【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】

第13話 襲撃

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 ミシュリーヌの旅は順調だった。初めて一人で宿に泊まったり、市場を回って食事を購入したりもした。分からないことがあらばサビーヌが助けてくれたし、ヤニックもたまに助言をしてくれる。最初の助言だったマジックバッグは、バレないように大きなリュックサックを背負うことで誤魔化した。

 町を離れ馬車で街道を進む中、魔獣の襲撃に合うことも何度かあった。だが、ヤニックを筆頭に同乗している冒険者たちは強い。ミシュリーヌも戦闘後には水魔法に擬態させて傷の治療を行ったが、戦闘中に危険を感じることは一度もなかった。

 そんなのんびりとした旅が変わったのは、フリルネロ公爵領に入ってからだ。領境を越えてから明らかに魔獣が増えはじめ、一体一体の強さも上がった。ミシュリーヌも聖魔法で参戦すべきだろうか? 戦闘の指示役となっているヤニックに相談しようかと悩んでいるところでそれは起こった。

 その日はある村に到着する予定となっていたため、馬車の中は久しぶりに明るい雰囲気だった。公爵領に入ってからの野営は、魔獣の危険を肌で感じることも多く、気持ちも身体も休まらない。

「何か来るな」

 ヤニックの呟きで馬車の雰囲気が引き締まる。シンと静まり返ったところで馬の嘶きが響き渡った。

「村が魔獣に襲われたんだ。助けてくれ!」

 馬車の幌の向こうから、切羽詰まった声が響く。声の主が馬車に向かって近づいて来ているのをミシュリーヌも感じた。

「まさか、魔獣を引き連れてきたのか?」

「巻き込まれたら大変だわ。すぐに引き返しましょう」

 商会の人たちが御者に声をかけようと幌を開ける。商会の人間に危険を侵して村を助ける理由はない。

 ミシュリーヌとしては見捨てたくない。ただ、後方支援が主となるミシュリーヌに、商会や冒険者を巻き込むことは難しかった。誰かに危険を犯して戦ってくれだなんて、怪我をしたら治せるとはいえ、言って良いことではない。

 オーギュスト殿下……

 ミシュリーヌは心で呟きながら、拳をギュッと握る。こういうときには、ミシュリーヌが何も言わなくても、オーギュストが率先して動いてくれていた。後で予定が狂ったとジョエルに叱られるところまでがお決まりのパターンだ。

 今考えると、ミシュリーヌの心を護るために戦ってくれていた気がする。

「前方から魔獣が接近! 逃げられそうにない!」

 御者の声にヤニックがいち早く反応して馬車を飛び出す。ミシュリーヌも魔獣の気配が近づいてくるのを感じた。今までとは数が違いそうだ。一人も失うことなく勝てるだろうか?

 ミシュリーヌも弓に手をかけるが、サビーヌに止められる。

「ミーシャは隠れていなさい。魔獣がいなくなるまで出てきてはだめよ」

 ミシュリーヌがうなずくと、サビーヌはホッとした顔をして直ぐに飛び出していく。緊急事態だ。揉めている時間が勿体ない。サビーヌが前方に走っていくのを見届けて、ミシュリーヌも馬車を降りた。

 普通の魔獣ならば、ミシュリーヌの聖魔法で避けることもできる。そう思って馬車の影から確認するが、すでに魔獣の目が血走っていて難しそうだ。先程、助けを求めてきた人を追って来たせいだろう。人間を敵と認識している。

 視線を彷徨わせて探すと、村人は馬車の影で震えていた。商会に魔獣を押し付けた形なので、皆の視線は冷たい。怪我をしているが、助けにいく者はいなかった。

「これを使ってください」

 ミシュリーヌは魔素に侵されていない事を確認して、通常の回復薬を村人に投げ渡す。完全に傷を癒やすことはできないが、治療している時間が惜しい。

 ミシュリーヌは魔獣の足音を聞きながら目を閉じた。魔獣の硬い鱗とぶつかる剣の音が前方からいくつも響く。

 守れ!

 ミシュリーヌは硬い土に手をおいて心の中で唱えた。普通の人には見えないが、三つある馬車が結界に囲まれる。御者がいるので荷物を運ぶ馬車も一緒に守ることにした。

 興奮前の魔獣なら避けてくれるような結界だ。今の状態の魔獣が相手でも、戦っている人がいる限り標的にはされにくい。本当は時間をかけて強固な結界を張りたいが、間に合わない可能性も高いし、何より戦い始めた冒険者の援護を優先したい。

 あとは……

 ミシュリーヌは弓を強く握る。聖女や神官は攻撃魔法が使えない。聖女は生まれつきだが、神官は普通の魔力と引き換えに聖魔力を得るのだ。

 だが、守るための魔法である聖魔法しか使えなくても、聖女であるミシュリーヌにはできることがある。

『私が見ているから、落ち着いてやってごらん』

 そう言って見守ってくれるオーギュストは、ここにはいない。ミシュリーヌの本当の意味での初陣だ。

「大丈夫。わたくしになら出来るわ」

 ミシュリーヌは自分に言い聞かせて、魔獣のいる前方を睨みつけた。
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