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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第16話 ヤニックの推察
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ミシュリーヌは眠れないまま夜中を迎えていた。隣ではサビーヌがスヤスヤと眠っている。と言っても、眠れずにいるようだったので、ミシュリーヌがお節介を焼いてしまったのだ。今晩は結界を張っているので、魔法で眠っていても危険はない。
「ミーシャ。ちょっと良いか?」
呼ばれて顔をあげると、ヤニックがすぐ近くに立っていた。ミシュリーヌは無言で頷いて、ヤニックの背中を追うように、結界の端まで進む。
「ここなら、誰にも聞かれないだろう」
呟いて振り返ったヤニックは、どこか暗い真剣な表情をしていた。ミシュリーヌは初めて彼に会った日のことを思い出す。いろんなことがありすぎて、遠い昔のことのようだ。
「俺は回りくどい話は苦手だ。単刀直入に聞くが、ミーシャは聖魔力を持っているのか?」
ヤニックが射抜くように、ミシュリーヌを見つめている。
「なぜ、そんなふうに考えたのでしょう?」
ミシュリーヌは、言いながら答えを察していた。結界が見えていない者に、結界内の端まで連れて行くなんて不可能だ。
「否定しないんだな」
「……」
ミシュリーヌは、ヤニックの苦しげな笑顔を無言で見返す。一日でバレるなんて想定外だが、ヤニックの瞳を見れば否定しても無駄なことは分かる。
「隠さなくて良い。俺は確信している。ミーシャは弓矢に聖魔法を使っていただろう? 回復魔法も水魔法に似せてはいたが、重症者が治ったことを考えれば、聖魔法だと言われたほうが納得する」
「……そんなことまで分かってしまうんですね」
「安心しろ。気がついているのは俺くらいだ。これでも、S級冒険者なんでね」
ヤニックはニカッと笑って冒険者カードを見せてくれる。冒険者のランクはFから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がる。S級冒険者とは冒険者の中でも特別に認められた者で、有事の際は地元の冒険者をまとめる立場となる。共闘する冒険者の実力を知るため観察することも多く、風魔法や水魔法にも詳しくなったらしい。ミシュリーヌは会った覚えはないが、戦闘に出向くことの多いオーギュストとは話したことくらいあるのかもしれない。
「最初に気になったのはマジックバッグだ。普通の貴族の少女ではないと思っていたが、神官だったんだな」
「……」
国や神に仕えるような人間でなければ、ミシュリーヌの年齢でマジックバッグを持っている可能性はほぼないらしい。離宮ではメイドも使っていたが、言わないほうが良さそうだ。
「ミーシャにお願いがある。サビーヌに浄化薬を一つ作ってやってくれないか? 簡単に作れるものでないことは知っている。だが、彼女がどんな気持ちで病床の夫をおいて旅に出たのか、俺にはよく分かるんだ」
ヤニックは懐から浄化薬を取り出して、ミシュリーヌに見せた。ヤニックも大切な人のために王都に行っていたらしい。確認し合ったわけではないが、この馬車に乗っている冒険者のほとんどが同じような境遇だとヤニックは推測しているようだ。
商会の馬車は市に出店するため寄り道も多い。浄化薬を買いに来た者は、人間の運搬のみを行っている乗合馬車で直接帰路についたとばかり思っていた。経済的な理由もあるのかもしれない。
「サビーヌには同情する。その優しさに敬意をはらっている。それでも、俺はこの薬を渡すわけにはいかないんだ。酷いやつだろう?」
ヤニックは苦しげに笑って浄化薬を見つめた。ミシュリーヌはバッグの中で浄化薬を手に取った。同じ一本なのに重さが全然違う。
「……サビーヌさんに浄化薬を渡すだけなら可能です。でも、それでサビーヌさんは幸せでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「サビーヌさんの旦那さんが魔素に侵された時期は聞いていますか? S級冒険者のヤニックさんなら、その意味が分かるはずです」
サビーヌは僅かな可能性にかけて王都を目指した。確かに出発したときには僅かながらに可能性はあったのかもしれない。でも……
「……」
「サビーヌさんは事実を受け入れようと思いはじめています。希望にもならない希望を与えて、彼女のためになるのでしょうか? 私には判断できませんでした」
「……サビーヌがそれでも望むと言ったら?」
「今すぐにでもお渡しできます」
ミシュリーヌは浄化薬をヤニックの前に出してみせた。旅の中で材料となる回復薬も買い足している。ミシュリーヌになら、いつでも作り出せるようなものだ。
「あのときは、私が浄化薬を使うべきでした。初めてのことで、判断を誤りました。私の落ち度です」
