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終章 王子様の決断
31.エピローグ
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七年後、ディランの姿は自身が治める公爵領にあった。半年前の春に魔道士団長を引退し、やっと国の仕事から離れ、移り住むことができたのだ。
ディランが魔道士団長を辞めることに反対する声もあり、任期を二年延長せざるおえなかったが、改革は実を結び新体制で動き始めている。
新しい魔道士団長の魔力は弱いが、選抜された十名の魔道士と協力する形を取ることで、今までの団長の仕事を引き継ぐことができた。
王太子となったチャーリーは、改革を勧めたディランの功績を認め、魔道士団にディランのための名誉職を新しく設けると言ってきた。しかし、ディランはチャーリーの思惑が透けて見えすぎて、大役は恐れ多いと辞退してさっさと領地に逃げてきたのだ。
『王家からの申し出を断るのは不敬だぞ。家臣としての忠誠心を疑われる行為だ』
ディランはチャーリーに罵倒されても動じない自分に七年間の成長を感じる。十分に国への貢献はしたのだから、これからは田舎でゆっくりさせてもらうつもりだ。
ディランが公爵領にある屋敷の執務室で書類を確認していると、扉をノックされた。遠慮がちな音から、扉の前にいる人物が予想できて表情が緩む。
「開いてるよ」
ディランが声をかけると、予想通りエミリーが扉から顔を出す。エミリーとは二年前に結婚し、公爵領にも一緒に移り住んでくれている。
「ディラン様、そろそろお昼にしませんか?」
「もう、そんな時間?」
「はい、お天気が良いので外で食べませんか?」
「うん。ちょっと待ってて、すぐ片付ける」
ディランは読みかけの書類をまとめて封筒にしまう。家族と過ごす時間はディランにとって大切な癒やしだ。急ぎの案件でない限り、仕事より優先してしまう。
「あれ? ダーシィは一緒じゃないの?」
昨年、娘のダーシィが生まれて以来、三人で過ごすのが当たり前になっている。エミリーがディランのもとに一人で来る方が珍しい。
「眠ってしまったので、乳母に預けてきました。ふたりきりなんて、新婚みたいですね」
「そうだね」
ディランはエミリーを執務室に引き入れて扉を閉める。エミリーは恥ずかしそうに笑って、ディランの口づけを受け入れた。
ダーシィはエミリーそっくりで天使のように可愛らしい。それでもたまにはディランがエミリーを独り占めしたい。
「こっちですよ」
庭に出ると、エミリーがディランの手をひいて案内してくれる。今日は林の中の木陰で食べるようだ。この場所は学院時代に過ごした森によく似ていて、二人のお気に入りの場所でもある。
ディランは用意されていた椅子に落ち着くと、エミリーを眺めながら昼食を摂る。
エミリーはチョコレートがたっぷり入ったパイを美味しそうに食べていた。エミリーは今も変わらずチョコレートが好きで、食卓に並ぶと喜ぶので、ディランはたくさん取り寄せてしまう。
「そうだ、ついにカカオの苗が手に入りそうなんだ」
「本当ですか? 楽しみです」
ディランは、公爵領の名産を作りたいと思い、輸入に頼っているカカオを育てることを思いついた。輸入先の国もシクノチェス王国で発展したチョコレート製造の魔道具がほしかったようで交渉が上手くいったのだ。チョコレート好きの王妃が率先して後押ししてくれたのもある。
「うまく育つか分からないから、あまり期待しないでね」
「自然が相手のことですもんね」
生産地とは気候も近いが、他の条件でどうなるか分からない。軌道に乗るまでは、ディランの魔法で補助して育てることになるだろう。
「植物のことなら私も詳しいので、参加させてください。子供の頃に実家にあった資料をよく読んでいたんですよ」
「カランセ伯爵家の資料か。心強いな。門外不出とかではないの?」
「大丈夫です。必要なら資料も送ってくれるそうですよ」
カランセ伯爵家の武器とも言える知識なのに、相変わらず伯爵家の人々はエミリーに甘い。人のことは言えないが……
「ありがたいな。僕からもレジー殿に話をしてみるよ」
「はい。お兄様もディラン様に頼られたら喜ぶと思います」
カランセ伯爵家は農業研究に力を注いだ者が多かった。協力してもらえるなら研究も進みそうだ。伯爵領の気候も公爵領と似ているので、将来的にはあちらでも作れるようになればお礼になるだろう。
「上手くいくといいな」
