歳も近いし仲良くしてくれると嬉しいな」
マイラは大人っぽい落ち着いた雰囲気の持ち主だが、来年度に学院に入学する若い令嬢だ。卒業パーティには学院に通う者のパートナーも参加が許されている。
「もちろんです。エミリー先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エミリーはマイラに挨拶されて恥ずかしそうに頬を染める。マイラはヒールを履いているとディランと身長は変われないし、騎士服がよく似合いそうだ。ディランはエミリーが頬を染めている理由が気になってしまう。
女性2人の楽しそうな会話を聞いていると、ディランはなんとも言えない気持ちになった。
「マイラは格好いいだろう」
トーマスは、ディランの複雑な心情に気づいた様子もなく、得意気に話しかけてくる。
「そこは『可愛いだろう』じゃないの?」
「いいんだよ。格好いいで」
トーマスはマイラを愛おしそうに眺めているので、ディランも頬が緩む。ニ人が出会った合同練習は、チャーリーが突然言い出して実現したことらしい。二人の婚約にチャーリーの影がちらつくが、トーマスの様子を見ると詮索するのは野暮だろう。
「今年は入場から派手だね」
卒業生の入場が始まると、陽気な音楽が鳴り始める。大人のパーティでは見られない演出だ。
「チャーリー殿下の卒業だし、周りが張り切ったんだよ」
パーティは卒業生が企画運営し行われている。チャーリーの同級生たちが、自分を売り込もうと頑張ったようだ。チャーリーに気に入られれば、卒業後は王太子の側近も夢じゃない。
「優秀な人材が見つかったなら良いけど、どうなんだろうね」
「さあ、どうなんだろうな。ハリソンは相変わらず忙しそうだぞ」
「やっぱり……、そう簡単にはいかないよね」
ディランは苦笑するしかない。チャーリーは優秀な自分を基準に判断しがちで、裏で動ける人間は豊富にいるが、生まれ持った身分が必要となる表の人員はいつも不足気味だ。
10日後には、チャーリーが王太子となる。人事異動も大規模に行われ新体制となるわけだが、ハリソンの苦労は続きそうだ。
「ディランもあんまり登校して来ないし、俺もチャーリー殿下と一緒に卒業したかったな」
トーマスがそんなことを呟く。トーマスもチャーリーの側近を続けるが、本格的な参加は卒業後なので、どうしても一年遅れとなる。
「学院にいるからこそ出来る事もあるんじゃない?」
「そうか?」
「例えば、この笑顔を守るとかさ。僕はあまり登校できないし、エミリーのこともよろしくね」
ディランはエミリーとマイラに視線を向ける。2人は先輩たちのドレスを見て、自分の卒業パーティの夢を語り合っていた。ディランはこっそりエミリーの夢を頭の中のメモに書きとめる。
「そういえば、殿下にシャーロットのことを頼むって言われたんだった」
チャーリーとシャーロットが会場入りしたのを見ながら、トーマスが嫌そうに呟く。
「来年は何も起こらないといいね」
「嫌な予感がするよな」
トーマスが苦いものを口にしたような顔をする。学院で何かあれば、来年はトーマスとマイラが動くことになるだろう。ハリソンもチャーリーとともに卒業してしまうし、トーマスの負担は大きい。ディランは学院とトーマスの平和を願わずにはいられなかった。
「ディラン・シクノチェス殿下、お時間です」
「行こうか」
「はい」
ディランは緊張気味のエミリーをエスコートして大広間に入る。在校生の中では最後の入場なので、生徒たちの多くが卒業生の入場を待ちながら談笑していた。ディランが王族として参加した大人だらけのパーティとは異なり、ソワソワしている者も多い。
「ディラン……殿下!」
いつもと変わらない雰囲気のトーマスが、ディランたちの元へやってくる。エスコートしている女性がトーマスに咎めるような視線を送っているが、気がついていないようだ。
「紹介しておくな。俺の婚約者のマイラだ」
「マイラと申します。よろしくお願い致します」
マイラはスラリとした長身で凛とした佇まいをしている。武を重んじる伯爵家の令嬢で、トーマスとは冬期休暇中に行われた騎士団と伯爵家の軍との合同練習で初めて会ったようだ。マイラは見学に来ていたのではなく、参加していたというのだから驚きだ。二人は意気投合して、すぐに婚約となったらしい。
「よろしくね。エミリーとは歳も近いし仲良くしてくれると嬉しいな」
マイラは大人っぽい落ち着いた雰囲気の持ち主だが、来年度に学院に入学する若い令嬢だ。卒業パーティには学院に通う者のパートナーも参加が許されている。
「もちろんです。エミリー先輩、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エミリーはマイラに挨拶されて恥ずかしそうに頬を染める。マイラはヒールを履いているとディランと身長は変われないし、騎士服がよく似合いそうだ。ディランはエミリーが頬を染めている理由が気になってしまう。
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「マイラは格好いいだろう」
トーマスは、ディランの複雑な心情に気づいた様子もなく、得意気に話しかけてくる。
「そこは『可愛いだろう』じゃないの?」
「いいんだよ。格好いいで」
トーマスはマイラを愛おしそうに眺めているので、ディランも頬が緩む。ニ人が出会った合同練習は、チャーリーが突然言い出して実現したことらしい。二人の婚約にチャーリーの影がちらつくが、トーマスの様子を見ると詮索するのは野暮だろう。
「今年は入場から派手だね」
卒業生の入場が始まると、陽気な音楽が鳴り始める。大人のパーティでは見られない演出だ。
「チャーリー殿下の卒業だし、周りが張り切ったんだよ」
パーティは卒業生が企画運営し行われている。チャーリーの同級生たちが、自分を売り込もうと頑張ったようだ。チャーリーに気に入られれば、卒業後は王太子の側近も夢じゃない。
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「さあ、どうなんだろうな。ハリソンは相変わらず忙しそうだぞ」
「やっぱり……、そう簡単にはいかないよね」
ディランは苦笑するしかない。チャーリーは優秀な自分を基準に判断しがちで、裏で動ける人間は豊富にいるが、生まれ持った身分が必要となる表の人員はいつも不足気味だ。
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トーマスがそんなことを呟く。トーマスもチャーリーの側近を続けるが、本格的な参加は卒業後なので、どうしても一年遅れとなる。
「学院にいるからこそ出来る事もあるんじゃない?」
「そうか?」
「例えば、この笑顔を守るとかさ。僕はあまり登校できないし、エミリーのこともよろしくね」
ディランはエミリーとマイラに視線を向ける。2人は先輩たちのドレスを見て、自分の卒業パーティの夢を語り合っていた。ディランはこっそりエミリーの夢を頭の中のメモに書きとめる。
「そういえば、殿下にシャーロットのことを頼むって言われたんだった」
チャーリーとシャーロットが会場入りしたのを見ながら、トーマスが嫌そうに呟く。
「来年は何も起こらないといいね」
「嫌な予感がするよな」
トーマスが苦いものを口にしたような顔をする。学院で何かあれば、来年はトーマスとマイラが動くことになるだろう。ハリソンもチャーリーとともに卒業してしまうし、トーマスの負担は大きい。ディランは学院とトーマスの平和を願わずにはいられなかった。
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