「いつも持ち歩いているのか?」
「私の知人が……」
「待った! ミーシャの知人の話は怖いからやめてくれ」
ヤニックはそう言って笑うと、浄化薬を受け取らずに去っていく。どうするのが最善なのか、ヤニックも悩んでいるようだった。
「ミーシャ。ちょっと良いか?」
呼ばれて顔をあげると、ヤニックがすぐ近くに立っていた。ミシュリーヌは無言で頷いて、ヤニックの背中を追うように、結界の端まで進む。
「ここなら、誰にも聞かれないだろう」
呟いて振り返ったヤニックは、どこか暗い真剣な表情をしていた。ミシュリーヌは初めて彼に会った日のことを思い出す。いろんなことがありすぎて、遠い昔のことのようだ。
「俺は回りくどい話は苦手だ。単刀直入に聞くが、ミーシャは聖魔力を持っているのか?」
ヤニックが射抜くように、ミシュリーヌを見つめている。
「なぜ、そんなふうに考えたのでしょう?」
ミシュリーヌは、言いながら答えを察していた。結界が見えていない者に、結界内の端まで連れて行くなんて不可能だ。
「否定しないんだな」
「……」
ミシュリーヌは、ヤニックの苦しげな笑顔を無言で見返す。一日でバレるなんて想定外だが、ヤニックの瞳を見れば否定しても無駄なことは分かる。
「隠さなくて良い。俺は確信している。ミーシャは弓矢に聖魔法を使っていただろう? 回復魔法も水魔法に似せてはいたが、重症者が治ったことを考えれば、聖魔法だと言われたほうが納得する」
「……そんなことまで分かってしまうんですね」
「安心しろ。気がついているのは俺くらいだ。これでも、S級冒険者なんでね」
ヤニックはニカッと笑って冒険者カードを見せてくれる。冒険者のランクはFから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がる。S級冒険者とは冒険者の中でも特別に認められた者で、有事の際は地元の冒険者をまとめる立場となる。共闘する冒険者の実力を知るため観察することも多く、風魔法や水魔法にも詳しくなったらしい。ミシュリーヌは会った覚えはないが、戦闘に出向くことの多いオーギュストとは話したことくらいあるのかもしれない。
「最初に気になったのはマジックバッグだ。普通の貴族の少女ではないと思っていたが、神官だったんだな」
「……」
国や神に仕えるような人間でなければ、ミシュリーヌの年齢でマジックバッグを持っている可能性はほぼないらしい。離宮ではメイドも使っていたが、言わないほうが良さそうだ。
「ミーシャにお願いがある。サビーヌに浄化薬を一つ作ってやってくれないか? 簡単に作れるものでないことは知っている。だが、彼女がどんな気持ちで病床の夫をおいて旅に出たのか、俺にはよく分かるんだ」
ヤニックは懐から浄化薬を取り出して、ミシュリーヌに見せた。ヤニックも大切な人のために王都に行っていたらしい。確認し合ったわけではないが、この馬車に乗っている冒険者のほとんどが同じような境遇だとヤニックは推測しているようだ。
商会の馬車は市に出店するため寄り道も多い。浄化薬を買いに来た者は、人間の運搬のみを行っている乗合馬車で直接帰路についたとばかり思っていた。経済的な理由もあるのかもしれない。
「サビーヌには同情する。その優しさに敬意をはらっている。それでも、俺はこの薬を渡すわけにはいかないんだ。酷いやつだろう?」
ヤニックは苦しげに笑って浄化薬を見つめた。ミシュリーヌはバッグの中で浄化薬を手に取った。同じ一本なのに重さが全然違う。
「……サビーヌさんに浄化薬を渡すだけなら可能です。でも、それでサビーヌさんは幸せでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「サビーヌさんの旦那さんが魔素に侵された時期は聞いていますか? S級冒険者のヤニックさんなら、その意味が分かるはずです」
サビーヌは僅かな可能性にかけて王都を目指した。確かに出発したときには僅かながらに可能性はあったのかもしれない。でも……
「……」
「サビーヌさんは事実を受け入れようと思いはじめています。希望にもならない希望を与えて、彼女のためになるのでしょうか? 私には判断できませんでした」
「……サビーヌがそれでも望むと言ったら?」
「今すぐにでもお渡しできます」
ミシュリーヌは浄化薬をヤニックの前に出してみせた。旅の中で材料となる回復薬も買い足している。ミシュリーヌになら、いつでも作り出せるようなものだ。
「あのときは、私が浄化薬を使うべきでした。初めてのことで、判断を誤りました。私の落ち度です」
「いつも持ち歩いているのか?」
「私の知人が……」
「待った! ミーシャの知人の話は怖いからやめてくれ」
ヤニックはそう言って笑うと、浄化薬を受け取らずに去っていく。どうするのが最善なのか、ヤニックも悩んでいるようだった。
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