「一緒に頑張りましょう」
エミリーがはじけるような笑顔で拳を握る。ディランはエミリーの笑顔のためなら、何でもできる気がした。
終章 終
ディランが魔道士団長を辞めることに反対する声もあり、任期を二年延長せざるおえなかったが、改革は実を結び新体制で動き始めている。
新しい魔道士団長の魔力は弱いが、選抜された十名の魔道士と協力する形を取ることで、今までの団長の仕事を引き継ぐことができた。
王太子となったチャーリーは、改革を勧めたディランの功績を認め、魔道士団にディランのための名誉職を新しく設けると言ってきた。しかし、ディランはチャーリーの思惑が透けて見えすぎて、大役は恐れ多いと辞退してさっさと領地に逃げてきたのだ。
『王家からの申し出を断るのは不敬だぞ。家臣としての忠誠心を疑われる行為だ』
ディランはチャーリーに罵倒されても動じない自分に七年間の成長を感じる。十分に国への貢献はしたのだから、これからは田舎でゆっくりさせてもらうつもりだ。
ディランが公爵領にある屋敷の執務室で書類を確認していると、扉をノックされた。遠慮がちな音から、扉の前にいる人物が予想できて表情が緩む。
「開いてるよ」
ディランが声をかけると、予想通りエミリーが扉から顔を出す。エミリーとは二年前に結婚し、公爵領にも一緒に移り住んでくれている。
「ディラン様、そろそろお昼にしませんか?」
「もう、そんな時間?」
「はい、お天気が良いので外で食べませんか?」
「うん。ちょっと待ってて、すぐ片付ける」
ディランは読みかけの書類をまとめて封筒にしまう。家族と過ごす時間はディランにとって大切な癒やしだ。急ぎの案件でない限り、仕事より優先してしまう。
「あれ? ダーシィは一緒じゃないの?」
昨年、娘のダーシィが生まれて以来、三人で過ごすのが当たり前になっている。エミリーがディランのもとに一人で来る方が珍しい。
「眠ってしまったので、乳母に預けてきました。ふたりきりなんて、新婚みたいですね」
「そうだね」
ディランはエミリーを執務室に引き入れて扉を閉める。エミリーは恥ずかしそうに笑って、ディランの口づけを受け入れた。
ダーシィはエミリーそっくりで天使のように可愛らしい。それでもたまにはディランがエミリーを独り占めしたい。
「こっちですよ」
庭に出ると、エミリーがディランの手をひいて案内してくれる。今日は林の中の木陰で食べるようだ。この場所は学院時代に過ごした森によく似ていて、二人のお気に入りの場所でもある。
ディランは用意されていた椅子に落ち着くと、エミリーを眺めながら昼食を摂る。
エミリーはチョコレートがたっぷり入ったパイを美味しそうに食べていた。エミリーは今も変わらずチョコレートが好きで、食卓に並ぶと喜ぶので、ディランはたくさん取り寄せてしまう。
「そうだ、ついにカカオの苗が手に入りそうなんだ」
「本当ですか? 楽しみです」
ディランは、公爵領の名産を作りたいと思い、輸入に頼っているカカオを育てることを思いついた。輸入先の国もシクノチェス王国で発展したチョコレート製造の魔道具がほしかったようで交渉が上手くいったのだ。チョコレート好きの王妃が率先して後押ししてくれたのもある。
「うまく育つか分からないから、あまり期待しないでね」
「自然が相手のことですもんね」
生産地とは気候も近いが、他の条件でどうなるか分からない。軌道に乗るまでは、ディランの魔法で補助して育てることになるだろう。
「植物のことなら私も詳しいので、参加させてください。子供の頃に実家にあった資料をよく読んでいたんですよ」
「カランセ伯爵家の資料か。心強いな。門外不出とかではないの?」
「大丈夫です。必要なら資料も送ってくれるそうですよ」
カランセ伯爵家の武器とも言える知識なのに、相変わらず伯爵家の人々はエミリーに甘い。人のことは言えないが……
「ありがたいな。僕からもレジー殿に話をしてみるよ」
「はい。お兄様もディラン様に頼られたら喜ぶと思います」
カランセ伯爵家は農業研究に力を注いだ者が多かった。協力してもらえるなら研究も進みそうだ。伯爵領の気候も公爵領と似ているので、将来的にはあちらでも作れるようになればお礼になるだろう。
「上手くいくといいな」
「一緒に頑張りましょう」
エミリーがはじけるような笑顔で拳を握る。ディランはエミリーの笑顔のためなら、何でもできる気がした。
終章 終
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